原作1ミリも知らない奴のブルーアーカイブ   作:レッドアーオアダム

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プレイ日記

「ニッカちゃんはソーシャルゲームとかやらないの~?」

「そーしゃるげーむ?」

 

 ソーシャルゲーム。

 最近キヴォトスで流行っているものだ。

 存在は知っているが、実際に自分でやってみたことは一度もない。

 

「一回やってみようよ~」

「うーん、あんまり興味はないんだけど。まぁ、ホシノちゃんが言うなら……」

 

 もう日付も覚えていない。どんな会話があって、どんな出来事があって、どんなことを想っていたのか。具体的なことは何一つ思い出せない、普通の日常。ただ、楽しかったことだけは覚えている。

 そんな日常の積み重ねを、人は『青春』と呼ぶのだそうだ。

 ならば、わたしが過ごしてきた時間は間違いなく『青春』と呼んで差支えのないものだっただろう。

 

 新品の少し丈の長い制服から初々しさが見て取れる。

 こんなわたしにも後輩ができた。

 今日からわたしは、アビドス高等学校の2年生。

 記憶喪失だったところをホシノちゃんに拾われて早一年。

 新たな出会いに感謝して、わたしは新入生の前に立った。

 

「ようこそ、アビドス高等学校ソーシャルゲーム部『大作委員会』へ!」

 

 さて、ホシノちゃんから日記を付けるように勧められて一日目。

 

 たわいもない日常という透き通ったこの日々を忘れないように。

 とりとめのない日常に紛れ込む、小さな奇跡を忘れないように。

 

 この白紙に青春活動記録を残すのが、今日からはじまる日課だ。

 

 




 

 

 日記を書く日課が出来てから一か月。もう書くことがなくなってしまった。

 ネタ切れが早すぎる。

 それはそれとして、学校のみんなと会わない休日は本当に書くことがないのだ。

 生憎、わたしには趣味と言えるものがない。いや、()()()()の方が正確か。

 今のわたしにはソーシャルゲームという趣味がある。

 

 いつだかホシノちゃんに勧められてはじめたソーシャルゲーム活動。気付けばわたしはソーシャルゲームの虜だった。

 わたしは、テレビゲームというのはパーティーゲームなどを除けば、ひとりでプレイするものだと思っていた。RPGのような"自分の記録"が残るものは、オフライン専用かと。

 だが、ソーシャルゲームは違った。

 自分のデータがある。

 積み上げた時間がある。

 各個人のプレイの軌跡がある。

 それらがおんなじサーバー、おんなじ画面、おんなじイベントで会合する。多種多様な十人十色のデータが、インターネットを介してひとつのところに繋がる。

 

 まさに目から鱗だ。

 世界中のみんながおんなじホーム画面と睨めっこしているのだ。

 世界中のみんなが今わたしが走っているものと同じイベントを走っているのだ。

 それって、とっても素晴らしいことなんじゃないだろうか。わたしは心の中でひっそりとそう思っているのです。 

 

 ソーシャルゲームの中にはプレイヤー同士で争う形式のものもある。それも嫌いではない。競争はモチベーションに繋がるからだ。

 ただわたしは、協力するタイプのソシャゲの方が好きだ。

 最初に遊んだのがそういうタイプだったってのも、理由としてはあるかもしれないけど。

 

 わたしがソーシャルゲームの部活をやろうと思った理由もその辺りにある。

 初めてソーシャルゲームをしたときの感覚、感触、感情。それはまるで、心にドリルが生えたかのごとき衝撃。楽しくって、嬉しくって、笑顔になるしかなかった。

 本当に刺激的だった。新しい世界に触れる劇的な体験。間違いなくわたしの人生を変えた瞬間だった。

 だから、そんなソシャゲの良さをもっと広めたいとわたしは思ったのだ。思うしかなかったのだ。(変な言葉!)

 

 そういうわけでアビドスにソシャゲの部活が誕生した。

 ギルド名は『大作委員会』。わたしとホシノちゃんで適当な単語をいっぱい紙に書いて、ランダムに2個くじ引きして出た単語をくっつけただけの名前。

 でもわたしは結構気に入っている。

 びっぐになるのだ、わたしたちは!

