ナチュラル   作:レイジー

13 / 30
第十二話 日付と時間を決めて出かける行為

「……どうやって入った」

「鍵が単純だからな――」

「オーケー、もういい。それと服を着ろ」

 

 腹部に乗った違和感と首に敷いた違和感で目覚める。

 普段起きる時間よりも少し早く、朝というには暗すぎた。

 常夜灯に照らされた違和感は光のせいで橙に染まってはいるが、見覚えがある。長い銀。

 気づけば忍び込み、ラウラはベッドイン。

 

「先輩といい、どうしてどいつもこいつも……」

 

 元親は基本寝る際は上裸にパンツとジャージズボン。

 寝たりなさそうに欠伸をしながら上体を起こし、肩付近を掻くと――僅かな湿り気を感じた。

 手を目の前に移動させる。透明な液体がついている。

 視線を肩付近に移す。濡れている。

 未だ横で寝ているラウラの口元には唾液の跡。

 

「涎を垂らすな!!」

 

 ワリと強めにげんこつを落とした。

 

「ふぎゅッ!」

 

 上裸。推定全裸の肢体を見るワケにもいかず、元親は布団をめくらないように気を付けながらベッドから出てハンガーにかけていた運動着に着替える。

 ジャージを脱いで下着一枚。

 忍び込んだ際には暗くて見えなかった筋肉質な身体にラウラは驚き、何故か一人で自慢げな顔で頷いていた。

 

「なんで裸なんだ?」

「夫婦とは包み隠さぬものだと聞いたぞ」

「一つ、夫婦でも包み隠します。二つ、それは精神的なことであって肉体的な話ではありません。三つ、夫婦になるという話に賛同した憶えは微塵もない。四つッ、どこで日本文化を学ぼうとしてるのか知らんが教材を変えろ。五つ! 俺の安息の地を荒らすな帰れッ」

 

 床に脱ぎ捨てられていた服を全力投擲する。

 今はストレスが減りつつあり精神が安定に向かっているとはいえ、一番リラックスできる場所を破壊されてはメンタルが病む、と。元親は時間帯の都合上叫ぶに叫べず握り拳を作っていた。

 

「むぅ……」

「むぅ、じゃねえよ。さっさと服着て部屋帰れ」

 

 寝起きの水分補給。

 机に置いていた常温の水を軽く口に含み、水分を口内に染み渡らせてから飲み下す。

 何度か繰り返し、水を接種すると洗顔のためヘアバンドを装着。そのまま洗顔を行おうとし――その前に汗拭きシートで肩付近を念入りに拭った。

 少し乾いていたラウラのよだれは汗拭きシートの水分を吸ってイヤな粘度をもたらす。

 どれだけ可愛かろうとも現状恋愛対象として見ていない人間のよだれなど、絶対にイヤであった。

 

「……なんというか、髪を上げると少し印象が変わるな。野性味が増すというか……」

「なんじゃそりゃ。……とにかく、俺は外に行くからお前はさっさと部屋から出てけ」

 

 不満げに服を着たラウラの背中を押して強制退出。

 洗顔で少し濡れた髪をドライヤーで乾かし、運動後に飲む水やプロテインを準備し、運動時に飲む水を持って元親も部屋を出た。

 

――――――――――

 

「おはよう渡辺。……どうした? 少し疲れた様子だが」

「問一、違和感で目覚めたら隣に全裸のラウラ・ボーデヴィッヒがいた時の渡辺元親の心境を述べよ」

「ああ……それはキツイな、お前の性格上……」

 

 元親は友人を作るのは構わないが、その距離感を日常生活にまで持ってくるのはイヤと思っているタイプだ。

 結婚したとしても夫婦で寝室は別、最低でもベッドは別にしたい。そういうタイプだ。

 ふざけること自体は好きだし、学校生活や遊びに出かけた時にはしゃぐというのも問題はない。

 が、そのテンションや距離感を常に維持し続けるのは元々ローテンション傾向の元親には少々厳しいのである。

 

