FAIRY TAIL 内なる鼓動は誰の為に   作:タマン

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いつもより、文字数多めです。



※用語の修正と改稿(2/23)

「マナ」→「エーテルナノ」に変更し、加筆修正を行いました。
キャラ設定における「セラの治癒魔法」の記述についても、同様の措置を行いました。


10.模擬戦

 

 

 

 

side ルーシィ

 

ドシン、ドシン――。

 

大きな音と共にギルドに現れたのは、このギルドの中でもわずか5名しかいないS級魔導士の一人、エルザ・スカーレット……らしい。

 

「らしい」というのは、私たちの位置からだと、彼女が担いでいる巨大な角のようなものに姿が隠れていたから。けれど、僅かに見える磨き上げられた銀色の装甲を目にしただけで、私の脳裏には、洗練された騎士の姿が浮かび上がっていた。

 

 

 

ドン!とそれなりに大きな音を立てて巨大な角がギルド中央に置かれる。

ようやく露わになったその姿は、「妖精の女王(ティターニア)」の名にふさわしい、人を惹きつける美しさと、周囲を圧倒するような覇気を身に纏っていた。

 

 

「今、戻った。 マスターはおられるか?」

 

自然と背筋が伸びるような声。

彼女の問いかけに、このギルドの看板娘と呼ばれているミラさんが、ふわりと軽やかな足取りで歩み寄った。

 

 

「お帰り!マスターは定例会よ」

 

「そうか…」

 

エルザさんはわずかに眉を寄せ、何かを思案するように視線を落としていた。

 

 

「あっそうだ。ミラさんにこの前のお礼渡さないと!

…ルーシィさんも一緒に行きませんか?」

 

「えっ、私も?」

 

「はい! お礼を渡すついでに、エルザさんにも挨拶しちゃいましょう!」

 

セラは私の返事を待たずに、そっと優しく手を引いて歩き出した。

私達が、大きな角の前に着く頃、エルザさんは、まるで風紀委員のように、ひとりひとりに説教を飛ばしているところだった。

 

 

「エルザさん。こんにちは」

 

「ん? その声は、セラか。久しぶりだな」

 

 

先程までの説教が嘘のように止み、エルザさんは表情を和らげた。

 

 

「噂は聞いているぞ。また活躍したらしいな」

 

「い、いえ皆さんに助けてもらって」

 

 

「相変わらずの謙遜だな」とセラの頭をポンポンと優しく叩く彼女の視線が、隣の私へと向けられた。

 

 

「そちらの女性は?」

 

「私は新人のルーシィといいます。不束者ですがよろしくお願いします」

 

「私はエルザだ よろしく頼む。気軽にエルザと呼んで構わない」

 

 

「…はい!」と威勢よく返事をした私に、エルザは感心したように頷いていた。

 

 

「それにしても、そうか……。人面猫耳変態ゴリラの『エバゴリー・キャット伯爵』を拳一つで倒したというのは君の事だったか。人は見かけによらないものだな」

 

「……はい?今なんて!?とんでもないキメラ誕生してない、それ!?」

 

(ていうか、噂がどんどん変な方向にいってない?そのうち、私もキメラの一部にされそうで怖いんだけど⋯)

 

 

私が、一人頭を悩ませていると、エルザは誰かを探すように周囲を見渡していた。

 

 

「ところで、ナツとグレイはいるか」

 

「えっ、ナツたちなら、あっちに…」

 

 

そういえば、さっきまであんなに騒がしかった二人の声がしない。

私は、ちょうど角で隠れた向こう側を指さすと、そこには…

 

 

 

「お、おうエルザ。俺たち、今日も仲良し‥なかよく、や、やってるぜ…」

 

「あい!」

 

「ナツがハッピーみたいになってる!?」

 

「ふふっ。実は二人とも、昔、エルザにぼこぼこにされてるからね。 ナツはケンカを挑んで、グレイは裸で歩いていて、ぼこぼこに。ちなみに、ロキも口説こうとして半殺し(ぼこぼこ)にされたのよ」

 

 

ナツのハッピー化に驚く私の隣で、ミラさんがクスクスと笑いながら解説を入れてくれた。

 

 

「へ、へぇー…ん?最後だけ、何かおかしくなかった?ただ口説いただけなのよね?」

 

 

私の問いかけにミラさんは意味深な笑顔を浮かべるのみ。

私は、なんだか怖くなって隣を見れば、セラがごそごそと小さなカバンを探っていた。

 

 

「あの、ミラさん!この前のお礼なんですけど…私一押しのケーキと紅茶セットに、マグカップです!もしよろしければ、食べる時に使ってください!」

 

「わあ、これを私に?ありがとう、セラ!このウサギさんとても可愛いわね」

 

「はい!私も、ウサギさんが可愛いなと思って買ったんです!ミラさんにも気に入ってもらえてうれしいです!

