言動が偽夏油や特級呪霊っぽい本物夏油   作:デンスケ(土気色堂)

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すみません。予定では6話くらいで完結の予定でしたが、(多分)ちょっと伸びます。


5話 違う、呪力の最適化だ

 なんて事の無い任務のはずだった。廃神社で発生した二級呪霊を、祓うだけ。割り当てられたのは呪術高専東京校二年生の七海と灰原。これまで何度も組んで任務を達成してきた親友同士で、等級も連携も問題ない。

 気になるのは移動時間の長さと、夏油に頼まれたお土産をどこで購入するかぐらいだった。

 

『■■■■■―っ!』

 だが、廃神社に現れた呪霊は一目で二級ではないと分かるほど強力な呪力を発していた。

「離脱!」

 事前に聞いていた情報と違い過ぎる。そう見て取った七海は即座にこの場から逃げる事を選択した。灰原もそれに応えて走り出そうとする。

 

『■■!』

 だが、その前に呪霊が動いた。耳障りな咆哮が響いたと思った次の瞬間には、足元が乾いた土から赤い血の池に変わっていた。

 

(まさか、領域展開!? いや、ただの生得術式だ!)

 領域展開に閉じ込められたかと、七海の脳裏に絶望の二文字が過った。だが、空や周囲を見て空間に閉じ込められていない事から、呪霊の術式だと気がついて持ち直す。

 

「七海っ!」

「分かっています」

 灰原と七海は領域展延を発動。自身の周囲を呪力で包み、呪霊の術式を中和する。そして、再び撤退しようと試みた。

 

『■■? ■■■!』

 だが、呪霊は二人を逃さなかった。呪霊の術式である血の池は、浸かっている者全てにデバフをかける効果だけではなく、自身にバフをかける効果を併せ持つものだった。

 呪霊はその見た目からは信じられない速さで七海達の前に回り込み、叫びながら攻撃を仕掛ける。

 

「クソが!」

「七海、このまま祓おう!」

「……無理だと思ったら撤退する。分かったな」

「分かった!」

 

 撤退は難しいと判断した灰原の提案を飲み、七海は呪霊を祓う覚悟を決めた。領域展延を維持したまま拳を握り、呪具を振るう二人。

 だが、二人の奮戦の甲斐なく戦況は互角のまま推移した。領域展延で血の池に浸からず、デバフを受けない二人だったが、その代わり自前の術式を使えない。

 一方、呪霊は自前のバフを受けていて特級に限りなく近いフィジカルを獲得しているが、七海と灰原の連携が巧みで押し切れない。

 

 お互いに切り札に欠ける状態。だが、このまま長期戦になれば人間であり体力に限りがある自分達の方が負ける。七海は冷戦に判断し、推測し、叫んだ。

 

「灰原! 私がっ」

 詳細は口にしない。等級が高く、人語を理解するだろう呪霊に作戦がばれないように。

「分かったっ! 術式発動、呪炎!」

 瞬間、灰原は地面を蹴って飛び上がり、領域展延を解いて呪霊に殴りかかった。

 

『■■■!』

 呪霊は灰原の特攻に驚いたが、その拳を受け止めた。彼の拳は弱くなかったが、術式で強化された呪霊の腕を殴り砕く程ではなかったからだ。

 

 これで二人の内一人が血の池に浸かり、弱る。弱った術師から殺して、残ったもう一人も殺す。呪霊はそう目論んだが……。

「ふっ!」

 灰原は素早く動いた七海の肩に着地した。

 

 呪霊の術式は、血の池に浸かる人間にデバフをかける事が出来るというもの。だが、血の池そのものを操る事は出来ない。

 どんな形でも血の池に浸かりさえしなければ、その悪影響を避ける事が出来たのだ。

 

「燃えろっ!」

 そして、灰原の術式が発動した。呪霊の腕が、激しく燃えだしたのだ。

『■■■~!?』

 腕を呪力の炎で燃やされる痛みと衝撃に呪霊は絶叫を上げ、混乱した。何故? あの術師の攻撃は防いだはずなのにと。

 

