トアルレコード   作:即席社会人

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3.こんな結末、間違ってる!

「少し、お話できるかしら?」

 

 そう言いながら、彼女はふわっと俺の目の前に着地する。背丈の小さな女の子が屋上から着地して無傷だなんて、あまりにも異様な光景なのに、どよめきの1つも聞こえない。明らかにおかしいと感じた俺は、辺りを大きく見回した。

 

「ど、どういうことだよ……!?」

 

 見回した光景は、電話をしながらその場に静止しているサラリーマン、リンゴを落として慌てて拾おうとしたまま止まっている主婦、空中でジャンプしたまま動かない小学生たちといった、その一瞬だけを切り抜かれた世界が広がっていた。

 

「……やっぱりあなたには効かないみたいね。その右手のせいかしら」

 

 こいつ……俺の右手について知ってやがるのか!? 

 

「あら、図星みたいね。カマをかけただけのつもりだったのだけれど」

 

 しまった……! 

 

「お前、俺の事どこまで知ってるんだよ?」

 

「知らないわ、本当に何もね。だからこうやって話し合いに来たのよ」

 

「話し合いに来ただけにしちゃ、殺気でギラギラ過ぎやしないか?」

 

「当たり前よ。答え次第ではあなたを殺すもの」

 

 クソっ! どうすればいい!? この静止した世界がヤツの能力だっていうんなら、変に抵抗すればそこら辺にいる一般人にも被害が出る。ヤツの能力だって時間停止だけって確定している訳でもない。動けないみんなを守りながら攻撃を躱しつつヤツを取り押さえるなんて芸当、俺には出来ない。

 だが、少なくとも暴れなければ大惨事になる心配は無い。被害を出したいなら、俺の事を無視して動けない人達を1人ずつ襲えばいいんだから。

 

「1つ目の質問よ。あなたは何者で、何をしに来たの?」

 

「俺の名前は上条当麻だ。学園都市から来た。ここに来た理由は、簡単に言うと調査だな」

 

 情報を出し惜しむな。あくまで調査だ、戦闘じゃないことを伝えろ。相手から話し合いを持ちかけている以上、敵対する意思がないってことを伝えればいきなり戦闘になることは無いはずだ。

 

「学園都市、ね。それなら、あなたは学園都市からの使者って事でいいのかしら?」

 

「少し違うな、俺は科学サイドの人間だが、依頼を受けたのは十字教率いる魔術側だ。ほぼ半強制でここまで来たんだよ」

 

「そう。じゃあ次の質問よ──」

 

 黒髪の少女は、ここからも次々と質問を投げかけてきた。魔術のこと、十字教のこと、俺の異能、幻想殺し(イマジンブレイカー)のこと、今の俺に、黒髪の少女たち(第3勢力)についてどこまでの知識があるかといったことまで。

 

 一通りの質問を終えた彼女は、腕を組みながら手の甲を顎に当てて考えていた。

 

「これも、何かの前兆なのかしら……? だとするならば……」

 

 ブツブツと独り言を呟いた後、しばらくしてようやく口を開く。

 

「分かったわ、あなたの言葉、ほんの少しだけ信用してあげる」

 

「そ、そうか……」

 

「勘違いしないことね。私はあなたの言葉を信用すると言っただけよ。あなた自身のことも、十字教のことも信用なんてしてないわ。少なくとも、私の目的の邪魔をしない限りは何もしないって約束するだけよ」

 

 とりあえず、命は助かったみたいだ。

 俺は安堵していると、少女が盾を操作する。ガシャン、とそれが音を響かせると、辺りの空気がまた元に戻り、人々が再び歩みを進め始める。

 

「何してるの、さっさと行くわよ」

 

 辺りをキョロキョロと見回していると、少女が遠くで俺を呼ぶ。慌てて俺が近づくと、彼女は再び歩を進めた。

 

 しばらく歩き進めると、徐々に人気が減っていく。俺は彼女の3歩後ろを、何が何だか分からないままついて行っていた。

 

「あのー……」

 

「……何?」

 

「お名前を教えていただいてもよろしいでしょう……か?」

 

