トアルレコード   作:即席社会人

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5.俺は真実に向き合えるのか?

「今日もなんもなしで1日終わり……か、はぁ」

 

 路地裏での事件から数日が経った。公園で落ち込むこの上条当麻、その後の調査を進めるも、結果は虚しいの一言に尽きた。あの日以来、魔法少女に関する情報はプツリと断絶している。キュゥべえから渡されたデバイスからも情報はなし、暁美や佐倉どころか、まどかとも顔を合わせられていなかった。携帯が壊れている以上、番号を貰ったところで仕方が無いし……と悩んでいると、道の向こう側から見た事のある顔が近づいてきた。

 

「あ、あなたは……!!」

 

「お、確か……み、美樹……だっけ?」

 

 それは、あの時佐倉に襲われていた魔法少女、美樹さやかだった。今日は魔法少女姿じゃなく、まどかや暁美と同じ制服を着ている。

 

「美樹さやかです。あなたは、えっと……」

 

「俺は当麻、上条当麻だ」

 

「上条……」

 

 俺の上の名前を聞いて、美樹は一瞬驚いた顔をした。そこで俺は思い出した。確かまどかの知り合いに俺の同じ苗字のヤツがいるんだっけ? まどかが知っているなら、友達の美樹も知っているとしてもおかしくないよな。

 

「えっと、まどかから聞いたんだ。知り合いに俺と同じ苗字のヤツがいるんだってな。分かりづらかったら、下の名前ででも呼んでくれ」

 

「……」

 

 そう言ったは良いものの、美樹は黙り込んでしまった。おいおい、笑うのも茶化すのも大丈夫な上条さんでも、流石に黙るのは傷つきますよ。と、涙を流していると、美樹は俺の前に来てじっと俯いていた。

 

「なあ、お前……なんでアイツと、佐倉杏子と戦ってたんだ?」

 

 その顔を見て、俺は気づいたら声をかけていた。今の美樹は、身も心もボロボロで、だけど誰にも助けを求められないあの頃のアイツ(ビリビリ)とよく似ていた。

 

「お前ら同じ魔法少女なんだろ? 一緒に力を合わせて、魔女ってやつを倒すんじゃねぇのか?」

 

 美樹はずっと黙っている。余計なお世話かもしれない。いや、実際に余計なお世話なんだろう。でも、あの時俺がもっとアイツの話を聞いてやれば、アイツもあそこまで思い詰める必要だってなかったかもしれないんだ。同じ思いはして欲しくない。

 

「まどかも心配してたぞ。俺はお前のこと全然知らねぇから何とも言えねぇけどさ、なんだか怖かったって、あいつ言ってたぞ」

 

 余計だろうがなんだろうが、俺はこいつが放っとけなかった。

 

「アンタに、アンタに何が分かんのよ……!!」

 

 美樹がようやく口を開く。自己紹介で取り繕っていた口調も声も、そこにはなかった。小さな声で、ただただ怒っていた。

 

「いきなり魔女なんてよく分からない物に出会って、死ぬかもしれない思いをした。今まで助けてくれたマミさんも、魔女に殺されて……」

 

 でも、声は若干震えていて、髪の影から涙からポロポロと流れていた。

 

「かと思ったら杏子ってヤツが急に襲ってきて、殺し合いにまでなってさ……」

 

「美樹……」

 

「私はね、ただ魔女と戦うだけじゃなくて、大切な人を守るためにこの力を望んだ。でもね、昨日まどかを泣かせちゃったの」

 

 美樹が拳を強く握りしめる。

 

「その時自分をどれだけ嫌いになりそうだったか。アンタには分かんないでしょ。そんな力を、元から持って生まれたアンタなんかには……」

 

 そう言って去っていく美樹の後ろ姿には、やっぱりどことなくアイツの影を感じた。孤独、自己嫌悪、そして寂しさ。

 

 俺は自分の右手を見て、俺自身に何が出来るのかを考える。しかしいくら考えても、俺の右手には何かを壊す力しか宿っちゃいない。誰かを助けるためには、誰かを傷つける必要がある力でしかない。

 

 そんな俺に出来ること──そんなのは1つしか無かった。

 

 キュゥべえのヤツを見つけ出す。魔法少女同士の殺し合いも、元はと言えばアイツが魔法少女を作っていることが原因だ。地球にも魔術がある以上、魔法少女だけが魔女に対抗できる手段だとは限らない。だとすれば、ヤツは魔法少女どころか、魔女ってやつががどういった存在なのかすら知っている可能性がある。ヤツが知っていることを洗いざらい吐かせてやる。