…あと、このマグカップ面白い機能も付いているんですけど、実は…」

 

箱から取り出した真っ白なマグカップを二人で覗き込み、顔を寄せ合って「可愛い」「すごい」「便利」とはしゃいでいる。ミラさんは、「ここで持ったままだと、誰かに壊されちゃいそうね」と楽しげに笑うと、宝物を守るように大切に抱えてカウンターの方へと歩いて行った。

 

(相変わらず、仲がいいのね…)

 

微笑ましいやり取りをただぼんやりと、何も考えないように眺めていた私は、ふと周囲の空気が一変していることに気づく。

それは隣にいるセラも同様だったようで、彼女もまた、周囲へ目を向けていた。

 

 

「‥という訳だ。二人の力を貸してほしい。ついてきてくれるな?」

 

 

エルザさんの凛とした声が、静まり返ったギルドに響く。

 

 

 

「あのエルザが、誰かを誘うトコなんか初めて見たぞ!」

 

「一体、どんだけ危険な依頼なんだ‥」

 

 

ざわざわと広がる驚きの声に耳を傾ける。

どうやら、一人で何でもこなしてしまうあのエルザが、ナツとグレイとチームを組んで事に当たるという。

私はその話を聞いて、ふと、ある違和感に気づく。

 

(あれ?セラは呼ばれてないの?)

 

 

不思議に思って横目にセラの顔を見つめれば、彼女も思うところがあるのか、じっとエルザを見つめている。

 

 

「出発は明日だ。準備をしておけ」

 

 

エルザはそう言い残して、入り口の方へ歩き出した。そこに

 

 

「エルザさん!」

 

「…なんだ、セラ」

 

彼女は、最初から呼び止められることを予期していたかのように、足を止めて振り返った。

 

 

「エルザさんの依頼に私も連れていってくれませんか?」

 

 

エルザの瞳がわずかに見開かれ、セラをじっと見つめ返す。

 

 

「……今回の依頼は少々危険な橋を渡る。 それに相手はこれまでの魔物とは違う。人と戦うことになるが、自分の意思で相手を傷つける覚悟はあるのか?」

 

 

「……わかっています。私、以前までは町のお手伝いばっかりで、安全な場所で縮こまっていました。

でも、昨日のエバルー屋敷で思い知ったんです。私が捨てるべきは『誰も傷つけない』という矜持だって」

 

セラは視線を逸らさず、エルザさんの瞳を真っ直ぐに見つめて言葉を続けた。

 

「誰かが苦しんでいる中で、『人を傷つけたくないから』なんて綺麗事を言って立ち止まっていたら、その間にも誰かは苦しみ続けます。……何もしないことで誰かを見捨てることは、結局、私がその人を傷つけているのと同じなんです。だから、私は自分のプライドを守るために誰かを見捨てるより、たとえ苦しめている誰かと戦うことになっても、一人でも多くの人を救いたいです。

 

……それと、苦しめている側にも理由があるのなら、その声に耳を傾けるべきだと思っています。これだけは、絶対に譲れません」

 

 

一気に想いを吐露したセラの真っ直ぐな瞳を数秒見つめ、エルザはわずかに口角を上げた。

 

「……わかった、いいだろう。」

 

「ありがとうございます、エルザさん」

 

 

「それで、君はどうする? セラの手を強く握りしめているが……君も彼女に付いていきたいのか?」

 

「えっ?」

 

エルザにそう指摘されて初めて、私は自分が無意識にセラの手を強く握りしめていたことに気づいた。

 

どこか遠くへ行ってしまう。そんな不安が私の中にあったのかもしれない。情けなさに顔を伏せそうになったが、先ほどのセラの吐露を思い出し、大きくかぶりを振った。

 

遠くに行ってしまう、じゃない。私も、頑張る彼女を隣で支えられるぐらい強くなりたい!

