ナチュラル   作:レイジー

11 / 30
第九話の後書きで書くの忘れてた~
ラウラの精神状況変化の都合により彼女がセシリアおよび凰にケンカを吹っ掛けるイベントは消し飛んだぜぃ
二人は普通に参戦してる。ただし出番なし

あ、ちなみにちょこちょこ誤字修正をいただいていてありがとうございます
その中でいくつかある例として、言い回しに対する修正が存在しまして
キャラの個性だったり精神状況に応じてのあえてのら抜き言葉的使用をしている感じでして。わかりにくかったかな~と反省しつつ
今後も指摘をいただけるのであれば明確な言葉の誤用や誤字脱字以外は多めに見ていただけると助かります
ちなみに元親は重複を「ちょうふく」って読むタイプで、独擅場を「どくせんじょう」って読むタイプ。正しい読み方を知ると使いたくなっちゃう系の男の子だもの


第十話 彼女の終わり、彼女の始まり

 六月、最後の週。

 IS学園は学年別トーナメントによって一気に慌ただしくなっていた。

 試合開始の直前まで全生徒が駆り出されるほど。

 

「しかし、すごいなこりゃ……」

 

 更衣室のモニターには観客席が映し出されていた。

 そこには各国政府関係者、研究所員、企業エージェントなどなど。

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。一年には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者にはさっそくチェックが入ると思うよ」

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

 興味なさげに話そこそこな様子の一夏にシャルルが笑う。

 

「……」

 

 二人同様に着替えながらモニターを眺める元親。

 顔には出さないがその眼差しは忌々しそうに観客席を見ている。

 

「どうしたんだ? 元親?」

「あ~、うん、なんでもないよ。気にしないで」

「そうか?」

 

 無意識に元親の様子を察してか、一夏はふと振り返って元親の様子を窺うが元親はいつも通りの表情で誤魔化した。

 いや、正確にはその表情はいつも通りではない。

 僅かに、普段接している人間でなければ気づけないであろうほど僅かにではあるが、闘志が滲み出ていた。

 

「一年の部、Aブロック一回戦一組目なんて運がいいよな」

「え? どうして?」

「待ち時間に色々考えなくても済むだろ。こういうのは勢いが肝心だ。出たとこ勝負、思い切りのよさで行きたいだろ」

「ふふっ、そうかもね。僕だったら一番最初に手の内に晒すことになるから、ちょっと考えがマイナスに入っていたかも」

 

 そんな正反対な考えの二人。

 元親はおおよそシャルルと同じだが、方向性が少し違った。

 

(直前まで作戦考えたりペアとの意識同調をしてる方が良い……ま、個人依存か)

 

「あ、対戦相手が決まったみたい」

 

 モニターは観客席からトーナメント表に。

 目に入った文字に元親は面倒そうに表情を歪めつつ、ほんの一瞬、誰に見られることもなく獰猛に笑った。

 

「「――え?」」

 

 出てきた文字が告げたのは。

 一回戦。織斑デュノアペアと、ボーデヴィッヒ渡辺ペア。

 

(番外戦術は好きじゃないけど……公式な対戦でペアとはいえ手も足も出ずに負けて評価を落とす、なんて嫌だからな……)

 

「織斑くんと――デュノアさん、が何をしたいのかは知らないけど。やるからには僕も勝ちに行くから。じゃあね」

「え、は、元親?!」

「渡辺くん!?」

 

 静止の声を無視して元親は更衣室を去る。

 実はシャルル・デュノアは女でしたなどという話はシャルルと一夏の二人の中での話。

 同室ではなく、特別仲が良いワケでもない元親にそのことは明かされなかった。

 が、元親は観察からその事実を理解していた。

 とはいえ気づいたのは最近になって。そもそもが興味がなかったため姿形など意識にすら入れておらず、明確に気にしたのは噂が広まっていた日である。

 

――――――――――

 

「遅いぞ渡辺元親」

「やー、ごめんごめんボーデヴィッヒさん。改めて実験データを読んでたら遅れちゃった」

 

 先んじて到着していたラウラに元親はケラケラと笑いながら手を振る。

 

「……例のモノは完成したのか?」

「残念、未完成。というか理論からして流石に無茶でね~、どうにか二割ってトコかな?」

 

 ペアを結成してから今までの訓練時間。

 その際に策の一つとして話していた自身の自作武装。

 完成を訊ねられるが、元親は否定した。

 

