山岸の加入から数日後、俺達は再び理事長に呼び出されていた。
幾月「度々呼び出して申し訳ない。でも今日は、『とっておき』を持ってきたから。説明するより、とにかく見てもらおうか」
すると理事長…幾月は、テーブルに置いてあったアタッシュケースを開けた。
幾月「これは、君達課外活動部に支給される、『新しい装備』だ。だいぶ前から開発を進めていたんだが、ようやく実戦投入に漕ぎつけてね。襲い来るシャドウは協力になるばかり…現に前回、君達は大変な苦戦を強いられた。今後更に強力な敵が…と考えると、こちらにも対抗手段がなければいけない。この先は、これらを見に着けて任務にあたって欲しい」
幾月からの支給品か。…シエル、どう思う?
『告。マスターは基本戦闘に参加しない為、装備しない事を勧めます』
やっぱりそうだよな、多分開発は桐条グループだろうが、幾月が何かを仕掛けていないとは考えずらいからな…
幾月「活動時に着用する戦闘服、腕章、そして…対シャドウ戦における切り札、『テウルギア』を使用するためのカートリッジだ」
琴音「切り札?」
幾月「『テウルギア』は、ギリシャ語で『神に働きかける術』という意味でね。まあ簡単に言うと、使用者の感情と連動し、一定の条件下で『必殺の一撃』を放てる代物だ」
順平「必殺技っスか!それそれ、そういうの求めてたんだよな~!で、どうやったら出せるんスか!」
シュンぺーの奴は相変わらずお気楽だな。
幾月「ん~、そこなんだけど…一言で説明するのが難しくてね。僕から口で伝えるより、実際に使ってみるのがいいんじゃないかな?」
琴音「いきなり無茶ですよ」
琴音の言う事は最もだ。特にこれといった説明もなしにこいつは…
幾月「いやいや、ペルソナを操れる君達なら、そう難しい事じゃないはずだ。もちろん、安全性は充分に検証したし、安心して試してもらっていい。ここにマニュアルも用意してある。よかったら参考にして」
何が参考にしてだよ。やっぱこいつ何か隠してるな…
幾月「いやしかし、今日に間に合ってよかった。山岸君が加入し、桐条君は前線に復帰。課外活動部は新たな布陣を敷くことになる。新兵器投入のタイミングとしては、申し分ないだろう?」
タイミング…ねえ。
幾月「おっと、もうこんな時間か。もっと詳しく話したいところだけど、例の大型シャドウについての調査が忙しくてね。味や食感は君達の方が詳しいと思うけど、凄い事が色々分かりそうなんだ。近いうちに報告させてもらうよ。それじゃあ桐条君、後は任せたから」
そう言い残して、幾月は部屋を出て行った。寮を完全に出て行ったとこまでは確認した。後は知らん。
ゆかり「ホントに帰っちゃった…」
風花「何となく思ってはいましたけど、大らかな人というか…」
順平「テキトーとも言うな」
翼「お前が言えた立場かよ」
順平「厳しい!」
そして使い心地の確認の為、今日はタルタロスに行く事が決まった。タルタロスに到着し、俺以外の連中は幾月から渡された装備を見に着けていた。一応俺も腕章だけは身に着けている。
順平「へっへ~、イイっすね!なんか精鋭部隊って感じで!」
ゆかり「あんたちゃんと着なさいよ…だらしないな~。でも、みんなちょっとずつ形が違うんだね」
明彦「各人の身体に合うことはもちろん、戦闘スタイルも考慮して作られてるはずだ。俺は先行して試験的に運用していたが、完成度が上がっているな」
風花「これ、凄く軽くて丈夫…宇宙服とか、軍事用の素材でしょうか」
美鶴「この腕章も、ただの飾りではないそうだな」
順平「なのは分かったけど…」
順平の言葉で、全員が俺を見る。
琴音「翼君は、腕章以外身に着けてないね?」
翼「ん?ああ、俺はペルソナは出せないからな」
最も、本来ならこの腕章ですら身に着けたくないんだけどな。一応シエルに解析してもらってるから身に着けたが…
ゆかり「まあ、本人がいいならいいけど」
順平「勿体ね~な~!」
美鶴「まあ、翼の場合は逆に必要ないかもしれないな」
明彦「確かにそうかもな」
風花「貰ったマニュアルによると、色々な機構が搭載されてるみたいです。その人のバイタルをトレースして、通信したりとか、後は…『テウルギア』使用の可否を知らせる機能もある…?」
琴音「どう使うの?」
風花「ごめんなさい、それについての詳しい記述が見当たらなくて…そのカートリッジを、召喚機にセットして使うって事ぐらいしか…」
翼「……」
テウルギアの使用の可否か。こりゃ面倒な機能を付けられてるな。
シエル『告。恐らくマスターの思っている通りだと思いわれます』
だろうな。詳しく書いてないのも怪しいもんだ。
