原作1ミリも知らない奴のブルーアーカイブ 作:レッドアーオアダム
やったね! 成し遂げたね!
「うぃー、おまたせー」
寝間着から着替えたニッカの服装はミレニアムの制服。ユウカのお下がりであり、ニッカの寝間着以外の唯一の服である。
当然昔の服なので丈は短い。が、胸のまわりがキツいというのはなさそうだった。火曜サスペンスのラストみたいな絶壁。時代が時代なら洗濯板の代替品になっていただろう。
「銃です。最近は物騒ですから」
「うぃ、ありがとう」
ユウカはニッカに銃を渡した。
この銃はニッカが行き倒れていた時の数少ない所有物。
「前々から言おうと思っていたんですが、これに名前とかあるんですか? 普通の銃を使いましょう」
と、ユウカが挿し込み口のような部分を指差す。それと同時に自分の手持ちのノーマルの銃とニッカの銃を交換しようとする。
「見たまんま、
「……まぁ、いいでしょう」
ユウカは諦めた。まだ幾らでも機会はある。そのうちこのヘンテコリンなリボルバーを禁止させるのだ。ユウカは心中で誓った。ニッカは頑固なので、ここで食い下がるのは効率が悪い。こういった潔さを持っていないとニッカとまともに付き合うことはできない。つまり、紳士淑女の類いでないといけないということだ。
「では、ポケットに入ってるものを預かりますね」
ユウカは言うと同時にニッカのポケットからプリペイドカードを何枚か抜き取った。
「あ、返してよ……課金許可するんじゃなかったの?」
「許可はしましたが、自由にできるとは言っていません」
「小学生みたいな屁理屈を───」
「な・に・か?」
「……いいえ、何も言ってないけど?」
ニッカは心の中で舌打ちをした。
生活費を絞って捻出したプリペイドカードなのだ。先生を見付けた暁には、何としてでも取り戻そうと決意した。
「よーし、準備完了っと。で、どうやって向かうの?」
「そうですね。車はありますけど、私は運転できませんし……」
「じゃあ、わたしが運転するってことで」
「できるんですか? ながら運転は駄目ですよ?」
「いや、するわけないじゃん。常識的に考えて」
どの口が常識を語るのだろうか。
ユウカは思ったが、特に口には出さなかった。ニッカと付き合っていれば、こういったスルースキルも自然に上達する。その点からすればニッカは一種のはぐれメタルとも言っても過言ではないだろう。社会からはぐれメタル。
前に個人で無許可に開発されていたところを押収して、現在はセミナーの管理下にある車のエンジンをかけて出発。
まさかソシャゲしながら運転するのだろうか、というユウカの懸念は杞憂だった。しかも、運転も速度を抑えた安全運転。意外性の極みだ。
「意外ですね。運転できるのもそうですけど、もっと雑に運転するタイプかと」
「まぁ、オート周回中しか運転しないけどね」
ソシャゲの待ち時間中だから運転しているらしい。
ちなみに、ニッカはユウカよりも低身長のロリロリ体型である。最初は年下かと思っていたがどうやら年上らしいことが発覚。ユウカは非常に残念なことにしぶしぶニッカに丁寧語を使っている。らしい、というのはソースがソシャゲのプレイ記録から逆算したものだから。
改めて隣を見る。うへうへと笑いながらも運転の手付きはこなれている。どうやら運転面についての心配は杞憂に終わりそうだった。
「運転を任せられるってのは信頼の証でしょ。受け取った信頼にゃー応えないとね」
「信頼とかそういうの考えるタイプだったんですね」
「いっつもメンテ延期したり、詫び石も十分にくれない運営には誰も付いていかないよね。信頼はとっても大事、ソシャゲの基本だよ」
詫び石。
それは"赦し"の証。だが努々忘れることなかれ。詫び石を配っても、犯した罪は消えない。ユーザーは覚えているものである。ちなみにニッカは詫び石で簡単に運営を赦すタイプである。とことん運営に優しい人間であった。鳥頭とも言う。
「……訊いていいですか?」
「んにゃ?」
一瞬、ユウカは視線を落としてニッカのスマホを見た。
「ソーシャルゲームってそんなに楽しいものなんですか?」
