ナチュラル   作:レイジー

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第九話 盗聴、裏取引、主人公のすることかよ

 月曜、朝。

 その日、学園は普段よりも少し賑やかだった。

 より正確には騒めいていた。

 

「おはよう、織斑くん」

「ああ、おはよう元親。ところでみんなの中で何か噂があるみたいなんだけど知ってるか?」

「……知らないかな~」

 

 学園内で蔓延っている噂。

 それは、月末の学年別トーナメントで優勝すれば織斑一夏と交際できるというモノ。

 自分には関係がないし、事実ではないだろうが嘘という証拠もない元親は興味を示さず、また彼に対する内心もあって噂のことは知りつつも知らないと口にした。

 

(……あの二人、何かあったのか? まさか同じ部屋になった結果ゲイに目覚めた? 華奢な美形がお好き? 地味な面の筋肉付きで良かったぁ。……アイツに救いがあるとすればデュノアが顔も身体つきもどう見ても女にしか見えない――いや、性趣味は個人の問題、ゲイだろうとバイだろうと俺には関係ないし口出しする筋合いもない。やめとこう)

 

 だが人の噂とは往々にして歪むもの。

 いつしかその噂は、優勝すれば男子生徒との交際に変じていた。

 つまり、元親も噂の渦中である。

 

「本音~、女子としては織斑くんってそんなに魅力的なの? 皆あの噂で持ちきりだけど……」

「う~ん。私は別にかな~? でもいっちーはモテモテだよね~。もっちーもだけど」

「……はいぃ?」

 

 唐突な流れ弾に元親はどこぞの特命係のような発し方をする。

 

「だってもっちーは前みんなを助けたからね。今みんなの中でちょっと人気なんだよ~、意外とカッコいいって」

「なんだ、ただの一過性の人気だね、安心した」

 

 所詮は本質を見ず、一時の出来事で揺らいだ感情。

 そこに持続性はない。

 そう考え、元親は安堵する。

 誰が敵か分からず、仮に敵じゃなかったとしても自衛の術すら曖昧な現状では自身の色恋など思考に入れる事すらできなかった。

 

「もっちーは人に好かれるのイヤ?」

「ん~、僕って他国とかからすれば研究対象じゃん? 下手に出歩けば身の危険があるワケで。そんな人間を好いたとしても不幸な結末しか待ってないだろうからさ。好いてくれるのは嬉しいかもだけど、だったらだからこそ好かないでいてくれる方が嬉しいな、って」

「そっか~。噂を本気にして告白されたらどうするの?」

「……ど、どうにか断る。極力傷つけずに……が、頑張る。……ん? ちょっと待って? 噂はあくまでも織斑一夏じゃないの?」

「もっちーもだよ~?」

「うべぇ……」

 

 驚愕の事実。

 力なく机に伏す元親の脳内では様々な思考が渦巻いていた。

 流れている噂は恐らく、学年別トーナメントで優勝すれば男子生徒と交際できる、というもの。

 であれば、そこに学年は関係ない可能性があり、上級生からの告白もあり得る。

 ないとは信じたいが、ないと否定できる根拠もない。

 脳内データベースで優勝候補生がピックアップ。何人か思い当たる。

 

(ぶっちゃけ俺は自覚できる程度には押しに弱い。立場の弱さもあって話を聞かずに強引に迫ってくる相手だとその場で身の危険を立証できない以上は断り辛い。としたらどうやって断――付き合うという選択肢を消すという手段はどうだ? トーナメント前に付き合――ムリだ、どうやっても俺にはそんなこと――あ、先輩? 頼めばワンチャン偽装彼女としていてくれるんじゃ? ロシアの国家代表って辺りが色々懸念点だけどあの人なら理解もあるし可能性はある!?)

 

「もっちーいきなり起き上がってどうかしたの?」

「あ……なんでもないです」

 

 天啓のごとき閃きに思わず勢いよく身体を起こした元親にチラホラと視線が集まり、少し恥ずかしそうに俯く。

 

(よし、急げ急げ。え~、文面はどうすっか、長々と書いても分かりづらいだけだから端的に――『学内で広まっている噂の当事者であることを知りました。それにあたって、私と交際していただけないでしょうか?』と。よし送信!)