 

 

私はエルザさんの瞳を真っ直ぐに見据える。

 

 

 

 

 

「……はい! 私も、行かせてください!」

 

 

 

「…わかった。ならばこの後、広場に来れるか。二人の実力がどれほどのものか、試させてもらう。」

 

 

 

 

 


 

 

 

<大きな木が立つ広場にて>

 

 

「エルザー!終わったら、次は俺と戦えー!」

 

「うるせえなナツ。今回は、あくまでエルザの見極めだろ。お前みたいなガチンコ勝負じゃないんだ。 少しは落ち着けよ」

 

 

ナツとグレイのいつもの騒ぎを遠くに聞きながら、ギルドの面々も勝手に盛り上がっている。

 

 

「セラが誰かと模擬戦するの珍しいな」

 

「セラが戦ってるところなんてあんまり見ないもんね。でもこの前のハコベ山やエバルー邸でも頑張ってたみたいだし、わんちゃんあるんじゃない? というわけで、私はセラちゃんたちに賭けまーす!」

 

「人面猫耳変態ゴリラ伯爵を倒した新人ちゃんもいるんだ、おれもそっちに賭けるぞ!」

 

「いや、さすがに、エルザが負けるとは思えんな。俺は、エルザにかける」

 

「…てか、人面猫耳変態ゴリラ伯爵て何?」

 

「さあ、俺も知らん」

 

 

別のところでは

 

「まったく、賭け事なんて最低だな。……まあ、俺は、望遠鏡で女の子の戦いをまじまじに見させてもらおう!」

 

「いや、アンタの方が最低じゃん…」

 

 

あちこちでどちらに賭けるかの声が飛び交い、道行く人々までもが次々と足を止めることで、広場には、かなりの数の観衆が集まっていた。私は引きつりそうな顔をなんとか元に戻し、目の前に立つエルザの言葉に集中する。

 

「竹刀で、私の体に一度でも当てれば君たちの勝ちだ。魔法はいくら使っても構わん」

 

「え?私も竹刀で、ってことですか?」

 

「いや、竹刀じゃなくてもいい。その腰についている鞭でもいいぞ」

 

「じゃあ、私は鞭でお願いします!」

 

私は慣れ親しんだ愛用の鞭を強く握りしめる。

リーチの長さを活かせば、懐に入られる前に牽制できるし、

体に当てると見せかけて竹刀を拘束させることもできるかもしれない。

…これはもしかしたら、勝てるのでは?

 

「エルザさん。今少しだけ、木の裏で作戦会議してもいいですか?」

 

セラの提案に、エルザさんは悠然と頷いて答えた。

 

「たっぷり練ってくるといい。お前たちがどう戦うのか、楽しみにしているからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、私たちは10分ほど木の裏で話し合い、再びエルザさんの前に立った。

 

 

「準備はできたようだな。では、始めるか」

 

エルザさんが静かに竹刀を構える。その瞬間、広場の空気がピリリと張り詰めた。

 

「「はい!」」

 

示し合わせた通り、セラが私の少し前に立ち、竹刀を構えてエルザさんと正対する。その後ろで、私は愛用の鞭を強く握りしめる。

 

 

「それじゃあ、行きます!」

 

 

 

先に仕掛けたのはセラだった。

彼女は重心を低く保ち、地を這うような鋭い踏み込みで間合いを詰める。真っ向からの打ち合いを避けるように、エルザの放つ一振りを、竹刀で斜めに滑らせるようにして受け流した。

 

 

セラはその勢いのまま身体をコマのように鋭く回転させ、遠心力を乗せた一撃をエルザの横腹へと叩き込もうとする。だがその鋭い剣撃も、エルザの最小限の動きによって防がれる。

 

しかし、セラはそこで止まらない。竹刀がぶつかり合うことで生じる反動を殺さず、そのまま次の剣撃へと繋げる。右、左、そして斜め下からの斬り上げ――流れるような連撃が、あらゆる角度からエルザの守りを崩そうと襲いかかる。

 

 

「おお、セラって剣も使えるのか」

 

