日は沈み、頼りげない月明かりと遠くの街灯のみが頼りとなる暗い路地裏。本来静寂が似合うはずの空間に、熱く鈍い喧騒がこだまするかのように響いていた。
両者はとても似ていた、緑髪で青と紫の瞳を持ち、同じ様な武術を用い、同じ様に誰かを思いやる心を持っていた。違いがあるとするならば──
「ッハ──!」
「ぐぁッ!」
〝姉〟には時間的な暇が無く、〝弟〟には精神的な余裕が残されていなかった事だ。
「ね、姉さん……まって」
壁に殴り飛ばされ、這いつくばりながらも弟は姉の手を取ろうと必死に腕を伸ばす。けれどもその力は、思いは彼女には届かなかった。
「コレは私にとって必要な事なの、貴方にだって止めれない。だから、もう関わらないで──クロウ」
そこで暗闇に包まれ、想い出は終わった。それからどれだけ時間が経ったのか、数時間か、数分か、はたまた数秒かもしれない。アラーム音によって微睡みから目を覚まし、小型時空船の状態を確認した。
「ようやく着いたか」
青年──クロウ・ストラトスはコンソールを操作し、時空船を停泊させ魔防コートを羽織り、リュックを背負い外へと出た。
外に出るとキンッと鋭い空気が肌を刺し、人の気配を一切感じさせない雪景色に目を奪われる。
ここは無人管理世界No.17ドゴラザム、年中寒冷で雪を見ない日は無いと言われている。今迄は吹雪と山や湖といった大自然しかなく、見向きもされていなかったが、近年雪が降っていない時であるのなら絶景が見れると少しずつ口コミが広がってきていた。
青年はひとしきり雪景色を楽しんだら1度時空船内部へ戻り、時空船後方部から車輪が三角形のキャタピラ式になっている雪上バギーに乗り込み外へと駆け出した。
青年は真っ白の世界で当てなくバギーを走らせた。十数分程経った頃、搭乗しているバギーからチリリチリリという機械音がなり始めた。
「これは、生体反応?」
野生動物と鉢合わせにならないようにと、このバギーには生体レーダーが搭載されている。しかしこのタイプは……
「人間!? ソレもかなり弱々しい、急がなきゃ!」
レーダーの反応は人間を示し、さらに生命力は強くない事を示していた。クロウは反応の元──雪山の麓へ向かった。
バギーを走らせ
「ついこないだまで人気の無い無人世界って聞いてたんだけどな」
生命反応を頼りに進むと、洞窟の様な場所に入り、その奥には金属製の扉があった。その扉は大型トラックが通れるくらい大きく、重い金属板がシャッターのように上から下ろされていた。
クロウは生命反応が1つしかないのを確認し、デバイスを起動し魔防コートの下にバリアジャケットを展開した。
「覇王流──」
壁より少し離れた所で左足左手を前に中段の構えをし、熊手にした右手に魔力を込めそのまま〝風を広げるイメージ〟で掌底を打ち込む。
「烈風掌!」
掌底は壁には届かず空間に打ち込まれ弾けた、その勢いにより壁の中央部分はくり抜かれたかのようなドーム状に吹き飛ばされた。バギーに再度乗り込みぶち開けた扉の先へと進む。
探知魔法で内部構造を探りつつ進み、とうとう生命反応が有る部屋の前までたどり着いた。電源が何故か生きており、自動ドアはガタガタといいながらもスライドした。
「これ、は……」
扉を開け目にまず入ってきたのは〝人〟だった、薄紫色の溶液がたっぷり入った円柱状の水槽に入れられ中心辺りをぷかぷかと浮いている全裸で金髪の少女。よく見れば水槽の上下2箇所には機械が組み込まれており、コレが彼女の生命維持を行っていたのだろう。
「だからといってこのままにしておく訳にもいかない、コレ開けれるか? 〝メモリア〟」
《やってみます、少々お待ちを》
俺はチョーカー型のデバイス、メモリアに話し掛けながら機械に触れる。女性型の機械音声で了承されながらピピピ、ピピピと機械音と共に解析が始まった。
《マスター、こちらの培養液を排出の後解放する事は可能です。ですが懸念事項があります》
「それはなに?」
《見ての通り彼女は培養液と生命維持装置によって今日まで生きながらえて居ると想定されます、ですのでその2つを一度に失えば何らかの異常がみられる可能性があります》
「対応策はあるのか」
《この機械のデータライブラリから得た知識によるとこの培養液はあくまで〝眠らせたまま〟生きながらえさせる為の物でした。生命維持装置もその為の物で、彼女自体の栄養状態自体は良好です。ですが機械頼りの生命活動の為、筋肉や各臓器の活動が鈍いかもしれません》
「結論から言うと、どうすれば?」
《解放後彼女に生命維持の術式込みのバリアジャケットを展開し、マスターの魔防コートも羽織らせてあげてください。その後彼女をマスターが運んでください、恐らく彼女は自力での行動が全く出来ない可能性があります》
「把握した、外は吹雪いてないとはいえ雪景色だ。解放後も暫くはここで安静にして体調を落ち着かせてから移動しようと思う、それでも大丈夫か?」
《はい、生命反応が落ちていたのも装置のエネルギーが減少した出力不足によるものだったので大丈夫です》
「じゃあやってくれ」
《了解しました》
再度ピピピ、ピピピという機械音の後水槽下部の床に小さな穴が複数開き培養液が抜かれて行った。
♢
おかしい、〝空気泡〟の音が聞こえない。それにふかふかな何かに包まれてる……
「ここ、は……」
「おいメモリア、本当に建物内で焚き火なんてしても平気なのか? 一応換気扇は回してるけどよ」
《はい、建物内の自動清掃システムが生きていたのか通気口は正常。換気扇ぶん回せば焚き火も平気です》
目を覚ますと誰かが話しながら焚き火で湯を沸かしていた、背中しか見えないが体格的に男性であろうか。
「ん? あっ起きたんだね良かった、体の調子は平気? 喋れそう?」
青年に話し掛けられ体を起こそうと思った所で自分が衣服の類を着ている事に気づいた。
「あれ、この服。私、機械の中に居たのに……」
「あぁ、それはえっと俺が予備の服を着させたんだ……ごめんね」
「いえ、こちらこそお気遣い頂きありがとうございます。えっと、どちら様でしょうか?」
「俺はクロウ、クロウ・ストラトス。君の名前は聞いても?」
「私の名前は……」
自分の名前を聞かれ少し悩んだ末、私はこう答えた。
「ヴィンセント、ヴィンセント・リーフです」