 

 達成感に満ちた表情も束の間。

 即刻返信が帰ってきた。

 曰く、ロシア代表としての立場があるから学生のお遊びという名目であっても交際は難しい、というもの。

 元親は電池の抜けた機械のように動きを硬直させ、チャイムとともに意識を覚醒させた。

 

――――――――――

 

「――!」

 

 トイレに誘われ、ちょうど尿意を催していたこともあり一夏とトイレに向かった元親。

 だが使用可能なトイレ位置の都合と、一夏のトイレが長引きそうだったということから元親は我ながら薄情だと思いながら先に疾走していた。

 

「――」

 

 そんな道中、曲がり角の先からラウラと千冬の会話が聞こえてくる。

 面倒だと思いながらもその道を通らなければ距離は大幅に伸び、迂回は少し面倒。

 とはいえ少し厄介そうな会話の最中に飛び込む勇気もナシ。仕方なく迂回をし、正規ルートへと戻る。

 

「なぜこんなところで教師など!」

「やれやれ……」

 

 どうやら会話はまだ続いているらしい。

 時間を確認する。

 まだ多少の余裕は残っていて、けれど話が長引けば遅刻は必至。

 どうするのだろうと気になって下品ではあるが元親は時間ギリギリまでの盗み聞きを決めた。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」

 

 各国で見る世界地図とは大体が自国を中心とするもの。

 なるほど、確かにドイツからすれば日本は極東。だがあまりにも自国中心の思考が過ぎる。

 元親は何故誰も彼もがISの開発者の出身地を、IS学園の所在地を忘れるのだろうと溜め息を吐きたくなったが、盗み聞きの手前、我慢した。

 

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」

「ほう」

「大体、この学園の生徒など教官が教えるにたる人間ではありません」

「なぜだ?」

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている。そのような程度の低いものたちに教官が時間を割かれるなど――」

「――そこまでにしておけよ、小娘」

「っ……!」

 

(目的はわかるけど、なんで地雷を踏みに行くかなぁ? 思慮が浅いというかなんというか。だからこそこうして俺の娯楽になってるんだけど)

 

 どう考えても逆効果なラウラの説得は当然のことながら千冬の神経を逆撫でした。

 

「少し見ない間に偉くなったな。一五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

「わ、私は……」

 

 流石に自分の行動が逆効果だとは気づいたのだろう。

 ラウラの声は明確に震えていた。

 

「さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れよ」

「………………」

 

 千冬は声音を普段のモノに戻し、そう急かすことでラウラを足早に去らせ。

 そして会話が終わったことで元親もそれに続いて教室に戻る。

 

「貴様、今の見て――いや、聞いていたのか?」

「あ~、うん。見たし聞いた」

「そうか」

 

 足早に戻る二人。

 身長――脚の長さもあって元親はラウラに追いつき、並んでいた。

 

「ま、どうもせんよ。誰かが誰かを嫌うのなんて人間関係なら当然だし、初日のアレでわかりきってるから周囲も何も思わんだろ」

「……」

「それに俺も同じだし」

「なんだと? ……ふっ、理解者を気取ってこちらの情報を引き出そうというのか? ならばくだらんし無駄だったな。あいにくと私は情報を持っていない」

 

 噂を広められることに対する危惧はない。そう説明する元親。

 さらには自分も同じであるというが、ラウラはそれを深読みして拒絶する。

 そういう職務ではないとはいえ、軍人である以上はそういったスパイ行為も知っているし、その手段も少しではあるが理解している。

 

「あ~、そこにゃ興味なし。国家に対して個人でどうこうしようと思うほど頭カルトじゃねえし、不満あっても実行しようとするほどの行動力もねぇからな」

「……」

 

 元親にはその手の興味はほとんどない。

 というよりもそもそもが大多数の人間は興味がないだろう。

 生きている国に不自由を抱いたとしても、ほとんどの人間がその感情を抱きつつも行動はしない。

 したとしても政治家になる、など。

 革命や、戦争など、そのような思考に至るほどイカレた頭をしてはいない。

 

「単純な話、俺もアイツが嫌いってだけ。そりゃそうだろ? 俺はアイツがISに触れなきゃ平穏な日常を謳歌できてたし、将来の目標も捨てずに済んだ」

「? ……ああ、そういえば貴様は男二人目の操縦者として、捜索された結果の人間だったな」

「そゆこと。ケンカして上からの印象悪くするワケにもいかないから体裁上は仲良くしてるけどぶっちゃけ嫌いだし」

 

 一応。ラウラも元親の情報はある程度知っていた。

 上から情報が提示され、軍人としてそれには目を通していた。

 だからこそ元親の一夏に対する嫌悪感は全てではないにしろ多少理解でき、納得もできる。

 それゆえか、ほんの少しではあるがラウラの警戒心も薄れた。

 

「それで? それを私に言ってどうする気だ。同情でもして欲しいのか? 残念だったな、私はそう優しくはない」

「不幸自慢じゃねーよ。ただ共感したからこそボーデヴィッヒさんのもったいない部分を残念に思っただけ」

「なんだと?! もったいない……残念!? 貴様は私を愚弄するか!」

 

 受け方によっては煽りともとれる言葉。

 実際、ラウラは煽りと捉え、思わず掴みかかろうとしたが自制し、睨むだけで終わらせる。

 