「僕の術式は呪炎法術!」

 七海の肩に立ったままの灰原が術式を開示する声が、呪霊の叫びを上回る声量で辺りに響いた。

「僕は、術式の発動後に呪力を付けた物を燃やす事が出来る! お前の腕が燃えているのは、僕の拳に触れて呪力が付いたからだ!」

 

 術式の開示によって、呪霊の腕に付いた炎の勢いがさらに増す。しかし、呪霊は混乱しながらも灰原の言葉を理解したのか、無事な方の腕で燃える腕を切り落とした。

 灰原が呪炎法術で燃やせるのは、自身の呪力が付いた部分だけ。人間と違い簡単に体を再生できる呪霊なら、こうして対処する事が出来る。

 

「やあぁっ!」

 だが、今やるべきではなかった。七海の肩を蹴り、再び空中に飛び上がった灰原が攻撃を仕掛けてきたからだ。

 呪霊は咄嗟にバックステップで灰原の蹴りを回避した……が、その胴体に灰原の呪力を纏った靴が当たった。

 

「■■■■っ!?」

 業火に包まれる灰原の靴に胴体を焼かれ、呪霊は身を捩りながら再生した腕で靴を払い落す。

「七海っ!」

 その隙に、灰原は領域展延で身を守った状態で着地。その背を、今度は七海が足場にして跳躍した。

 

「十割呪法!」

 動きを止めた呪霊の、三対七の境界線に向かって手にした呪具を振り下ろす七海。その瞬間。彼の呪力は黒く染まり爆ぜた。

 

『■■■■■――』

 肩から脚まで胴体を分割された呪霊の頭部に、七海は続けて拳を叩き込んだ。黒い火花と呪霊の破片が飛び散り、血の池が消える。

 

「七海、今のは黒閃じゃないか! しかも連続で。凄いよっ!」

「ええ、驚いた」

 今までかかっている事に気が付いていなかった靄が、突然晴れたような爽快な気分で七海は分の手を見下ろした。

 

 呪力の核心を掴む。話に聞いていたが、これがその感覚なのかと理解する。確かに、今なら何でもできそうだと七海は思った。

「お陰で呪霊も祓えた。いや~、危なかったね」

「呪霊を祓えたのは灰原、とっさに思いついた作戦をお前が理解してくれたからだ。黒閃は関係ない。打てなくても、あのまま祓えた」

 

 灰原の術式は、呪炎法術。当人が開示した通り、術者の意志で自身の呪力を燃焼させる事が出来る術式だ。そう聞くと、少年漫画やゲームでよくある、燃える拳や剣で戦う姿を連想するかもしれない。

 しかし、灰原の呪炎法術ではそうした事に向いていない。何故なら、術師自身に炎や熱に対する耐性が無いからだ。

 

 灰原は呪力の特性が炎という訳ではないので、拳に纏った呪力を燃やしたら普通に拳も燃えるし、構えた剣の刃を燃やせば彼も熱い。そうした事がしたいなら、消防隊が着るような耐熱装備で身を固めないと火傷で自滅してしまう。

 

 かといって、格闘戦で相手に付けた呪力の残穢を燃やしても、燃やす呪力が少ないためそれほどダメージを負わせられない。簡単に体を再生させられる呪霊なら猶更だ。

 そのため、本来はあらかじめ呪力を込めた罠を仕掛け、そこに敵を誘導してから燃やす等の搦手が求められる術式である。

 

 だが、灰原は自分がそうした事に向いていないと自覚していた。そのため、「燃やせるのは声に出して術式の発動を宣言した後に込めた、もしくは付着させた呪力のみ」という縛りを課した。

 そのお陰で、呪力の燃焼力が格段に上昇した。

 

 七海はその灰原の術式と縛りの効果を知っていたため、まず彼に呪霊を攻撃させた。不安定な足場から飛んで、特級に近い身体能力を発揮している呪霊に攻撃を的確に当てるのは難しい。

