「皆さん入学おめでとう。私は副担任の
教壇に上がった緑短髪の女教師――真耶が生徒たちに向けて自己紹介をするが物珍しいどころか本来いるはずのない男子生徒に対して集中している彼女たちから反応はなく、軽く会釈をする程度の男子生徒が一人。
それに戸惑いつつも続きを始める。
「今日から皆さんはこのIS学園の生徒です。この学園は全寮制、学校でも放課後も一緒です。仲良く助け合って楽しい三年間にしましょうね」
が、やはり反応はない。
「ぇ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと出席番号順で――」
気の弱い真耶は困り、けれど教師として進行を行った。
「――
真耶の呼びかけに反応し、中央最前列に座っている男子生徒――一夏が反応し、周囲から笑い声が発せられる。
「大声出しちゃってごめんなさい。でも『あ』から始まって今『お』なんだよね」
ボーっとしていたことや居心地の悪さに周囲の笑い声。
気まずさの中で一夏は決心したように立ち上がる。
「え~、織斑一夏です。よろしくお願いします。……――以上です!」
何を思ったのか。
少しの沈黙、そして深呼吸ののち、そうハッキリと締めくくった。
直後、拳が一夏の頭に振り下ろされる。
「ぅぅ、いったぁー……げぇッ、千冬姉!?」
一夏が驚愕とともにそう叫ぶと再び拳が振り下ろされた。
「学校では織斑先生だ」
「あっ先生。もう会議は終わられたんですか」
「ああ山田君。クラスへの挨拶押しつけてすまなかったな」
「諸君! 私が担任の織斑
そう力強く言った直後。
クラスの女子生徒たちからけたたましい黄色い悲鳴が発される。
「で、お前は挨拶もロクにできんのか、お前は」
「いやぁ、千冬姉、俺は――」
「織斑先生と呼べ」
「はい、織斑先生」
度重なる『千冬姉』の呼称。
周囲の女子生徒たちが一夏と千冬の関係性や、一夏が女にしか乗れないはずのISに乗れた理由をそこに見出し、辛うじて冷静さを残していた幾人かが教室後ろに視線を向ける。
「静かに! 諸君らにはこれからISの基礎知識を半年で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染みこませろ。良いか? 良いなら返事をしろ、良くなくても返事をしろ」
問答無用の言葉。
女子生徒たちは勢いよく、合わせたように「はい!」と返事をした。
「――最後、
「ぁい」
発された本来いるはずのない、聞こえるはずのない男の声。
最後ということもあり期待が高まり、その声の主に全員の視線が集中する。
だが当の本人に気にした様子はなくやる気のないような返事とともに立ち上がった。
「え~、始めまして。渡辺
自ら無気力に映ると言うだけあって力のない目。そして正されていない姿勢に気力の抜けた指先と、間延びしたような口調。
一夏ほど整った容姿ではないこともあって女子生徒たちからの反応は男子生徒二人のIS学園といえどあまり高まっていなかった。
そもそもとして、いかにIS学園が事実上の女子高とはいえクラスメイトである彼女たちはつい最近までは外部の中学にいて、そのほとんどが共学。
つまり男子断ちのなされていない彼女たちにとって男だからというのは騒めく理由にはならなかった。
一夏と元親。その両者の差は容姿と、そして世界最強のIS操縦者である『織斑千冬』の弟であるという二点である。
――――――――――
「なあ、渡辺って言ったっけ? 元親でいいか?」
「――うん、渡辺元親。それで? どうかしたかな?」
「いや、同じ男同士仲良くしておこうと思ってさ。やっぱり男一人だと肩身狭いだろ?」
「ははは、そうだね」
ペラリとページをめくる手を途中で止め、声の主に目を向ける。
いかにも好青年といった雰囲気の笑みを浮かべ、親し気にする彼に元親は軽く笑い要件を訊ねた。
男の友人を作ろうとする一夏は元親が何を読んでいるのか、本には目を向けず親交を深めようとし、新たな乱入者によってそれを阻まれる。
「一夏、話がある」
元親の見知らぬ少女――篠ノ之箒。
彼女は幼馴染である一夏に用事があるらしく声をかけ、ここではできない話とのことで一夏を強制的に連れて行く。
そんな様子を興味なさげに一瞥だけで済ませた元親は周囲の視線などロクに気にせず、本を読むにも集中が切れたと欠伸をして目を擦った。
(あ、カサブタ。しかも剥がれかけで一番気になるヤツ。今日お風呂の時にふやかして擦って剥がそ……)
