原作1ミリも知らない奴のブルーアーカイブ 作:レッドアーオアダム
「
「負けてられるかぁぁぁあああああああっ!!」
決して負けられない戦いが、そこにはあった。
互いの
東に陣取るはアビドス高等学校随一の
《カキングオージャー》
対する西にはキヴォトスの面汚し、金食い虫、歩くソーシャルゲーム。ありとあらゆる汚名とランキングを課金の力で更に加速させる駄目人間の
《
欲望で塗り固められたスマートフォンという名の剣が、信念を帯びて紫電を纏った。言語にならない慟哭を上げながら高速で画面をタップする。体も心のヒートだが、頭だけはクールに保たなければならない。物欲センサーに引っ掛からないようにするためだ。残高の位置エネルギーを運動エネルギーに変えてガチャの回転数を上げ続ける。全ては一早くピックアップキャラクターを引くために。
ニッカとノノミはいわゆる"ソシャゲマウントバトル"をしていた。
「イベント特効持ちの『水着スナオーカミ』……誰よりも早く手に入れてやる!」
「私に勝てると思うんですか~☆ 課金量では負けませんよ~!」
「クッ……!」
ニッカは基本的にはソロプレイヤーだ。
ギルドでのチームランキングには乗れないため、イベント報酬を手に入れるためにはソロの個人ランキングで上位になるしかない。
そのためにも今回のイベントガチャのピックアップキャラクター、【UR "水希の
そして廃課金兵を自称するニッカとしては、誰よりも早くこのレアキャラクターを手に入れてネット上でカスのマウントを取りたいのである。爆死報告の傍らでガチャリザルト画面のスクショをアップロードすることこそ、万物にも勝る愉悦と言っても過言ではない。いや、過言だ。そんなわけあるか。
「あっ、引けました」
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
しかし、ソシャゲのガチャは突き詰めれば
「まだだ……!」
「!?」
「絶対に負けない……負けたらそこで試合終了だ!」
「負けてるし試合終了じゃないですか~☆」
最近、久しく味わうことのなかった敗北の味。ちなみにニッカは、敗北感や劣等感をソシャゲ以外で抱くことはない。ストレスフリーな人間である。
ニッカは「にゅわぁぁあああ!」と叫びながらのたうち回った。のたうち回りながらガチャを引いた。
「あ、出た」
確定演出の光がニッカの顔面を照らした。
もうちょっと早く来てくれよ、と心中で軽く舌打ちをしながら『
「ガチャでは先を越されたけど、ソロランキングでは負けないからな」
「望むところですよ~。今回はギルドの方はあまり稼働しないと思いますから、ソロでめっためったにしてあげますよ☆」
「へぇ、ギルドの方と平行して走ってわたしに勝てると……? 随分大きく出たもんだな~、ノノミさんよぉ?」
「ふふふ、ニッカさんこそ勘違いしてますよね? 一番欲張った人が勝つのが、ソーシャルゲームの基本ですよ」
バチバチバチ、互いの視線がスパークする。が、それも長くは続かない。同じようにノノミもオート周回を始め、手持ち無沙汰になった二人の間に沈黙が流れる。
沈黙の中でも気まずくならない間柄を友人と呼ぶ、なんて言葉もある。ニッカとノノミの間に流れる沈黙は間違いなく気まずい沈黙だった。
いたたまれなくなってスマホを確認するが、ようやく二週目の周回に入ったところだった。体感時間は、限りなく引き伸ばされていた。
ヘルメット団との争いのあと。
騒ぎを聞きつけたのかニッカ達の元にやって来たのは、アビドスの『対策委員会』と呼ばれる組織のメンバーのひとり。
見渡す限り黄色の荒廃した大地に、昂然とたなびく銀髪と碧眼は不釣り合いな程に美しい。パステルカラーの水色マフラーとネクタイが紺の制服とベストマッチしている。頭部からは老若男女問わず全ての生命体を魅了するケモ耳が、ふりふりと鎮座していた。
そして、手に持つ白いアサルトライフルで倒れ伏したヘルメット団に無表情で
「ん。学校はあっち」
