ヒカルの傍観者   作:dorodoro

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第29話

十段戦の第四戦は塔矢先生が制した。

これで、2勝2敗の五分だ。

あれから私は時間があれば、インターネットを見ている。

やはり塔矢先生が打つところを見ることができるとなれば、例えネットであろうとも直接見たいと思ってしまうのは仕方がないだろう。

研究会では、余り対局はしないし、最近は緒方先生との対局でまったく研究会そのものが開かれていない。

私も、無性にネット碁を打ちたくなったけどRIKA01の対局も、今までの中で一番saiを追い詰めたなどと言われていて今の私ではとても使う勇気が出ない。

でも、幽霊さん以外と無性に打ちたい。インターネットじゃなくても良い。でもできるだけ強い人。

あれ、思いっきり近くにいるじゃん。

明日は対局もないはずだし、部活のみんなも用事があるとか言っていたから良い機会かも。

うん、そうしよう。

 

学校で帰りにヒカルを誘う。最初は次の試合に向けて集中したいのか、少し渋っていたけどすぐに了承してくれた。

ヒカルの部屋に上がりこんで打つ。おじいさんに買って貰ったヒカル自慢の碁盤だ。

プロになったのだから、あの蔵にあった碁盤を貰えばいいのにと言ったら、

「あの碁盤には囲碁の神様が住み着いているはずだから、あそこにおいとかなきゃ駄目なんだ。」

と茶化してきた。言っている本人はまじめみたいだけど。

言われて見れば、あの碁盤に関わってから頭痛が酷くなって散々な目にあったんだなと思った。

問題がほとんど解決した今となっては、感慨深いと思えるようになったけど。

 

せっかくなので、一手30秒の早碁で二子置いて打ってもらったり、互先で打ったりいろいろやった。

ヒカルは、私の思いつかない手をどんどん出してくる。毎回食らいつくだけでも必死だ。

ただ、やはり公式試合というわけではないので、わざと変な手を打って私を戸惑わせて楽しんでいるみたいと思ったのは帰って対局を振り返ってみてからだ。

対局の検討も終わったので、この間の気になったことを何気なく聞いてみた。

「ヒカル、この間の病院で塔矢先生と残って何を話していたの。」

「うん、ああ、あれか。あれは秘密だ。」

「何か言えないことでもしたの。まさか悪いことじゃないよね。」

「どれだけ信頼ないんだよ俺。あえて言うなら男と男の秘密だ。」

うん、変なことばっかり言っているヒカルを信頼するほうが無理だと思う。

まあ、悪いことするはずがないというのは、はっきり言えるからいいけどね。

なんか、この秘密が重要だと私の勘が言っているんだよね。

ヒカルに秘密にされたからじゃないよ?

 

ヒカルと打っていたせいか、時間がたつのが早い、あっという間に遅い時間になってしまった。

帰り際に、ヒカルが

「囲碁部の大会は、6月だよな。がんばれよ。」

と言ってきた。

うん、部活も大会が近いし次が最後だから、がんばらないと。

 

帰った後に、ヒカルと夢中になって、幽霊さんのことを忘れていた。

幽霊さんがふてくされてしまったので、ご機嫌直しのため夜通し打つことになった。

ごめんね。幽霊さん。一回くらい打たせてあげればよかった。

 

こんな目にあうのなら・・・・・・・。

 

 

 

 


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