「理屈に疎い私でもアレを二割というのがどれだけの脅威かはわかる。……正気か?」

「やー、もうちっと上手くできると思ったんだけどさ。多分初めに考えてた理屈と本来の理屈、違うんだよね~。だからごめん、二割って言ったけどゼロ」

 

 言うなら、それは研究の副産物。

 本来とは異なる、事実とは異なることでそうなってしまった。

 

「ところで、どうする? あくまでもボーデヴィッヒさんをメインに戦おうと思ってるからさ、ほら、千冬さんに良いトコ見せるって意味でも」

「……」

「頭が理解していても感情が追いつかないことは当然ある。織斑が嫌いなキミなら精神状態を考慮すべきと思ったんだけど」

「気をつかわせてスマンな。だが確かに今の私はまだ怒りに囚われている。面と向かえば支配されてしまうかもしれん」

 

 元親の説得を受け、一定の冷静さは取り戻している。

 けれど長年抱いていた感情は脳に焼き付いて痕を残していた。

 容易にはその治療はできず、不意の瞬間に冷静さを欠きそうになることは多々あった。

 ペアを組むということで一緒にいる事が不自然ではなかったためにその都度、元親が抑えてはいたがその数は数えきれない。

 廊下を歩いているときに能天気な声を耳にするだけでも怒りが爆発しそうになっていたこともあった。

 

「じゃ、こっちが織斑と戦うってこと――」

「だから私が二人を相手する」

「?」

 

 二対二の戦いにおいて、二を一で相手するという蛮行にして愚行。

 流石に擁護できないと元親は呆気にとられる。

 

「お前には援護を頼みたい。お前の頭脳――処理能力はハッキリ言って異常なほどだ。恐らく私のISを代わりに使えばより性能を発揮できるほどに」

「ンなコトねえよ……」

「私の弱点は以前話した通り。ゆえに、そこを補ってくれ」

「ま、そういうことなら良いよ。喜んで引き受けよう」

 

 何よりも、彼女が素直に頼り、任せてくれた。

 その事実が元親にとって嬉しかった。

 険悪で線を描き、排他を色を塗ったようなラウラが、である。

 成長、変化。

 しばらくの同行で多少なりとも私的感情が生まれていた元親はそれが、嬉しかった。

 

「色々試作が試せるからね、任せてくれたまえパートナーくん」

「抜かるなよ、元親」

 

――――――――――

 

「一戦目で当たるとはな。手間が省けてちょうどいいぜ」

「饒舌だな。ああ……私が恐ろしく、口を回すことでしか気を紛らわせんのか」

「理不尽に殴ってくるノータリンには多弁な方が良いかと思ったんだ」

 

 試合開始までの秒読みが、五から始まり――試合開始。

 

「「叩きのめす」」

 

 勇ましき雌雄の言葉はともに同じ。

 試合開始と同時に一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行った。

 それに対し、ラウラは右手を突き出した。

 

「くっ……!」

 

 一夏の動きが宙で止まる。

 それはラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』の武装《AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)》によるもの。

 能力はPICの応用系であり本質は変わらない。つまり慣性の停止能力。

 慣性停止の外部出力がAICの能力だ。

 

「開幕直後の先制攻撃か。わかりやすいな」

「……そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」

「ならば私が次にどうするかもわかるだろう」

 

 ラウラの言葉通り、一夏はその察しがつき、けれど危機感を抱いた表情ではなかった。

 

「させないよ」

 

 シャルルが一夏の頭上を飛び越えて現れた。と、同時に六一口径アサルトカノン《ガルム》の爆破(バースト)弾を浴びせる。

 

「ごめん! 撃ち漏らした!」

「――貴様には二度と驚いてやるものか! この玩具箱めッ」

 

 射撃は一部を残し、凍り付いた。

 元親による氷雨の――正確射撃である。

 世界一の命中率を誇る打鉄の超長距離射撃装備《撃鉄》を改造した装備で特殊弾丸を使用した。

 これといって長期間を費やしたというワケではない突貫の改造のため命中率は低下しているものの、対抗戦で用いられる戦闘範囲程度でならばその差は意味をなさない。

 高速狙撃。時間と技術が許す限りの速射によってその弾丸は凍てつき、爆発を免れた。

 

「なっ!? ――くっ!」

 

 シャルルの驚愕の声。

 自身の射撃によって捕らわれた一夏を助けようとしていたのだろうシャルルはその目論見を元親に阻止されてしまい、咄嗟の判断で再び射撃を行う。

 