ユウカに他人の趣味を否定する気はない。基本的には自分の理解できない趣味も「そういうのが好きな人もいる」と流せるタイプである。しかし、ソーシャルゲームにここまで入れ込んでいる人間がいるとは思ってもいなかった。
ユウカはソシャゲのことをほとんど何も知らないし、積極的に関わろうとも思っていない。その楽しさを理解することも、恐らくないだろうと直感している。でも、ニッカという少女のことは知りたいし、理解できるのならしたい。ただ、それだけのこと。
「当然」
ニッカは即答する。
この少女がソシャゲの話題で悩むことはほとんどない。脳死でレスポンスができる様な脳味噌をしているのだ。ソシャゲのプレイングの方はやや優柔不断気味ではあるが。
「でも、」
ニッカの返答に被せるようにユウカは続けた。
「ソーシャルゲームは突き詰めれば単なる
ソシャゲは大雑把に解釈すれば、
そこにはただガチャ運と費やした課金額のみが存在する。
ユウカはソシャゲのパブリックイメージから、そのシステムを統括して"期待値"と呼んだのだ。
『課金勢は無課金勢よりも強い』のはソシャゲの基本であり、ソシャゲという手法で企業が利益を得るためには絶対的に崩してはいけないアイデンティティでもある。ソーシャルゲームのレゾンデートルと言っても良い。
プレイヤーはたかだか1枚のイラストや、10秒にも満たないボイスを聞くためだけに何千円何万円と課金をする。その達成感や充実感は、買い切りのコンシューマーゲームのものとはまるで違う。
ただクリック数回するだけで。
ただアカウントを変えるだけで。
ほんの一瞬で完全に消えてしまう価値。
何も残らないの典型例とでも言えるもの。
ただひたすらに数字という形で積み重なっていくだけのプレイデータ。
「ソシャゲからしか得られない栄養がある……なんて解答じゃ、ユウカは満足しないよね」
これは価値観の相違の話でしかない。誰かにとっては大切なものでも、他の人にとっては何の価値もないものになり得る。ただ、それだけの話だ。だからこれは、ソーシャルゲームの話でありながら、ニッカの本質の話でもある。
一旦、息を吸ってから呟き出す。
それはニッカがソシャゲをプレイする理由の一端。
ニッカが思う、ソシャゲという概念のひとかけら。
「ソシャゲはさ、文字通りソーシャルのゲームなんだよ」
ソシャゲ。
ソーシャルゲーム。
「みんながプレイして出来上がるのがソシャゲ。ソシャゲが続いていくにはプレイ人口が必須で……プレイヤーがどんなにお金持ちだろうと、ひとりだったら続かない。ソシャゲはプレイヤー全員のゲームなんだ。だから───」
ニッカは屈託のない笑顔を見せた。
「"どんな時でも一人じゃない"って、確信できる」
ソシャゲをプレイするということは、どこかの誰かと繋がるということ。
顔も名前も知らない者同士が、0と1の集合体のブルーライト越しに繋がるということ。
「世界中の人達がみーんな同じホーム画面と睨めっこしてるんだよ。老若男女問わずどんな人も同じものを見つめている……そういうのって何か素敵でしょ?」
通常のオフラインのコンシューマーゲームとは違うソーシャルゲームの在り方。
達成感も充実感も買い切りのコンシューマーゲームのものとはまるで違う。
ただクリック数回するだけで。
ただアカウントを変えるだけで。
ほんの一瞬で完全に消えてしまう価値。
何も残らないの典型例とでも言えるもの。
ただひたすらに数字という形で積み重なっていくだけのプレイデータ。
非プレイヤーから言わせれば無いに等しい価値。されど、その瞬間は確かにある価値。
ソーシャルゲームの根幹そのものが好きなんだ、とニッカは言う。
だろ? と言われたがニッカのソシャゲ観は、ユウカにはまだ難しい話だった。ユウカがソーシャルゲームの楽しさを理解する日は、やはり一生来ないのかもしれない。
でも、ニッカというひとりの少女の根幹は少しだけ分かった気がした。
「後は単純に課金で金が溶けていくのが気持ち良すぎるからだな。いやぁ~……何者にも代えられないぜ、あの苦労して得た金が秒速で
……気がした、だけだった。
ガコンッ!