 

 っと。

 もうこんな時間か。

 何か今日はいっぱい書いちゃったな。

 じゃあ、最後にギルド訓について書いておこう。

 ギルド訓は『大作委員会』における暗黙の了解だ。わたしがこういうの欲しいって思ってノリと勢いだけで作った。

 わたしの願いをぜぇ~んぶ詰め込んだら、21個ぐらい項目が出来ちゃって……結局、3つに絞ったんだ。大事にするべき決まり事だ。

 それじゃあ、ギルド訓に従って……明日も一日"笑顔"で頑張るぞー!!

 

 


 

 

 わたしが人生で一番尊敬している人物を訊かれたら、間違いなくホシノちゃんの名前を挙げるだろう。

 

 わたしはホシノちゃんの生き方を尊敬している。

 強いんだ、ホシノちゃんは。

 他人に手を差しのべる勇気が。

 他人に愛を与えられる優しさが。

 他人をどんなものからも守れる力が。 

 その全ての在り方がとてつもなく"強い"。

 なりたい。その眩しさに少しでも近付きたくて。空を見上げれば光に焦がれるように、どうしようもなくわたしは憧れてしまっていた。

 

 残念なことにわたしはホシノちゃんとは大分遠い人物だ。語尾ものんびりしていないし、髪の毛の長さも違う。そして何よりわたしはあんなに強くない。なれない。

 でも、もし来世なんてものがあったなら、ホシノちゃんみたいになってみるのも良いかもしれない。

 

 まぁ、そんな感じでわたしはホシノちゃんを尊敬している。だから、ホシノちゃんにもらった大きすぎる恩は本人だけじゃなく、全く関係ない周りの人達にもおすそ分けしながら返していこうと思う。

 

 とりあえずの目標は、日々に少しの余裕を持つこと。

 頼まれごとはやる。

 困っている人は助ける。

 いつでも楽しく笑っていること。

 そして何より、友達を大切にすること!

 

 


 

  

 シロコちゃんはわたしと同じ境遇の娘だ。

 行く当てもなく、どうしようもなくなったところを拾われた人だ。

 

 ああいうのをデジャヴというのだろうか。

 それともインスピレーション?

 わからない。

 でも何かビビッときたのだ。

 

 路地裏でポツーンと立ち尽くしている女の子を、雨の中ひとりで毎日たたずむ女の子を、わたしは放っておけなかった。

 ここでかっこよく登場できれば良かったのだけれど、残念なことにホシノちゃん見習いであるわたしに、カッコいい登場なんてできなかった。

 

 迷った。

 迷って。

 迷って。

 さまよった。

 もしただ待ち人を待っているだけだったらどうしよう。

 もし自分から進んであそこに立っているならどうしよう。

 もし彼女が超絶の不良だったりしたらどうしよう。

 ぐでぐで迷って、ばたばた考えて、ぐずぐず立ち止まった。

 そして、女の子がスマートフォンを握りしめていることがわかった瞬間、もう身体は動いていた。

 

 結局、ソシャゲのギルド勧誘という怪しげな形ではあったものの、話しかけることができた。

 今にして思えば実に情けない。ソーシャルゲームがなければ、勇気の一歩や二歩や三歩も踏み出せなかったのだ。

 そんなこんなでシロコちゃんとは出会った。

 今では我がギルドに欠かせない一員だ。シロコちゃんの火力がなければ走り切れなかったイベントがいくつあったことやら……わたしが支援職な関係上、アタッカーは非常にありがたかった。

 まぁ、リアルでもときどき暴力的な発想をしちゃうところが玉に瑕だけど。そういうところも全部ひっくるめてシロコちゃんの魅力なんだよね~。かわいいの!