「変に起きたせいで眠いし。もうなんか、千冬さんの部屋にベッド持ち込んで安全地帯で寝たい気分」

「流石にやめてくれ……毎日怒られたくはない」

「散らかさないでください……」

 

 その点、千冬はそういった面倒なタイプではないし。今の生活で言えば帰ってくる時間が遅く、疲れて帰ってくるため基本ご飯を食べて風呂に入って寝るだけの部屋と化している。

 元親としては安全領域を確保できるうえに、日常に必要なのは部屋の清掃などの家事と千冬の食事を作り置きするなど。

 寝起きに負荷がかかったせいか、言葉のノリ以上に本気で悩んでいた。

 

「というか教師的に問題がある」

「ですね……まあ、それでいえば夜に教師の部屋に入って教師酒盛り生徒ドクペがぶ飲みって普通にアレなんですけど」

「……誰にも言うなよ?」

「言いませんよ……バラしたらお互いメンタル的に辛いでしょ」

 

 一度経験するとわかった。

 愚痴を話す、聞いてもらう。逆に聞く、というのは想像以上にストレスが晴れる、と。

 せめて知るのは社会に出てからが良かった、と考えた元親だが、直後に自分がマトモに社会に出られるのかすら不明ということを思い出し、その時は悲しさのあまりドクペを一気飲みした。

 

「まあ、なんだ。……始めるか」

「そうですね……」

 

 わざわざイヤなことを考える必要はない、と千冬は話を終わらせる。

 そうして二人は軽く身体をほぐしてから、手を構えた。

 

「ふッ――」

 

 実力差ゆえ、先手は決まって元親。

 強く踏み込み、左拳を打つ。

 見切られ受け止められるのを理解した元親は拳が千冬の手と触れるのと同時に、両膝から力を抜いた。

 ガクンと折れるように沈む身体。少し身体が後ろに倒れ、今度はそのまま右拳でアッパーを打つ。

 

「甘い」

 

 防がれた左拳が掴まれ、全身を動かされる。

 圧倒的膂力。

 持ち上げられた上体は、胸を打つ追撃によって地面に叩きつけられた。

 

「ぐぁッ」

 

 腕が伸び切る直前で離された左拳。

 跳ねる肉体。

 そのままでは地面に倒れ、追撃で決着となる。

 そう理解した元親は地に着いたままの脚に力を籠め、跳ねた。

 後転。

 両手を支点とし、距離を取るのと同時に体勢を立て直す。

 顔を上げると――眼前の拳。

 

「あー、負けた」

「まだまだ」

「千冬さんが手加減レベルを下げてくれてる辺り成長してるんでしょうけど、やっぱ世界最強は遠いですねぇ……」

「なんだ? 世界最強になりたいのか?」

「別にそうではないですけど……こうして鍛えて貰っている以上は卒業までに一撃くらい入れて成長をアピールしたいじゃないですか?」 

「ふっ、楽しみだ」

 

 実際、それ以外にも理由はあった。

 手合わせの際に何度も感じた違和感。

 時折見せる表情。

 聞いても恐らく千冬は自分の選んだ道だからと笑うのだろうが、元親は察していた。

 そういう彼女は戦える相手を求めている、と。

 世界最強のまま戦いから去ってしまった彼女。

 元親は可能であればその不満を満たしたいと考えていた。

 

「絶対卒業までに一撃入れる。なんなら勝つ」

「できるか?」

「はんッ、むしろ千冬さんこそ途中で飽きたって言わないでくださいよ? こっちは何百回負けようと最後の白星もぎ取るまでまっくろくろすけになる気満々なんですから」

「潰されて煤にならんよう、せいぜい足掻け」

「ったく……」

 