シロコに案内され、ニッカとユウカは無事(ヘルメット団の粘着行為を気晴らしに)アビドス高等学校に辿り着いた。
シロコによれば先生もそこにいるらしい。現在のアビドスを取り巻く事情については学校の中で話すとのこと。
「私は中で先生に会って、現在の状況を聞いてきます。あなたは?」
「んにゃ、別にあんまり興味ないし良いや」
ニッカは「それと!」とユウカに向かって身を乗り出した。ユウカは渋々と言った様子でポケットの中から何かを投げた。
「財布です」
「わわっ! ユウカの?」
「そんなわけないでしょう。あなたのですよ」
「えっ、無から財布生えて来たんだけど」
財布の中身はニッカの今までのシャーレお手伝いの度に支払われていたお小遣いである。ニッカにもお小遣いが一旦、ユウカを経由し塞き止められることは説明したはずだが、どうやら忘れていたらしい。
「約束ですしね……ほどほどにしておいて下さいよ。フリとかじゃなくて本当に」
「わかってるよ。ちゃんと(次のイベントに支障が出ないように)貯金する」
貯金先は運営である。カスの理論であった。
シロコの後ろを付いていき、アビドスの中に入る。そしてユウカとシロコを見送ってひとりになったニッカは、
「よし、課金するか!」
と爽やかに宣言した。
メイウェザーのジャブのごとき神速でスマートフォンを取り出す。高速のタップはかの伝説超人ラーメンマンを彷彿とさせる。どんなソシャゲであっても1日で目隠しプレイができるようになる、と豪語しているニッカの熟練の技であった。廊下のまんなかで下を向きながらプレイしている様子は、後ろから見れば迷子の子供。前から見ればニヤニヤする不審者であった。
そんなニッカに後ろから声をかける者がいた。
「あら? 『レドアカ』ですか?」
十六夜ノノミである。
「私もやってますよ~☆」
ノノミが画面を見せる。その
「せっかくなので移動しましょう」
ノノミに連れられて応接室へ移動。
そして、意気投合した二人がソシャゲマウントバトルを始めるのに、長い時間は必要としなかった。
「ニッカさんはギルドには入りませんの?」
とノノミからの問いにニッカは気だるげに答える。
「んー、なんていうかねぇ~……ソロの方が性に合ってるっていうか」
ちなみに答えは友達がいないから、である。ネッ友ならそこそこの数いるのだが、残念なことに一緒のギルドでプレイする友達には恵まれていなかった。
「こっちに来てからソロプレイに目覚めたっていうか。何かあんまり求められている気がしないんだよね」
ふわっふわの返事であった。ちなみに答えは、自由に課金できないなら足手纏いになると思っているから、である。ニッカは廃課金してようやっと足りないプレイスキルを補うタイプのプレイヤーであった。
「そういうノノミはギルド入ってるんでしょ? ギルド名おせーてー?」
「『大作委員会』という所です」
「えっ、本当!?」
ガタッ。
ソシャゲマウントバトルに敗北を喫し、ソファーにぐでーっと寝っ転がっていたニッカが跳ね起きた。
『大作委員会』。
『レッドアーカイブ』リリース当初から存在するランキング常連ギルドだ。
廃課金に届かないレベルの中課金で留まっているメンバーが大多数であるにも関わらず、高いログイン率とギルドマスターの『ゆみりん』を中心とした圧倒的なコンビネーションで毎回ランキング上位に食い込む古参ギルドだ。ニッカも何回かチャットで会話したことがある。
「『みうきち』って名前でやっていますよ~」
「あの廃課金か……」
『大作委員会』唯一の廃課金勢が『みうきち』である。個人のランキングにも毎度のごとく名を連ねるニッカのライバルのひとりだ。
「で、かの『大作委員会』がギルドのランキングを諦めるとは、どんなヤバい事情抱えてんの?」
「それは今のアビドスが直面している問題に直結するのですが……」
ノノミは一旦、言葉を切ってから続けた。
「アビドス高等学校は今、9億6235万もの借金を背負っています。そして『大作委員会』は今回のイベントを持って、解散となる予定です」