 そう決意を固めた俺は、ベンチから立ち上がり、キュゥべえを探すことにした。

 

 

 ☥

 

 

 気づけば日が沈み、ライトが道を照らす夜になっていた。相変わらずキュゥべえのヤツは見つかっていない。

 

「いつの間にかこんな大通りにまで来ちまったな」

 

 恐らくキュゥべえはまどかや明美、美樹と一緒に行動しているはずだ。見滝原市はそこまで大きい町じゃない。その上、中学生が直ぐに向かえる所なんてたかが知れているはずなのに、こんな時間まで見つからないのは流石に己の不幸を恨む他なかった。

 

「ん? なんだあれ?」

 

 諦めようかと思った矢先、大通りの上にある広い歩道橋の中心で眩く赤い光が立ち上っているのが見えた。光が収まると、そこにいた2人の姿がハッキリと見え始める。魔法少女姿の佐倉と、今にも変身しそうな美樹の姿がそこにはあった。

 

 ただ事じゃないことが起きようとしている雰囲気を感じた俺は、全速力で歩道橋の階段を目指して走り出す。走って登ってたどり着いたその先には2人だけじゃない、まどかとキュゥべえの姿もあった。

 

「邪魔しないで、そもそもまどかは関係ないんだから!」

 

「ダメだよこんなの……絶対おかしいよ!」

 

 美樹とまどかが何かを言い争っている。話は断片的で分かんねぇことだらけだけど、まどかは美樹が変身するのを止めたがっているようだった。

 

「まどか! 一体何が起こってんだよ!?」

 

「と、当麻君!? どうしてここに……」

 

「どうしてって……あんな派手な光見せつけられて、場所わかんねぇ方が無理あるだろ」

 

『驚いたよ、まさか君がここに来ているなんてね。上条当麻』

 

 生きているはずなのに機械音のような、不気味な声が耳に入ってくる。調査の時は一応つけていたキュゥべえとの通信デバイスから、久々にヤツの声が届いたのを感じた。

 

「こんな状況になってんの、てめぇ事前に知ってたんだろ。何一つ連絡よこさねぇでなんのつもりだ」

 

『当たり前じゃないか、だって君は……』

 

「あーあーうるせぇ、ワラワラ集まってお仲間ごっこかい? ウザイ奴にはウザイ仲間がいるもんだねぇ?」

 

 俺の怒りに答えようとしたキュゥべえの声は、槍を向けた佐倉の声に阻まれる。

 

「じゃあ、あなたの仲間はどうなのかしら?」

 

 俺たちを挑発してきた佐倉の後ろから、これまた久しぶりに聞いた冷たい声が発せられる。その声の主は、二度と会わないと言ったはずの暁美ほむらのものであった。あいつ、いつの間にここに来てたんだ? 

 

「話が違うわ、美樹さやかには手を出すなと言ったはずよ」

 

「アンタのやり方じゃ手ヌル過ぎるんだよ。どの道向こうはやる気だぜ?」

 

「なら、私が相手をする。手出ししないで」

 

「フン、じゃあコイツを食い終わるまで待ってやる」

 

 佐倉が咥えたチョコ菓子を指さしてそう言うと、暁美は十分よ、という一言を残して俺たちの前に立ちはだかる。

 

「また会ったわね、上条当麻。次邪魔をするなら容赦はしないと忠告はずよ?」

 

「暁美、てめぇ結局誰の味方だ? あの時助けた美樹と戦う意味が分かんねぇんだよ」

 

 そう言うと、暁美ははぁ、吐息をつき呆れた顔で俺を見る。

 

「あなた、本当に救いようのないバカね。あの時言ったわよ。私は冷静な人の味方、争いを産むバカの敵。そう考えるなら、今のあなたは私の敵ということになるわね」

 

 その言葉を聞いた俺は、咄嗟に右手を構えて魔法に対する対抗を試みる。その瞬間、暁美の手から破裂音が聞こえ、俺の右の掌に大きな衝撃が走る。

 

「ぐあああっ……!?」

 

 その次に焼かれるような熱と激痛を感じ、片膝をついてしまう。霞む視界の中暁美の方を見ると、その手には拳銃が握られていた。俺の右手で消せないってことは、恐らくこれは実銃。

 なんてもん持ってんだよ。幾ら魔法少女とはいえ、中学生が拳銃調達できるなんて有り得ねぇだろ!? 