 あまりにも気まずい空気に、俺は敬語になってしまう。しかし彼女は、黙ったままこちらを振り向くことも、歩を弛めることもなく淡々と前へ進む。やっぱり、俺自身を信用していない以上、名乗ってはくれなさそうだな、と思っていると、彼女は立ち止まってこちらに振り向いた。

 

「暁美……暁美ほむらよ。後、敬語もやめてちょうだい。あなたの方が恐らく年上でしょう?」

 

「お、おう……暁美」

 

 そう言うと、彼女、暁美は前へと進み、路地裏へと入っていく。

 出会い方は最悪だったが、話している限り、ぶっきらぼうなだけで意外と普通の女の子のように感じた。

 

「暁美、どこに向かってるんだ?」

 

「見ればわかるわ。まどかもそこにいるわよ」

 

「何だって!?」

 

 俺が声を荒らげると、暁美は俺の口に手を当てて黙らせる。まどかがここに来ている? ここはどう見ても住宅街から離れた工場街の路地裏じゃないか。どうしてそんなところに──。

 そんなことを考えていると、ドカン、何かがぶつかった物音が辺りに響く。慌てて路地の隙間から顔を覗かせると、そこには武器を持った青髪と赤髪の少女が2人と、その後ろで檻に囲まれたまどかの姿があった。

 

「これは、一体……!?」

 

「見せてあげるわ。理想なんてどこにもない、あるのは非情な結末だけの、私たち【魔法少女】の現実を」

 

 

 ☥

 

 

「魔法少女だって!?」

 

「そうよ、あなたが第3勢力と呼んでいる力は、私たち魔法少女の力のことで間違いないわ」

 

 魔法少女なんて、そんな存在が……いや、いるんだよ。科学しか知らなかった俺が魔術に初めて触れた時のように、実際にこの体で魔法少女の力は体感したはずなんだ。

 

「アンタみたいなヤツがいるから、マミさんは──!!」

 

「うぜェ、超うぜェ!! つーか何? 口の利き方が鳴ってないよね? 先輩に向かってさぁ!?」

 

「黙れェ!!」

 

 青髪の少女と赤髪の少女が、互いに武器を取り罵声を浴びせながら剣を交える。どうなってんだよ……。

 

「おい暁美、魔法少女ってのはみんなこうなのかよ」

 

「そうね、私が知る限りでは、これが魔法少女のかくある姿なのかもしれないわね」

 

「魔法少女っていったら、悪いヤツと戦って、世界の平和を守るもんじゃねえのかよ。なんで魔法少女同士で戦う必要があるんだよ!?」

 

「……確かに、私たち魔法少女は【魔女】という世界にとっての害悪と戦うために作られた存在よ……でもね」

 

 鳴り響く剣撃と暁美の冷たい視線が重なる。現実を突きつけるような非情さがそこにはあった。

 

「世の中綺麗事だけじゃ成り立たないのよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中の何かが弾けた。

 

「チャラチャラ踊ってんじゃねぇよウスノロ!」

 

 赤髪の魔法少女に鎖で縛られた青髪の魔法少女が、怒号とともに勢いよく壁に叩きつけられる。その音を皮切りに、俺はその戦場へと足を運び出す。

 

「ちょっとあなた、一体何をするつもりなの!?」

 

 暁美の静止も振り切って、俺は静かに怒っていた。

 例えこれが魔法少女のかくあるべき姿だったとしても──。

 

「ふざけんじゃねぇよ……!!」

 

 人と人が殺し合うこと自体が間違ってるって言ってるんだ!! 

 もしもそれが、魔法少女にとって拭えない不変の運命(ルール)だって言うのなら。

 

「そんなふざけた幻想は、俺がこの手でぶち壊す!」

 

 

 ☥

 

 

 どうして……? 

 

「どうして……? 魔女じゃないのに、どうして味方どうしで戦わなきゃならないの?」

 

『どうしようもない、お互いに譲る気なんてまるでないよ』

 

 私の方に乗る、犬とも猫とも違う不思議な生物、私たちに魔法少女としての力を授けてくれる存在、キュゥべえは私の問いに淡々と答える。私はまた、何も出来ないの? 