 しかし、灰原の呪炎術式なら七海の十割呪術と違い当たりさえすれば、腕で防御されたとしても、呪力を燃やして有効打にする事が出来る。

 

 そして呪霊が動揺し動きが鈍ったところで灰原と足場役を交代し、十割呪術で作った弱点を狙い打ったのだ。

 

「灰原の炎が予想していた以上に効いていたが、新しい縛りでも結んだんですか?」

「ううん、領域展延を覚えた過程で呪力を制御する腕前が上がったからだと思う。それより七海、肩を貸してくれないかな?」

「どこか怪我でも? 応急手当をするので見せてください」

 

「いや、靴が燃えちゃったから、片方裸足なんだよね」

 灰原の靴は、塵になって消えた呪霊が居た辺りで燃えカスになっていた。七海はやれやれとため息を吐くと、「いいでしょう」と答えた。

 

「行きますよ。次からは替えの靴や着替えを持ってくるように」

 そう言って灰原をお米様抱っこ……肩に背負うようにして担いだ。

「ちょっ、肩を貸してくれるだけでいいんだよ、七海!」

「それだといざという時動きが取れない」

 

「この体勢でも同じじゃないかな!?」

「その時はお前をその場に落して、そのまま逃げます」

「ヒドイ!? それに着替え一式を持ち歩くのは荷物になるじゃないか」

「補助監督に預けなさい」

 

 強力な呪霊だったので、呪力に誘われた低級呪霊が寄ってくるかもしれないと灰原を担いだまま警戒する七海だったが、幸い二人は何事も無く補助監督が待っている車まで戻る事が出来た。

 生還と任務の成功を喜ぶ二人だったが、高専に戻り家入硝子の訃報を聞くことになる。

 

 

 

 

 

 

 家入梢子の訃報は、高専関係者に衝撃を持って受け止められた。術師は危険な仕事だ、任務で死亡する事も珍しくはない。だから、生徒が一人死んでも普通の学校のように大きな騒ぎにはならない。

 だが、担任の夜蛾は沈痛な面持ちで彼女の死を悼み、仇を取った夏油を労い、五条に慰めの言葉をかけた。

 先輩として家入を可愛がっていた庵歌姫、一緒に領域展延習得を目指した冥冥、別の任務に就いていた七海と灰原、それぞれの形で彼女の死を嘆き、悼んだ。

 

 出会ってから短いが家入と交流があった天内理子と黒井美里も悲しんだが……夏油と五条は二人には彼女を生き返すつもりである事を打ち明けた。

「生き返す……? 夏油、悟、妾ももう子供ではない。気休めは止めよ」

 そう最初は信じてもらえなかったが、夏油が具体的な方法を説明すると彼らが本気だと理解したのだろう、真顔になった。

 

「夏油、悟、それは……同化と似たようなものではないのか? その方法で生き返れたとして、家入は喜ぶのか?」

 約一年前、星漿体として天元との同化……消滅を運命づけられていた彼女にとって、夏油が勧める死後呪物と化した死者を器に受肉させる方法での復活は、忌まわしい方法に聞こえただろう。無理はない、この方法での死者の復活は、器にされた人間の死……消滅を意味するのだから。

 

「以前この方法を話した時、悟と硝子は『絶対やめろ』って私を止めたから、多分怒るだろうね。二度と口をきいてもらえなくなるかも」

「それが分かっているなら――っ!」

「それでも、私は硝子に生きていてほしい」

 だが、そう言われると理子は何も言えなくなってしまった。

 

「夏油さん、その方法は……」

「呪術規定……というか、日本の法に抵触するから、こっそり進めている。実験に使うのは、秘匿死刑されるような呪詛師……人を何人か殺しているような連中に絞ってね」

 

 実験材料にする人間を、夏油は呪術総監部が呪詛師に指定するだけではなく、死刑になるような罪を犯した者だけに絞っていた。

 人間の命に区別はない、という言葉もあるが、夏油はそんなふうには考えていなかった。特に呪詛師は任務で生け捕りにしても引き渡した後で処刑されるような連中なら役立ってもらった方が良いと考えている。

 