心底周囲に関心がなく、元親は息をひそめるかのように物音を減らし、俯いて顔を隠し伸びた髪で首元を隠し、肩を縮めることで骨格を偽装。
まるで男子生徒などいないかのように男としての要素を減らし、廊下で覗こうとしている生徒たちに男子生徒はトイレにでも行ったと思わせることで教室外の雑音を少しずつ減らす。
(そういえば……元々はしばらく家から通うって話だったのに急に寮生活にねじ込んだんだっけ? 別にそこにこだわりはないけど寮生活なら初めからそうして欲しい。急げばねじ込めるのに急ぐ気がなかったって辺り、上の奴らはホント俺を実験体か珍獣としか思ってないんだろうなぁ)
努力の甲斐あってか教室外から雑音が減りつつあった。
そんな時、不意にチャイムが鳴り響き、少しして一夏と箒が戻ってくる。
どうやら努力のお陰ではなく単純に時間だからということだったらしい。
――――――――――
「――ではここまでで質問のある人~。――織斑くん何かありますか?」
授業半ば。
そこまでの理解度を計るために質問を訊ね、その中でもつい最近までISに馴染みのなかった男子生徒、席が目の前ということで真耶の意識は一夏に向けられた。
「がぁっ、えっと――」
「質問があったら聞いてくださいね。なにせ私は先生ですから」
「ぅう……先生。ほとんど全部わかりません」
「全部ですか!? 今の段階でわからないって人はどれくらい居ますか?」
複雑な感情の交じった呻き声と戸惑い。
ほぼ全てを理解できていないという一夏の言葉に真耶は慌てて周囲を窺った。
「そ、そうだ! 渡辺くんは!?」
「今のところは初歩なので大丈夫です。僕は気にせずわからないらしい織斑くんの相手をどうぞ」
「は、はい。良かったぁ……」
ゼロから教えることになる生徒が二人なのではと心配していた真耶は元親の言葉に小さく安堵の声を漏らした。
「織斑。入学前の参考書は読んだか?」
いたたまれなさで縮こまる一夏。
困惑と安堵の真耶。
淡々と言葉を返す元親。
どうしようかと真耶は慌て、そこに進行役として千冬が入る。
「あの分厚いヤツですか?」
「そうだ。必読と書いてあっただろ」
「やぁ……間違えて捨てました」
出席簿が一夏の側頭部を襲う。
「あとで再発行してやるから一週間で憶えろ。いいな」
「いやっ、一週間であの厚さはちょっと」
「やれと言っている」
殺気すら覚えてしまう鋭い視線。
「うぅ……はい、やります……」
他の誰の所為でもなく、自分の所為であることを自覚している一夏は一週間の詰め込みに恐怖しながら渋々それを受け入れることになった。
――――――――――
「なあ元親。お前ってホントにあの内容理解したのかよ」
「ははは、まあね。僕としては必読って書いてあったモノを捨てた方が信じられないけどね。必読の部分に意識が言ってなかったとしてもあのサイズだし一度は目を通すと思うんだけど」
「うぅ……」
休憩時間。
自分の状況ともう一人の男子生徒の状況。
その差を疑うように、救いを求めるように一夏は元親に尋ね、打ちのめされた。
「再発行まで時間がかかるだろうし、それまで僕の――」
「ちょっと宜しくて?」
「ぅえ?」
「――何かな?」
多少の善意といった様子で元親が話を切り出そうとし――そこに一人の少女が割って入るように声をかける。
「まぁッ!? なんですのそのお返事!? わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですからそれ相応の態度というものがあるのではないかしら?」
「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」
「わたくしを知らない!? セシリア・オルコットを?! イギリスの代表候補生にして入試首席のこのわたくしを!?」
返事をしたもののどうやら今彼女の意識は生返事をした一夏に向いているようで、ほぼ意識外にいるであろう元親は最早どうでもよさげに、けれど自分の席のすぐそばでやりとりをされていることにうんざりしていた。
「あ、質問良いか?」
興奮するセシリアに対し、温度感の真逆な一夏は自分の興味疑問に従う。
「下々の者の要求に答えるのも貴族の務めですわ! よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
「あ、あ……」
