「じゃあ話を纏めると、その魔法生物とやらは施設から出なければ結界から出てこないんだな?」
「うん、私たち検体は検査の為に施設内を割と動き回るから大雑把に外側へエマージェンシーラインが引かれてるの……美味しい」
俺は焚き火を囲み、ヴィンセントにホットミルクとサンドイッチを振る舞いつつ脱出大作戦を練っていた。
「慢性的に雪が降るこの世界だと身一つで逃げるのは難しい、はむ…………んくっそれに加えて狼型の魔法生物による捕縛捕食が立ちはだかる」
「なるほど、それは確かに脱出は難しいな…………な、なぁ」
「むぐむぐむぐ……ん? どうしたの?」
「いや、起きたばっかりなのにそんな食べて平気なのかなって。さっきそこら辺の機械のログ見たんだが最低でも数年は水槽の中に居たってあったぞ」
「まぁ、そうだね。あの溶液は栄養摂取も兼ねてあるから死にはしなかったけど、そもそもとして食事が久しぶり過ぎて……食べ物を噛み締める喜び」
「な、泣いてるのか……おまえ……」
要するにほぼ寝たきりと同じようなもんだったから、胃腸がびっくりしないか心配だったが……案外平気そうなのか?
「俺も飯食って戦闘に備えるか」
「…………クロウ」
「ん? どうしたヴィンセント、おかわりか? 流石にそんな量は──」
「胃薬ある?」
「あーもーあー」
脱出は明日にしよう、そうしよう。
そう諦めた俺はカバンの中から胃薬を引っ張り出してヴィンセントに渡した。
飯を終え、火の後始末をした俺たちは部屋を後にした。この〝研究所〟とやらには居住区という物があり、そこなら一夜くらい過ごせるだろうという事だ。バギーの後ろに乗せるには生憎とヴィンセントの体力が足りない為、俺の首に腕を回してもらいながら抱える形で移動した。
「それにしても、ここの施設は色々と大きいよな。道とか部屋の入口とか、なんでだ?」
「ここは私みたいなのとは別に、元々生物兵器の開発してた部門らしくてね。大型の魔法生物の運搬の為にもそうなったらしい」
「へー……っと、ここが居住区か」
壁に貼り付けられてる施設内地図を見るに就寝する部屋の他、食堂や購買、ジム等もあり下手なホテルよりも充実したものとなっていた。
「違法研究者が、全くいいご身分だった事で……」
「違法性が高かったからこそじゃないかな、強い魔法生物は清濁の差無しにどこの組織も正直欲しい。ある世界の現地管理局員がここから買ったって笑いながら教えてくれた時もあるし」
「魔法生物なんて、中身バラされない限り素人目には強い使い魔にしか見えないんだろうな……」
強い力が欲しい──護る為、成り上がる為、復讐する為、思考の末その結果に辿り着く理由なんて幾らでもあるのが世の常。
「まぁ俺達はとりあえず食堂で食糧探すぞ、外に出られないから最悪飯抜きで明日脱出しなきゃ行けなくなる」
「クロウの手持ちにはもう無いの?」
「お前がさっきたんまり食っちまったからな、あるにはあるが本当に軽食程度だ。そんなのだと俺もお前も力が出ないだろ」
「確かに、そうだね……」
食堂裏の倉庫に保存食と缶詰があったのでそれらをありがたく頂戴した。
「さっき魔法であらかた飛ばしたけど、まだ多少埃っぽいな。まぁ贅沢は言えねぇか」
「そうだね、しっかりと体を休ませれるだけありがたいよ」
早めの夕飯を済ませ、俺はそうそうに寝床の掃除をしていた。流石に埃まみれの部屋で寝るのは嫌だし、何よりヴィンセントはあんな機械から出たばっかだ。こんな酷い環境で寝たらすぐ体調を崩してもおかしくない。
「でも本当に私手伝わなくていいの? 魔力による身体操作が出来るから全然問題ないけど……」
「いいんだよ、お前は病み上がりみたいなもんなんだから。それにもうすぐ終わる」
「え、もう?」
俺は散乱としていた物やベッドを纏め、バインドで固定させた。その後、魔法で風を起こし洗濯機の中の如くごぉんごぉんと風を〝回し〟ゴミを絡め取る。そしてそのままゴミを部屋からだし廊下の隅に着地させる。
それを見ていたヴィンセントは目をキラキラと輝かせながら拍手していた。
「お〜! すごいやクロウ! 一瞬で埃臭いお部屋からおさらばだ!」
「まぁね、掃除は何かと面倒だから楽できる事はとことん楽にしなきゃ。ベッドに運ぶから、腕まわして」
「うん、ありがとう」
俺はヴィンセントを抱えベッドに横たわらせ、俺は向かいのベッドに行こうとすると服の裾を掴まれる。
「えっクロウ?」
「ん? どうしたヴィンセント」
「あっえっと……え? 私がおかしいの?」
「ん?」
「いや、私てっきり同じベッドで寝る流れかと……」
「嫁入り前の女の子が何言ってんの!?」
「さっき運命共同体みたいな事言い合った仲だし良くないもう!?」
全く、この娘は何を言い出すんだ。ただでさえこっちは同じ位の年の裸見て思う所あったってのに、同じベッドで寝ようもんなら寝れなくなるわ!
「いや、流石に同じベッドで寝るのは」
「そ、そうだよね。うん! ごめんねクロウ、わがまま言って……」
そう言って寂しげに手を離すヴィンセント。それを見て俺は頭をガシガシとかきながら深呼吸すると、ヴィンセントが乗ってるベッドに腰かける。
「わがままなら、しゃーねぇ……良いよ」
「え、でもさっき」
「そんな寂しそうな顔されちゃ断れねぇよ……困った時は助けてって声出せつったのは、他でもない俺だしな」
「クロウッ! ありがとう」
「おう……」
ヴィンセントはパァッと顔を明るくし、了承を得るや否やお互いが向かい合う形で横になり、俺の腕の中でスヤスヤと寝息をたて始めた。
(よくもまぁ今日あったばかりの人間をここまで信じ切れるな、いや……信じると言うよりも人に飢えていたの方が合ってるか?)
私はいわゆるクローンなんです。
日中ヴィンセントが言っていた言葉を思い出す、そして機械の使用履歴の年月、極めつけは金髪に紅と翡翠の瞳という容姿。
俺は彼女が一体〝何のロストロギアの為に造られたか〟の凡その予測はたてていた。ソレがもし真実だった場合、彼女は年単位であの水槽に居たことになる。
「人との接触に飢えるには十分過ぎる程、残酷な時間はあったってことか……」
「…………グスッ」
「?!」
俺が優しく頭を撫でたら急にヴィンセントが泣き始め、何処か痛めたのか? と焦ったが、どうやら違うようだ。
「ごめ……スリー、ごめんなさ……私のせいで」
どうやら悪い夢を見てるようだった、ソレも〝贖罪の夢〟。どこまでも自分を追い込む為だけの夢。
「きっとその夢は、起きてる間も頭にこびりついてるんだろうな……せめて、寝てる時だけは忘れろ。メモリア頼む、なんでもいいから元気づける夢を見せてやってくれ」
《了解しました、マスター》
「俺も寝る、おやすみメモリアそしてヴィンセント」
《おやすみなさいマスター、良き夢を》
明日、俺らは脱出する。