急に車が大きく揺れる。車体の後ろ側から何らかの衝撃を受けたようだ。
「銃声……襲撃!?」
ユウカが後方を確認するとトラックが二台、ユウカ達の後ろを走っているのが見えた。そして車内の人間は皆、フルフェイスのヘルメットを被っていた。窓から突き出された銃が煙をあげている。
その集団は最近、キヴォトスでその名を知られつつある有名グループ。
「ヘルメット団……!」
そのユウカの呟きにニッカが反応した。
「ヘルメット団だと!?」
「知っているんですか?」
「あぁ、奴らはソシャゲの敵なんだよ」
「…………ん?」
ヘルメット団。
最近、各種ソーシャルゲームに台風の如く現れたプレイヤーグループ。
プレイスタイルは基本的に悪質。チャットでの煽り、ガチャ爆死結果への煽り、エンジョイ勢への煽り、運営への煽りなどなど……様々な所を煽りに煽りまくって不和の種を撒き散らす迷惑プレイヤー集団。ランキング上位勢への粘着行為なども行っており、ヘルメット団の影響で長年続けてきたソシャゲを引退した者も少なくない。果てにはプレイヤーの個人情報を特定し、リアルに凸をして嫌がらせをする程に悪行がエスカレートしている。
『ソシャゲはみんなで楽しくやるもの』という信条を掲げるニッカからすればヘルメット団は百害あって一利なしの存在。こういう一部の人種のせいでコンテンツへの偏見が強まるのだ。
「ソシャゲが悪いんじゃない。悪い奴がソシャゲをしていただけなんだ」
かつてそのように語った記憶もニッカにはある。というか今さっき蘇った。
「……ということで私はヘルメット団のことは良く思っていない。はよ運営BANしてくれ」
ニッカの早口の説明にユウカは付いていけなかった。辛うじて一言、言葉を絞り出した。
「私の知ってるヘルメット団と違う」
ニッカは車を停めた。地面は砂地。既にアビドス高等学校の近くだ。
トラックも停まって、中からヘルメット団が四人降りて来る。
「おいおいおい~……もう観念かぁ~?」「もっとカーチェイスを楽しませてくれよぉ」「脳味噌アネクメーネ!」「ケーヒッヒッヒ! お前、人生から強制BAN確定演出ゥ!!」
ぞろぞろとやかましい声を上げながらヘルメット団は銃を構えた。話し合いの余地はなさそうだ。
降車したニッカは真っ直ぐヘルメット団を見据えると、リボルバーを目の高さまで掲げた。
あまりに堂々としたニッカの態度にヘルメット団も一瞬、静かになる。ユウカも思わずニッカの顔を見つめてしまう。
その目は変わらずに真っ直ぐで、一切の疑いもなく、前だけを見ていた。
にやり、と。ニッカが不敵に笑う。
「お前ら! ソシャゲは好きか?」
この場にいる全員の視線がニッカに集まった。
「うるせえ! 死ね!」
「へぶっ」
そしてヘルメット団のひとりが放った銃弾をノーガードで喰らって倒れた。
「おいおいおい~……もう終わりかぁ~……かぁ?」「もっと楽しませてくれよぉ」「え、弱くね?」「アカウント凍結RTA!!」
ユウカはひとつ失念していたことがあった。
それはニッカという少女は常に自信満々だということ。
ニッカは基本的に可能性を疑わない人間なのだ。シャーレに引き取られる時の身体能力検査でも自信満々に挑み、
ニッカのそれは勇敢ではない。蛮勇だ。単なる無根拠の自信でしかない。ニッカは「何か当たるような気がする」とか適当を言って課金をするタイプの
が、あまりにも堂々としているので、ついうっかりニッカを矢面に立たせてしまった。