「あいつ、エルザのところでたまに稽古積んでるからな」

 

見守る観客から感嘆の声が漏れる。

けれど、セラと対峙する彼女は一歩も引かずに、全ての連撃を竹刀一本で防ぎきっていた。

 

「いい太刀筋だ。だが、まだ軽い!」

 

鋭い叱咤と共に、今までより数段速い横薙ぎが振るわれる。

セラは竹刀を垂直に立てて防ぐが、威力を殺しきれず、後ろに跳ねるようにして後退した。

 

間髪入れず、今度はエルザがセラの元に肉薄する。

それはまるで真剣を使った戦いのように、斬るか斬られるかの緊張感のある攻防。

セラは全身のバネを駆使して、エルザの放つ早く力のある剣技に対し、円を描くような動きで何とかいなし続け、反撃の隙を伺っている。

 

しかし、次第に鋭さを増す彼女の剣に、セラの呼吸が乱れ始めていた。

 

「甘い!」

 

「っ!」

 

セラの大振りに対し、エルザの強烈な撥ね上げが真っ向からぶつかる。

耐えきれなくなったセラの竹刀が指先から弾き飛ばされ、空高く舞い上がり、そのまま後方にいた私の方まで飛んでくる。

 

丸腰になったセラへエルザが踏み込もうとした、その瞬間に私は――

 

「今よ、バルゴ!」

 

私の合図と同時に、エルザの足元からバルゴの腕が突き出した。

その瞬間、セラは作戦通りに、空いた手で彼女の竹刀を奪い取ろうと肉薄する。

私も、タイミングを見計らって鞭を構える。

 

 

だが、彼女は捕まるよりも速く、バルゴの腕を竹刀で叩くように弾き、そのまま横へと流れるような動作で避ける。

そればかりか、回避のために身を翻した勢いさえも攻撃の予備動作へと変え、無防備に突っ込んできたセラの横腹へと、容赦のない速度で竹刀を振るわれる。

 

「っ……!」

 

強烈な一撃を叩き込まれたセラは、防ぐ術もなく、そのまま横に大きく吹き飛ばされた。

 

 

「うそでしょ…」

 

私は呆気に取られる。

なぜなら、私の魔法を知らないはずの彼女が、予想外だったはずのバルゴの地中からの奇襲すらかわして、更にはそのまま反撃して見せたのだ。驚くのも仕方がないと思う。

 

「セラもルーシィも、視線が地面に向きすぎだ。視線から思考が読まれることを覚えておくといい」

 

彼女は地面の穴を一瞥したあと、鋭い視線を私に向ける。

私は先程拾っておいたセラの竹刀を彼女に向けて構える。

 

「鞭は使わないのか」

 

彼女の問いかけにも、私は無言を貫いて、竹刀を構える。

答える余裕なんてない。全神経を、彼女が踏み込んでくる「その瞬間」だけに集中させる。

 

彼女が、間合いを詰める。

私は、そのタイミングと同時に、竹刀の柄に隠し持っていた鍵を突き出し、今までより大きな鍵穴へと差し込む。

 

ガチリ、と確かな手応えが響くと同時に、私はすぐさま後方へと飛び退いた。

 

「来て!プルー!」

 

前方に眩しいほどの輝きから、白くて丸っこい愛らしい姿が飛び出す。

さしもの彼女も、大きな魔力の塊から、小さく可愛らしいプルーが出てくるとは思っていなかっただろう。

今日一番の驚愕を顔に浮かべていた。

 

私が後ろに飛び退ける中、脳裏では、作戦会議でのセラの言葉が鮮明に蘇る。

 

 

『エルザさんは、ルーシィさんが精霊魔導士だとはまだ気づいていないと思います。なので、そこを逆手に取りましょう。まず今の内にバルゴさんを呼んで、地面に待機させてください』

 

真剣な表情で語るセラの言葉を、私は一言も漏らさぬよう聞き入った。

 

『最初は私が全力でぶつかって、意識を私だけに向けさせます。私が大振りをして竹刀が弾かれたタイミングで、バルゴさんに合図をお願いします。バルゴさんがエルザさんの足を抑え、その隙に私が武器を奪う、または体を拘束させるので、そこをルーシィさんの鞭で仕留めてほしいんです。お願いできますか?』