 

『でも、どうしても力ずくでも止めたいのなら、方法が無いわけじゃないよ』

 

 その言葉に私は、ハッとする。

 そうだ、私が……私が契約して魔法少女になれば……でも……。

 

「言って聞かせても分からねぇ、殴っても分からねぇバカとなりゃ……」

 

「さやかちゃん!!!」

 

『まどか! 近づいたら危険だ!!』

 

 赤い髪の魔法少女が、さやかちゃんの胸に目掛けて槍を構える。私はただそれを、キュゥべえと共に彼女の作った檻の中で眺めていることしか出来なかった。

 

「後は殺しちゃうしかないよね!!!」

 

 赤髪の魔法少女は、空中から最高速度で槍を振り下ろす。剣を手放したさやかちゃんには、もう身を守る手段が残っていなかった。

 契約すら出来なかった私は、ただ目の前の現実から目を背けることしか出来なかった。

 

「うおおおおおおっ!!!!」

 

 その時、さっきまで聞き覚えのある声が私の耳に響いた。私はその声に驚いて顔を上げる。そこに居たのは、ツンツン頭の男の子、上条当麻君だった。なんで? どうして? なんで彼がここに居るの? それよりも──。

 

「当麻君! 逃げて!」

 

 彼は槍の射線上の真ん中に立っていた。しかし、私の叫びを意に返さず、彼はそこから動かなかった。そして右手をかざした瞬間、彼女の槍は粉々に砕け散った。

 

「なっ、アタシの槍が! てめぇナニモンだ!?」

 

 何が起きたのか分からなかった。ただ分かったことは、さやかちゃんが助かったことと、当麻君が無傷だったことだけだった。

 

 

 ☥

 

 

「なあ、そろそろどいて欲しいんだけど?」

 

「……断る」

 

「はぁ? 聞こえなかったんですけど? 何、もっかい言ってくれる?」

 

「断るって言ってんだよ聞こえねぇのかこの三下野郎!」

 

 その瞬間、ヤツの眉間にシワが寄るのを感じた。

 

「あーあ、もういいわ。アンタも一緒に冥土に行ってやんな。そうすりゃコイツも寂しくないっしょ」

 

 そう言ってヤツは、槍を2本生み出して、俺の元へ突進してくる。

 

「オラオラオラァ! さっきまでの威勢はどうしたんだよ!?」

 

「ぐっ……クソッ!!」

 

 ヤツの繰り出す連撃を、俺は紙一重で捌き続ける。しかし、何度右手で槍を壊しても、新しく生み出し続けて攻撃がなりを潜めることは無かった。

 

「ふーん、ただの口だけぼっちゃんじゃねえってわけか? でもまあ、そんなんじゃいつまで経っても勝てるわけねぇってんだ」

 

 傷だらけで、息も詰まっている俺と違って、ヤツにはまだ余裕があった。ヤツは俺の喉元に槍を突きつけ、笑みを浮かべている。

 

「なぁ、お前魔法少女なんだろ? なんで同じ魔法少女を殺そうとしてんだよ。お前らは魔女ってやつと戦って、世界を守るために頑張ってんじゃねぇのかよ?」

 

「はァ? 何? この期に及んであんなヤツの心配してんの? バカなの? アンタ自分の方が先に死ぬって分かってんのか?」

 

 槍の刃先がが喉元に触れる。少し切れたのか血が滴る。その瞬間、ヤツははぁ、と溜息をつき、話を始めた。

 

「まぁ、成り行きってやつ? あのバカがくだらねぇ理想論をほざきやがるから、そんならとっとと死んじまった方が楽だと思ってな。アタシなりの親切心ってやつさ」

 

「……なんだよそれ」

 

「魔法少女の世界ってのはな、アンタやあいつが思ってるほど甘っちょろい世界じゃねぇんだよ。くだらねぇ希望を持って、おててつないで頑張ろうなんてふざけた考えは通用しねぇ」

 