「――ふっ」

 

 ラウラの嘲笑。

 シャルルはその表情を見て自身の選択が誤りだったことに気づく。

 止めるべきは再び攻撃を行おうとしていたラウラではなく、元親の方だった。

 一夏への多少の被弾を覚悟で即刻元親を攻撃すべきだった、と。

 倒せずとも牽制すれば良かった、と。

 

「やれ、元親」

「アイアイ」

 

 撃ち出される特殊弾丸――火垂。

 それは誰を狙うでもなく、凍結後にAICで未だ宙にとどめられていた爆破(バースト)弾を撃つ。

 凍てついた弾丸は猛烈な熱量によって解凍。弾丸は機能を取り戻し、爆破を起こした。

 発せられる爆炎と水蒸気による煙幕。

 火垂は空間の減圧と常圧化による熱量吸収以外にも、作用した空間内の要素を取り込む特性がある。

 それは例えば光。

 光とは電磁波、電磁波には可視光線ではない赤外線なども含まれる。

 可視光、赤外線、爆音。

 ISのハイパーセンサーが周辺探査に用いる要素を妨害するその特性。

 

「まだ!!」

 

 シャルルは直前の後悔に従って見失ったラウラではなく元親を狙った。

 元親には現状できない技能である『高速切替(ラピッド・スイッチ)』によって武装が切り替えられ、対応が後手に回る元親は被弾を許してしまう。

 シャルルの乗る『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』は原型のラファール・リヴァイヴ同様に潤沢な後付け装備があり、知識はあれども対応力は未熟さゆえに持ち合わせない元親は後手に回ることしかできない。

 

「くッ……流石に歴が違いすぎるか」

 

 観客席には聞こえない独り言だからと元親は彼もとい彼女の本質に対する言葉を口にした。

 

「悪いけどキミには退場してもらうよ!」

 

 襲い掛かる弾丸の雨。

 爆破(バースト)弾は凍り付かせ、それ以外は火垂の爆破で吹き飛ばす。

 辛うじて全弾命中は防ぐが、何度も繰り返せば弱点も予測される。

 

「キミの弱点は実体を持たないレーザーだ!!」

 

 実体があるがゆえに凍り付き、実体ゆえに爆風で吹き飛ぶ。

 ならばと、シャルルはレーザーを撃ち放った。

 

「IS射撃武器のメイン二分類。対策しないワケないでしょうが!」

 

 シャルルの予測も虚しく、元親に襲い掛かったレーザーは歪む。

 空間膨縮の特殊弾丸。マニュアルで弄ればその工程を中断でき、空間の常圧化をレーザーとの交流瞬間に再開させれば空間の膨張あるいは縮小によって光は逸れる。

 

「なッ!? ――くぅッ?!」

「そいつは私が守るお姫様だ。それ以上手出しはさせん」

 

 僅かな動揺の隙にラウラの攻撃が襲い掛かった。

 シールドエネルギーの減損。

 背に庇うようにしてラウラが前に躍り出る。

 

「私よりも元親の方が脅威という判断――正解だ、褒めてやろう。だが、一撃あるいは短時間で元親を撃破する術もなくその選択をしたのは愚かという他ないな。それならばあの男を守っていた方がよほど勝機があっただろう」

「――一夏!?」

 

 ラウラの言葉に反応し、シャルルは咄嗟に一夏の方を見た。

 幸い、元親を守るべく駆けつけたため一夏のシールドエネルギーは全損はしていない。

 だが首の皮一枚といったところだ。

 

「だ、大丈夫だ……俺はまだやれる……。絶対に勝つんだ……」

「まだ戦うと? ああ、本当に腹が立つ。それを掲げておきながら、大した努力もせずにいる神経……」

「ボーデヴィッヒさん?」

 

 変貌した様子。

 元親が窺う。

 

「勝利とは実力が伴って初めて許される言葉だ。そうでなければ妄言であり侮辱だ」

「ボーデ、ヴィッヒ?」

 

 再度、窺う。

 

「それを理解せずに戯言をほざく貴様にも――私にも腹が立つ!」

「ボーデヴィッヒ?」

 

 明らかにおかしな様子。

 落ち着かせようと近づくが、無意識によるAICの暴発によって動きが断続的になる。

 

