原作1ミリも知らない奴のブルーアーカイブ 作:レッドアーオアダム
ブルアカユーザーの友人から監修を受けていますが、どうやら2ミリぐらいは合っているそうです
───青春×学園×物語
───透き通るような世界観
───日常で奇跡を見つけるRPG
淡い日差しが差し込む街を、天使の輪っかのようなものを頭上に浮かべた少女達が駆け回る。
透き通るような色彩に、銃火器の応戦が撃ち鳴らす轟音と火花のコントラスト。
かわいらしいデフォルメ調でありながらも精巧な3Dグラフィック。
プレイヤーを飽きさせない、随所まで工夫が行き届いた演出。
新時代に相応しい洗練されたUIと快適な動作。
豪華絵師によるオタクを絞り殺すキャラデザ。
スマホゲーとは思えない程の最高の没入感。
クオリティファーストのシナリオ。
「やっぱ神ゲーだよなぁ~……『レドアカ』は」
頭の上に光る輪っかを乗っけた少女は寝転がりながらそう呟いた。
「な、ユウカもそう思うだろ?」
そして、ノックもせずにドアを開けて部屋に入ったもうひとりの少女に目も向けずに続けた。
ユウカ、と呼ばれた少女は蒼いツインテールを揺らしながら一歩前に出た。特大の溜め息を吐きながら呟く。
「またソシャゲですか……」
『レドアカ』……正式名称『レッドアーカイブ』。
現在キヴォトス全土で大人気のソーシャルゲームだ。要素要素のほとんどがハイクオリティであり、ゲーム性とプレイヤーから徹底的に金を搾り取るシステムを両立させた新時代のソーシャルゲーム。今度アニメ化もされるらしい。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
ソシャゲ界の大谷翔平。
ソシャゲ界のウサイン・ボルト。
ソシャゲ界のリオネル・メッシ。
そう称しても過言ではないだろう。今、世界で一番、影響力の強いソシャゲである。
ユウカはソーシャルゲームに対して特に思う所はない。
いや、なかった。その方が正しいだろう。
別にソーシャルゲームに関して思うところなんてなかったのだ。この少女と出会うまでは。
全く手が加えられていないボサボサの髪。二着しかない服はユウカのお下がりで、サイズが完全に合ってない。
堕落を極めた格好でスマートフォンをポチポチとしている様子は、前世どころか今世がナマケモノかと疑われるレベルだ。ぐでっとしていて目も半開き。
全身から健全で充実した生活へのやる気のなさをこれでもかと感じる。そのくせして、タップ&スワイプを行う指は恐ろしく精密かつ神速。
室内は電気も点いておらず、ゴミも雑にビニール袋に突っ込んでお終い。部屋の隅っこに積もった埃から掃除も一切していないことがわかる。
ユウカは溜め息を吐きながらもう一歩前進した。足下からぐにゃっとした感触。何かを踏んだようだ。
慌てて足をどかすと、それは小麦粉の袋だった。
「んあー? もしかして小麦粉踏んじゃった? ……あー、今日はごはんを食べる日だから昨日のうちに出しといたんだっけ」
「ごはんって……まさか食べてないんですか?」
チラッと目を走らせる。部屋の奥にゴミで膨れ上がったゴミ箱が見えた。
カップ麺やカロリーをメイトするものとかそういうのばっかり食べて、まともな食事を食べていないのかもしれない。
「いやちゃんと食べてるよ」
「何をですか?」
「それ」
それ。
少女は未だに寝転がっているし、何ならユウカに背を向けている。
それ、とだけ言われても普通はわからない。だが、
そして、短い付き合いだがユウカは少女の"パターン"を多少なりとは把握していた。
少女は寝返りをうった。
「"小麦粉直喰い"がコスパ環境トップ独走のSランクだからね。流石のわたしも食費は課金しないよ」
想定通りで予想外の答えに眩暈がして、ユウカは思わず額に手を当てた。
この生物はとうとう小麦粉を直で喰う化け物の類いになってしまった。そのうち霞を主食にし始めるかもしれない。もうそうなれば仙人の類いだ。ソシャゲ仙人。嫌すぎる。
とりあえず電気を点けよう。足場を確保しなければ何を踏んでしまうか分かったもんじゃない。
が、いくらスイッチを押しても部屋の電気が点かない。
「あ、電気切ってるから」
さも当然のように部屋の明かりを捨てていることに、とうとうユウカの堪忍袋の緒が切れた。小麦粉の袋を踏み潰し、スマホを取り上げる。
ユウカが部屋に入ってから約二分。
初めて目が合う。
寝転がったまま少女───
「怒んなって。イベ前だし、話ぐらい聞くよ?」
素社華ニッカ。名字は"そしゃげ"。ちなみに自称。本名は不明。
記憶喪失になっているところを先生に拾われてやってきた少女。
持ち物はボロボロの服とソシャゲを遊ぶための端末一式とソシャゲに関する記憶のみ。
脳には異常なし。医者いわく「記憶喪失じゃなくてソシャゲに関わること以外覚えてないだけ」とのこと。現代科学の敗北である。
ガサツ。
自堕落。
社会性なし。
運動能力なし。
戦闘能力なし。
コミュニケーション能力なし。
頭の回転そこそこ。
好きな食べ物:特になし
嫌いな食べ物:ラーメンに入ってるネギ
特技:ソシャゲ
趣味:ソシャゲ
プレイスタイル:廃課金
決して悪人ではなく、悪辣な人間でもない。