 

「今ので大体見当が着いたわ。その右手、魔法や異能に対しては無類の強さを誇るけど、物理的な攻撃や銃弾を弾くほどの力は無い」

 

 暁美はそう言って俺に近づき、しゃがみ込んだ俺の顎を蹴り上げる。

 

「ぐはっ……!!」

 

「当麻君!」

 

 後ろに弾き飛ばされ、仰向けに倒れる俺の元にまどかが駆け寄ってくる。右手は刺すような痛み、顎には鈍い痛みが走り、視界がぼやける。だけどまだ声が聞こえる。少し休憩すれば辛うじて立ち上がれそうなダメージだった。

 

「安心しなさい、容赦はしないと言ったけど、殺すつもりなんてないから。威力は抑えてあるし、血もすぐに止まるはずよ」

 

「待ってよほむらちゃん! こんなの絶対おかしいよ、当麻君は私たちを守ってくれたんだよ!? あの時のほむらちゃんもそうだったんでしょ!?」

 

 なのにどうして……と嘆くまどかを見て、ほむらは少し悲しそうな顔をする。でもすぐに元の冷たい表情に戻り、淡々と説明を始めた。

 

「そいつとは仲間でも何でもないわ。あの一瞬、たまたま目的が合致しただけよ。そして今は、私の邪魔をしようとしたからちょっと大人しくなってもらっただけ」

 

 ただそれだけよ、と吐き捨てる暁美の姿を見て、まどかは大粒の涙を流し始める。

 顎の痛みも落ち着いてきて、意識もハッキリとし始めた中で聞いた暁美の言葉。

 

 異常だった。

 

 魔法少女だとしても、女子中学生とは到底思えないほどの精神をしている。引き金を引く時もそうだったし、俺に当たったとしても顔色一つ変えることはなかった。この歳で一体、どんな経験をすればそんな人間になれるんだよ、と彼女への謎がさらに深まる。

 

「さて、今度はあなたの番ね。美樹さやか」

 

「くっ……!」

 

 そう言って暁美は、美樹の方へと顔を向ける。それに対して、美樹は後ずさって身構えることしか出来ないようだった。

 

「今ので戦う気が無くなったのなら、ここから早く消えなさい。やはりあなたには荷が重過ぎるわ」

 

「な、舐めるんじゃないわよ!!」

 

 暁美の言葉に熱が上がった美樹は、手の上に宝石のようなものを掲げる。それが魔法少女への変身の合図だということは、何も知らない俺ですら理解できた。

 

「さやかちゃん、ごめん!!」

 

 戦いが勃発する刹那、まどかが2人の間に割り込んで美樹から宝石を取り上げる。そして、歩道橋の上からそれを投げ捨てた。宝石は偶然通りかかったトラックの上に落ち、瞬く間に俺たちの視界から消えていった。

 

「まどか、アンタなんてこと……!!」

 

 美樹がまどかに駆け寄って声を上げる。まどかはオドオドしながらも、こうするしか無かったと答える。

 

 次の瞬間、急に美樹の体から力が抜け、まどかに倒れ込むのが見えた。

 

「え……さやか、ちゃん?」

 

『今のはマズかったよ、まどか。よりにもよって、()()を放り投げるなんて、どうかしてるよ』

 

 どこからともなくキュゥべえが現れ、まどかに対してそう告げる。呆然とするまどかの後ろから佐倉が近寄ってきて、美樹の体を持ち上げた。

 

 そして彼女の感じた動揺は、言葉となって俺たちに現実を知らしめることとなる。

 

「どういうことだおい──」

 

 

「こいつ、()()()()じゃねぇかよ……!!」

 

 

 ☥

 

 

「死んでるってどういうことだよ!?」

 

 右手の激痛も鳴りを潜め、ある程度動けるようになった俺は佐倉に問いつめる。

 

「アタシだってわかんねぇよ! 何が、どうなってやがんだ……?」

 

「さやかちゃん、ねぇ起きて! 嫌だよこんなの、さやかちゃん!!!」

 

 まどかの泣き声、佐倉の動揺、いつの間にか姿を消した暁美。状況があまりにも飛躍し過ぎていた。何が起きているのか全く分からなかった。

 

『君たち魔法少女が()()()()()()()()()()()のは、せいぜい100m圏内が限度だからね』

 