ユウカは溜め息を吐きながらニッカの回収をしようとする。
「大丈夫ですか?」
「……プリペイドカードくれ」
「嫌ですけど」
「うっ! さっきやられた傷が……! 死んじゃう!」
「はいはい死ぬんですかそうですか」
会話の最中もユウカが隙を見せることはない。敵の眼前でニッカと会話をしているのは、ヘルメット団への軽いお誘い。ヘルメット団もそれを分かっていてユウカ達に手を出せず、一定の距離を保っている。
ユウカのアクションに対する反応から、相手のレベルを計測する。
「(真ん中のが恐らく奴らのリーダー。そいつが残りの3人に指示を出して様子見に徹しさせている。まぁ、大したことない連中。私ひとりで屠れるレベルか)」
自分ひとりでも余裕で対処できるレベルの手合い。
だが、今日は残念なことにひとりではない。今もお腹を押さえて蹲っている
そうなるとニッカも戦闘に参加させることになるが、それにはひとつ問題がある。
その問題とは、ニッカが運動音痴なことでも、銃の才能が欠片もないことでもない。そんなことはニッカのバトルスタイルにおいてはさしたる問題ではない。
そもそも、ユウカはニッカの弱さは最初から問題にしていない。ニッカがたかだかヘルメット団の四人程度に負けることはないと確信している。
問題は、別のところにある。
ユウカはヘルメット団が手を出してこない間に、長考に長考を重ねてようやく決意した。
「…………今回だけですよ?」
「よっしゃー!!」
ユウカはニッカから没収していたプリペイドカードを渡す。ニッカは普段の緩慢な動きからは考えられない程、一瞬で飛び上がった。
そして即座にプリペイドカードを1枚、リボルバーの
満面の笑みで叫ぶ。
「《
そして、踏み込んだと同時に文字通り目にも止まらぬスピードでニッカはヘルメット団のひとりに近接する。
「……ちょっ、はや───」
リボルバーを眼前に突き付ける。
「プレゼントは、零距離ヘッドショットだ」
一発。
一切の抵抗も許さずにヘッドショットを喰らわせる。ヘルメットにヒビが入った。
が、その瞬間、ニッカの指が不自然な程に素早く引き金を二回引いた。
ヘルメット団のひとりは超高速の三連ヘッドショットの前に倒れた。
「おいおいおい~……なんだ、アイツは……!」「予想よりもっと強かったなぁ」「ケーヒッヒ! とりあえず距離を取るオペレーション開始ィ!」
脱兎のごとくニッカから距離を取る。ヘルメット団の残りの三人は背を向けて走り出した。
「お、仲間置いてくのか」
ニッカも逃げ出したヘルメット団を追いかける。
みるみる内に距離が縮まる。ニッカの方が速い。
振り返ったヘルメット団はそのスピードに驚愕した。ノータイムで最高速度まで加速。そしてその勢いを一切落とすことなく追いかけて来る。
「……やっぱり、何度見ても理解できない」
ユウカの呟きに共感できる者は、この場にはいなかった。
これがニッカの戦闘方法。
現金やプリペイドカード、
もう、世界の法則をまるっごと無視したブラックボックス過ぎる技術。まるで"粗悪な二次創作"のごとき無茶苦茶。これには技術者の面々も両手を挙げて降参している。
「……理解不可能!」
と、いった風に。
しかし、しかしだ。そんなことはセミナーの会計であり、頭脳派の算術使いであるユウカにとっては相対的に大した問題ではない。
なによりもユウカの胃を痛めるのは、このバトルスタイルは非常にコストパフォーマンスが悪いということだ。