 どれだけやる気を示してもそう言ってくる千冬に元親は少し自信をなくしていた。

 今のままではどれだけ頑張っても眼中にはないのだ、と。

 所詮は叩けば潰れ、踏めば潰れる程度の人間。

 

「はぁ……」

 

 溜め息も吐きたくなる。

 

「ほら、立て。私に勝つんだろう? 簡単にへばるな」

「そうですね」

 

 差し伸べられた手を掴み立ち上がった元親。

 その後二人は鏡合わせに型稽古を行い、ランニングで締めた。

 

――――――――――

 

「簪さん、おはよー」

「……もう放課後」

「うん。でも今日の中だと初めてだからね、おはようかな、って」

「おはよう」

 

 整備棟。

 対織斑デュノア戦およびVTシュヴァルツェア・レーゲンでの経験、実戦データを基に装備を改造し直そうと考えていた元親はここへ訪れていた。

 そして、同戦闘において自分の実力不足を思い知ったため少しでも何かで補おうと最適化処理(フィッティング)も行うつもりである。

 

「? あまり調子よくなさそうだけどどうかした? 具合悪いなら部屋に戻って横になった方が良いと思うよ。片づけならこっちでやっておくからさ」

「違うの……その……」

「?」

 

 言いづらそうに。

 あまり言うことが気乗りしない様子で簪は迷っていた。

 が、決心し、打ち明けることに。

 

「作ってる機体が、その……上手く動かなくて……」

「あ~……どういう感じ? ちょっと見ても良いかな?」

「う、うん……」

 

 設計図と、エラー状況を見つめる。

 簪に断りを入れ、エラーとは関係ない部分を何ヶ所か操作。

 エラー原因の特定に努めた。

 

「……ここのパーツ、外しても良い?」

「あ、うん」

 

 違和感を抱き、もしやと思いながらパーツを外す。

 エラー項目のある場所で、カバーを外していくと内部の配線やコネクターのピンを露出させ。

 そしてピンをいくつか弄り、簪に差し出した。

 

「210のA2。コンプレッサー同期の配線が断線してる。あと、エラー吐かなかったあたりエラー検出用の部分――ハードかソフトかはわかんないけど不具合起こしてると思う。とりあえずの原因はそのあたりだろうから後は頑張って。一人で完成させたいのは知ってるけど前言ったようにこういう雑用なら任せてくれて良いからさ、頑張りすぎて逆に未完成、なんてならないようにね」

「あっ、ありがとうっ」

「うん。じゃ、僕は向こうにいるから、何かあれば声かけて」

 

 励まし、元親は自分の作業に取り掛かる。

 改造するのは主に銃。

 その問題点は射出の際の熱。

 氷雨を撃てば熱気を帯び、火垂を撃てば冷気を帯びる。

 以前は許容限界に至る前に逆のことをすることで対処していたが、銃身にはかなりの負荷がかかる行為だ。

 冷やして、熱して、冷やして、熱して。それによって著しい脆化が起こる。

 その解消をするために整備棟に来たのだが、実際のところ解決の糸口が見つかっていない。

 

「……どーすっかなー、この欠陥」

 

 せめて火薬の炸裂熱で火垂がマシであればよかったのだが、そうもいかなかった。

 火垂は確かに炸裂の熱で冷気が逃げる。

 が、逆に氷雨は余計に熱を帯びていた。

 空間加圧によって周囲に熱を逃がし、常圧化によって低温化。

 逃がされた熱は銃身へ籠る。そして火薬によって悪化する。

 

「熱、熱、エアコン。あ~ダメだ、ふえぇ、頭沸騰しちゃうよぉ……ふざけてみたけどアイデアうかばーんっ。いっそ薬莢に熱逃がすか? ダメだ、排莢の時にぜってーエラーなる。いっそ排熱範囲を拡張――エネルギー効率が悪い。くっそ、いっそのこと熱を循環できりゃ――」

 