 

 


 

 

 課金。

 金を課した。

 お金を使った。

 ついにやってしまった。

 わたしは犯してはならない禁忌に手を染めてしまった。

 これだけは絶対にやらないと決めていたのに。

 ここだけは越えてはならない死線だと思っていたのに。

 

 わたしは、ソーシャルゲームに課金してしまった。

 

 今のわたしは冷静だ(冷静ったら冷静なのだ)

 だから決してこれは誇張表現なんかではない、ということだ。

 もし未来のわたしがこれを読み返すことがあったら、そう思ってほしい。マジの話なのだこれは。いやほんとに。

 

 課金した瞬間。

 0だった有償石が一気に増えたとき。

 コツコツ貯めてきた無償石の数をほんの一瞬でオーバーしていったとき。

 あれだけ回すのに抵抗のあった10連ガチャが、自分とは違う世界の話だと思っていたピックアップが、こんなにも近い。

 わたしの本能は、自分が何をするべきかきっとわかっていたのだろう。

 震える身体でわたしは未来に手を伸ばした……はずだ。

 

 そしてそこから記憶がない。

 課金したことは覚えている。

 ガチャを回したことも、手に入れたキャラクターもデータに残っている。

 でも、ガチャを回した瞬間の記憶がないのだ。

 

 ホシノちゃんによると「うへうへフィーバー状態」。

 シロコちゃんによると「薬物か何かを決めている」。

 

 そして、わたしに課金をさせた全ての元凶、ノノミちゃんによると「溺死☆」とのこと。

 

 何もかんもノノミちゃんが悪い!

 もうわたしは、課金をしません!

 絶対だからね!!

 

 絶対に絶対だからねっ!!!

 

 


 

 

 最近、懐が寂しい。

 柴関ラーメンでそう言ったら大爆笑された。気に食わん。

 

 何が「胸もすかすか」だ。

 何が「頭もすかすか」だ。

 わたしは部内では一応会計係だぞ! 筆記試験の成績だって学内20位を割ったことはない! IQも134あるし! 円周率が3.05以上であることも証明できるんだぞ!! お前らでハムサンドイッチの定理を証明してやろうか!! 

 

 ……まぁ、確かに多少は課金のせいかもしれない。

 お金を消費しているのは事実だ。

 ただ、わたしは自らの欲望のみで課金に狂う世の中の阿呆どもとは違って、決して理性を失ったりはしていない。

 そう。

 これは運営へのお返しだ。

 いつも楽しくゲームをプレイさせてもらっているお返しなのだ。

 

 課金は楽しい。

 運営も嬉しい。

 私が幸せならあなたも幸せ。

 Win-Winというやつだ。

 これは人助けなのだ!

 

 しかし、このことを伝えたら更に爆笑された。うーむ、なぜだ。

 

 


 

 

 最近、アビドスの周りに不良がうろついているらしい。

 ソシャゲならともなく、リアルでゲリラの襲撃イベントはごめんだ。

 そういうことでわたし達『大作委員会』もリアルでの装備やら何やらを見直した。

 

 まず驚いたのは、みんな想像以上にリアル戦闘力が高いことだ。

 新入りのセリカちゃんはちょっと攻撃に意識が行き過ぎているところもあるけど、あの高い突撃力は非常に心強い。

 同じく新入りのアヤネちゃんはオペレーター。有事には、データ収集など戦闘時以外での活躍の場面は多そうだし、後方からドローンを飛ばして援護をしたりもできるという。

 わたしも一応、頭脳労働を主とする支援職のはずなんだけど……完全にお株を奪われたなぁ。

 ノノミちゃんはふわふわした外見の印象に似合わず、重火器で相手を殲滅する範囲アタッカーだ。戦闘への躊躇いが感じられないのは、頼もしいのと同時に少し危なっかしさも感じたりする。

 シロコちゃんはわたしに拾われる前は、その辺の路地裏でカツアゲ紛いのことをして過ごしていたそうだ。おかげで今まで挙げたメンツの中では一番リアルファイトに強い。今日やった模擬戦では、わたしを含めて白星のハットトリックだった。

 

 まぁ、それでも一番強いのはホシノちゃんだけどね。

 

 ……ホシノちゃんと出会って何年か経つけど、ほんっとうに何回かだけホシノちゃんがリアルバトルしているところを見たことがある。

 動きが速過ぎて見えないのね。いやホント。

 今日の模擬戦はぜんぜん本気じゃなかったけど、それでも全勝してるしなぁ。

 ホシノちゃんがいる限り多少の不審者程度におびえる必要はないなーというのが今日のみんなの結論でした。

 あと「みんなは私が守るよ(キリッ」ってうっかりカッコいい台詞を言ってたのも永久保存だね。誰も録音回していなかったのが悔やまれる。

 

