先生の息子のムスコ危機一発 作:教務
唐突だが、僕の父親は先生だ。
ある日突然、異世界にて先生をやる事になったらしい。
まぁ、異世界転移云々は父も僕も正直記憶があやふやなのでこの際置いておこう。
兎に角、異世界転移というイベントを親子で経験するというなんとも嬉しくないイベントが発生してしまった。
ああ、母親は居ない。というか父も実の父という訳では無いのだ。
僕の実の父と母は僕が物心つく前に交通事故で亡くなってしまったらしい。
そこで父方の叔父である今の父に僕は預けられ、14歳になる今の今まで育てられたのだ。
母の愛を知らない、知る事が出来ない事を不幸だと言い憐れむ人も多く居たが、父はしっかりと僕を愛し育ててくれていた為、僕の主観においては我ながら満ち足りた人生を歩んできたと思う。これ以上は欲張りが過ぎるというものだ。
そんな足るを知る人生は、唐突な異世界転移によって全て明後日の方向へ飛んでいった。
その世界の名は、キヴォトス。
何故か人間が美少女学生しかいない、14歳の僕には色々と厳しい世界だ。
▲
「先生、ではいつものように」
「ソウジくんはお任せください♪」
「ああ、いつも済まないね、早瀬さん、生塩さん」
父は、子育て経験が有るとは言え、独身且つ女性経験も無いと又聞きしている。祖父母や友人に事あるごとに急かされ、遂には諦められたという流れを僕は見てきたのだ。
しかし、僕は今一度、この分かりきった事実に疑念を抱いてしまっている。
父は女性耐性が"強すぎる"のだ。
キヴォトスの女性は、ありとあらゆる性癖を網羅している美女、美少女揃い。しかも色々あって彼女達を救って、しまいには世界を救った為、父に恋慕を向ける人が多くいるのは二次元しか恋愛を知らない14歳絶賛厨二病中の僕でも分かる。
無論、父は思慮深い人物。鈍感系云々言って、耳が遠くなったり、すっとぼけた事を言うような事は無い。
好意には誠意で答え、職業や年齢差を理由に誰が相手であれ同じ理由でキチンと断り、人間関係に軋轢を残さないように細心の注意を払っている。
曰く、色恋云々ではなく、この学園都市世界に於ける『先生』という役割の構造的問題らしい。黒スーツの人と難しい言葉で話している所を又聞きしたのだ。
しかし、ここは倫理観がお亡くなりになっているキヴォトス。
恋心が暴走し、全ての理屈を放棄して襲う、という選択を取る生徒も遂に現れてしまった。
寝込みや入浴中、果ては残業中にうたた寝している場面に何名もの生徒が逆ルパンダイブを試みたらしい。
が、なんとこれも全て撃退。
退けた方法は多種多様だが、父が生徒の事をよく見ているからこそ出来る手段しか無く、せいぜい同衾するのが関の山である。(ただ、非常に満足度が高い為、シャーレ当番の朝帰り率はかなり高いものになっている)
因みに、退けられた生徒は口を揃えて、明確な拒絶があった訳では無いと言っている。本当に気付いたら、夜が明けているのだ。ちょっと14歳の僕にはどんな事が起こっているか想像も出来ない。
そんなこんなで父は異世界でもあまり変わらず生きているが、僕の方はそうもいかない。
「という訳でソウジくん、今日もお勉強頑張ろっか」
「じゃあ、まず前回の復習からね」
「……ユウカさん、ノアさん、宜しくお願いします」
この通り、僕の方にも父に来ている美少女パラダイスの余波が襲いかかってくるのだ。
無論、彼女らは僕に恋慕を抱いている訳では無い。ただ父の子供補正で警戒心がほぼ無いので兎に角距離が近い。
今だって、ユウカさんとノアさんに左右を挟まれながら勉強を教えられている。
たとえ耳元で囁かれるのが三平方の公式であっても、囁くのが息の合った超絶美少女二人組ならば、僕の股間は直角三角形を通り越して鋭角三角形になってしまうのも無理は無いだろう。