「勝つというのなら何故努力しない!? それを求めるのならなぜ奴のように学ばん!?」

「お前、何言ってるんだ?」

「ーッ! 貴様の持つ雪片弐型(それ)は貴様のような奴が持っていいモノではない! 貴様の(それ)は貴様が容易く真似して良いモノではない!!」

「落ち着けボーデヴィッヒ! ――ラウラ!!」

 

 断続的な中、どうにか辿り着いた元親が声を張る。

 だがラウラにその言葉は届かない。

 

「それを持ちながら何故のうのうとしていられる!?」

「ラウラ!」

「使わないのならば(それ)を私に寄越せェェェッ!!!」

「ラウ――」

 

 爆雷。

 元親は吹き飛ばされた。

 

「一体何が……。――!?」

「なっ!?」

「ラウラ……」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンが不定形に歪む。

 スライムのごとく。

 狂気に蠢くように悍ましく歪み、ラウラを消化するかのように彼女を取り込んだ。

 

「なんだよ、あれは……」

 

 一夏の動揺も無理はない。

 原則、変形することのないIS。

 特例はあれどもそれに当てはまらないだろう現象に一夏は、それを見ていたほぼ全ての人間が動揺していた。

 ぐちゃぐちゃと溶かし、形成し直すかのような変貌。

 ラウラを包み込んだこともあって、元親の脳内には『蛹』がよぎっていた。

 蛹は一度中身を溶かして、そのうえで姿を変える。

 ラウラもそうなるのではないか。次見る彼女は彼女ではないのではないか。

 怒りが湧く。

 

「ラウラ」

 

 そして黒は全身を変化、成形させた。

 黒い全身装甲(フルスキン)

 現れたボディラインはラウラのそれであったことに安堵する元親だが、同様に現れた他の要素に冷や汗を掻く。

 

「《雪片》……!」

 

 かつての世界最強が振るった刀に酷似したソレ。

 

「――!」

 

 彼女が冷静さを取り戻してくれれば。そう思って正面に回った元親を通り過ぎ、一夏へと襲い掛かる黒いIS。

 普段の手合わせゆえにわかった。千冬のモノである、と。

 

「ぐうっ!」

 

 刀のぶつかり合いは一夏の負け。

 一夏は刀を弾かれ、追撃が襲い掛かった。

 だが千冬の動きを知っているため間一髪の回避は可能だった。

 

「…………がどうした……」

 

 白式のシールドエネルギーは底をついていた。

 

「それがどうしたああっ!」

 

 憧憬の模造。

 怒りに駆られた一夏は無謀にも襲い掛かろうして、シャルルに阻まれる。

 

「――行かなきゃ……」

 

 興奮状態の一夏とそれを宥めるシャルルを無視して。

 元親がゆらりと動き始めた。

 

「そいつは不器用なりに変わろうとしてたんだッ。それをどこの誰だかわかんねえ奴にッ――邪魔ァさせるかッッ!!」

 

 氷雨を放つ。

 関節部に対して乱射。

 膨大な凍気を生み出す。少し身を動かせば大気中の水分が纏わりついて動きを阻む。

 乱射。乱射。乱射。

 氷雨とは裏腹に銃身が熱を帯びていた。

 すると今度は逆に空高く火垂を撃ち放つ。

 乱射に次ぐ乱射。

 ほぼ一点に対して打ち込まれる弾丸はアリーナのシールドを一部破壊。そのまま上へと昇り、熱を生み出し、銃身を冷やす。

 

「ラウラ……戻ってこい」

 

 生み出された上昇気流によって雨が降る。

 その雨は凍気を纏った黒いISに降り注ぎ、全身を氷で装飾した。

 動きを止める黒いIS。

 元親は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を用いてラウラに触れた。

 

「良いトコ見せるって話だっただろうが」

 

 シールドエネルギーを操作する。

 それは、ラウラのIS武装AICを参考にしたモノ。

 つまりはPICを外部出力するモノを参考に。

 元親が行うのは――シールドエネルギーの外部出力であり。現象としては一夏の《雪片弐型》。

 効果は防御貫通。

 

「ハァァァァァッ!」

 

 本来ならば決勝戦で勝ちきれなかったとき、自分と引き換えに相手を倒す最後の切り札。

 シールドエネルギーを相手にねじ込み、反発によって相手の防御を破壊する術。

 シールドエネルギーを利用しつつも別のモノに変換して用いている一夏のそれとは異なる防御貫通。

 自分の防御を捨て、相手の防御をなくす。

 鈍い音が響く。

 

「――」

 