「あ?」
呆気にとられ、声を漏らすセシリア。
まさか自分がそう思われているとは思わず、何を言おうとしているのかと気にする一夏。
「信じられませんわ! 日本の男性というのは皆これほど知識に乏しいものなのかしら? 常識ですわよ、常識!―貴方もですの!?」
「貴方もですの!?」
「……セシリア・オルコットの名前と一般公開されている情報。IS関連知識は授業を受けれる程度には知っていますよ。彼が特別無知なだけでしょうね」
無知は一人で充分だと思いつつきっとそうなのだろうと元親に訊ね、予習済みの元親はそれを否定。
「酷くないか!? じゃあ元親、代表候補生って?」
サラッと特別無知と評された一夏はそれにツッコミを入れるが、事実その通りであるため怒ることは出来なかった。
そんな一夏から投げかけられた問いに元親は渋々応じる。
「……代表候補生、正確には国家代表候補生。ISの核となるISコアは世界に有限個、467機しかないとされている。一国の有するコアは少数で自動車みたいに簡単にバラ撒ける代物じゃない。だからより有益なデータ採取のためにはより高い能力を持った操縦者にISを使わせたいワケ」
「へー、有限個なのか」
「…………だからその高い能力の操縦者を得るため、様々な経緯で選抜された国の顔の一面ともいえる存在が国家代表で、それに次ぐ実力者が代表候補生。……オーケー?」
「なるほどな! エリートか」
せっかく色々と解説をしたにもかかわらず、その半分すら理解できていないであろう一夏の反応。
こんなことなら雑に『スゴイ強い』とでも言って流しておけば良かったと後悔しつつチラリとセシリアに視線を向ける。
「そう、エリートなのですわ! 本来なら、わたしのような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡! 幸運なのよ! その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか、それはラッキーだ」
「馬鹿にしていますの?」
「お前が幸運だって言ったんじゃないか」
またしても話の主軸から外れる元親。
ちゃんと勉強をしていたおかげで面倒な相手に絡まれずに済んだと内心安堵しつつ、やはり自分の席で繰り広げられるやりとりにうんざりし。
どうにか離脱できないかと思考していた。
「大体、何も知らないくせによくこの学園に入れましたわね。世界で初めてISを操縦できると聞いていましたけど期待外れですわね。」
「俺に何かを期待されても困るんだが……」
「まあでも? わたくしは優秀ですから貴方のような人間にも優しくしてあげますわよ? わからないことがあれば、まあ、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよろしくってよ? 何せわたくし入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから!」
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
その言葉にセシリアのみならず話半分だった元親も驚く。
「はあ?!」
「倒したっていうか、いきなり突っ込んできたのを躱したら壁にぶつかって動かなくなったんだよ」
壁にぶつかって動かなくなる。
その話に元親はふと首を傾げたくなった。
話から自分の時とは教官が違うのだろうと理解したが、それ以前に壁にぶつかって動かなくなるという事実が様々な理由で信じられなかったのである。
ISは宇宙での運用を前提に設計されたマルチフォーム・スーツ。パワードスーツの一種であり宇宙には宇宙線や岩石やガス、塵といった天体が存在し高速で飛来するためそれから身を護るISが壁にぶつかった程度で動かなくなるという状況がにわかには信じがたかったし。
加えて入試の教官を務める人間がその程度の初歩的なミスを犯すこと。さらにはそれが事実だとしてやり直しにならなかったという事実が不思議だった。
「わ、わたくしだけと聞きましたが」
「女子ではってオチじゃないのか? 元親はどうだった?」
「普通に負けたけど? 織斑先生に勝てる初心者が居たら見たいよ」
「千冬姉が相手だったのか?! 良いなー」
「シスコン? てか入試を身内の人間に任せるワケないんだから状況がどうであれ無理で――」
「貴方!? 貴方も教官を倒したっていうの!?」