9億。
半端な額ではない。少なくとも一高校が抱える借金の額ではないだろう。
ニッカはここに来るまでに見てきた、人ひとりっ子いない砂漠とシロコやノノミ以外の生徒を全く見かけない高校を思い出した。
「9憶なんて借金どうやって……」
お金は稼ぐより使う方が簡単とは言え。
現実的に9億なんて莫大な借金、作るのも簡単ではないだろう。
「それは───」
「ソシャゲに課金して借金9億!?」
ユウカの悲痛な叫びが室内に響き渡った。
ここはアビドス高等学校の会議室。普段あまり使われていない部屋だ。中央の長机に4人。ホワイトボードの前に2人。計6人が集まっていた。
ホワイトボード前……というより先生の隣をしれっとゲットしたシャーレの会計担当、ユウカは軽く頭痛と胃痛と眩暈を覚えながら、何とか言葉を絞り出す。
「さ、流石に冗談ですよね……ね、先生?」
「ユウカ、冗談じゃないよ。現実だ」
先生、と呼ばれた男性は極めて冷静に答えを返した。
グレイのスーツ。穏やかでいながら隙のない堂々とした佇まい。優し気な目にはきっと、笑顔が似合うだろう。しかし、ゆるっとした印象とは裏腹に、隙はない。見る人が見れば、常人でないことは明らかだろう。
シャーレの"先生"。
その肩書きは名ばかりではないということだ。
「と、とりあえず状況を整理させて下さい」
額に手を当てて思考を整理する。
ソシャゲ、課金、借金9億、水原一平、廃校、対策委員会。
しかし、アビドス高等学校廃校の危機の真実が、あまりにも衝撃的過ぎて上手く思考がまとまらない。
ユウカは「セミナーの会計がこの程度のことで混乱しているようでは話にならない……しっかりするのよ、早瀬ユウカ!」と喝を入れる。
ミシッ。
一瞬、床が軋んだ様な音がした。
「まず事の始まりはアヤネさんがアビドスの今季の残り予算をチェックした時ですね」
「はい。そこで作業をしている際に、アビドス高等学校の名義を使って何者かがクレジットカードを利用していることに気が付きました」
赤縁取りの眼鏡を
「それで、クレジットの利用決済の履歴を確認したところ……」
「『レドアカ』の課金に使われてたわけよ」
アヤネの台詞を
つまるところ、アビドスはソシャゲ課金で借金を背負った哀れな高校なのだ。恐るべきソーシャルゲームの魔力。
しかし、問題の本質は金銭的なことではない。
「そのせいでみ~んな、いなくなっちゃったんだよね~」
ぬべーっと机に体重を乗せながら
莫大な借金を背負ってしまったアビドス高等学校。
その皺寄せは在籍している生徒達に向かった。元々、砂漠のど真ん中にあるアクセス不便極まりない学校なのだ。力を入れていた施設や学習サポート面が従来のパフォーマンスを維持できなくなれば、最早アビドスに通うメリットはほとんどないに等しい。ソシャゲ専用のWi-Fi環境は最後まで切らさなかったが、今やどこの機関にもWi-Fi環境は常備されている。利点にはならなかった。
ひとり、ひとり、またひとり。
生徒数は指数関数的に減り続け、遂にはこの対策委員会の5人を残すだけとなってしまった。
「で、あんたらは何しに来たのよ。まさか助けに来たなんて言わないわよね」
セリカの鋭い視線がユウカと先生に突き刺さる。それを受けた先生が一歩前に進んだ。
「そのまさかだよ、セリカ。シロコに頼まれて君達を助けに来たんだ」
セリカはそれを聞くと不満気に鼻を鳴らして立ち上がった。黒いツインテールが円弧を描く。そのままドアの方へと歩いた。
「助けなんかいらない」
それを言い残してセリカは退室した。
一瞬、沈黙が場を支配する。
おろおろと周囲に視線を向けるアヤネ。
特大の溜め息を吐くユウカ。
変わらず無表情のシロコ。
沈黙が、限りなく気まずかった。
そんな空気に耐えかねたのか、ホシノが机に横たわったまま右手を挙げた。
「追った方が良いんじゃない~?」
のんびりとしたホシノの一言が雰囲気を打破した。先生は一回頷くと、セリカの後を追って部屋を飛び出して行った。