無論、そんな感じで僕がシャーレの当番の人に邪な感情を抱いている事は、気付かれてた上で彼女らには普通に許されている。毎日似たような状況で辛抱ならないと父に話を通したが、シャーレに属している生徒全員が全会一致で気にしない、もしくは構わないという旨を伝えてきたらしく(僕の尊厳を破壊する様な状況や生徒へのセクハラを父は嫌い、かなりしっかりと確認していたが、それでもそうなったらしい)、僕は今日も今日とて美少女に囲まれている。加えて、この包囲網は狂っている程の銃社会キヴォトスにおける僕のボディガードとしての役割も兼ねているらしく、外出する時は当番の人が必ず一人は付いてくる。僕のプライバシーは死んだ。
……早くこの状況を受け入れればこれ以上無い位、幸せな生活を送れるのだろう。
しかし、僕が理想とする男性像は父のような堂々とした姿。
女の子相手にへにゃへにゃする訳には……
「ソウジ!今日も遊びにきたよ!」
「ヘブっ」
ふと、後ろからモモイさんに何の気なしに不意をついて飛びつかれた。
いい匂、いや、距離感、が。
「ちょ、モモイさん、距離g」
「シッ、お姉ちゃん。ソウジは今勉強中だよ。ほら両脇、ユウカとノアさんが」
み、ミドリさん。た、助かった。
「アリス、ソウジのデイリークエストが終わるまで待ちます!終わったら一緒に冒険に出かけましょう!」
「……そ、ソウジ君、コンスタンスに勉強出来て偉い。が、頑張って!」
「アリスさん、ユズさん……」
だ、駄目だ。このままこんな世界にいたら僕は頭がおかしくなる。
美少女に手取り足取り勉強を教えられているだけで別の美少女に己を全肯定されてしまうのだ。ああ、理性が蒸発していく。
そんなこんなでゲーム開発部に茶々を入れられてつつ、僕は一時間程数学の授業をやり切った。……ユウカさんとノアさんの教え方が上手すぎるせいで、大して集中出来なくとも学問を身につけられてしまうのが、僕の生活の接待感を助長してるのだろう。
「じゃあ、今日の授業はここまで。ソウジ君、お疲れ様」
「お二人とも、ありがとうございます」
「よーし、ソウジ、今日はtrpgやるよ!シナリオは私の自作。あっ、ユウカ達も一緒にどう?」
「ユウカちゃん、どうします?」
「セミナーの業務の進行度合いは87.7%、諸々の変数を考慮して計算しても……いけるわ!良いわよ、一緒にやりましょう」
「ぱんぱかぱーん。ユウカとノアがパーティに加わりました」
暴力的な幸福とは、時に精神を破壊するものなんだなぁ。
「よーし、明日は休みだから、今日はオールするぞ〜!パジャマも持って来たし」
は?
「お、お姉ちゃん。先生や学校の許可は取ったの?」
「先生はC&Cとの『廃墟』調査の過程でなにかあったらしくて、遅くなっちゃうみたいだから丁度、渡りに船だったみたいだよ。学校の許可は……」
モモイさんはそう言いながら、ユウカさんとノアさんの方をチラっとみた。
……成る程、セミナーの二人ならその場で許可できるか。
「……しょうがないわね。これは先生の依頼でもある訳だし、今回だけよ。……いけない、私、パジャマ持ってないわ」
「サラッと、ユウカちゃんも参加するつもりなんですね」
「あっ……、ち、違うわよ。ほ、ほら監督責任。セミナーの一員としてもゲーム開発部だけで───」
「そういう事にしておきます。あぁ、パジャマならシャーレに置いてある私のもので良ければ貸してあげられますよ?」
「ありがとう、ノア。恩に……待って、何でシャーレにノアのパジャマが置いて……」
「ユウカちゃん」
あっ、生塩さんの目がガチになった。ゲーム開発部が震え上がっている。
「……そうね、ソウジ君の前だもの。今は先生を信じる事にするわ」
「ごめんね、ユウカちゃん。今のは私も迂闊でした」
まぁ、どうせあの父の事だ。上手いことやって同衾までで済ませているさ。
それより心配すべきは自身の身だ。このままでは女の子だらけのパジャマパーティーに巻き込まれてしまう。どうにかする方法は……あったら苦労しないんだよなぁ。
「じゃあ気を取り直して、遊ぶぞー!皆んな、キャラ作って!ルルブは私が持ってるから、GMは───」
ああ、長い夜になりそうだ。