地獄に堕ちたら死んでもなりたかったもふもふドッグになれた男   作:YK

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解放されしもの

一人の悪人の話をする。

 

死因は警官の放った弾丸の雨。

十三のころから、流されるようにギャングの末端として使われた彼は、命までも誰かに消費される最後を遂げた。

 

 

地獄に堕ちるのも当然の流れ。

 

 

悪人たちは人間だったころの姿を捨て、悪魔として生まれ変わる。

牙や爪、白黒反転した赤い瞳、獣や虫のようなおぞましいパーツ。

 

赤黒い空の下、誰かが弾丸を発射し、誰かの体にぶちまける。

血と臓物が公道に爆散。キマッた奴がそれを指さして笑い、爆散した誰かさんは、悪態をつきながらむっくりと蘇った。

 

ここでは毎日、治安が最悪のハロウィンを繰り返している。

 

 

 

そんな地獄の街の一角に、新しい悪魔が生まれた。

 

 

一人の悪魔の話をしよう。

 

たった今、街角を、歌いながらスキップしている悪魔の話だ。

 

フワフワした毛に鼻づらの長い顔が埋もれている、笑ったような顔をした犬面の悪魔である。

 

ツヤツヤに濡れた黒い鼻が二つ、肉厚の三角耳と、額から伸びる角が四つずつあって、つまり二つの頭がひとつの体を共有しているのが、こいつの地獄の悪魔らしい異形だった。

 

 

四つ足歩行でのスキップは、もしかしたらスキップと呼ばないのかもしれないが、双頭の白犬悪魔は子供向けミュージカルアニメの登場人物のような軽やかな足取りで、器用にスキップしている。

 

矢印のように尖った尻尾が生えた尻も、左右にぷりぷり振りながら。

 

 

 

 

「ああ♪悪魔って素晴らしい」「ソウ♪地獄ッテ最高! 」

 

 

 

長いマズルで、双頭犬の悪魔は一人、低音と高音を使い分けたデュエットで、同じフレーズを繰り返し歌っていた。

 

恥などない。どうせ誰も気にしちゃいないから。

 

ロケーションが地獄で、彼は犬なのであるから。

 

 

 

 

そう。全裸でも平気なのだ。

 

 

 

 

 

 

彼の生前は、貧しい生まれだった。

都会の片隅にある、治安が悪い街に生まれた。

毎日どこかで、誰かの体に弾丸が撃ち込まれるような街。

 

彼が恵まれたのは、生まれもった体格くらいのものだった。

水だけ飲むような日があっても、彼は縦にも横にも大きくなった。

 

首は短く、肉厚でごつごつした顔立ち。重い瞼で目は細い。細い髪が白い頭皮に張り付いたようになって見苦しいからと、ずっと丸坊主だった。

体格もあいまって老けて見えたし、子ども扱いをされた記憶は、ほんとうに幼児のころにしかない。

 

物心ついたときには差別される側だった。

 

仲間にいれてもらうためには、金か労働で取引するしかない。

彼には、自分のされているその扱いが、差別だという自覚もなかった。

 

必然として、彼が暴力を覚えるのは早かった。

 

その方法が、一番彼に安全をくれたからだ。

 

それがいけないことだという朧げな知識はあっても、意識と理性が暴力を選んだ。

 

彼の頭の隅にはテレビの画面があって、常に彼の妄想が流れていた。

歪んで軋んだ理性と道徳観が見せる妄想の中では、彼は小さな可愛い子犬として生まれている。

そして優しい飼い主に引き取られ、庭を掘り返しては苦笑いされるようなヤンチャな愛されワンコとして、毎日窓辺に置いてある彼専用のベッドで、幸せで満たされた眠りにつく。

血の味のする人間の生活は、そんな幸せな子犬が昼寝のあいまに見る夢だ。

 

――――そういう妄想。

 

 

 

 

 

「アア、素晴シイ♪ 」「ここはまるで天国さ♪」「フリーダム! 」

 

 

誰かが言った。

 

「なんであいつ服着てないの? 」

 

 

 

街角の全裸変態紳士は答えた。

 

「犬が服を着るのは「ジョーシキ的ニ考エテ」飼い主が着せるときだけだからだ! 」

 

 

 

 


 

 

 

Q.貴方は地獄に堕ちて何年くらい?

 

「没年は1990年代ですから、もう30年になりますね」「孤独ナ三十年ダッタゼ」

 

 

Q.天国には行きたいって思ってる?

 

「そうですね……ありのままの自分ってやつを受け入れてもらえる場所であるなら行きたいです「アリノーママニィーッテナ」もともと殺しも盗みもするつもりはありません。悪行は生前にやりつくしましたから、きっぱり地獄に来た時にやめたんですよ(笑)友達だって作りたいな。あんまりできた試しないんですよね(笑)「ダチオレダケ」 恋人は……まあ、どうでしょうね(笑)自分なんかを好きでいてくれる方が現れたらいいかな(笑)「フタツデオトクナノ」」

 

 

Q.今の具体的な目標は?

 

「殺しも盗みもしないこと。「トクイダケドネ」しないでいられる環境に身を置くことですね(笑)だから、このハズビン・ホテルは自分にとって理想に近い環境なんです。セーフティハウスっていうか。「ツゴウガイイバショ」悪魔のくせに平和主義なのは地獄では少数派の考えでしょうが、言わないだけでけっこういるんじゃないかな(笑) 自分は会ったことないですけど(笑)

あとはそうですね。自分にあった仕事を見つけたいです。実は夢があるんです「叶エターイ! ヤボウトキボウ」」

 

 

Q.とっても素敵ですね! その夢ってどんなこと?

 

「老人でも子供でも、男女も、悪魔も天使も問いません。この死後の生涯をかけて、運命の飼い主を見つけることですかね。「イヌハイイゾ! 」ちなみに今は、目の前の地獄のプリンセスの愛犬に終身就職したぶらべボグシャ」

 

 

「インタビューは終了! 没よ没! こんなの使えないわ! チャーリー、コイツに頼んだのが間違いだったのよ!! 」

 

 

「営業妨害パンチハンタイ! 」

 

 

「黙んなさい! 服着ろ変態! 」

 

 

 

 





双頭犬頭の悪魔

生前の強面巨体が、ふわふわの被毛を得てカバーされた。3メートルある。
犬になりきって全裸四つ足で生活している。
地獄に来てから自己肯定感爆アゲ。情緒が育って語彙も増やしたので、無口な筋肉巨漢だった生前とは別人の陽気な全裸変態紳士になっている。

ホテルに来た当初はチャーリーにも遠回しに着衣を薦められていたが、頑なに全裸を貫いた結果、そういうオブジェとして認識されるようになった。
ロビーで寝て白熊の皮の敷物に擬態する一発ネタが、一部には好評。
なお股間は犬仕様。アレスターにはずっと塩対応されているし目も合わない。
死因は警官からの射殺。いい飼い主がほしい。

双頭の片方が考えるメインというかベース。もう片方は本音や秘密を喋る担当。
生前、現実の辛さに、無垢で愛される子犬という『自分』をつくって生きていた。
どちらかの頭が子犬の人格で、どちらかの頭が人間の人格。地獄に来て自分を解放したから、今はどちらも同じテンションでユニゾンやデュエットしている。
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