ようするに。
「FOOOOOOOOOOOOOO!! 課金ん"き"も"ち"ぃ"ぃぃいいいいいいいいいいいっっっ!! おかしくなりゅぅぅうぅぅううううう"う"う"う"!!!!!」
チャリーン、チャリーン。
どこからともなく聞こえる
ユウカの目はいつの間にか死んだ魚の様にハイライトを失っていた。
「……はぁ、車戻ろ」
「うっひゃびゃぎゃぎゃじゃじゃぎじゅじゅぅううううううううう!!!」
ニッカは走った。課金の力で手に入れた無尽蔵にも等しいスタミナと、
ウサインボルトもかくやというレベルでヘルメット団に迫る。勿論、普段の2倍ほどの速度で無理矢理走っているので、身体への負荷も大きい。だが、この程度。課金するために生活を極限まで切り詰め、イベントという名の地獄の長距離走を常時トップスイードで駆け抜けるソシャゲ廃人のニッカには軽いもの。むしろ適度な疲労が心地良いぐらいだ。
「おいおいおい~……だけど、作戦に変更なし」「もっとゆっくり走ってよぉ」「ケーヒッヒ! ひとり欠けても構うものかァ! お返しヘルメット三連射ァ!!」
ヘルメット団の二人がほとんど同じタイミングで振り向き銃を放つ。二連射だ。
だが、銃など撃つタイミングと銃口は向きさえ見ていれば、避けるのは容易い。銃弾は目で追えないほど速くても、撃つ動作の方は十分見てから避けられる程度でしかない。
飛んできた弾丸は左と正面にひとつづつ。
ニッカは右に飛んで銃弾を回避する。
しかし、地面に命中した銃弾が砂と石を跳ね飛ばし、顔に向かう。ニッカは反射的に片目をつぶった。
「!」
ニッカは瞬間に敵の企みを理解した。
地面に撃つことで砂や石を巻き上げ、相手の視界をあわよくば狙うのがまずひとつ。
そして、ふたつ。この銃撃は技名通り、三連射。
右に避けて視界を奪われたニッカに、最後のひとりが遅れて弾丸を放つ。
どんな行動にも、行動の後には隙が生まれる。
人は一歩目から最高速度で走ることはできないし、右に跳んだ直後にノータイムで左に切り返すことはできない。
理屈はシンプル極まりない。だが、ヘルメット団の三連射をニッカにはかわすことができない。
つまり、避けずに銃撃を回避するしかない。
「おりゃあっ!」
気合いでリボルバーを振り回し、ニッカは何とか三連射目を弾いた。
「(乗りきっ───)」
そして
どんな行動にも、行動の後には隙が生まれる。
人は一歩目から最高速度で走ることはできないし、右に跳んだ直後にノータイムで左に切り返すことはできない。銃弾を弾いた後に即座に別の銃弾を弾くことはできない。
理屈はシンプル極まりない。このヘルメット団は本来四人組。連射のコンビネーションは元来四人用。銃弾は四つあれば避けられないと考えての戦術。だから四つ目もある。それだけのシンプルな理屈。
サービスに、三人しかいないから銃弾は三つというミスディレクションを置いて。
しかし、それもニッカは左に跳んで回避する。
「おいおいおい~……何だあいつはぁ……!?」「もっと弱いかと思ってたよぉ」「ケーヒッヒッヒッヒ! 動きガ不自然だ……"隙"がなさすぎる!」
ソシャゲにはクエストを失敗した時に、いわゆる『石』を消費してすぐさまクエストに
課金によって『有償石』を購入。そして、それを消費することで行動をノータイムで
驚くヘルメット団にニッカは銃を連射する。これも
が、放たれた銃弾達は銃口の向きに従って、全く検討違いの方へ飛んでいった。