 海外では死刑囚を様々な人体実験に活用している。それと同じだ。

(とはいえここは日本だ、海外じゃない。それに、国がやっているからと言って私個人がしている事が正当化される訳でもない。

 なにより……口に出すとダサいからね)

 

「分かりました。家入さんを生き返すためには仕方がないと、実験台にする人の範囲を広げるような事をしないのなら、私も応援します」

 夏油が自身の内面を曝け出さなかったお陰か、黒井も納得した。元々呪術師に仕える家系に生まれた彼女は、呪術界での命の扱われ方に慣れていたので、理子が納得するのなら反対するつもりは無かった。

 

「大丈夫、大丈夫、傑の事は俺がしっかり見てるから」

「いや、悟に言われると逆に不安がますのじゃが」

「軽い規定違反だったら、私より悟の方が多いって事は言わない方が良いのかな?」

「……分かりました、これからは私も夏油さんをよりしっかり見る事にします」

「うむ、黒井がそう言うなら安心じゃな」

 

 こうして、四人は共犯になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 沈痛な面持ちで夏油は、夜蛾と家入家を後にした。硝子の死を彼女の両親に伝えるためだ。彼は、任務で硝子に同行した補助監督や三級術師ではなく自分が行くと言ってきかなかった。

「夏油、どうしてあんな事を言った」

 それは、硝子の両親に彼女の遺体は発見されておらず、あくまでも生死不明である……まだ生きている可能性があると伝えたのだ。

 

「確かに、可能性はある。だが、お前ならそれがどれほど小さな……ありえない可能性か、分かっているはずだ」

「分かっています、先生。でも、私も硝子に会えると信じているので」

「……まあ、いいだろう」

 夜蛾は厳つい顔から力を抜き、深く息を吐いた。

 

「娘に会えるかもしれない。それはご両親には呪いになる。だが、呪が人を活かす事もあるだろう。そう言う事にしておく」

 叶う可能性が限りなく低い希望が、家入夫妻が生きる原動力になるかもしれない。夜蛾はそう考え、夏油の無責任にも思える言動に目をつぶる事にした。……彼自身も、受け持った生徒が生きていると信じたい気持ちがあるのだろう。

 

「これからどうする?」

「先生はこれから呪術総監部でしょう? 私は悟と人と会う約束があるので」

「そうだったな。……くれぐれもトラブルを起こすなよ。帰ってきたら高専が更地になっていたら、承知せんぞ」

「ははは、悟にはしっかり言って聞かせます」

「お前にも言っているんだ、夏油!」

 

 夜蛾にそう釘を刺されて高専に戻った夏油は、憂鬱そうな五条と合流した。

「どうだった、硝子の親?」

「ごく普通のご両親に見えたよ。一人娘が行方不明になって心から悲しんでいた」

 そして夏油はこう続けた。

 

「私を気遣う夜蛾先生に黙っている事も堪えたけどね。久しぶりに覚えたよ、罪悪感を」

 家入を生き返そうとしている事を夏油は黙っていた。彼女はあくまでも行方不明で、自分はまた会えると信じている。そう仄めかす事しかできなかった。

 

「こういう事が出来るから硝子にクズなんて言われるんだろうね」

「仕方ないだろ。線香の代わりにタバコでも供えておけば、硝子も許してくれるって」

「供えるも何も、硝子の墓は無いだろ。格納呪霊に供えるつもりなら、伏黒甚爾にも供える事になる。

 ……悟、七年以内に硝子を生き返そう」

 

「ああ、行方不明者が死亡扱いになるまでの期間だっけ? 神隠し扱い扱いするのも、それが限界だよな」

「ご両親を待たせるのも悪いし、何事にも目安は必要だからね。

 ところで、そろそろ待ち合わせの時間じゃないかな?」

 そう言って夏油が腕時計に視線を落とした途端、五条が顔を顰めた。

 

「あ゛~、面倒臭ぇ。傑、俺もいなきゃダメ? 急な用事を思い出してもいい?」

「ダメだよ。彼女には顔通しをしておいた方が、私達に都合がいい。それに、彼女のご指名は君で、私はついでだ」

「いいや、ついでなんてとんでもない。私は君にも興味津々だよ、夏油君」

 