困っている人と運営会社と初心者に優しく、頼まれ事とデイリークエストは文句のひとつも言わないでやってくれる。
基本的に怒らず、冗談も通じる。ユーモアのセンスは独特だが、ソシャゲ以外ではネガティブな発言も少なく、ほとんど常に笑顔。
善人ではある。それは間違いない。
ただ、ソシャゲに全てを支配されているだけなのだ。
例えば、こんな先生との会話。
「やぁ、ニッカ。もう朝ご飯は食べた?」
「爆死したよ」
「髪の毛大分長いね。切る?」
「じゃあ、理髪店行く分のお金ちょうだい。自分で切るから」
「服も新しいのを買わないとね。ずっとユウカのお下がり着てるわけにもいかないしね」
「じゃあ、その分のお金ちょうだい。服は二枚あれば良いでしょ」
「時々書類整理とか手伝ってくれないかな」
「良いよ。どうせ周回中ヒマだし」
「ありがとう」
「どういたしまして。あ、すりぬけー」
会話中、スマートフォンから目を離すことはない。
人の目を見て会話をする、という概念を知らないのである。人によっては即座に拳骨か銃弾が飛んできてもおかしくないだろう。
先生が連れてきてから三日で、どんなに少なく見積もっても一ヶ月分はあるお金を課金で溶かしたことを契機に、ミレニアムのセミナー"副会計見習い"というポジションに強制的に着任された。ニッカの財布のヒモをユウカが握るためである。
初めは課金癖更正プログラムを真面目に考えていたユウカだったが、ありとあらゆる手段を使って課金をするニッカを食い止めることは不可能だった。当然、脳にもヘイローにも異常はない。現代医学の敗北である。
現在は最低限の食費のみを毎日手渡しすることで課金を抑えている。抑えている、ハズだったのだが。
「で、どうしたんよ。食費の時間にはまだ早いけど」
「一応訊いておきます。
「いやさ、これまでみたく贅沢に『米、水、野菜』を食べてたら課金できないでしょ? 小麦粉直喰いの方がコスパ良いってことに気付いてね」
ちなみに『米、水、野菜』すら二日に一回しか食べていないことをユウカは知っている。
「どうしてそうまでして課金するんですか……」
「
ニッカは混じりっけない綺麗な目をしている。ソーシャルゲームについて語る時は特に。
純粋なのだ。自分の好きなことに。
ユウカはそれ自体は悪いとは思っていない。むしろ、心のどこかで羨ましく思っている節すらある。
───こんな風に素直になれたら
しかし、それとこれとは話が別。
ソーシャルゲームへの課金は無駄、それはユウカの中で揺るぎない結論である。ニッカとの会合でその思いは余計に頑なになった。
テレビゲームをするなら買い切りのコンシューマーゲームで良い、と思っているユウカはニッカと絶望的に合わなかった。
「それはまやかしです。射幸心を煽られているだけで……」
「脳の報酬系を利用した一種の麻薬行為にも等しいとかってんだろ。そんぐらいわかってるよ」
ゲームはプレイヤーを全力で"騙す"。プレイヤーがそれに自覚的であろうとなかろうと。歴戦のソシャゲプレイヤーであるニッカが、それを理解していないはずがない。
「乗せられてることなんざ百も承知だ。
でも、それでも楽しいんだ。
わたしも幸せ、運営も幸せ。
な、だーれも不幸になってない。最高じゃないか」
頭は悪くないはずなのだ。筆記試験もこっちに来たときに一度受けさせたのだが、そこそこ優秀な成績だった。なのに、ソシャゲのことになると途端に阿呆を極めた暴論を真面目に語りだす。このソシャゲ馬鹿には理論も正論も通じない。
そもそも思考の前提が違い過ぎて、レスバにも発展しない。ユウカの頭を悩ませる原因のひとつだ。
ニッカは続ける。
「それに、わたしだって別に自分の都合だけで課金しているわけじゃないよ」
「……どういうことですか?」
「課金しないとサ終するだろ。課金は運営を助けるため、つまりは人助けだ。ソシャゲの基本だろ?」
ユウカは諦めた。もうニッカの頭を殴って人為的に記憶喪失を引き起こすしか方法はないのかもしれない。まだ出会ってからさして年月も経っていないのに、ユウカの中でニッカの説得は攻略不可能の烙印が押されていた。
しかし、それでも諦めず、毎日続けるのが
気を取り直してユウカは本題に入る。
「実は……先生が帰ってこないんです」
「そうか、それは大変なこったね」
ニッカはごろんと転がってタブレットを手繰り寄せた。
ユウカはタブレットを取り上げた。
「昨日の夕方には戻ってくるって書き置きがあったのに……一日経っても戻ってこないんですよ!?」
「うぃ、そのうち帰ってくるよ」
ニッカはiPhoneを取り出した。
ユウカはiPhoneを取り上げた。
「アビドスに行くとあったので心配で……アビドスに行くには砂漠を越さないといけないじゃないですか」
「あー、そうだね」
ニッカはAndroidを取り出した。
ユウカはAndroidを取り上げた。
「だから! 念のため探しに行くんです! ほら、先生にやってもらう仕事はたんまりと残っていますし」
「がんば」
ニッカはPCを起動した。
電源コードを引っこ抜いた。
「…………」
「……………………」
ユウカは懐から財布を取り出した。
「協力するなら課金を許可します」
「急ごう!
ユウカのソシャゲへの忌避感がまた上がった。
内輪ノリ1000%+匿名投稿
無敵の構え