ニッカはクソエイムだった。FPSで戦犯になるタイプである。
「やっぱ課金しないと当たらねぇのがソシャゲの基本か……」
懐から二枚目のプリペイドカードを取り出した。
「《
プリペイドカードを挿し込み口に挿し込むと同時にリボルバーの銃身が光り輝く。
そして、ニッカはしっかりと狙いを付けて引き金を引く。
刹那、リボルバーに装填された10発の弾丸が
「おいっ!?」「も"っ!」「ゲヒャッ!」
そして、その中の3発だけが見事に命中した。
課金の力で威力を底上げされた弾丸は、頑丈なキヴォトスの住民ですら一撃で意識を刈り取る程の攻撃力を誇る。札束の重みが弾丸の重さに直結するのだ。
ヘルメット団が全員倒れたことを確認すると、ニッカは汗を拭った。
「ふぃ~……ノーコンティニューでクリアできたな」
私怨も込みでヘルメット団をぶっ飛ばしたニッカは鼻歌を歌いながら車に戻る。
運転席に座るとユウカが半眼でニッカのことを見つめていた。
「もう無駄だと思いますけど、一応言っておきますね。もっとコスパよく戦えないんですか?」
「無理」
ユウカは6秒、間を空けた。怒りを抑えるアンガーマネジメントだ。ゆうかはれいせい、ACジャパンも多分この活動を支援している。
「では、訊きますけど。なんで毎回無駄に弾を撃つんですか? 今回は30発も……しかも、3つしか当たってませんし。10発ずつ撃つ意味もわかりません、理解不能です!」
毎回この少女は無駄弾を撃つ。
勿論、従来のエイム力が低いのは──命中率10%!──ユウカも承知だ。誰だって得手不得手はある。だが、毎回ニッカは10発同時に撃つのだ。そんなことせずとも今回の最初の零距離射撃の様に、当てられる距離まで近付いてから撃てば良いのに。
そんなユウカの内心も知らず、ニッカはきょとんとした顔で答えた。
「10発回せば1発は当たる……最低保証はソシャゲの基本だろ?」
つまるところ、10連ガチャ。
ユウカは毎度のごとくニッカの説得を諦めた。デイリーイベント失敗。
誰もいない路地裏。
雨が降っている。弱い雨だ。傘は一応いるレベル。街行く人達もみんな、何かしらの雨具を使用している。
そんな中、傘も差さずに誰もいない暗い路地裏で突っ立っている少女がひとり。
そしてそれを発見した少女がひとり。桃色の髪をしたその少女は頭の上の輪っかを右往左往させて迷う。
路地裏でひとり、雨にうたれている少女が気になって仕方がなかったのだ。声をかけるべきか、否か。偶然にも今日は折り畳み傘と通常の傘のふたつを持っている。どちらかを貸し与えることが、桃色の髪の少女にはできた。
「……あ」
そして、昼間なのにどこか薄暗い路地裏に灯る小さな光を見付けた。
白銀の四角形から雨にうたれている少女の顔を照らすのはブルーライトの集合体、現代文明の必需品。
桃色の髪の少女は"それ"が自分もやっているソシャゲであることに気付いた。最近、キヴォトスでリリースされ、無名ながらも人気が広がりつつあるソーシャルゲーム、『レッドアーカイブ』だ。親近感を覚えた。だがそれ以上に。
「ねぇ、それ『レドアカ』だよね?」
その白銀の髪の少女が、寂しそうだったから。
その姿は、全く違うはずなのに、どこか自分と重なって見えたから。
だから、一歩踏み出して話しかけた。ちょっぴり足りない勇気は、
「ID教えて。フレンド登録しよ!」
「……ん」
こうして記憶にも残らない小雨の中、一組の
ロード画面に表示できる程度の文字数しかない、些細なエピソード。