ナチュラル   作:レイジー

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第十三話 デート

「普段と雰囲気が違うのだな」

「安いの適当に買ってるからな」

 

 待ち合わせの場所。

 ラウラが時間の少し前に着くとそこには既に元親がいた。

 その格好は男子高校生としては少し珍しい。

 濃い茶色のワイドパンツに深い空色のポンチョと紺青のシャツ。

 特徴のあまりない顔つきや長めの髪と相まって中性的。

 

「あと一種の変装」

 

 意図的に行われている撫でた巻き肩の影響で肩幅もわからない。

 首元に寄せたポンチョによって喉仏も隠され、見た目としては男と断定できる要素は皆無。

 そして外行用に高められた声音は女性的とはいえないにしても今の見た目と合わせれば、ハスキーボイスの女として認識される可能性の方が高い。

 

「迷惑だったか?」

「うんにゃ、水着は俺も買いたいしタイミング的には良かったよ。人のいるトコであんな大声で言われたせいで若干視線が辛かったけど」

「む……それはすまない」

 

 少し申し訳なさそうに窺うラウラに元親は笑って応じる。

 そうしていると元親の設定していたアラームが待ち合わせ時間を知らせた。

 

「じゃ、行こうか」

「う、うむ」

 

 駅前のショッピングモール。

 人の多い場所。

 並んで歩く二人は元親によって手が繋がれる。

 

(はぐれると面倒だ。ラウラはこの辺のモノにすぐ目移りするだろうし)

(手、手ぇッ。や、やはりなんだかんだ言って元親も私を受け入れてくれるのだな)

 

 片や子ども扱い、片や恍惚。

 並び歩きながら起こるすれ違い。

 二階の水着売り場に辿り着いたことでその手は離され、ラウラは名残惜しそうに手を握り開きする。

 

「それでどうするの? 誘ったってことは多少なりとも意見が欲しいってことでしょ? 一緒にいて逐一だったり二択三択から意見を出すのか。それぞれある程度自由に見たあとで集合して意見を言えば良いのか」

「い、一緒に来てくれるだろうか?」

「オッケー、じゃあ行こうか」

 

 元親は自分の水着に関しては最低限変でなければ良い程度の認識のため、時間がかかるであろうラウラの水着を優先して女性水着コーナーへと向かった。

 ラウラは手を繋ごうと伸ばすが、元親が先導するためその手は空を切る。

 が、不意に元親は立ち止まり、空を切ったはずの手を繋いだ。

 

「さ、行こうか」

 

 はぐれるほどの人混みではないからと一度手を離した。

 だがラウラの心境を察した元親はそう言って再び手を繋ぐことにした。

 

「ああっ!」

「元気ね」

 

 嬉しそうに返事をするラウラに少し苦笑する。

 軽い足取りに、先導していたはずが並び歩き、今度はラウラが少し先を行く。

 そして女性用水着コーナーの中、ラウラは水着をいくつか手に取り、並べた。

 

「ど、どれが良いと思う?」

「ん~、身体の前で合わせてみて貰って良いか?」

「あ、ああ。……少し恥ずかしいな」

「まず合わせる前にマイクロ、ブラジリアンは却下、露出が多すぎる。眼帯も却下、ニッチすぎる。キーホールビキニは大人すぎる、もう少し歳相応のを着ろ。素材と水着が不釣り合いだと逆にダサい。オフショルダービキニは……もう二年か三年後くらいだろうな。フレアビキニはそこそこ、平均点は大体六〇、合うのを選べば問題はない。プランジングは却下、ハリウッド女優じゃないんだから。クロスホルタービキニ、悪くはないが着るなら装飾の少ないシンプルなヤツだな。ホルターネックも同様。タンキニは選べば良いと思う。ハイネックも良いと思う。あとはワンピースタイプも良いな。他……こういう普通の水着にパレオを合わせるのも似合うと思う。ロングパンツも良いかもしれないけど、身長的にちょっと違和感があるな。ざっとこんな感じだ」

 

 ラウラはファッションがわからない。

 元親も詳しくはないが、ラウラはそれ以上にわからない。

 却下からの提案に口をはさむことができず、それを黙って聞いていると考えた元親は手近な水着から異なる種類を選び取ってラウラの身体に合わせながら感想を述べる。

 