 よく通るハスキーな声がしたかと思うと、高専の廊下の先に長身の美女が現れた。その姿を見て夏油は「ほう」と息を吐き、五条は小さく舌打ちをした。

「特級術師、九十九由基さんですね? 初めまして」

 二人が待ち合わせをしていた人物、それは世界で三人しかいない特級術師の残り一人、九十九由基だった。世界中を飛び回っている彼女だが、たまたまスケジュールが合って今日話をする事が出来た。

 

 夏油は九十九由基がどんな人物なのか興味を持っていた。それに、自分達がやろうとしている事が呪術界に露見した場合上層部が差し向けて来るだろう刺客である彼女に、事前に話を通しておきたかった。

 五条は任務を一切受けずに好き勝手している彼女が気に食わないのか、夏油に説得された今もこの場から離れたそうにしているが。

 

「ああ、こちらこそ初めまして。特級術師同士仲よくしようじゃないか。ところで……二人はどんな女が好みだい?」

「好みか……年上のお姉さんかな」

「あれ、傑の好みって下畑ってみたいな子じゃなかったけ? 前はそう言ってたじゃん」

 何故か異性の好みについて問われた夏油が端的に回答すると、五条が口を挟んできた。思わず「下畑って誰?」と首を傾げる夏油と九十九。

 

「思い出した。悟、それは一年の頃に同じ任務で移動中の車の中で、『雑誌に載っていたグラビアの中から、デートに誘うなら誰を選ぶ?』って話題で話した事じゃないか。っと、言うかよく覚えていたね」

 夏油は記憶を思い返し、上記のようなシチュエーションでそんな事を話したなと思い出した。

 

 なお、下畑ちゃんは童顔で小柄な妹系美少女だが胸は大きいという人気グラビアアイドルだ。ただ、人気が出たためか最近は水着グラビアを発表せず、バラエティ番組を中心にテレビに出演する事が多くなっている。

「別に私は彼女のファンでも何でもないよ。雑誌のグラビアの中からという縛りがあったから、選んだだけさ」

「でも、あの頃と好みが変わったのはたしかだろ? もしかしてマジで黒井の事好きになったとか?」

「うん……らしいね」

「え、マジ?」

 親友が頷いたのを見て、五条は思わず真顔になった。

 

 夏油も、最初は黒井美里の事を好きになったポーズをしているだけだった。だが、そのポーズを一年以上続けるうちに黒井の事を考えるのが日常になっていて、気が付けば彼女の事を美里さんと名前で呼ぶようになっていた。そして、「どんな女が好みだい?」と問われて脳裏に黒井美里の姿が浮かぶくらいには彼女の事が好きになっていた。

 

 夏油傑は、五条悟とはまた違うタイプのイケメンだったが幼い頃から生まれ持った自らの術式を極める事に傾倒しており、そこまで親しい人間はいなかった。彼が大好きな呪術を共有できない非術師のクラスメイト達は、彼にとって「クラスメイト」以上の存在になりえなかったのだ。

 そして高専に入学してからはますます呪術に傾倒し、呪術、結界術、任務、そして任務を熟すのに必要な武術、呪霊集め、そしてもちろん授業と時間を割く事は増え続け……つまり、彼女が居なかった。

 

 夏油は自覚していなかったが、異性に対する免疫が低かったのだ。

 

「なるほど。その黒井という人物について私は知らないが、君が面白そうな青年である事は分かったよ。それで五条悟、君は?」

 それまで二人のやり取りを面白そうに聞いていた九十九が話しかけると、五条はスイッチが切り替わったかのように顔を顰めて答えた。

 

「あー、俺、婚約者がいるから」

 意図の読めない質問を潮対応で流そうとした。

「そう、その婚約者について話しておきたい事があるんだ。実は、私は君の婚約者の天内理子と同じ星漿体だったのさ」

 しかし、この驚きの告白に五条は再び真顔になった。もちろん、夏油も驚いている。

 

