地獄に堕ちたら死んでもなりたかったもふもふドッグになれた男   作:YK

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続いた。
生前ドッグは、キングピンみたいな感じのイメージ。達磨みたいに、つるっとして丸いけど全身のそれ筋肉です……みたいな固太りの巨漢。


無害なタイプの全裸

 

エンジェルがいつものノリで「君とヤッたら獣姦になるのかな? 」と言ったら、当時ホテルの新入りだったドッグは、「犬扱いをしてくれてありがとう」と満面の笑顔になった。

 

生前の対人コミュニケーションがDVとパワハラを基本にしていた哀れなドッグは、スーパーセクシー男優の軽口にピンとこなかったのである。

 

 

しかしその初対面でのズレたやり取りで、ドッグはエンジェルダストという青年のことを大好きになってしまった。白くてフワフワで(ある意味)肉食系なところに、勝手なシンパシーを感じたのかもしれない。

エンジェルも、しばらくしてドッグに下心がないと分かると、悪い気はしなかった。

 

エンジェルは仕事柄、変態への造詣は深いつもりだ。

そもそもドッグがまずいのは、全裸だからというだけじゃない。全裸で四つ足で歩くからだ。

そこに「犬になりたいんだ」と、無駄にいい声で繰り返すから変態なのだ。

 

股間はふわふわの被毛で覆われていて、平常時なら目を凝らさないとよくわからないし、わりと同じようなタイプで、ズボンを履かないスタイルの悪魔はいるものである。

これがツルッとしたタイプなら、ドッグがホテルに馴染むのは難しかっただろうし、そもそも入居時点で、ヴァギーからNGが出たかもしれない。

 

仕事終わり、ラウンジのバーで何度かグラスを交わし、ドッグの犬になることへの情熱とこだわりの根源を理解すると、「なるほどなぁ」と思ったし、股間をいきり立たせるタイプの変態ではないことが分かったので、ときどき外の店にも誘うくらいの仲になった。

 

 

「あいつ、話してみると無害だし面白いやつだよ」と、何かとドッグに当たりの強いヴァギーに言ってやるくらいには好感がある。

 

演者として様々な性癖をトレースしてきたエンジェルだったが、天然で無害な変態の友人は、単純に興味深い素材でもあった。

 

 

 

さて、そんなドッグと、ホテルの創設者であり我らが地獄のプリンセス、チャーリーの出会いは、まだホテルができるずっと前のことで、実は誰よりも早い。

 

このネタは、チャーリーがドッグを紹介するときに必ず口にするネタだ。

 

ホテルに来るまで、宿無しストリートドッグだったドッグは、その被毛を美しく保つため、毎日どこかの消火栓をぶっ壊し、シャワー代わりにしていた。

この地獄のインフラ整備は、任意で力のある悪魔が維持しているため、人のいい王女様は、毎日消火栓を修理することが日課になりつつあった。

彼女は人がいいが、嫌なことにはNOと言える悪魔である。犯人を見つけ出し、「消火栓を壊すのはもうやめてほしい。シャワーなら家で浴びてくれない? 」と苦言を申した。

 

「すると彼はどう言ったと思う? 」

ここまで話すとチャーリーは、目にきらきらした星を浮かべて前のめりになる。

 

 

「でも人を殺すより軽犯罪だろ? 」

 

当時のチャーリーの胸には、その一言で、どかんと爆風が吹いた。(リアルでも誰かが投げた爆弾も爆発していたが、気にならなかった)

 

 

まさかこの地獄で、「人を殺すより消火栓を壊すほうが軽犯罪」という価値観の悪魔がいようとは!

 

 

この地獄で自分の家を持とうと思えば、手っ取り早いのはすでにいる住人から奪うことだ。聞けば彼は、それを「人を殺したくないから」という理由で、三十年近くもホームレスとして我慢しているというではないか!

 

 

「わたし、無意識にこのシステムを当たり前だって思ってたの! 殺しが手段と考えているのは地獄だけ。地上や、もちろん天国じゃあ違うって忘れていたのよ! 」

 

 

ドッグは恥ずかしそうに「いやぁ」と左右にくねくねした。

そのときのドッグは、まさか目の前にいるのがこの地獄のプリンセスだなんて思わなかったから、自分はずいぶんと無礼な態度だったはずだと口にする。

 

「生前も含めて、女性にあんなに優しい目で見つめられたのは初めてだった。彼女の瞳は、この犬の過ちを純粋に心配してくれていて、叱られてもちっとも腹が立たなかった。「理想ノ飼イ主」そう、生涯をささげるのなら、彼女のような人がいい。自分はそう思ったんだ……」

 

胸に手を当て、二つの頭がうっとりと目を閉じて鼻を上げる。

 

 

「ああ、ドッグ……わたしは貴方の飼い主にはなれないけれど、そう言ってもらえるとうれしいわ」

 

チャーリーも潤んだ目で感極まったように何度も頷いた。

 

ヴァギーとアラスターは、この瞬間だけは、同じ方向を向いてケッと吐き捨てる。

 

 

 

ここまでが、「イツモノ」の光景だ。

 

新入りであるサー・ペンシャスは、引きぎみにチロチロ酒を舐めている。

 

ハスクは横目でそれを見て、やれやれと手持無沙汰にグラスを磨いていた。

 

 

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