「君が千冬さんを好いてるのはわかったし、だからこそその弟と嫌悪にするのは逆効果だと思うのさ」

「……私は奴を弟とは認めんッ」

 

 理屈を説明しても相手に聞く耳がなければ意味がない。

 理屈の説明とは経由地は正しくても、その道中が右往左往している者に対する行為。

 たとえば、私的感情によって前提条件として順序が入れ替わっている相手には意味をなさない。

 何故ならば、現実を説明しようとも感情によって事実が捻じ曲がるからだ。

 

「じゃ、そこを無視してもあの人は教師、でしょ? 悪い雰囲気を生み出す生徒はその立場としては悪印象だ」

「む……仲良くしろと言うつもりか?」

「まっさかー? そこまで言わないよ。けど最低限、周囲と上手くやってるように見せるべきだと思うよ。あくまでもそういう距離感、関係性に問題はない。そういう……なんだろうね、誤魔化し? かな」

「!?」

 

 ラウラが聞く耳を持たないからと言ってそれは全てに対してそうとは限らない。

 会話をしようと思った元親は会話を容易く諦める気はなく。ラウラの理解できる範囲での会話を試みた。

 ラウラが一夏を『織斑千冬の弟』として認めなかったとしても『織斑先生の生徒』であることには感情が絡まないため理解はできる。

 そして、教官と兵という関係性だった以上は、その場をかき回す問題児に悪感情を抱くことも理解できた。

 だからこそ思考は友好の押し付けだろうと結論付け。

 けれどそれに反する仲良くする必要はないという言葉に驚愕する。

 

「とはいえ全員と仲良くしないのはそれはそれで問題だ」

「……」

「ま、話を聞く限り君は周囲の生徒に対して悪感情を抱いているのも理解した。織斑ほどじゃないにしても、ね」

「ああ。ISを玩具か何かだと思っているような奴らとは仲良くできんな」

「ははは、そもそもISは宇宙開発用だから戦争用でもないんだけどね~。ま、それは別の話だからどうでもいっか」

 

 ラウラの前提意識が甘いという言葉に。

 元親はそもそもその前提認識すら間違っていると笑うが、それはあくまでも国家の問題であるため強くは言わずその会話は切り捨てた。

 

「こうするのはどう? 俺と仲良くしよう。友人じゃなくて良い、日常的に仲良くする必要もない。あくまでも千冬さんの前だったり、教師の前でだけ仲良くする。もちろんそういう意図が察されては問題だから仲良くするフリではなく本心から仲良くする」

「ふんッ、やはり本音はそこか。言っただろう、情報など持ち合わせていないとな」

「だから要らんって。ただ――ちょっと冷静さを取り戻したら仲良くなれるんじゃないかな、って思っただけ。同じ織斑一夏嫌い同士、ね」

 

 そう。

 元親の結論はそこだった。

 意識と無意識の混在。

 特殊な環境で、理解者は皆無。

 人間とは社会性の動物であるがゆえに理解を、共感を求める。

 それは元親も同様で。同じ感情を有した者に惹かれたのだ。

 更識簪と同じように。

 

「……」

「ありゃ? まだ納得いかない? じゃ、一つこの関係性の利点を提示しようか」

「なんだ?」

「月末のトーナメント。千冬さんや生徒会長曰く、ペアでの参加が必須らしくてね。一緒に組んで優勝すれば千冬さんに良いトコ見せられると思わない?」

「ふっ、貴様のような雑魚と組んで優勝などできるものか」

 

 鼻で笑う。

 だがラウラは気づかない。

 既に自身の論点が仲良くするしないではなく、元親と優勝できるか否かになっていることに。

 

「ちなみに、ペアが出来なかったら抽選で組むことになるってさ。一緒に組んで、良いトコ見せたうえに良好な関係性、社会性を見てもらった方がお得だと思うけどな~?」

「くっ」

「そ・れ・に~? 組む相手が初めからわかってるほうが練習して優勝確率も高くなるよ? ちなみに、俺ってば男性操縦者ってことでアリーナの使用権が他の人より多いからいっぱい練習できるよ?」

「くぅッ……」

「……千冬さんが汗を拭う姿の写真、いるかね?」

「ふっ、そんな餌に私がよろしく頼む」

「ククッ、よろしくね」

 

 こうして二人は仲良くすることとなった。




釣られクマー
元親の精神が不安定だから始まった関係性だね
ま、一度仲良くなったら多分精神が安定しても大丈夫だと思うけど(知らん)

ゲイだのホモだのレズには理解がある系主人公
二次元大好きボーイだからね、仕方ないね
大天使トルカエルによって二次元限定で歪んでるぜ(歪みねえな)。あとルカ子でも
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