 俺たちの混乱を刺すように、キュゥべえが説明を始める。

 

『普段は当然肌身離さず()()()()()()んだから、こういう事故は滅多にある事じゃないんだけど』

 

 その言葉には、節々に違和感のようなものがあった。あまりにもおぞましい違和感、俺はこれをヤツに問いたださなきゃ気が済まなかった。

 

「おいてめぇ、さっきから勝手に話を進めてるが、まるで今ここにいる美樹が()()()()()()みたいな言い方しやがるじゃねぇか!」

 

『意外と聡いね上条当麻。そう、そっちはさやかじゃなくて、ただの抜け殻さ。さやかはさっき、まどかが投げて捨てちゃった方だよ』

 

「え……?」

 

「な、なんだと?」

 

 淡々と説明するキュゥべえの言葉に、まどかと佐倉は言葉を失う。

 そう、これが俺の感じた違和感。コントロールだの持ち歩くだの、明らかに人間に使う表現じゃなかった。どちらかと言えば物に対する言葉だ。

 

『ただの人間と同じ、壊れやすい体のままで魔女と戦ってくれなんてとてもお願い出来ないよ。君たち魔法少女にとって、元の体なんていうのは外付けのハードウェアでしかないんだ』

 

 この間に、キュゥべえは何一つ悪びれることは無かった。

 

『魔法少女との契約を取り結ぶ僕の役目はね、君たちの魂を抜き取って、より効率的で安全な【ソウルジェム】に変えることなのさ』

 

 正直間違っていて欲しかった。しかし、その違和感は事実だった。こういう勘だけは鋭いことも不幸と言って良いのだろう。

 

「ふざけんな、何が安全だよ! 勝手に人の魂をどうこうする権利が、てめぇにあんのかよ!?」

 

 俺は怪我をしていない左手で、キュゥべえの首根っこを掴んで引き寄せる。許せるわけが無い。

 

『さっきも言ったでしょ? 彼女たちには魔女と戦って貰うんだ。その点、ソウルジェムさえ砕かれなければ心臓が破れようが、四肢がもげようが魔力を注ぐことで痛みなく治癒出来る。弱点だらけの人体よりも、よっぽど戦いでは有利じゃないか』

 

「てめぇ!!」

 

『おっと上条当麻、その右手で僕に触れない方がいいよ』

 

 怒りに身を任せ右手を握りしめた時、それを見たヤツは俺に淡々と言葉を投げ始めた。

 

『僕は魔法少女との契約で、ほぼ持続的に彼女たちとの間に異能の繋がりがある状態だと思うんだ。そんな僕に君の右手が触れた時、今の契約がどうなるかは僕にも分からない。下手をすれば全てのソウルジェムが破壊されて、全員の魂が消滅する可能性だって無くはない』

 

 その言葉に、俺は声が出なくなる。

 

『例え契約が破棄されて魂が元の体に解放されるのだとしても、体とソウルジェムが100m以上離されているさやかがどうなるかの保証なんて出来ない。そもそも魔法少女を普通の人間に戻すということ自体、前代未聞だからね』

 

 キュゥべえの残酷なカミングアウトに、まどかはただ涙を流し、佐倉は憤り、俺はやり場のない怒りを抱えて俯く他なかった。

 

『そんな不確定要素の多い君と魔法少女をなるべく接近させたくなかったんだ。何が起こるかわからないからね。だから君には位置情報を把握するためのデバイスを渡した』

 

 こいつ、俺と魔法少女たちを意図的に接触させないように謀っていやがったのか。

 

『君たちはいつもそうだね。事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする。訳が分からないよ。どうして人間はそんなに、魂の在処にこだわるんだい?』

 

 俺たちの気持ちなど知らないと言わんばかりだ。僕は君たちのためにやったことなのに、なんで僕が責められなきゃ行けないんだと、ヤツはしたり顔でのたまう。そんなヤツを1発もぶちのめせない俺自身の無力感は、留まることを知らなかった。

 

 凍りついた空気の中、どこからともなく暁美が現れる。その手には美樹の青いソウルジェムが握られていた。彼女は息を整え、そっと美樹の手にそれを乗せる。

 

 しばらくすると、まるで電池が入ったかのように美樹が目を覚まして起き上がった。

 

「何……? なんなの……?」

 

 かくして俺たちの、2度目の決戦は幕を閉じた。

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