以上です。
「エリゴールさん!ララバイの封印、解除できましたよ!」
「よくやった、カゲヤマ。これさえあれば⋯」
カゲヤマと呼ばれた人物は、エリゴールにドクロの付いた笛を渡していた。
(ララバイ?)
脳内で疑問符を浮かべるが、暗殺業に勤しむ彼らであるならば、良からぬものであるのは確かだろう。
「おい、そこに隠れてるガキ。さっさと出てこい。」
「!」
「あっ!そうですよ!さっき、彼女に傷を直して貰って、名前は確か⋯セラ・ホープライト!あの古代魔法の一つ、治癒魔法の使い手で、顔もなかなか可愛いですし、思わぬ収穫ですよ!」
目だけを覗かせていた私の元にやってきた彼は、笑みを浮かべながら、楽しそうに話していた。
「⋯今なんて言ったカゲヤマ」
「っ!」
溢れ出す殺気にいち早く気づき、彼を庇うように前に出る。
振るわれる鎌に、テイクオーバーした腕が真っ向からぶつかる。
「⋯仲間じゃないんですか」
「バカには、躾が必要だろう?」
「エリゴールさん、何して!?」
「てめぇ、分かってなかったのか。こいつは、あのクソハエに属する魔導士だ。まるで働きアリみてぇに、人助けしてるって、気色わりぃ野郎だよ。それに⋯なんだその腕は?ただのヒーラーかと思ったら、化け物じゃねぇか。」
自然と腕にこもる力が強くなり弾くように、カゲヤマさんと共に後ろに下がる。
私は、鋭い視線を彼に向けた。
「なんだ、その目は?この人数に勝てると思っているのか?」
「はい。私が止めてみせます」
カゲヤマさんを庇うように前に立ち、構えを取ると同時に列車が動き出す。
数秒の睨み合いのうち私が踏み込むと、突如目眩に襲われる。
その一瞬の隙を相手が見逃すはずもなく、エリゴールの足が私の横腹を捉え、蹴り払われる。
「おいおい、どうした?ビビったのか?
前から、テメェみたいな偽善者が気にくわねぇと思っていたんだ。サンドバックにしてやるよ!」
その後も謎の目眩に襲われながら、腕を変化させ、ガードすることしか出来ずにいた。
腕以外の服や腹に、刃のような風が切り込まれる。
「おお!もっと派手にやってくださいよ!エリゴールさん!」
「お!また服が切れた!フォー!」
「エリゴールさん、そこまでしなくても⋯相手はガキですよ!」
人々が熱狂的に叫ぶ中、私の背後から声が聞こえた。
「あ?何言ってやがる?」
「いや、その⋯。治癒魔法なんて珍しいですし、一緒にいたら便利な存在になるんじゃないかって⋯」
「っ!」
風きり音が耳元を通り過ぎると同時に、足を変化させ、カゲヤマさんと共に後ろに後退する。
「おいおい、またそうやって人助けか?随分余裕みてぇだな!」
「っ!」
鎌とテイクオーバーした腕がせめぎ合い、ギリギリと音が鳴り響く。
ガタンッ
列車が停止すると同時に目眩の治まりを感じた私は、鎌を押し返し、エリゴールの内に入り込む。
パキッ!
突如、今まで気づかずにいたブレスレットの水晶が、浮かび上がり、その水晶は私の目の前に砕けた。
水晶が砕ける中で、ただひたすらに黒い闇が、エリゴール達に向かって大きく伸びる。
「何?⋯!とにかく今は!」
数秒の後、暗闇が収まる。
固まったように動かない鉄の森のメンバー達を見て、背後にいたカゲヤマさんを抱えながら列車から飛び出す。
「皆さん!今、列車内に闇ギルド『鉄の森』がいます!今すぐ、ここから避難してください!!!」
何とか魔力の塊を生み出して、頭上に打ち上げようとした、丁度その時。
背後から破裂音が一つ、頭上からは轟音が鳴り響く。
振り返り、頭上に視線を移すと、天井には大きな穴が空けられている。
そして、そこには真っ青な空などはなく、荒れ狂う嵐があった。
私はすぐさま、塊を打ち上げ、光を散らす。
「なるべく外の建物に隠れてください!!!」
先程よりも、声を大にして叫ぶ。
光と叫びで注目を集めたと同時に、皆慌てたように、この場から逃げていく。
「良かった。皆さんがすぐに動いてくれて⋯。カゲヤマさんも早くここから離れてください。」
「⋯⋯何で、俺なんかを。」
「貴方が、あの時、声を出してくれたからです。
確かに、今まで貴方方がしてきたことは、許されるものではないですし、ギルドの名を侮辱したことも、許してません。
でも、私はしてきた行いよりも、心に従います。これまでの行いをどれだけ悔い、反省できるのか、そしてどう償えるのか……それを考えられる人だと思ったから、助けただけです。
……もちろん、この後すぐに捕まえますから、逃げないでくださいね?」
私は最後の方を少し強調しながら、にっこりと笑顔を向けた。
不安定な治癒魔法をかけつつ、「先程は、声を出してくれてありがとうございました」とお礼を告げて、彼の背中を押し出す。
彼が走り出すのを見送り、頭上を見上げると、大きな嵐の中に一人の人物が映る。
その者と目が合うと同時に、彼は一直線にこちらに向かって急降下してきた。
先程と比べ、禍々しい魔力に悪寒を感じた私の体は、受け止めるのではなく、避ける選択を取る。
鎌は、私が先程までいた位置に振るわれると、轟音と共に太く深い亀裂が地面に刻まれていた。
その凄まじい威力に一瞬の焦りを感じつつも、鎌を振り切った隙を突いて、その横っ腹に蹴りを叩き込んだ。
蹴り飛ばされたエリゴールは、列車の中に叩き込まれる。
私はそれを傍目に周囲を見渡せば、駅員が避難誘導をしている。少しの安堵の後、視線を戻した次の瞬間、すぐ目の前には、大きな列車が迫っていた。
「っ!!!」
私は、両手両足を変化させ、列車の鉄の部分を掴んで踏み止まろうと、足と手に最大限の力を込める。
(ここで止めないと、後ろの人も巻き沿いになる!!)