 

『もちろん、任せて! ……でも、それじゃセラの負担が大きすぎない?』

 

心配する私に、セラは首を振る。

 

『そこは全然気にしなくて大丈夫です!私の方がお願いばっかで、申し訳ないです。……それに、もし。万が一その作戦すら捌き切られてしまったら、その時はまたルーシィさんにお願いがあるんです。私達の作戦をさばき切った後、エルザさんは、ルーシィさんの方に向かうと思うんですけど、その時に、この竹刀に仕込んだ私の「治癒魔法」に、プルーさんの鍵を差し込んでください!目くらましにはなると思いますし、エルザさんの動きを止めることもできるかもです。固まったエルザさんのところに、ルーシィさんが、竹刀か鞭で、こうバチコーンと!』

 

『ふふ、何よ、最後のそれ』

 

 

私はあの時、どこか楽観的に考えていた。

私の魔法を知らないなら、バルゴの奇襲で勝てるんじゃないかって。

 

けれど、実際に対峙して思い知らされた。エルザの凄さを。

 

そして、その強さを理解し、予備の作戦も立てていたセラの凄さを。

 

 

楽しそうに話す彼女に、「この前のハコベ山の時もそうだけど、指示だしがうまいのね」と伝えた時、彼女ははにかみながらこう答えていた。

 

『私、誰かと協力して何かをするのが、楽しくて大好きなんです。』

『その相手がルーシィさんなら、なおさら嬉しいですから』と

 

……本当に、そういうのはずるい。

さっきだって、ミラさんとのやり取りを見て羨ましく思っていた。

 

私もいつかは、本当の意味で彼女の隣に立てるようになりたい。

今はまだ遠くても、いつかは絶対に。

 

だから、今は――!

 

 

 

私の意識は現在に戻り、地面に足が着くのと同時に、手に持った竹刀を空に向ける。

 

ブルーに驚く彼女には、確かに隙が生じている。

だけど、きっとそれだけでは私の鞭も竹刀も届きやしない。

 

でも、セラは届くと信じた上で、”自分にできる手伝いを”と、エルザの身動きを抑えようと来てくれると信じていた。

 

だから、私は…

 

「お願い、セラ!」

 

叫ぶと共に、私は竹刀を空へ放り投げた。

 

エルザの後ろから迫る彼女は、意味をくみ取ったのか、空を舞う竹刀を目掛けて鋭く跳躍する。

 

人間、急激な動作の停止から次のアクションへ移る時には、どうしても僅かなラグが生じる。

プルーへ向けた竹刀を直前で押し留めた彼女は、後ろを振り向くのが遅れるに違いない。

 

「はい!ルーシィさん!」

 

空中で竹刀を受け取ったセラが、彼女に飛び掛かる。

これで決まったという確信を持っていた。

だが、彼女は……なんと、その体勢から信じがたい速度で身体を捻り、襲いかかるセラの竹刀を防いでいる。

 

(これでも、ダメなの!?)

 

驚愕する私の内側に、先ほど感じた温かな魔力が流れ込んでくる。

 

「!」

 

まだ終わっていないと、セラの魔力が私の背中を強く押している。

 

「お願い! バルゴ!」

 

 

 

私はバルゴに指示を出すと同時に、手にしていた鞭をエルザへと振り抜いた。

彼女は力任せにバルゴの拘束を振り払い、最小限の動きで鞭を回避する。

けれど、私の狙いはそこではない。

私の狙いは、ムリな体勢で持ち続けている竹刀の方!

 

(よし、掴んだ!)

 

鞭が竹刀に巻き付く。あとはこれをずらして、セラの竹刀を当てれば…

 

「え?武器を手放した!?」

 

またもや驚きの声が漏れた。彼女は自ら竹刀を放り捨て、その身一つでセラの剣撃を避け、そして足元から迫るバルゴの拘束をかわし続けていた。

 

それと同時に、私の中に流れ込んでいたセラからの魔力が小さくなっていくのを感じる。代わりに、私自身の魔力消費が増え、身体が思うように動かない。

 

(セラもあんなにきつそうに戦ってるのに、何で私の体は動かないのよ…!)

