「ふぅーー⋯はあーー⋯⋯」
深く深く息を吸い込んで、余計な感情ごと全て吐き出す。
現在、私は車内トイレの鏡の前に立って、深呼吸を繰り返していた。
弁当の食い過ぎも一つの要因だけど、私は何より焦る気持ちをどうにかしなければと、トイレに駆け込んだのだ。
胸に手を当ててみれば、いつもより心臓の音が速くて大きい。
昨日あんなに、声高らかに戦うと宣言したはずなのに。
模擬戦のあと、ケーキを渡すついでにエルザさんの家で、依頼内容を聞いているはずなのに。
未だ緊張が止まない自分が情けなくて、また深い息を吐き出す。
「はあーー」
今までは、別に誰かを倒すだとか、捕まえるとかではなく、誰かを助けに行ったり、もっと手軽な依頼をこなしてきた。
でも、今回は違う。私たちは、今から闇ギルド「鉄の森」の本拠地に乗り込み、これを制圧する。
闇ギルドなんて、ミラさんの口からしか聞いたことがないし、見たこともない。当然だった、だって私は、今までそういった依頼から避けてきたのだから。
エバルー屋敷での戦いは無我夢中だった。心構えをする暇もなく、ルーシィさん達を守るために戦えた。相手が本当の肉体でなかったことも、私が戦えた理由の一つだと思う。
でも今回は、こうして準備期間があり、心に考える余裕がある。だから、こうして相手と戦う自分を想像する。
想像の中では、何故か毎回、赤い鮮血が飛び散る。治癒魔法を主軸として戦いと決めているはずなのに、何故か毎度、接収を使い、その鋭い爪で相手を切り裂き、血液が飛び散っていた。
ー大丈夫、大丈夫。
そう何度も繰り返して、鏡を睨みつける。
私は、強くなるんだ。
強くなるためには、きっと、この先も戦いが待っている。
毎回こんなに緊張していては皆の役にも立てないし、何より強くなれるはずがない。
私は、目を瞑って思い出す。
私の目標何か、その目標為には何が必要かを。
そうだ、私は世界を駆け回って家族を見つけ出す。その為には、強くなって、マスターにs級として認められないといけない。
今まで目標ばかり見て、努力を怠っていた。だから、今はその過程を頑張らないと。
少し、心臓の高鳴りがおさまるのを感じて、トイレから出る。
「よし!⋯⋯ん?」
ぞい!と力強くやる気を高めると、目の前には一人の青年がうつ伏せで倒れていた。
こんな所で寝るなんて不自然だと思い、「大丈夫ですか?」と声をかける。
「こんな所で寝てたら、服が汚れちゃいますよ。」
数回揺するが反応がなく、せめて仰向けから、壁に背もたれるようにしようと持ち上げようとしたその時、右足にチクッと痛みが走る。
「いたっ⋯何?」
自分の足に視線を移すと、そこには注射器から黒っぽい液体が体内に流し込まれていた。
「ちょっ、何⋯!」
すぐさま、注射器を引っ込抜いて、投げ捨てる。
「あーあ、バレちゃった。でも、7割位は入ってたね」
青年は、惜しかった、惜しかったと楽しそうに笑みを浮かべながら、私を見下ろしていた。
ーあれ、私いつの間に座り込んで⋯
「お!効いてるみたいだね、念のために後、1,2本追加で注射するねー」
彼はまるで、平然とした顔で、注射器を取り出し、私の腕に打ち込もうとしていた。
「っ!」
ガリッ
注射が刺さるギリギリで、腕を変化させることで何とか防ぐことができた。だが、
「おー、使ったね、その力!でも残念!そっちはフェイクなんだよね。本命はこっち!」
「くっ!」
今度は、首に痛みが走る。
首に何かの液体が入り込むのを感じて気持ちが悪い。引っこ抜こうとも、体が思うように動かせずに、意識も何処か朧げになっていく。
何とか、片目だけ開いて、目の前の少年に目を向ける。
「大丈夫、安心していいよ!別に殺したいと思ってる訳じゃないから。あっ、でもワンちゃん死ぬ可能性もあるんだっけ?でも、君の体が負けなければいいだけだからね!応援してるよ!後、これは僕からのプレゼント、早く強くなってね!それじゃ!」
トイレに押し込まれた後、何故か頭をポンポンと叩かれ、首に何かが掛けられる。「何で?どうして?」と声を出すことを出来ずに私の意識は遠のいた。
▽▼▽▼▽▼▽
バァンッ!!!
「んっ⋯⋯」
何やら近くで、凄い音が鳴り響き目が覚める。
「あれ、私⋯って、さっきの人は!?」
私は、立ち上がってトイレから抜け出すと、
何故か左右の連結部分のドアが破壊されており、
そのドアがあった位置に誰かが立っていた。
「何か凄い壊れてますけど、大丈夫ですか?」
「あのクソハエが⋯! ん?君、誰?」
その男性は、何か怒った表情で、右頬を抑えていた。
「私は、セラ・ホープライトって言います。取り敢えず、怪我してるみたいなので、治癒魔法をかけ⋯痛っ」
何故か、治癒魔法を使おうとすると、何かがぶつかるようにバチンッと痛みが走る。
それでも何とか痛みに耐えつつ、魔法を唱えた。
『治癒』
「おぉ!痛みが消えていく!助かったよ、お嬢ちゃん。それにしても、治癒魔法なんて凄いね、君。」
「いえいえ⋯」
頭を振りながら、状況確認のため、周囲を見渡すと、ナツさん達が座っていた座席には、誰も座っていなかった。
えっ、まさか⋯!
「すみません!今ってどこの駅に向かってますか!?」
「ん?次は、クヌギ駅だけど」
ヤバい、ヤバい。完全に乗り越してる。こんな大事な任務の時に何してるんだ、私!
「それにしてもお嬢ちゃん、なかなか可愛いし、珍しい治癒魔法も持ってるんだよね⋯⋯」
ガタン プシュー
私が心の中でひたすら自身を責め立てていると、列車の止まる音が聞こえる。
反省は後にして、すぐさま電車から飛び出そうとしたその時、とある集団がぞろぞろと入り込んできた。
「客も運転手も全て追い出せ。この列車は今から俺たちのものだ」
「!!」
私は、一瞬で体がこわばるのを感じた。
だって、そうだろう。
目の前には、昨日みせてもらった資料にあった、上半身裸に紺色のタトゥー、そして肩に大きな鎌をかけている。
間違いない、彼らが今回のターゲットであり、鎌を持った男性こそが⋯
鉄の森のエース 死神 エリゴールその本人である。
読んで頂きありがとうございました。
次回は、もう少し文字数を増やせたらと思います。
なるべく、早く投稿できるよう頑張ります。