「あ、待って下さい先生! 私も行きます」
「じゃ~、しゅっぱーつ。お~!」
「え、皆さん、行くんですか!? あ、わ、私もですか!?」
慌ててユウカが先生の後を追い、いつの間にか立ち上がっていたホシノがそれに続き、取り残されそうになったアヤネが流れに押される様に会議室を後にした。
結局、全員セリカを追って部屋を飛び出して行った。
会議室から人が消えて、数分後。
がらんどうになった会議室の扉が開いた。
「あら、誰もいませんわ」
「うぃ、失礼しまーす」
とりあえず近くの席を拝借してニッカとノノミは向かい合った。
机の引き出し部分からノノミはswitchを取り出す。そして、赤と青のコントローラーを顔の前で斜めに構えた。
「うーん、他の皆が戻ってくるまで暇ですし、スマブラやりませんこと?」
「よしきた!」
『大乱闘スマーホブラジャーズ』。
かのキヴォトスのホコリ、ゲーム開発部によって開発された大人気ゲーム。カジュアル層からガチ勢まで楽しめる対戦ゲームの傑作である。
『千葉県のN』さんという匿名の人物による1500票を超える連日のゲーム開発要請の書類に嫌気が差したゲーム開発開発部が3日でクソゲーを制作。そのクソゲーにミレニアムが誇る暇人達があり溢れる才能を無駄遣いしMODを多数制作して生まれたキメラ的ゲームだ。
MUGEN大の可能性を持つこのゲームは、瞬く間にキヴォトス全土でブームとなった。
ルールは単純。互いのキャラクターのスマホをステージから落とすか、キャラクターを攻撃してブラジャーを
そのあまりの友情破壊たっぷりのゲーム性から、対戦の後にはリアルでの大乱闘も必須だ。キヴォトス全土で大人気のゲームである。大人気ゲームである。
「はいっ、そこです!」
「そんな投げやりな空上が当たるか。ほれほれ~!」
ガチャガチャカチャカチャ。
コントローラーの音とゲーム音声とスマブラに興じる2人の声が室内を埋め尽くす。
「うぇーい、バースト」
「くっ……完敗です」
第一試合はニッカが圧倒的なプレイスキルの差を見せ付けてノノミに勝利した。ニッカはさしてスマブラが強いわけではないので、これは単純にノノミがクッソ弱いだけであった。
間を置かず第二試合が始まる。キャラクターセレクトは互いにランダム。相性運も重要になってくる。
「先程のアビドスが直面している問題についてですが」
今回のキャラクターセレクトはニッカに有利だ。
試合開始と同時、ニッカは先手必勝と言わんばかりに攻勢を始めた。
「ニッカさん達は解決のために来てくれたのですよね」
「うぇ? まぁ、そうなるのかもね」
ニッカのとめどない攻めに押されてノノミは防戦一方となる。ステージの端っこで必死に耐えているが、どんどん攻撃はヒットしてバーストに近付いている。
「私達もいろいろ手を尽くしたのですけど、どれもことごとくダメで。正直なところを言いますと、諦めるしかないのかなって、若干思っています」
カチャカチャガチャガチャ。
コントローラーが破壊されんばかりの勢いでボタンを連打する。ニッカの得意技、バカの攻撃連打である。
「潮時なのかなって。そもそも、こんな砂漠のど真ん中に学校が存在できたこと自体が奇跡の様なものです。先輩にもそれとなくアビドスを離れることを勧められています。今もまだアビドスに残っている方々には、既に別の学校への転入手続きも行っています」
ノノミの操作するキャラクターがステージ端から落っこちて、そのまま場外に消えた。いわゆる、復帰ミスというやつだ。
「ギルドは解散予定ですが、ギルドメンバーの皆とはフレンドです。たとえアビドスがなくなったとしても……」
ニッカの自分のストックごと相手のストックを削る自爆技でフィニッシュ。ニッカの連勝だ。
ニッカの操作していたキャラクターが華やかなBGMと共に、勝利ポーズを掲げた。
しかし、裏腹にニッカの表情は不機嫌だった。
「つまんねーな」
キャラクターセレクト画面のカーソルは止まっている。