 あ~……わたし自身についても記述しとくか。

 わたしはミレニアムのエンジニア部から譲り受けた試作品のリボルバーを使っている。最大10発弾丸が入る特殊なオーダーメイドの特殊機能付きリボルバーだ。

 その特殊機能とは、ズバリ"課金"。お金を投入すると強くなれるのだ。

 まだプロトタイプなので現状は自身の身体能力強化しかできないけど、ゆくゆくは他者への強化付与もできるようになるとか。

 もっとも、わたし自身のリアル戦闘力はクソザコなので宝の持ち腐れですけどね!

 特に戦闘の基盤となるエイム力が完全に死んでいる。10発に1発ぐらいしか当たらない。

 

 まぁ、戦いなんてソシャゲだけで十分だよね。 

 銃社会とはいえ、撃たれたら当たりどころが悪ければ死ぬんだし。

 

 怖いな

 ……あぁ、もうおしまい! 

 ネガティブなことは日記に残さない!

 

 


 

 

 うにゅにゅ。

 お泊りなのです。

 大型砂嵐がここら一帯に直撃するそうで……つまるところ帰れなくなったというわけで。

 不謹慎なので大手を振って喜んだりはしないのですが、わたしは今とっても嬉ぴょんです。嬉しいぴょんぴょんの略です。

 だってお泊り会ですよ! 学校で!

 パジャマパーティーだよ! 皆で!

 部室はちょっと狭いけど、それもまた一興。

 

 ウッキウキで布団を敷いてベッドイン(?)!

 毛布の数が足りないのでぎゅうぎゅう詰め。

 さっきどれぐらいぎゅうぎゅうなのかを、みんなで確かめたけれど……ほんっとうにぎゅうぎゅうでした。

 ホシノちゃんと

 

「こりゃもうカップルだね」

「うぇへへ、困っちゃうな~」

「かぷかぷかぷ!」

「えへへ~」

「かぷかぷかぷりこーん! やぎぎぎぎぎ~!」

「うへ~」

 

 とIQ2の会話をしていたら、ノノミちゃんがダイブしてきて押し出された。おのれ脂肪の塊が!

 

 もう少ししたら校内の様子を見に回っているアヤネちゃん達も戻ってくるだろう。みんな揃ったら、布団をプットオン(布団だけに)するだろうし、今のうちに今日の文を書いておかねばという所存であります。(誤字にあらず)

 

 ……いやしかし。

 いやしかし、だ。

 だがしかし、だ。

 お泊り会だなんて、さいっこうに青春してない!?

 いやこれ最高に青春ですわよ!(ですわよ!?)

 とんでもねーシャーワセ(幸せ)ですのよ!(ですのよ!?)

 すっげーことじゃろがしぶむぅ!(じゃろがしぶむぅ!?)

 

 ……れいせいになろう。なった。

 改めてわたしがこんな生活を送れているというのは何ともう一~く・、,・・__^・

 

 

センパイには感シャしてるありがとうございます!だけどもうちょっとソシャゲ以外もガンバリなさいよ!

 

青春ですね~☆ P.S.アイドルも私は諦めてませんからね

 

 

  今の私がいるのはニッカせんぱ いのおかげ。 ありがとう 

こんど いっしよに ライディングしよう 

 

 

追記

 

 きえない。

 消えない!

 もー! みんなに日記が! 日記が!!

 しかも油性ペンとかボールペンで……うわぁ、恥ずかしいよぉ。

 みんなに日記の内容がバレちゃった。うにゅう。

 ……まぁ、ちょっと嬉しいかな。

 何だか寄せ書きみたいで。

 でも! これからはしっかり鍵をかけようと思います!

 というかノノミちゃんは今までの日記勝手み読んでたそうじゃない!