 強烈な反発。

 肩が、腕が悲鳴を上げる。

 壊れそうなほどに。

 

「そいつはこれからなんだ。だから、な? 大人げないことしてんじゃねえよ」

 

 バリアを無視し、素手で黒を破壊する。

 指先から広がる反発は血流以上の力で指を圧して、指から熱を奪う。

 血を、酸素を失い、熱が消え。

 同時に指から力が抜け、反発に負けて指は歪に反った。

 

「――ッ!!」

 

 関係ない。

 指がダメなら手の平で。

 そう全力で黒を打つ。

 力の限りを尽くし、黒を圧し砕く。

 

「正気に――戻りやがれぇぇぇッ!!」

 

 鼓動と力が共鳴した。

 血流に後押しされた力は、沿った指を無理矢理に正常位置に戻し、一時の破壊をもたらす。

 一、二と黒が砕け、一気に砕かれラウラを隠しきれなくなっていた。

 ラウラに触れる指先。

 シールドエネルギーがラウラに流し込まれ、黒は内からの反発に耐え切れず弾け飛んだ。

 

「……何やってんだ、ラウラ」

 

 ジジッ……と紫電が奔る。そして黒いISが二つに割れた。

 ラウラと目が合う。

 気づけば外れていた眼帯の奥にあった金色の左眼とも視線が交差した。

 

「手間がかかる黒――いや、銀騎士(ナイト)様ですこと……」

「ふっ……なんだその口調は」

「お前が姫とか言い始めたんだろうが」

「そうだったか? ……まぁいい。ありがとう……元親」

「――おう」

 

 彼女はそういうと力を失い、意識を手放した。

 

――――――――――

 

 心が交差した。

 心が介入した。

 彼女の心に彼が紛れ込み。

 彼女はそれを笑って許した。

 

――ありがとう、元親。

 

『さて、な』

 

――……私はどうすれば良いと思う?

 

『自分の人生なのに俺に聞くのか?』

 

――わからないんだ。自分はどうすればいいのか。自分が何をすべきなのか。何をしたいのか。

 

『人生レベルだとわかんねえけど。まあ、まずは織斑に謝っとくべきとは思うがな。心の整理ができていなくても禍根を残すよりはマシだし。謝りゃ何か精神的に変わるかもしんねーし』

 

――決着、ということか。

 

『ま、人生レベルの話に関しちゃ千冬さんの真似とか、そういう憧れに近づく努力からすれば自分の足りないモノ、自分の欲しいモノが思い浮かぶだろうし。まずは動くべきだな』

 

――元親はどうなのだ?

 

 

『俺? 俺は……実験動物とかいう下らん死に方したくないって感じが大体だからなぁ。今はあまりそういうの考えられんというか。前は好きだったからゲームクリエイターとか目指してたんだけどな』

 

――私は深く考えすぎなのか?

 

『かもな。将来の目的とかなくても趣味さえあれば意外となんとかなるもんだ。趣味――まあ、好きなモノだな』

 

――好き……それは教官に対する感情か?

 

『そうだな。憧れて、そうなりたいっていう好きだったり。単純に一緒にいたいって好きだったり』

 

――そうなのか。……なら私は――

 

――――――――――

 

「う、ぁ……」

 

 ラウラは呻きながら目を覚ました。

 

「気がついたか」

「私……は……?」

「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動けないだろう。無理をするな」

 

 心配するような言葉にラウラは少し嬉しくなりつつも、それ以上に蘇る記憶によって苛まれる。

 

「あのような醜態を晒してしまい申し訳ありません。教官に教えていただいたのに……力を求めるがあまり下らない力に翻弄されてしまい……」

 

 ちゃんと謝りたかったラウラは無理に上半身を起こし、全身に走る痛みに顔を歪めながらも真っすぐ千冬を見据え、頭を深く下げた。

 治療のため外されたままの左眼の眼帯。赤と金のオッドアイと千冬の目が交差し、千冬は溜め息を吐く。

 

「憶えていたか。こちらとしては憶えていない方が良かったのだがな」

「恐らくは奴の――元親の影響でしょう。彼に欠点を指摘され、自分を見つめ直しました。未だに自分自身は掴めていませんが、それでも彼のお陰で芽生えた小さな核は闇の中でも残っていましたから」

「ならばおおよそ記憶していて、理解もしているか」

「はい……。VTシステム――モンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステム。IS条約で全てにおいて禁止されているはずの技術。そしておそらくその発動条件は……私が望んでしまったから」