「……わからなかったか?」

「詳しいな」

「ふっ……アニメやらゲームで知らないデザインの水着を目にした時に調べてな。名前とデザインだけなら頭に入ってるよ……」

 

 無駄な知識が初めて役に立ったと遠い目をする元親。

 

「むぅ……おおよそはわかったが、やはり迷うな」

「好きにしたらいいと思う。結局着るのはラウラだし。自分が着ていて不快じゃない、着ていたいって思う水着を選べば良いんじゃない?」

 

 ラックから抜き取った水着を元の位置に戻しながらそう返答する元親はそれぞれ自分が高評価を訂した種類の水着がある場所を指さした。

 コーナーが女性モノのため全体的に設置位置が高く、男である元親から見ればおおよそ全体を見渡せるのが功を奏す。

 

「そこにいるのは渡辺か?」

「えっ?! 渡辺くんがここにいるんですか!?」

「……山田先生、一応人目があるんでくんづけは止めてくれると助かります」

「なるほど、変装しているのか」

「あ、す、すみませんっ」

 

 声につられてか、姿を見てか、気づけば近くには千冬と真耶の二人がいた。

 

「それにラウラの買い物に付き合っているのか」

「ま、そういうことです。お二人も?」

「ああ」

「色々忙しかったもので土壇場になってしまいましたぁ……」

「僕らのためにありがとうございます。ホントにお疲れ様です」

「ありがとうございますぅ……」

 

 元親の訊ねにヘロと肩を落とす真耶。

 普段の交流で千冬がそうであることは知っていたが、真耶は気弱だが生徒の前で疲れた様子を見せていなかったためそんな彼女が疲れを表すのには少し驚いていた。

 

「ラウラ、良いのを選んでもらったか?」

「それが……元親の意見で種類までは絞ったのですが、数が多く……」

「ほう。どれ、ついでだ。私のも選んでもらえるか?」

「えッ……なら、これとかどうですかね。露出を抑えることで教師としての節度を守って威厳を保ちつつも身体のラインを示すことで大人としての魅力を引き出す、みたいな」

「ふっ、そこで考えることが私の立場なあたりお前らしいな。どれ、試着してみるか」

「マジすか……」

 

 ちゃんと考えたとはいえ軽い気持ちで選んだ水着が試着段階まで進むとは思っていなかった元親は思わず普段の声音でそう呟く。

 取り残された真耶はどうすれば良いのかと迷った挙句、何を思ったのか千冬同様に元親に選んでもらうことにした。

 

「山田先生は……言っちゃなんですけど皆が反応する程度には胸が大きいですからね~、いっそ千冬さんみたいに極端に露出を抑える方向性ではなく、露出は抑えつつもそのスタイルを女子たちに見せつけて自信を砕く方向性で行きますか」

「な、何言ってるんですかぁッ!?」

「やー、以前女子が先生の胸に関して話しているのを偶然耳にしたもので。ハハッ。てなワケで、そんな貴方にこの水着をば」

「うぅ……でもせっかく選んでいただきましたし、試着してみますね……」

 

 いっそ振り切って選ぶことに乗り気になることにした。

 恥ずかしげもなくいくつかの候補を選び、真耶に合わせ、似合いそうなモノを渡す。

 

(世のカップルって相手の着替え待ってる時何考えてんだろ……普通に学生らしくISのことでも考えとくか)

 

 そうは言うが、実際に元親が考えるのはISの専門的な部分に入ったこと。

 今はシステム面が元親のマイブームだ。

 

(そもそもが防御特化のIS。けどスペック的には少し弄ればもうちょっと色々できそうだし、かと言って弄るにも手間がかかるんだよなぁ。……こんなところで何考えてんだか。いっそ水着、というか服みたいに簡単に着脱できたら良いんだけどなぁ、システム面だとそうもいかんよなぁ)

 

 システムは難しい部分だ。

 少し変更を加えるだけでも場所によっては再起動が必要なことがある。

 ISにおけるシステム面を元親は詳しくは知らないが、簡単に弄れる部分ではないことは理解していた。

 だが諦める気はさらさらなく、弄ると確実に不都合が生じる根幹部分。骨格を抽出。

 いっそシステムほぼ全てを書き換えるくらいの気分で骨格をベースにシステムを構想した。

 