ノノミは静かにコントローラーを机の上に置いた。
「すみません。私、スマブラ弱くて……」
「何でギルドのランキング諦めてんの」
「えっ……?」
ノノミに困惑の表情が表れる。
ギルドのランキングを諦める理由については先程、ニッカにも語った。アビドスは現在、莫大な借金の返済と生徒数の激減に悩まされている。それらの解決に忙しいので、ギルドメンバー全員がログインしてイベントを走り続けなければならないギルド戦は非常に厳しいのだ。ニッカにもそんなことはわかっているはず。
はず、なのだが。
「アビドスは今、9億円もの借金を背負っているんですよ? 時間がないです。私達はレイド戦や攻城戦を十全に走れません。ギルドのランキングに載るには、レイド戦も攻城戦も必須です」
「いやそれは理由になんないでしょ」
ニッカは「う~ん」と髪の毛をぐりぐりした。
「聞き方変えるか」
コントローラーでノノミを指した。
「そういう
「ど、どうでもいい……!?」
どうでもいい事情。
恐らく、アビドスが抱える借金のことをどうでもいい呼ばわりしたのはニッカが初だろう。
ノノミの困惑を待たずにニッカは続けた。
「ノノミはどうしたいんだよ。イベント走りたいのか、走りたくないのか?」
「それは……」
それはある意味、卑怯な問いだった。
アビドス随一の廃課金、ノノミの答えはひとつしかない。
「走りたい、です」
ノノミは顔を上げてニッカを見据えた。目と目が合う。無意識の内に、吸い寄せられる様に、ニッカの瞳を凝視してしまう。
イベントを走りたい。一度口に出した言葉に連れられる様にノノミは本音を吐き出す。
「古参ギルドといっても、まだ私達はギルドのランキングで1位になったことはないんです。私は、1位を取りたい。アヤネちゃんのプレイヤーランクが上がってきた今なら、アビドス高等学校で最強ギルドである私達『大作委員会』なら、1位を狙えます」
ヘイローから発せられた浅緑の光がノノミの顔を照らした。
「私は、対策委員会の皆とまだ一緒にいたい。一緒に顔を付き合わせてゲームをしていたいです!」
ノノミの声が部屋中に響き渡る。
「もっと皆と一緒にいたい。
アビドスで一緒にいたい。
ここで、皆とじゃないと嫌です。
大人の事情に振り回されて、私達が折れるのが嫌です。
ソロだけじゃなくて、ギルドのランキングで1位を取りたいです!」
ノノミがコントローラーを握った。
「ないじゃん、諦める理由」
ニッカが第三試合のセットアップを始めた。
キャラクター相性はまたしてもニッカが優勢。またしても試合開始と同時にニッカの攻勢が始まる。
「……少し欲張り過ぎでしょうか。こんなにいっぱい願ってしまうのは」
「だったらどうなのよ」
ニッカの激しいコンボ攻撃の嵐。しかし、ノノミもやられてばかりじゃない。一瞬の隙を付いて一転攻勢。反撃開始だ。
「一番欲張った奴が勝つのが、ソシャゲの基本なんだろ?」
十六夜ノノミは廃課金勢で重度のソシャゲ中毒者だ。
ソーシャルゲームを愛する者として、決して犯してはならない禁忌があった。
誇り高きアビドス高校対策委員会の一員として、絶対に譲れないものがあった。
『欲しいものには正直に』
それは、ソシャゲプレイヤーの基本。
「バーストですっ!」
ノノミの操作するキャラクターが、勝利の勝ち鬨を上げていた。
「べ、別に、あんたのことを信用したわけじゃ……そんなんじゃ、全然ないんだからねっ!!」
ここはラーメン屋。
ラーメンの油ギッシュな匂いが充満する中に、セリカの迫真のツンデレテンプレートが響き渡った。
爽やかな笑みを浮かべる先生。
顔を赤くして目を逸らすセリカ。
予定調和の展開に、いつもと変わらず無表情のシロコ。
ふにゃ~っとひとりラーメンをはむはむ食べているホシノ。
先生の圧倒的な人心掌握に長けた話術に、驚きを隠せないアヤネ。
そして、セリカが手のひらをクルックルに返すまでの一部始終を観察していたユウカは思った。
「(チョロい)」