「ああ。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして操縦者の……力に対する飢え。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在は軍に問い合わせている」

 

 予想はしていたが明言された発動条件にラウラは自分を恥じ、シーツを引き裂けそうなほど握りしめていた。

 自分は軟弱で。今は見下していないが、結局は見下していた一夏や他生徒たちと変わらない。

 優れている。自分は現実を見れているというのは、思い上がりに過ぎなかった、と。

 

「私が……望んだからですね。そんな器ではないのに教官に憧れ、そうありたいと願ってしまった。その罰なのでしょう……」

「……それだがな。あくまでも解析中の情報で仮説を立てただけの希望的観測でしかないが、操縦者の精神状態を探る一方で深層心理まで介入し、発動のための精神同調を求めた結果として、操縦者に精神汚染を及ぼしているのではないかという話がある」

「……」

「つまりだな。一定の精神波長に重なることで発動するシステムを、より簡易に発動させるためシステム側から神経信号が送られ、お前の精神が変貌していた可能性がある。もちろんそっちのシステムを発動させるための呼び水としてお前の飢えがあったのは事実だが」

「そう……ですか……。しかし私の惰弱が原因に変わりはありません。罰の覚悟は――」

 

 いっそ罰してほしい。

 そんな心を読み取ったのだろう。

 千冬は――

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はいっ!」

 

 いきなり名前を呼ばれ。

 かつてを思い出したラウラは痛む身体を忘れて反射的に顔を合わせ敬礼をした。

 

「お前は誰だ」

「私は……私が何者か、まだわかりません……助けてもらったのにもかかわらず、私は……」

 

 己を見失っている。

 精神汚染ゆえか。はたまた自分の信じていた自分を自分自身で否定したからか。

 今の彼女に以前の核はなく。あるのはつい最近芽生えたばかりの脆弱な核の欠片だけ。

 そこに自我はなく。

 答えるに至れない。

 

「ほんの一時だが、お前の望む通り教官に戻ってやる。お前はこれから三年を用いて自己を確立させろ。悩んで、悩んで、悩み抜け。お前の今の悩みが未来では矮小だったと思えるほどに、一人のラウラ・ボーデヴィッヒとして立て! ――良いな?」

「はい! ご指導ありがとうございます教官!」

「もう私は教師だ」

 

 悩みはまだある。

 だが、躊躇いはない。

 それを理解した千冬は席を立ってベッドから離れる。

 

「ああ、それと。奴に感謝しろ。右肩が脱臼し、筋肉も一部断裂、指も数本脱臼やらヒビだのなっているにもかかわらずお前をここまで運んで来たのだからな」

「ははっ、アイツは……」

「覚悟しておくことだ。弟と異なり、奴は鈍くこそないが拒絶癖がある。そこに入り込むのは容易くはなかろう」

「何故そんなことを……? もしや織斑先生も――」

「はッ! 残念だが奴には苦手意識を持たれてしまっていてな。手間のかかる奴だが教え甲斐があってかわいいし、いずれは私を戦いで愉しませることもできるだろう。それに料理も上手い。ああ、実に残念だ。世界最強の女など貰い手がいないというのに」

「――恐らくは心配いりません。何故なら――それほどまでにプライベートを明かす奴が貴女を嫌っているはずがない」

「……だと良いがな」

 

 笑いが交差し、千冬は去る。

 ベッドの中でラウラは、初めてかもしれない心からの笑いを確かめるべく緩んだ頬を両手で確かめた。




なげぇよ。キリよく書いたら9000文字。なげぇよ
ちなみに前言ったかもしれんが独自設定だったりが入ってる
白式のワンオフアビリティの仕組みとか、VTシステムの精神云々のとことか

読んでてそう感じる人いるだろうなって、点についての解説もしとくべ

Q.なんで元親はラウラにこんな感じで接するの?
A.一夏嫌いを前提とした好感度UP。ラウラの歪な精神構造をなんとなく感じ取った結果の優しさ。(子ども相手の接し方を少し同い年用に改変した接し方)

 まあ、理由の大半がそこですわ
 子どもが多少やらかしても大目に見るスタンスと、一夏嫌い同士の寛容さの合わせ技
 そもそもが意外と優しいヤツではあるのよ、コイツ
 前提として優しいし、子どもには特に優しい。――というか子ども相手にはそれ相応の対応をするタイプの人間
 そんな感じね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。