(武装の方にシステム乗っけるか? いや、ダメだな。壊れる可能性が高いし、そもそもシステムをそういう形で拡張するのはバグの温床、一度冷静になろう。まずシステム構築自体はできるはず。コンフィグパターン的にプリセットを組めば。問題の根幹はシステムの切り替えと武装の変更。道具じゃなくてIS体の方の……)

 

 腕組みをしながら指先でISの腕輪を叩く。

 カチ、カチ、と硬質な音が鳴り、ふと部品――パズルを思い浮かべた。

 

(使う部分を骨格から離せばイケる。使う部分は……容量がかさむ。こっちでプログラムを全部組む必要はないのか。自作PCと同じ。最低限のパーツを製造、あとの組み立ては操縦者(ユーザー)次第。ピースをいくつか用意すればコンセプトは自由。実際のシステム面は――)

 

「も、元親……どうだ?」

「食い込みすぎ、サイズもう一段上げるべき。ビジュアルに関しては良いと思う」

「そ、そうか!」

 

 直前まで思考を廻していたせいで素っ気ない態度となるが、ラウラはそれでも喜ぶ。

 

「こちらにも感想を貰おうか」

「あ~……良いんじゃないっすか?」

「もう少しないか?」

「も~、欲しがりさんめ。じゃあ――ふぅ~ッ! 綺麗ですよぉッ! 彫刻みたいな身体!」

「それはボディビルの掛け声じゃないのか?」

「あ、バレた。じゃあ素直に――やっぱスタイル良いんで露出少なくても充分魅力的ですね。個人的には薄っすら浮き出た腹筋がソーグッド」

「……そうか。参考になる」

 

 一切の躊躇なく性癖を開示する。

 その顔はまるで当然のようだ。

 

「こ、こっちはどうでしょうか……」

「似合ってますよ。山田先生のイメージカラーは緑なんで黄色はやっぱり映えますね。スタイルもバッチリなんで自信持ちましょうよ」

「あ、ありがとうございます。やっぱり少し恥ずかしいですね~」

「年下、というか子どもの男なんて特に気にしなくていいですよ」

 

 ケラケラと笑う元親につられて真耶も少し笑う。

 

「――さて、水着も選んだし私たちは……ん?」

「どうしました?」

「いや、少し静かに――アイツ……」

 

 唐突に千冬が耳を澄まし、何かに気づいたかと思えば少し離れた場所にある更衣室の前へと移動した。

 手で静かにするように促され、後を追う三人は無言で近づき。

 

「じゃ、じゃあ、これにするねっ」

「お、おう。それじゃあ俺は出てるから」

 

 更衣室の中には一夏とシャルロットの二人が入っていた。

 軽いパニックに陥る真耶。

 諸々を察した元親は、信じられないクズを見るような目で一夏を見ていた。

 

――――――――――

 

「水着を買うから、ですか。だからって試着室にふたりで入ってはいけませんっ。教育的にもダメですっ」

「す、すみません……」

 

 頭を下げるシャルロットに少し遅れて一夏も頭を下げる。

 

「ところで山田先生と千冬ね――織斑先生はどうしてここに? というかなんでそっちの二人も一緒!?」

「私たちも水着を買いに来たんですよ。あ、それと今は職務中ではないですから、無理に先生って呼ばなくても大丈夫ですよ」

 

 そう言う真耶。

 元親に関しては放課後や休日に何度か関わった都合上、山田先生呼びで固定されている。

 

「で、なんで元親が三人と――ラウラはともかく二人と?」

「――ハーレムデート」

「…………はッ!? はぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 何かを考えるようにして一瞬目を逸らし、そう告げる元親。

 理解が及ばず、一夏は少し遅れて大声で叫んだ。

 と、同時に背後でも同様の声が響く。

 真耶も驚き、ラウラは首をかしげ、千冬も突然のことに眼を見開き。

 そして元親を捕まえて至近距離の小声で話を始めた。

 