 アヤネちゃんに叱ってもらおう。たりきほんがんなのです。

 ふにゅ。

 鍵かけます。

 

 




 

 

「ぁ、え……」

 

「大丈夫、ニッカちゃん?」

 

「ホシノ、ちゃん……」

 

 アビドスの町を銃弾と爆風が覆い尽くす。

 "アレ"は恐ろしく強く、そして強大だった。

 突然の襲撃に、わたし達の世界は蹂躙されるしかなかった。

 

 激しい戦闘が今も続いている。

 それなのに、やけに静かに感じられた。

 燃える地面の熱も、周囲の全てもわたしの目には映っていない。

 

「なんで、なんで……わたしなんかを!」

「うぇ~、部員を守るのは部長の役割だよ」

「ち、血がっ! 手当、はっ、早く治さないと!」

「……その前に"アレ"を倒さないとね」

 

 ゆらり。

 ゆったりと立ち上がるホシノちゃんの身体は、見るに堪えない惨状だった。

 制服は破れていた。

 髪は黒く焦げている。

 全身から血が流れていた。

 右腕は力無く垂れ下がっている。

 

「大丈夫。友達ぐらいは、守ってくるよ」

 

 やめて。

 ダメだよ。

 いかないで。

 

「ぁ……ほ、しのちゃん……」

 

「皆は生きてね」

 

 最後に見た表情は笑顔だった。

  

 


 

 

「ん、もう行く?」

 

「辛かったらいつでも立ち止まっても良いんですよ?」

 

「先輩が戦う義務なんてないのに」

 

「……本当に戦いに行くんですか」

 

 シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。

 順番にみんなの顔を見る。

 

「うん、ありがとうね。でも、わたしは戦いに行くよ」

 

 襲撃によって、わたし達の住む町は完全になくなった。

 わたし達を初めとして学校に残った生徒達と避難民の決死の籠城によって、辛うじて学校は残った。

 けれど、もうあの日々は帰ってこない。

 思い出は、町と共に焼け落ちた。

 失われた命は、戻って来ない。

 

「ソーシャルゲームは、さ」

 

「……?」

 

「みんなで楽しくプレイするものだったよね」

 

「どうしたんですか?」

 

「わたしはホシノちゃんの命を奪ったアイツを許せない。

 けど、この学校にいる人達を見て……理不尽に奪われていく人を見て。

 『みんなに笑顔でいてほしいな』って、そう思ったんだ」

 

 こんな時なのに、記憶を探っても探ってもソシャゲソシャゲ。 

 みんなと過ごした思い出を振り返ろうとすると、決まってソーシャルゲームも引っ付いてくる。

 だから、不意に出てくる言葉もソシャゲベースになってしまう。

 

「難しいだろうけど……できるのなら、それが一番だって……みんな思っているはずだから」

 

 みんな笑顔で。

 ソシャゲは助け合い。

 それも、ホシノちゃんと決めたことだった。

 ソシャゲプレイヤーがみんなみんな笑顔だったら、とっても嬉しいことだよねって。

 

「ん、ニッカ先輩はひとりぼっちだった私を救ってくれた。

 きっと、ニッカ先輩なら皆を笑顔に出来る」

 

「……私もこれ以上大切なものを失いたくはないですから」

 

「別に心配だから付いていくとかそんなんじゃないけど……私も一緒に戦うわ」

 

「バックアップなら任せて下さい。1年生だって、学校守りたい気持ちは同じです」

 

 力強い眼だった。

 心強い言葉だった。

 わたしは戦いに向かおうとしている。

 これは勝算のほとんどない戦いで、言ってしまえば遠回りな自殺で、それでいてわたしの我儘だ。でも、そんな幼稚なわたしを支えようとしてくれる仲間がいる。

 こんな仲間がいるなら、ネガティブに俯いているなんて、できっこない。

 

「……ありがとう、みんな」

 

 わたし達はアビドスを後にした。

 残された友達と一緒に、悲しみを終わらせるための戦いに向かった。

 

 ホシノちゃんを失った穴は、二度と埋まらない。

 ずっと、頭のどこかにホシノちゃんがいない現実がこびりついて離れない。

 でも、前に進まないといけない。

 前に進むしかわたし達に道はなかった。

 

 いつからだろうか。

 この時からだろうか。

 みんなの中心は、わたしがいて。

 みんなを守るために頑張るわたしがいた。 

 

「生きるよ、ホシノちゃん。

 絶対に、わたし達は生きるから」

 