 九十九由基は、物心ついた頃には星漿体として保護されていた。そして、十代になる頃に星漿体としての任を解かれた。彼女よりも星漿体として優れた素質を持つ候補者が見つかったらしい。それが誰なのかは、彼女も知らない。年齢的に、天内理子以外の人物であるはずだが……。

 

 それから九十九由基は呪力に目覚め、術式を自覚した。そして、呪術師となり……今に至る。

「理子と同じか」

「へぇ、私と同じという事は彼女も呪力に目覚めたのか。他の星漿体の話を聞くのは初めてだから確信はなかったけれど、やっぱりね」

 

「ところで、去年の夏頃は何処で何をしていたんですか?」

「いつも通り世界中を飛び回っていたよ。力になれなくて悪かったけど、私は呪術界上層部と距離を置いているから、星漿体事件の事は知らなかった。

 天内理子が星漿体だった事を知ったのも、去年五条君が婚約発表したからさ」

 

 そう九十九が答えた時には、五条も顔を顰めるのは止めて態度を改めていた。

 

「さて、元星漿体として君の婚約者についてまだ話したい事もあるけど、そろそろ君達の用件を聞こうか。何を話したかったのかな?」

「他言無用でお願いします。実は――」

 今度は夏油が自分達の目的について話す番だった。

 

「死後呪物化に、受肉による復活……そして呪術界の革命……君達、かなりイカレてるね。止めないけど」

「止めないんだ」

「ああ、別に私の目的の邪魔にならないし、使うのは呪詛師なんだろう? そもそも、大規模な呪術テロでも起こすつもりならともかく、そうした呪術規定違反を取り締まるのは私の仕事じゃないしね」

 

 九十九由基は夏油と五条の目的に協力するとは言わなかったが、止めるつもりも無いようだった。

 

「それに、特級術師二人を敵に回すなんて割に合わないよ。そこまでする程の義理は無い」

「それを聞いて安心しました。私達も、同じ特級の貴女を敵に回したくなかったので。ところで、貴女のその目標について聞いても?」

 お互いの利害がぶつからないよう擦り合わせを行いたい。そうした意図で尋ねた夏油に、九十九は「呪霊のいない世界をつくる事さ」と答え、語り出した。

 

 呪霊が発生する原因を語り、現在の呪術界が行っている事を対処療法に例えたうえで、自分がやりたいのは根本治療である事を話した。

 五条にとって九十九由基の言っている事は、机上の空論。理論的には可能だが、実行や達成は不可能な夢物語に聞こえた。

 

 しかし、夏油は興味を覚えたようで九十九由基の話に相槌を打ち、理解した様子を見せている。そのせいか、彼女も饒舌に自らの考えと、今後の大まかな方針まで語った。

「そのために有用なサンプル……禪院甚爾には協力を断られてしまってね。彼は呪力を全く持っていない貴重な例だったんだけど……ああ、もし生き返ったら、もう一度考えてくれるよう言っておいてくれ。その間の生活費ぐらいは払うから」

 

「考えておきますよ」

 そして、夏油が伏黒甚爾の遺体を隠している事まで見抜かれていた。

「でも、完全に呪力を持たない彼に協力を依頼したという事は……」

「ああ、私は人類から呪力を無くす――呪力からの脱却を考えている」

「開いた口が塞がらないね。本気で言ってる?」

 

 呪術師だけではなく、全ての非術師も僅かに持っている呪力。それを無くす。それも一人や二人だけではなく何十億人という人類全体から。五条にはとても可能だとは思えなかった。

「もちろん、大マジさ。でも、研究対象が見つからないからね。方針を替えようか考えているところだよ」

 

「だったら、非術師が居ない世界を作ればいい」

「傑っ!? いきなり何言ってんの!?」

「……夏油君、それは『アリ』だ」

「あんたも何言ってんだ!?」

 