「えぇっと、落ち着けよ。な?」
「これが落ち着いていられ――」
叫ぶセシリアの声を遮るようにしてチャイムが鳴り響いた。
「話の続きはまた改めて! よろしいですわね!!」
――――――――――
「元親~! 一緒に帰ろうぜ~」
「あはは、ごめんよ。今から職員室に行かなきゃなんだ」
「それくらい待つぞ?」
「――いいよ、他にもいくつか行くところあるし。先に帰ってて」
「そっか。じゃあまた明日な!」
「うん、また明日ね」
下校の誘い。
帰り支度を済ませ、元親はそれを断って職員室へ、千冬の下へと向かった。
「来たか」
「それで用っていうのはなんですか?」
「ああ、これをお前に渡しておく」
「……これは?」
「IS学園訓練機、第二世代型、
そういって渡されたのは銀色の腕輪。
それを受け取りつつ元親はふとした疑問を投げかける。
「であれば織斑くんも呼ぶべきなのでは?」
「織斑一夏には倉持技研から別途専用機が与えられる予定だ」
「……なるほど。ちなみにこれの貸出期間予定は卒業までの三年ほどですか?」
「ああ。予定ではそうなる」
「IS学園にいる間はこれが僕の専用機、と」
「ああ」
世界で二例のみの男性操縦者。
そのデータは重要で、
様々な観点から独自の専用機を与えるのはメインのみだが、訓練機の期間限定専用機化程度であればサブにもコストを割ける。
「訓練機は不特定多数の使用者がいる都合上で初期化と最適化の設定がオフになってますがこれはオンにしても良いんですかね?」
「返却時に元に戻せる範囲でならば好きにして構わないとのことだ」
男性操縦者での稼働データが欲しいというのなら当然の話。
可能な限り制限は解除すべきであるし、何よりも三年間専用機になるのであればその間使用者は不特定多数ではなくただ一人のみ。
そもそも初期化最適化の制限を設ける理由がない。
「訓練の際のアリーナの使用権は?」
「優先権が与えられるが場合によっては使用できない場合もある。アリーナの整備するという条件で整備時間の使用も可能だ」
これも同様。
稼働データを求めるのにそもそも稼働できる環境が整っていません、というのは話にならない。
特別措置としてそうなるのも必然。
「整備管理棟の使用に関しては?」
「そちらに関しては埋まることは基本ないから申請して好きに使え。埋まっている場合は他の生徒同様大人しく諦めろ」
「了解です」
整備に関してはそもそも操縦者本人が行うことを想定していないため今回は特別措置に考慮すらされていないというのが正しい。
「他は?」
「僕は大丈夫です、ありがとうございます」
「そうか。であればこちらからの要件はもうない、荷物は部屋に届いているはずだ。足りないものは自分で買え。それと最後に――」
会釈し、立ち去ろうとしたところを千冬の声で止まる。
「――以前あった時よりもやつれたが大丈夫か? 見たところ精神的な面が強いようだが」
「はは、参ったなぁ……流石は世界最強、そこまでわかるのか」
やつれたというだけなら問題ではなかった。
短期間で慣れない勉強をしたのだ、やつれた自覚はある。
が、それを精神的面として認識されたというのは少し問題だった。
彼女とて元親の状況は理解しているだろうし、勉強疲れという考慮もするだろう。
しかしそれを含めてなお、精神的面を指摘した。
「どうせなんでこの際ハッキリ言っておきますね。僕は――俺は――」
主人公:渡辺元親
中学卒業後から髪を切っていないため少し長め(元々校則に掛からない程度の長めの髪ではあった)
勉強はできるタイプだけどそもそも中学レベルは授業を適当に流し聞きするだけで点が取れるためこれまで勉強らしい勉強をしたことがない
マトモに勉強したと言えるのは今回が初めて
勉強経験がなく大変ではあったけど実験体にはなりたくないから頑張った
容姿は平凡。つり目がちなジト目の三白眼
感情は主に口元(右側)に出る。なぜ右側かといえば、笑顔が苦手だったため練習したが、その頃虫歯の治療で片方に麻酔をかけることが多かったため表情筋の使い方が不均等になり、そのうち右ばかり表情筋が発達したから
元親の半専用機、打鉄くんちゃん
事前にある程度設定を済ませていたもののIS学園から持ち出すワケにはいかなかったため今回アクセサリ形態で支給
腕輪の状態は『オルペウスの腕輪(ファイ・ブレイン ~神のパズル~)』のレプリカ・リングの銀色を想像してください