 

情けない自分を噛みしめながら、あることをお願いするべく、一旦バルゴを呼び戻させる。

 

「バルゴ、来て…!」

 

耳元で短く指示を出して数秒ののち、バルゴは再びセラと共にエルザへと迫る。

 

 

かなり限界だった。

意識が遠のき、立っているのが精一杯だ。

だって、私はさっきから一度として精霊を閉門させていない。

つまりは――

 

私は何とか顔を上げ、セラに視線を送った。

彼女も即座に私の意図を組み、勝利条件である竹刀を投げ捨てると、黄緑色に輝く魔力を空にばら撒いた。

 

一方エルザは、突然の武器の放棄と、治癒魔法の行使でセラに警戒を向けている。

これほど派手な魔力の残滓を周囲にばら撒き、注意を逸らせば‥‥すぐ傍らにいる「小さすぎる気配」に気づくことはできない。

 

「ぷいっ」

 

静まり返った広場に、場違いなほど可愛らしい声が響く。

エルザが後ろを振り向いた先には、小さくて愛らしい姿があった。

その白い小人は、一生懸命に自分の背丈よりも何倍も大きい竹刀を持ち上げ、彼女の足元へ、ぺちっと誇らしげに押し当てていた。

 

 

「おおおおおおおっ!!!」

 

一瞬の静寂の後、地を揺らすような、割れんばかりの歓声が沸き起こった。

興奮した観客たちが一斉に私達のもとへ駆け寄っていく。

 

 

 

 

「最後のあんたの指示だろ、すげえな!」

 

「いや、セラのあの剣捌きも相当なもんだったぜ!」

 

「やっぱ、エルザもすげえよな。魔法なしで、あそこまで動けるのか」

 

「てか、あんたって精霊魔導士だったのか!すげえ!!ほかにもどんな精霊がいるんだ!?」

 

「あんな白くて可愛いのが出てきたら、誰でも動きと止まっちゃうよ!私にも触らせてほしい!」

 

「俺も、あのメイドさんに会わせてくれ!」

 

「二体同時召喚って、かなりきついって聞いたけど、すげえな、あんた!」

 

 

 

「えっ!?私!?」

 

いつの間にか、私一人に対して何十人ものの人が詰めかけ、あれよこれよと質問攻めにあう。

なんだが、皆に認められたようにでシンプルに嬉しい。だけど、きっとこうして誇らしく笑えているのは、私を信じてくれた彼女のおかげなのだ。

 

私は観客の質問に応えながら、少し離れた場所で、満足そうに大の字になって倒れ込んでいるセラを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

side セラ

 

観衆の興奮した声が、ルーシィさんを中心にしてお祭りのように飛び交っている。

一方こちらでは、倒れこむ私に対し、エルザさんが静かに手を差し伸べてくれていた。

 

私は大きく息を吸い、そして吐き出し、エルザさんの手を取った。

 

「‥ありがとうございます。エルザさん」

 

ぐい、と力強く引き上げられ、雑草を払いながら立ち上がる。

 

「正直、かなり驚いた」

 

エルザさんが、真っ直ぐに私を見つめてそう言った。

 

「これは、セラが立てた作戦か?」

 

「いえ、最初だけです。私の作戦は全部対応されてしまいましたし、ほぼルーシィさんのアドリブ力で勝てました」

 

私は、苦笑いを浮かべながら正直に答えた。

実際、私の見通しは甘かった。自分が思うように動けなかったこともそうだけど、何より、稽古をしてくれているエルザさんへの理解がまだ浅かったことが、たまらなく悔しかった。

 

「そうか、アレをアドリブでやってのけるとは、凄まじいな」

 

エルザさんは、今も質問に必死に応えているルーシィさんに目を向ける。

なんだが、ルーシィさんが皆に認められたようで見ている私も嬉しくなる。

 

「そう言えば、あの白の可愛いらしい小動物が出る際、治癒魔法を使っていただろう。精霊の二体同時召喚ができていたのも、セラの治癒魔法によるものか?」

 

「やっぱりすごいです、エルザさん。治癒魔法の行使がばれないように、薄く伸ばしたり、空中に分散させたりしてましたけど‥‥結構分かりやすかったですか?」

 