 とんでもない事を言い出す親友と特級術師に、五条は自分が良識ある常識人にでもなったかのような錯覚を覚えた。

「というか多分、それが一番イージーだ。非術師を間引き続け、生存戦略として――」

「ちょっと待ってください、九十九さん。間引くって、何故そうなるんです? 悟も突然動揺してどうしたんだ? まるで私が非術師を皆殺しにしようと言ったかのように受け取られたのなら、心外だよ」

 

「「違うの?」」

 面食らって九十九由基の声を遮った夏油は、声を揃えて聞き返す二人に思わず眉間を抑えた。そんなに自分は危なっかしく見えるのだろうかと、内心ため息をつく。

 

 家入がこの場に居れば、「自覚無いのかよ」と辛辣なツッコミを入れただろう。

 

「違う、私が言いたかったのは呪力の最適化だ」




〇一級呪霊(産土神)

 信仰を失い堕ちた土着の神。術式は、自分を中心に血の池のような生得領域を発生させ、自身にバフをかけて身体能力を底上げし、血の池に浸かった自分以外の存在には逆にデバフをかけて身体能力を下げるというもの。
 モデルは、昔、子供を産んだ女性が落ちるとされていた血の池地獄。

 この作品の七海と灰原は領域展延を習得していたため、対抗されてしまった。



〇灰原の術式、呪炎法術

 呪力を燃料にして燃える炎を出す術式。拳に纏った呪力を燃やせば拳ごと、刀に込めた呪力を燃やせば刀ごと、焼かれて自滅しかねない術式。
 本来は呪力を込めた物を地面に設置して罠にしたり、投げナイフや矢のような飛び道具に呪力を込めて命中後に燃やす等の方法が想定される。

 灰原は「術式の使用を宣言した後に込めた呪力でなければ燃やせない」縛りで燃焼力を上げ、燃焼時間を伸ばして格闘戦で使用しているという設定。
 この灰原の術式は、上記の一級呪霊(産土神)と併せて考えました。

 もしこの作品の七海と灰原が領域展延を習得しておらず、血の池に浸かってデバフがかかっていたら原作通り産土神にやられていました。
 この作品では、七海にお米様抱っこされつつ生還。

〇七海

 黒閃を経験し、呪力の核心を掴んだ。親友が生きているので、「もうあの人だけでいいんじゃないですか」とは言わない。
 領域展延も使いこなしているので、某特急呪霊と遭遇しても術式を中和してダメージを与える事が可能。

〇家入夫妻

 原作にどんな人物か描写が無かったので、普通の一般家庭を想定しました。今後原作に登場したら、「この作品ではこうんだな」と解釈していただければ幸いです。


〇グラビアアイドルの下畑ちゃん

 いわゆるトランジスタグラマー系美少女。ちょっと人気なグラビアアイドルで、夏油と五条が一年の時、週刊漫画のグラビアに出ていた。最近では深夜のバラエティ番組に出ている。
 この話の数年後、人気お笑い芸人と結婚して芸能界を引退する。高田ちゃんとは何の関係も無い。

〇九十九由紀

 この作品では自分と同じ元星漿体の天内理子が五条悟と婚約しているため、原作よりも積極的に五条に会おうとしていたため、夏油が面会の約束事前に取る事が出来た。
 また、五条も目的のために九十九由紀に会う理由があったため、彼女を避けずに面会に同席している。

〇夏油傑

 原作と違い理子も灰原も生きていて、硝子は死んだけど生き返すという目標に向かって動いているためメンタルは弱っていない。そのため、前向きな姿勢で九十九由紀の面会に臨んでいる。

 「どんな女が好みだ?」と質問された事で、自分が黒井美里を好きな事を自覚する。



〇〇〇〇〇

wtt様、くぉーれ様、推しの曇り顔は最高なパピ厨様、チーズケーキ公爵様、ベー太様、ぷちょ様、Cyclone B/W 916 様、solubliker4689様、ホタテ土器様、エビ+C様、キャンディ様、れんぽん様、y.y.arnold様、ソーシロー様、ネオジム様、kubiwatuki様、Y4HHO様、 海崎実紀様、ニレ様、よっちゃんイカ様、ずわい様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。
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