地獄に堕ちたら死んでもなりたかったもふもふドッグになれた男 作:YK
旬ジャンルってすごい。そうおもった。
ニフティとホールの隅で何やらチピチピチャパチャパやっているドッグを見て、ヴァギーは(あ、こいつの狂気レベルってニフティとおままごとできるレベルなんだ)と、唐突に『理解』した。
そしてそれを柱の陰で、ジットリと見つめる赤い視線がある。アラスターである。
「どうしたの? アンタがそんなふうにしてるの、珍しいじゃん」
《そんなふうに、とは? 》
「いや、『そんなふうに』よ」
ヴァギーは、手のひらでアスターの輪郭をなぞるように大きく丸を書いてやった。
アレスターは、例えるならズボンの裾を引き上げるように口角を上げ、《気のせいでしょう。では仕事がありますので》と、去っていった。
そういえば、アラスターとドッグが会話しているところは見たことがないな、と思い至る。
(あの男にも苦手なタイプってあるのね)
アラスターは、体も心も着込む男だ。ドッグとは対極に位置していると言っていいのかもしれない。
今日はチャーリー不在の日である。なんでも、エンジェルの職場に物申しに行ったらしい。
はたして意気消沈して帰ってきたお姫様を慰め、何やら荒れているエンジェルの迎えにハスクを出動させ、帰ってきたエンジェルにしがみついて泣きだしたお姫様を引き取ってベッドで抱きしめて頭を撫でながら「よかったね」と寝かしつけて――――(つまり、ドッグが望むのも、『こういうこと』? )と、ヴァギーはまたもや唐突に『理解』した。
ヴァギーの中で、『よくわからない変態』だった男が、唐突に『寂しいあまり奇行を繰り返す男』の輪郭を持つ。
(あいつは、ただ『愛』が欲しいのね)
まどろみの中で、ヴァギーは心の中で呟いた。
その日、ヴァギーはチャーリーと出会う前の夢を見た。目が覚めてみると、寂しい気持ちになる夢だった。
「おねがい、パパ」
ドッグはチャーリーの電話を聞いていると頭痛がして、「ヴー」と唸った。
「どうしたのドッグ」
そのままのっそりとソファから立ち上がると、エンジェルが目をぱちくりさせて言った。
「チョット、寝ル」
「二度寝? いいじゃん。おやすみ~」
いつもなら返事を返すのに、どうしてかできなかった。
頭が痛いわけじゃないのに、頭が痛いときのような重い感覚がある。
「ヴーッ」
「ヤダ、ヤダナ」
「ヴ―ッ! 」
「ナンカヤダゾ」
部屋に飛び込み、布団の下でくるまると、眠くないのに寝ろと誰かに言われている気分になった。
腹の奥もズンと重い。
ああ知ってるぞ、と、過去の記憶が蘇った。爆発するように流れ出した頭の中のアルバムを塗り替えるために、ドッグは頭の中に、窓辺の籠を召喚する。
日向、クッション、小さなふわふわ。
寝息、誰かの手、瞼の上の小さなキス。
『今日からおれが、お前の親父だと思って尽くすんだ』
母が死んですぐ、よく知らない男が俺にそう言った。
恐ろしかったけれど、でも大きな手で撫でられるのは嬉しくて、心臓がどきどきして、「やらなくちゃ」と思った。
頑張れば撫でてもらえる。
一緒のテーブルでご飯を食べてもいい。
『俺たちはファミリーだ』
『あいつは俺たちのいい犬だ』
『なあ、いつも通りコイツでアレをドンッだ』
『サツを引き留めて、これで足止めしろ。できるだろう? ジョン? 』
「ジョンは死んだよ。サツに撃たれたんだ」
目が覚めると、チャーリーが大喜びしていた。
チャーリーのパパがやってきて、帰ったらしい。
チャーリーは、天国に行って偉い人と話をしに行くそうだ。
そうするとどうなる?
「あなたも天国に行けるかも! 」