「いや、そこまでは正確に読み取っていたわけではない。ただ、あの小動物が出る時に、異様に光っていたからな。そこで、セラの魔力を感じ取ったんだ。あれは、魔力そのものに治癒を施すことで、その活性化とルーシィの魔力消費の肩代わりをしていたいうことか?」

 

「えっと…以前の戦いで掴んだ感覚というか、知り合いの方に詳しく教えてもらったことなんですけど。今まで、身体の自己治癒力の活性化とそこにかかる疲労の回復に使っていた治癒魔法を、魔法の源になるエーテルナノ――つまり微粒子の運動そのものを活性化させるために使ってみたんです。

そうすることで、ルーシィさんの魔法の効果を底上げしたり……今回はプルーが出る時の発光を強めて目眩ましにしたりしていました。…ただ、この応用技だと、普通の治癒魔法よりも操作と維持がずっと難しくて、正直かなりきつかったです…」

 

私が苦笑混じりに告白すると、エルザさんは深く感心したように目を細めた。

 

「成長しているのだな…。ところで、今回、接収(テイクオーバー)を使っていなかったが、まだ治癒魔法との併合は難しいか。」

 

「…はい、そうですね。やっぱり接収(テイクオーバー)を使うと、治癒魔法の操作が乱れてうまくいかないんです。 …それに、正直に言えば、私はこの力をあまり使いたいとは思っていなくて」

 

 

「そうか‥。

確かにセラにとって、相手を容易く傷つけることができる力に抵抗があるのだろう。だが、いずれ向き合わなければならない時がくる。その時どうすべきか、あらかじめ考えることも必要だ。ただ逃げるよりも、自らの力と正面から向き合うことこそが大事だと私は思う」

 

「…確かに、そうですね。エルザさんの言う通りだと思います。私…精一杯考えてみます!」

 

「そうするといい。それと、私の稽古の際には存分にその力を使ってくれて構わない。私はそう簡単には傷つかんからな」

 

彼女は口角をわずかに上げ、不敵ながらもどこか柔らかな笑みを浮かべた。

 

「はい!本当にありがとうございます!稽古の際には、よろしくお願いします!」

 

深々と頭を下げた私に、エルザさんは満足げに頷くと、ふと思い出したように言葉を継いだ。

 

「明日は、マグノリア駅に集合だが、大丈夫か。朝早いが……」

 

「…だ、大丈夫です!絶対、起きます!」

 

私ふと、今朝のことが脳裏をよぎったが、私はそれを力ずくで振り払い、気合を入れるように「ふんす」と鼻を鳴らして意気込んだ。

 

「そうか、もし五分前にいなかった場合は、私が直接起こしにいってやろう」

 

不敵な笑みを浮かべるエルザさん、私はなんだかとてつもない悪寒を感じて、反射的に背筋をピンと伸ばした。

 

「い、いえ!絶対に、自力で起きます!」

 

 

「そうか……。では、また明日、マグノリア駅でな」

 

 

そう言い残して歩き出す彼女の背中を見送りながら、私は明日の目覚まし時計を三つセットすることを心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side???

 

「いやー、やっぱり人の戦い見るの楽しいですよねー!あーあ、おじさんもこればよかったのに」

 

とある路地裏。

青年は、手元の魔道具に向かってけらけらと笑っている。

 

「ん?仕事は…って。あー、すっかり忘れてました!すんません、すんません」

 

「うえっ?今夜行けって?いやいや、今夜は遊ぶって決めてるんで!それに自分、彼女の家わかんないですよ!」

 

青年は、通信の向こうから漏れ出る怒号を鼻歌で受け流していると、ついに堪忍袋の緒が切れたような鋭い声が響く。

 

「は?死ぬ気で探せ?無理ですムリ。もう、今日の夜は遊ぶって決めたんです。それじゃあ、ばいばい~」

 

パリンと乾いた音を立てて魔道具が砕け散る。

 

「そう言えば…、あれ?名前なんだっけ。…ま、いっか。確か、明日は駅に行くって言ってたっけ」

 

砕けた破片を無造作に踏みつけながら、その人物は夜の闇へと消えていった。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

何となく書き始めたものでしたが、意外と筆が進んで自分でも驚いています。
執筆には波がある方なので、次はいつ書けるか分かりませんが、次回も読んでいただけると嬉しいです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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