「どういうことだ?」

「やー、あの様子を見るにデュノアさんの方が完全にデートと思ってた装いじゃないですか」

「そうだな」

「それに対してお宅の弟さんの態度。絶対ただの買い物としか思ってないですよね?」

「間違いない」

「そういうことです」

「おい」

「別にデュノアさんに対して悪感情は抱いてないんでね。可哀想だし目の前でデートをしてる人間がいると認識させれば自分の行為にも多少は意識が行くんじゃないかな~って」

「それで何故私たちも巻き込む」

「ラウラだけだと俺が受け入れたみたいじゃないですか。断ってるんですよ? 複数人なら分散できるかな、って」

「逆効果じゃないのか?」

「……そん時はそん時ですッ」

 

 離れる二人。

 そして千冬は第三者たちに目を向け、出てくるように促す。

 

「……」

「……」

「……」

 

 鈴とセシリア、そして箒が現れる。

 

「その、織斑先生……本当なのですか?」

「……ふっ、コイツというのが信じられんか?」

 

 チラリと視線が向けられ、つられて視線が元親へ向き、戻る。

 それに対して元親は小さく頷き。

 ボロが出ないようにラウラと真耶の二人に遠ざかるように促した。

 

「ええっと、悪い奴じゃないのはわかるのよ? けど……」

「その、渡辺さんには申し訳がないのですが恋愛対象として見られるかといわれたら、その……」

「なよなよした奴は私は好かん」

「こいつの良さはまだお前たちにはわからんか」

 

 関係性は一切口にせず。

 だが誤解を生むように誘導する言い方。

 肩に手を置き、距離感の近さをアピールすることで肯定せずともそれが事実であるように思える。

 

「まあ、そういうことだ。私たちは買い物に戻る。コイツの水着がまだなのでな」

 

 元親の荷物や性格から、ラウラを優先したと理解したのだろう。

 千冬はそういうと元親を軽く押してその場から離れようとする。

 

「ああ、そうだ。お前たち。デートは構わんが節度と門限は守るようにな」

 

 決定打としてデートという単語を口にする。

 目的はもちろん誤解を生むのと、一夏に自覚させるというもの。

 

「いやぁ、流石ですね」

「ふっ、当然だ」

「でも口にするのはわざとらしくありません?」

「ああでもしないとアイツはわからん奴だ」

「それもそうですね~。……一種の呪いかなんかですか?」

「そうだと言われた方が私は安心できるのだがな。だが篠ノ之は実家が神社でな。効果がないあたり呪いではないのだろう……」

「あ~……なんというか。お疲れ様です……」

 

 鈍感とは実に罪深い。

 周囲を悲しませ、姉には気苦労をかける。

 

「わ、渡辺くん。さっきのは……」

「あ~、巻き込んですみません。織斑くんがあまりに鈍いもので……」

「そうだぞ。巻き込むなら私だけにしろ。無関係の山田先生を巻き込むな」

「はい。それは本当に……すみませんでした」

「い、いえっ、周囲には彼女たち以外いませんでしたからきっと大丈夫ですよ」

「私からもあとで口止めをしておく」

「……ん~。軽率にすみませんね」

 

 その後。

 どうせだからとの千冬の提案で元親の水着購入に三人が同行することになり。

 昼食ののち解散となった。




田村ゆかりさん! お誕生日おめでとうございます!
篠ノ之束、阿万音鈴羽(シュタゲ)、クラン殿下(六畳間)、ジブリール(ノゲノラ)が特に好きです!!

―――――

初期から元親とセシリアはくっつかないと思ってたのよ(箒と鈴音は開始時点以前から一夏に惚れてるから別理由)
特に具体的な理由はつけてなかったし、キャラ同士の相性的な理由からなんとなくそう思ってただけで。特に設定やらストーリーに関わらないから考える必要ないか~って放置してたのよね
んで、今回実際に交流やらキャラ評を言語化することで理解した
これ、父性だわ! 元親がまだ幼稚だから明確には感じないし、キャラも自覚しないけど、父性出してるからそういう可能性がないだけだわ!
ラウラに関しては幼女のいう「おっきくなったらお父さんと結婚するー」だわ!
いや~、納得できて良かった良かった

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