美鶴「それを探る事も、今回の探索の目的としよう。無論、あくまで慎重にな。では山岸、伝えていた通り、バックアップは任せるぞ。私は前線に立ち、戦闘に参加させてもらう」
そして、タルタロスを登るのだった。場所はまだ森のエリアだ。
順平「さっさとここ抜けて、次の階層に行きたいぜ」
ゆかり「ホントね~」
そんな話をしながら歩いていると…
風花「?待って下さい」
急に風花が話しかけてきた。
美鶴「どうした山岸?」
風花「シャドウの反応です!」
そして俺達の前に現れたのは、大蝙蝠と炎と氷のバランサーだ。ま、あっという間に倒したんだがな。けど…
翼「大蝙蝠が手に入るとは驚いた」
俺は早速大蝙蝠を血抜きした。女性陣は顔を背けていた。真田先輩は興味があったのか手伝ってくれた。けどバランサーの炎か…
順平「しっかしこいつの火、俺っちのより強力だよな~。危うく丸焼けになるところだったぜ」
翼「丸焼き…?いや~違うな」
順平「へっ?」
翼「唐揚げ…フライ…かき揚げ!!!!!今日の飯は天ぷらにしよう」
『…はい?』
俺は既に見つけたシャドウの居ない場所で、早速調理準備に取り掛かる。
翼「順平、お前のペルソナで火を出して、さっき取ったバランサーの炎側を火に入れてくれ」
順平「はあっ!?」
翼「さっさとしろ!揚げ物は高火力が必要なんだ」
順平「……」
順平は渋々だが火をおこし始めた。
順平「火つけたけど…」
翼「おお。次はこの油を、先程バランサーの炎を入れた火で熱してくれ」
順平「……」
翼「どうした、早くしろ」
そして、油の入った鍋を順平は火元に持って行った。
翼「大蝙蝠の肉は、皮を厚めに剥ぎぶつ切りに。軽く切れ込みを入れ、調味料をもみこみ少し寝かせる。その間に、マンドレイクのかき揚げの準備をしておこう」
明彦「可食部は少ないな」
翼「マンドレイクの皮を剝ぐ時は、手足を先に分断するといい。絡まったのをほぐせば手でもげる。胴体部分はしっかりと。手足部分は、色の濃い部分を軽くこそぐ。そして衣の準備。水にレイヴンの卵をとき、小麦粉を振るい入れる。ダマにならないよう混ぜたら、マンドレイクを衣の中へ。火の具合はどうだ?」
順平「いや、どうだもなにも、火力調整なんて初めてだし」
俺は衣を箸で一滴垂らす。
翼「うん、丁度いいじゃないか。マンドレイクをすくい、油の中へ入れる」
俺は数個入れると、残ってる衣を順平に渡す。
翼「崩れない程度に揚がったらひっくり返す。いいな!」
順平「えっ?いや、ちょっと!?」
俺は皿の準備とかでその場を離れた。
順平「ゆかりッチ助けて!俺っち無理!」
ゆかり「わ、私だって揚げ物なんてやった事ないっての!」
琴音「み、皆でやってみようよ」
風花「わ、私も手伝います」
美鶴「ふむ…揚げ物はそんなに難しい物なのか?」
俺はゆかりッチ達に助けを求めた。普段から料理なんかしない俺に、かき揚げ任せるとかあいつバカなの!?
ゆかり「ああもう!分かったから泣かないでよ!」
ゆかりッチは、俺からマンドレイクが入った衣を受け取った。そして真田先輩を除いた全員で、油の中になるかき揚げを見ていた。
ゆかり「もういいかしら?しまった、まだ早かったか~」
ゆかりッチがそう言いながら箸でひっくり返そうとした。だがまだ充分揚がっていなかった。
美鶴「火力が足りないんじゃないのか?」
桐条先輩がそういい、まだあったバランサーの炎を火の中に入れた。すると確かに火力は上がったけど…
風花「焦げちゃいました…」
見事に焦げたのだった。
翼「どうだ調子は?」
翼「どうだ調子は?」
ゆかり「全然ダメ」
風花「私達には難しいみたいです」
順平「変わってくれ」
翼「やれやれ」
俺は近くにより、真田先輩以外の連中の輪の中に入る。
翼「えっと…ん?それそろそろじゃないか?」
俺は1つのかき揚げを指さす。ゆかりがそれを持ち上げた。
ゆかり「…いい色に出来たね」
そしてゆかりと琴音はコツを掴んだのか、次々綺麗に揚げていく。風花、美鶴、そして当然ながら順平は上手く出来なかった。
翼「完成だ」
【マンドレイクのかき揚げと大蝙蝠天】
明彦「タルタロスの中で揚げ物が食べられるとは思わなかったな」
琴音「サクッ…うん!凄く上手に揚がってる♪」
翼「火力がよかったからだ。揚げ物は適切な温度でサッと揚げる。これでカラッとできる」
美鶴「なるほど。奥深いものだな」
ゆかり「へ~。参考になった…かな?」
そして、全員が見事に完食したのだった。最近シャドウを食うのに抵抗がなくなってきたな…
『肉の代わりにパンはなれない。パンの代わりも肉にはできない。が、一緒になればより美味しい。人も飯も変わらないのだ…』