「やっと家に着いた……」
大覇星祭、もといオリアナ=トムソンが引き起こそうとした
「退院早々エレベーターの故障で階段を使う羽目になるなんて……不幸だ」
大きな事件を解決したあとなのに、不幸は労うことなど知らず、いつも通り俺を踏みつけて遊んでくる。例えば、入院早々血が出るほど噛み付かれたり、電撃をあびせられたり……ここから先はお察しの通りだ。
俺は頭をガックリ落としながら、両足で器用に靴を脱ぎ、肘で部屋の電気をつける。なんで手を使わないのかって言うと。
「とうま……ごはん……ムニャムニャ」
俺の両手と背中は、この銀髪
他にも、入院中の病院食を勝手に食われたり、動物はダメなのに
ダメだ、もう考えるのはやめよう。余計頭が痛くなる。
「おーい、起きろ。家に着いたぞー」
「んん……お腹減ったんだよ……まだ足りないんだよ」
「ダメだこりゃ」
背中を揺らして声をかけるが、彼女は目覚めるどころかモゴモゴと口を動かして寝言を言う始末だ。俺は諦めて彼女をベッドにそっと寝かせる。俺も寝る準備をしようと、ぐっと背伸びをして床に座る。今日は本当に大変な、散々な1日だった。使徒十字の事件が終わったかと思ったら、ビリビリ中学生が暴走して大災害が巻き起こるわ、全部終わったかと思えばフォークダンスで蹴っ飛ばされるわ。
我ながら自分の不幸度合いが怖くなりそうだ。
そんなことを考えていると、不意に寮のチャイムがなる。誰だ、こんな真夜中に? と、疑問に思いながら玄関に向かう。はーい、と声をかけ、扉を開けると、そこに立っていたのは長身で赤髪ロン毛、目元にバーコードの入ったよく見る顔だった。
「ようやく出たか。遅いぞ、上条当麻」
「……新聞の勧誘は受け付けていませんので」
白けた顔で扉を閉めようとすると、その男は隙間に足を挟み込んで扉を無理やり開こうとしてきた。
「ふざけてる場合か! こっちは話があるからわざわざこんな所まで出向いてやったんだぞ!」
「知るかよステイル! 含みのある言い方しやがって! どうせまた魔術のゴタゴタだろ!? 今度の問題は上条さんに頼らず自分たちで解決してくれ!」
無理やり扉を開けようとしてくる赤髪の男こと【ステイル=マグヌス】とは、何かと因縁があって、よく俺に魔術絡みの問題を押し付けてくる厄介な奴だ。そんな奴が直々に出向いてくるなんて、どうせまた碌でもないことに決まってる。
俺は外に押し出そうと、奴の体に手を当てた瞬間、手首を掴まれて引っ張りこまれ、顔を近づけられる。いつになく真剣な表情に、俺は少し困惑してしまった。
「いいか、今から話すことは俺たちや教会の問題だけでは済まないかもしれないんだ」
ステイルは姿勢を崩さず、重々しい表情のまま口を開いて話を始めた。
「それに、このまま放置すればあの子だって危険な目にあうかもしれない」
その言葉に、俺はハッとしてベッドでぐっすり眠っているあいつの方をチラッと見る。ここで無理に断って、あいつが危険な目にあうってんなら話は別だ。ステイルの表情を見ても、俺をおびき出すためにあいつをエサにしているわけでは無いみたいだし。
「……分かった。その話、詳しく聞かせてくれ」
そう言うと、ステイルは俺の手首から手を離す。ここでは話せないことらしく、奴は外へ出ようと顎で合図をする。後に続くように俺も扉を開け、靴を履いてベランダへと出た。
☥
場所を変えた俺たちは、24時間経営の寂れたファミレスの、入口から1番遠い席で話をしていた。こんな時間だから人もおらず、店員もほぼ来ないから多少の会話であれば聞き取られる心配はない。
「見滝原市に調査?」
「そうだ、教会……というか
「ちょちょちょ、待ってくれステイル。地球外の魔術?」
ただの魔術ですら頭をカナヅチで殴られたような衝撃があったってのに、地球外だって? メルヘン過ぎて全然理解ができない。
「それに
「俺も先程
ステイルも解析が追いついていないみたいだ。だけど、そのアークビショップ様の言葉を文字通り受け取るなら、手を取り合っていたはずの地球外知的生命ってやつが魔術を使ってこの地球になにかしようとしてるって事なのか?
文字に起こしてみたが益々頭の痛くなりそうな話だ。俺が首を突っ込んだ問題は、俺が思っている以上に大規模なものかもしれない。
「でも、なんで俺なんだよ?」
「そこが問題だ。奴らは太古の昔よりこの地球に存在していた。つまり、太古からの宗教、俺たちイギリス清教の大本である十字教、ローマ正教やロシア正教とも太いパイプがあると考えられる。
「つまり、科学サイドの人間だけど魔術サイドとも関わりがある、微妙な立場の人間が調査しなきゃならないって訳か。それが俺なんだな」
「大雑把に言うとそうだな」
「でも、魔術を使うなら十字教の本拠地であるイタリアやロシア、イギリスで活動した方がいいはずだろ? なんで東京ですらなくて見滝原市なんだ?」
「その辺りはまだよく分かっていない。それも含めての調査だ」
話が一段落付いたので、ステイルはコーヒーを、俺はコーラを飲み干して一息つく。
「分かった、行くよ、見滝原市。で、お前はどうすんだよ?」
「あの子も危険だと言っただろう。しばらくはお前の代わりに彼女を保護しておく。下手な魔術では知覚すら出来ないようにな」
あいつの保護をステイルに任せるのはちょっと癪に障るけど、今回ばかりは仕方が無いと諦めよう。
「出発は日の出前。ここにタクシーを停めてある。学園都市のセキュリティに関しては土御門が誤魔化す。向こうで泊まれる部屋も既に手配してある。タイムリミットはそれがバレるまでだ」
「分かった……ただ」
俺は立ち上がり、ステイルを睨みつける。
「もしもあいつに何かあったら、お前を許さねぇからな」
「それはこっちのセリフだ。お前が任務に失敗して、あの子が危険な目にあう可能性が少しでも出たら、俺が直々に消し炭にしてやる」
するとステイルも俺に軽口を叩いてくる。こいつの性格はムカつくが、少なくとも実力は信頼してる。大丈夫そうだと確信した俺は、ステイルの指定したタクシー乗り場へと足を運んだ。