 一度排気を貯蔵し、その後逆の弾丸の際に排気を放出。相殺できれば単純計算で言えば炸裂熱だけの話になるし、それは弾丸使用の数で調整できる。

 その発想に至った結果、思考が加速した。

 

「熱の貯蔵自体は多分理屈的には可能。普段ISや武装が量子変換されて収納されてる空間があるからそこを利用するか熱用の空間を展開すればそこに熱を収納できる。問題は弾丸と収納空間で冷気熱気を分断する方法。片方だけこっちに残してもう片方は別空間に流すって空間歪曲でできるのか? ……いや、違うな。わざわざこっちでやる理由がない。そもそも向こうの空間で熱操作をしてしまえば出来合いのモノ使えるから問題解決じゃん」

 

 逆転の発想とでも言うべきか。

 一つの閉じた空間で弾丸の準備を完了させてしまえば熱はその空間でのみ行われる。

 熱の単位はプラスマイナス使用弾丸分。氷雨を10発ならプラス10弾丸熱、火垂を10発ならマイナス10弾丸熱。

 問題は無事解決した。

 

「で、だ。シールドエネルギー無効能力って、もうちょい効率的にできんかね?」

 

 原典からしてエネルギー効率が悪く。そもそもシールドエネルギーの相殺である以上は最高効率を突き詰めても恐らくは一対一に極限まで近づけるので精一杯だろう。

 外部出力を行っている以上は効率では負ける。

 もっとも、シールドエネルギー無効化とはそれそのものが目的ではなく、シールドエネルギーが一時的に無効化されている隙に本来の目的である攻撃を叩き込むことでISの生命維持機構――絶対防御を発動させるというもの。

 それを上手く運用したのが世界最強(おりむらちふゆ)である。

 

「理屈からしてシンプル過ぎるから改善の余地ほぼねえじゃねえか……」

 

 シールドエネルギーを、拡張して、反発させる。

 システム面はともかくとして、要素を抜きだせばたったの三節。

 改善の余地など思いつかなかった。

 そもそもが単一仕様能力(ワンオフアビリティ)

 疑似的にとはいえそれを再現できただけですさまじく、それゆえの以前の楯無の懸念だった。

 

「ま、いいや。最適化処理(フィッティング)でもしながら別のこと考えよ~っと」

 

――――――――――

 

「元親ァッ! 次の日曜、一緒に水着を買いに行くぞ!」

「……中学の使おうと思ってたんだけど、ま、いっか」

 

 足音を響かせ勢いよく整備棟へ訪れたラウラ。

 来週からの臨海学校で用いる水着に特に指定はなく、元親は中学のモノで通そうとしていた。

 が、元親は忘れているがその水着は実家である。つまり手持ちにはない。

 

「オッケー、予定合わせる。じゃ、時間は適当に指定してねー」

 

 その事実に気づいたのは少しあとだ。




高評価がついても平均評価の伸びがそこまでだけど低評価がつくと一気に下がってつれーにゃぁ
評価、感想、お気に入りよろしこ。できれば高評価ね

人付き合いは嫌いじゃないけど個人の時間は絶対確保したいタイプの元親
実際作者がそう
作者はメンタルが弱々だからね、一人の時間で落ち着かせる必要があるんだ
関わらないと関わらないでメンタルは病むメンドクセー奴
元親はそこまで酷くない……のに現在進行形でかかるストレスでそっちの方向に歪みつつある。

適度な距離感で接してくれるクラスメイト(夜竹さゆか、谷本癒子、相川清香、鏡ナギ、鷹月静寐、四十院神楽、布仏本音)や更識楯無、布仏虚、更識簪、織斑千冬たちのお陰でなんとかなってる
ただ一番精神安定に一役買ってるのは食堂のおばちゃんズ。元親は土曜の夜に自炊する生活してるからそのために料理を教わったり、世間話したり。そこそこの年齢だから10年間で流行った女性優位の思想に染まってなくて普通に話せる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。