 その時一瞬、ヤツの顔に影が落ちる。しかしすぐにヤツの顔には怒りと狂気で歪んだ笑みが浮かび上がった。

 

「だからアタシが殺してやろうとしたんだよ。魔法少女なんざ、最初に淡い希望を持たせておいて、それがまやかしだと気づいた時には、どうしようもない絶望の底まで叩きつけられるのがオチなんだ。だったら最初から、希望も命も摘み取ってやるのが救い(・・)ってモンだろうが!?」

 

「……ふざけんなよ!!」

 

「……なっ!?」

 

 俺は怒りに任せてヤツの槍を破壊する。その瞬間、ヤツは体勢を崩して後ろへとのけぞった。俺はその隙を見逃さず、ヤツとの距離を詰めるように大きく前に踏み出す。

 

「テメェの救い(・・)ってその程度なのかよ!? 俺には魔法少女が何なのかなんてこれっぽっちもわかんねぇ! でも、テメェの正義がどうであれ、人が死んで幸せだなんで誰も思うわけねぇだろうが!」

 

 俺は怒号を上げながら、ヤツのみぞおちに目掛けて拳を振り上げる。

 

「そんなふざけた思い上がりで、誰かの命を踏み躙るって言うんなら──その幻想をぶち壊す!!」

 

 俺の拳にクリーンヒットしたヤツは、激しく吹っ飛んで奥の水たまりへと叩きつけられる。それと同時に、まどかを囲んでいた檻が形を崩して消え去っていった。

 

「当麻君!」

 

「おっと、よぉまどか、大丈夫だったか?」

 

 俺を呼ぶ声が聞こえた瞬間、その声の主、まどかが俺の元へ飛び込んでくる。大粒の涙を流す彼女を見ていると、あいつ(ビリビリ)のことを思い出すなぁ。

 

「当麻君、ごめんね……私……私何も……」

 

 そんなまどかを受け止めながら、俺はその後ろに視線を向ける。そこに居たのは、見滝原市に来た時にチラッと目にした猫でも兎でも犬でもない、白い体に赤い目を持った生き物だった。

 

「大丈夫だって、こんくらいの傷。とりあえず、この子と一緒に離れておいてくれ」

 

「え……うん」

 

 まどかにそう促して、気絶している青髪の女の子を遠くに運んでもらう。アレの存在も気になるが、とにかく目の前の問題に取り掛かる必要があった。ヤツがあの程度で参るわけが無い、という予想はよく当たってしまうのが上条さんの悪いところだ。

 腹を押えながら、汚れた体を引きずってヤツは俺の前に現れる。その姿は、魔法少女らしいものではなく、パーカーのような私服の姿だった。

 

「なぁ、もう終わりにしようぜ。テメェももう戦う力なんて残ってねぇだろ」

 

「何……ふざけたこと抜かしてんだよ」

 

 ヨロヨロと弱々しく立っているヤツはまだ戦う気みたいだが、俺は構えることすらしなかった。

 

「お前、なんで魔法少女になったんだよ?」

 

「あぁ……!?」

 

 俺はただヤツに言葉を投げかける。それはずっと思っていた疑問、心に刺さったトゲのようなもの。

 

「お前も、最初からこんなことをしようと思って魔法少女になったんじゃねぇだろ?」

 

「……黙れ」

 

「誰かを助けたくて、誰かの力になりたくて魔法少女になったんじゃねぇのかよ?」

 

「黙れよ!! アンタにアタシの何がわかるって言うんだよ!?」

 

 ヤツは怒りで我を忘れ、最後の1本の槍で俺の元へ突進してくる。

 

「とっとと死ねよ! 魔法少女でもねぇクセに、ちょっと不思議な力を持ってるからって、アタシの領域に、土足でズカズカ踏み込んでくんじゃねぇよ!!」

 

 俺はヤツの捨て身の攻撃に、右手で防御姿勢を取る。

 

「そこまでよ」

 

 俺の右手とヤツの槍との距離が2~3mほどになった時、上空から破裂音が聞こえ、ヤツの足元にヒビが入る。上を見上げると、そこには拳銃を構えた暁美ほむらの姿があった。

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