 


 

 

「終わった」

 

 全てが終わった。

 敵はもういない。

 倒すべきものは、倒しきった。

 

「終わったよ」

 

 この世界には自分一人しか存在していない。

 そう錯覚してしまう程に、自らの息の音以外は聞こえない。

 いや、実際に自分しかいないのだろう。

 

 敵がいなくなっても、何かが戻ってくるわけじゃない。

 

「ねぇ」

 

「ホシノちゃん」

 

「……そうだよね。死んだんだったよね」

 

 

 

「もう終わったしいいよね」

 

 

 

 

「死にたい」

 

 

 

 

「皆は生きてね」

 

 

 

 

 

「生きなきゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 崩れた校舎。

 瓦礫をどけた先に見慣れぬ部屋があった。

 

「これは……?」

 

 横から聞こえてくる疑問の声にわたしは首を横に振って答えた。

 知らない。

 アビドスに通っていたわたしも知らない謎の空間。

 

「位置的には情報室とか、情報準備室があった場所のはず」

 

「地下室……」

 

 わたし達は恐る恐る未知の空間へと踏み込んだ。

 

「これは……機械……?」

 

 そこには見たこともない巨大な機械が鎮座していた。

 丸いフォルム。周囲には様々なディスプレイと蛸足なんて目じゃない程に複雑な配線。

 用途が一切類推できない奇妙な機械がそこにはあった。

 

「アビドスの地下で一体何が……」

 

「わからない」

 

 わからない。

 もしかして、これが"理由"だったのだろうか。

 一連の事態のトリガーとなるものだったのだろうか。

 そう思うとわたしはこの奇妙な機械のことを調べずにはいられなかった。

 

「調べてみよう」

 

 わたしの言葉に軽く頷きが返ってくる。

 

 どうせやることもないのだ。

 生きる意味もないのだ。

 多少は活動意義が見付かった。

 嬉しい……のだろうか。

 まぁ、何にせよどうでもいいことだ。

 わたしが守りたかったものは、もうこの世界にはないんだから。

 

 



 

 

「ニッカさんはどうして私と一緒にいるんですか?」

 

 いつも通り"機械"を調べていると、横から疑問が飛んできた。

 

「……なんでだろね」

 

 わたしだってわからない。

 わたしは生きないといけないというだけで、約束を守っていたいというだけで、それだけの動機で生きていているだけなんだから。生きなきゃいけない理由はあっても、生きたい理由も意義も意味も持ち合わせていない。

 わたしが無関心に答えると、ユウカちゃんは興味をなくした様に作業に戻った。

 

 早瀬ユウカ。

 全部終わってアビドスに帰ってきたときから一緒に行動している娘だ。

 ミレニアムのセミナーで会計をしていたらしい。理数系のスペシャリストだ。

 

「ユウカちゃんこそさ、なんでわたしと一緒にいるの?」

 

「ニッカさんには何度も助けられましたから」

 

「……………………」

 

 覚えていないわけじゃない。

 何一つとして忘れていない。

 忘れられるわけがなかった。

 わたしは、各地を回って回って回って、戦って戦って戦った。

 色んな人と出会って、たくさんの約束をして。

 

 助ける。

 そう言った記憶はあるのに。

 結局、誰一人守れなかった。

 居場所も命も思い出も、全部救えなかった。

 

「あ、起動した」

 

 わたしが適当に"機械"を触っていたら、"機械"が起動した。

 

「デジタルインターフェースですね。中を見ればどういう装置かの手掛かりがあるはずです」

 

 ユウカちゃんの言葉に頷く。

 ヒビが入った液晶を二人で覗き込んだ。

 

「これは……」

 

 まさか。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 いや、そんなわけがない。

 まだだ。まだ、情報は出揃っていない。

 

 しかし、ユウカちゃんが画面を操作する度に()()が事実である証拠が集まっていく。

 

「ニッカさん、これは……」

 

 あぁ、()()()()()()

 今更にして全てが繋がった。

 

 

「平行世界へ行くための装置です」

 

 

 改めて言葉として聞いた瞬間、わたしの中で何かが弾けた。

 

 

───あぁ、もう本当に今更だ。

 




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