とてつもないスピードの反動によって、左右後方の列車が円を描くように背後に迫り、背中に衝撃が走る。
歯を食いしばりながら、数秒の後、何とか列車は停止した。
背後の人達の安否を確認しようとしたのもつかぬ間、突如、列車から無数の手が飛び出し、私の腕に絡みつく。
窓から見えるこの腕の主達の目は、赤く充血し、苦しそうにうめき声を上げている。
「うぅ⋯苦しい!苦しい⋯!」
「がはっ!!」
「なんで、こんな⋯何!?」
困惑さえも与えまいと、彼らの後方から、魔力がどんどん膨れ上がるのを感じた。
「まさか、あの人!!」
腕を下に叩きつけ、無数の手を振り払い、車両を飛び越える。
視線の先には、鎌を横に構え、魔力を高めている男の姿が。
私は、地面に到着すると同時に、地面を思いっ切り蹴り飛ばして、弾丸のように前方に飛び込む。
(それだけは、絶対させない!!)
ガンッ!ガリガリガリ
鎌が振り抜かれるギリギリで、刃を掴む。
刃はまるで、チェンソーのように高速の微振動を繰り返し、
その振動は、連鎖するように私の腕にも伝わり、腕にこもる力が安定しない。
(っ!だめ、抑えきれない!!)
数秒のせめぎ合いで、受け止めることは無理だと悟った私は、耐える為に地面に食い込ませていた片足で、鎌の刃から離れたの方腕を下から上に打ち上げる。
それと同時に頭を下げながら、腕を離すと、
その刃は想定の高さよりも、少し高く振り抜かれる。
まるで、大きな刃のような風は、駅のホームの二階部分をみごとに両断してみせた。
そのあまりに綺麗に切断された建物を傍目に、小柄な体で、内に入り込み、拳を打ち込む。
上半身裸の男は、誰もいない柱に叩きつけられ、何かもがき苦しんでいた。
(っ!今は⋯!)
私は、すぐさま、列車のある方に戻る。
二階が両断されたことで、瓦礫が倒れ込む中、列車は、へこみ部分も見られるが何とか無事であることを確認した後、先程逃げていた人達に怪我がないかを確認する。
数名程、怪我人を見つけ、治癒魔法をかけて、外側の建物に避難するように促す。
(さっきより、治癒魔法にかかる負担はない⋯。でも、テイクオーバーを使ったばっかで、ちゃんとした治癒は出来てない⋯。っ!何で、必要な時に上手く使えないの?私の魔法!)
自分の実力不足に歯噛みしつつ、今度は、列車に乗り込み、地面に伏せる人達に治癒魔法をかけていく。
まだまだ、制御が出来ず、ブレブレな魔力が彼らの体を覆う。
先程の人達には最低限の治癒しか出来ていなかったが、以外にも今は、もがき苦しむ人達の顔がだんだんと晴れていく。
「っ!!」
私は、必死になって、治癒魔法を維持し続けながら、ふと考える。
きっと、ここまで被害が甚大になったのも、彼らがこうして苦しんでいるのも私のせいだ。
私が付けていたブレスレットのあの光のせいでこうなった。
つまり私が、油断して気を失わされたから、こうなっている。
全て、私の責任だ。
私の油断でこうなっている。
勿論、彼らは今まで悪いことをたくさんしてきたのだろう。であるならば、しかるべき罰も必要なのだろう。
だが、それはこんなもがき苦しむ痛みではない。後悔と反省、そして償い。全て、心の変化、行動をもって償うべきだ。ただの苦しみは、人の心を更に苛むことにしかならない。
だから、私がするべきは、痛みによる強制ではなく、説得、改心させるために力を振るう。より良い、人としてのあり方を。
「っ!?」
そんな大事なことを、緊迫したこの状況の中で考えていた事が間違いだった。
私は、例えどんな状況でも、反省と改善について考える。
それがよい方向に傾くこともあれば、こうして油断にも繋がる。
だから、私は背後からくる男に気づけなかった。
私は、腹の痛みで知覚する。
腹には、まるでドリルのような風を纏った腕が突き抜けており、その回転は勢いを増し、臓腑がかき混ぜられる。
「がっ!!アアァァッッッ!!!」
今まで感じたことのない痛みで頭がチカチカし、自然と叫びが漏れる。
何とか背後を蹴り飛ばして、前かがみに倒れ込む。
「はぁはぁ!うっ!!?」
呼吸を整える暇もなく、溝に、突風のような衝撃を受け、私の体は、駅のホームを突き抜け、空を舞った。
目の前には、ただ黒く渦巻く嵐。
私の体は、その嵐に受け止められることはなく、更なる速度を増して、はじけ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ぐぁっ!!」
朦朧とする意識の中、最後に見えたのは、こちらに向かってくる一つの人影。目を凝らしてみると、そこには、銀の甲冑に紅の髪をなびかせる、一人の騎士の姿があった。
読んで頂きありがとうございました。
キャラのエミュがかなり不安ですが、漫画やアニメを見返しつつ、適宜修正致します。また、この『鉄の森編』ですが、あと2〜3話で終わらせたいと思っています。
ここまで読んで頂きありがとうございました。