「ばぁっ!!」
「うぉッ!?」
独り、廊下を歩く元親の前に突然束が現れる。
一夏出発前とはいえ仮にもISに精通をしていてアドバイスできる立場の人間がそうしているというのは外聞が悪いだろうに、と思うがそもそもそんなことを気にする正確ならば彼女は逃亡の身ではない。
「篠ノ之束……お――」
「ぅおっとぃ、そうはいかないよ~ん」
表情を歪め、即座に対処しようと千冬を呼ぼうとするが、それよりも早く束が手で口を塞ぐ。
「私のことが嫌いなのはわかるけどさ~、命までは取らないから安心しなよ~。私もちーちゃんに嫌われたくはないし」
「っあぁ! ……鼻まで塞ぎやがって」
「あははははっ」
バカにするように笑う束。
「っち。言ったろ、アンタが嫌いだって」
「うん。それで色々気になったんだよね~。そこに関して聞きたくてさ」
「……」
「キミ、自分の態度が変わってるの、気づいてる?」
「はぁ……最近演技が下手になったか? ああ、そうだ。色々考えてな、気持ちの変化はあった」
態度の変化。
僅かではあるがそれを感じ取っていた束はそこを突く。
「嫌いな理由は言った通り、言ってることとやってることが違うからってのがある。宇宙開発を目標に掲げながら実態は戦争用っつーな。その矛盾が目についたから嫌いになった」
「戦争用になったのはバカたちがそれにしか利用価値を見出さなかったからだよ~? 私知らな~い」
「アンタら二人が白騎士事件起こしたんだろうが……。まあそこはどうでもいい。……気になったのはその矛盾について」
「矛盾なんて気にするだけ無駄だよ~。バカの考えなんて理解できないのが当然なんだから~」
「技術小出しで理解を得る、なんて方法は俺程度でも思いつく。アンタが思いつかないワケがない。……はじめこそIS完成の高揚感と、理解を得られなかった絶望でヤケになったからだって片づけてた」
「はてさて~? 人生の中で一番イヤな時期だったから憶えてな~い」
朝とは異なり。束は元親の言葉をのらりくらりと交わすようにふざける。
「が、その矛盾が矛盾じゃなかったとしたら? あくまでも間違っているのはこっちの認識だったなら? 宇宙開発が目標ではなく、別に目的があったとしたら? 矛盾は解消される」
「続けなよ」
ニヤニヤとしながら、けれど目を細めて。
そう促す。
「違和感は色々あったんだ。ISを宇宙開発以外に使っている奴らのISを強制停止させないのはなぜなのか、没収しないのはなぜなのか。純粋な宇宙開発ならもっと良い形があるだろうに、なぜこの形状で、このスペックなのか。そして今日、アンタの話で仮説が確信になった」
「およ~? 私何か変なこと言ったかな~?」
「世代は順に『IS完成』『多様化』『特殊兵器実装』『換装不要万能機』。戦うことばかり意識した進化じゃねえか? 宇宙開発が目的だって言うなら移動速度、持続時間とかの方が伸ばすべきだし。宇宙で得たサンプルを保存するために
「だって~、展開装甲一つでなんでもできるならいらないじゃ~ん。必要ないモノを搭載するほど私はバカじゃないからさ~」
「サンプル入れる領域消してどうすんだ?」
「……」
ついに黙る。
ニヤニヤとした笑みから、また異なる雰囲気の笑みへ。
「アンタ、戦闘目的でIS作ったろ。そしてそれを前提に考えれば矛盾も消える。初めから戦闘のためだ、そりゃあどの現行兵器よりも優れてるって言うし、日本にミサイル飛ばして斬り墜とすわ」
「うんうん」
「最終目標はなんだ? 身内認定をしている篠ノ之箒・織斑千冬・織斑一夏絡みか? 好きな人は世間に知ってもらいたい、活躍してもらいたいってか?」
「――」
「なんにしろ。俺には関係ねぇ。だから俺が言うのは一つ。――俺の道に立ちはだかるなら蹴散らす」
「――ふっ……アハハハハッ!! 初めてだよ~、無関係の奴にここまで理解されたのはさぁっ。面白くて腹立つね~!」
大声で笑う束はクルリと回り、背を向ける。
「そォかよ。話が終わったならさっさとどっか行ってくれ。俺は休憩するんだ」
「ふ~ん」
「くぁ……ねむ……」
「ま、いいや。面白かったのに免じて殺すのは保留にしてあげるね~」
束の発言に元親は溜め息交じりに「撤回しろよ」と呟いた。
だがそれ以上関わりたくもないためにあまり意識はせず、ベンチに腰をかける。
「ねえ」
細い指が、背後から首に。
冷えているのか、ただそう感じるだけか。
背筋が僅かに震え、だが平静に視線を背後に向け。
束の二指と一指が喉をそっと挟む。
「さっき言ってたキミの道って、何かな~? もしそれが私と交わるなら――」
静かに狭まる指先。
呼吸ではない。
血流。
優しさすら感じる力加減で、意識が弱められる。
「アンタが捨てた道だよ。いや、初めから歩んでなかったか?」
「宇宙に行くって?」
「ああ。伊達に思春期男子やってねーからな。IS関連しか歩めない人生なら――その方が人生楽しいだろ?」
「ふふっ――良いなオマエ。名前と顔は憶えておいてやるよ。言ってみろ」
「渡辺元親」
帰れという意思を込めて名前だけを名乗った。
そうして、指先が首から離れる。
「じゃあね、元親」
彼女は実に愉し気で。
彼は実に陰鬱そうに空を仰いだ。
――――――――――
「織斑、篠ノ之、聞こえるか?」
部屋から通信を通じて二人へ声をかける千冬。
二人への声かけ、一夏個人へ行う箒を補助するもの。
号令をかけ、作戦が開始する。
「流石に早いな」
「このペースならすぐ接敵するね」
僅かなラウラの驚愕。
元親の言葉通り、間もなく二人は
『敵機確認。迎撃モードへ移行。《
「……」
零落白夜の有効範囲まで数秒。
刃が迫り、見事というほかない無駄が省かれた回避が行われた。
一夏を通じて部屋に送られる映像と音声に落胆が広がる。
「これは、痛いな……」
効果をもたらさずとも、発動それだけで膨大なシールドエネルギーを浪費する零落白夜。
無論、相手とて重要軍事機密を抱えた機体だ。そう簡単に倒せる相手ではない。
けれども、今の一撃で『何かしらの対抗手段を持つ機体』という情報が相手に渡ってしまった。
ただのISと認識しているがゆえの油断を見込むのは難しく。それはシールドエネルギーの浪費以上に痛い損失。
それを理解したがゆえにラウラはそう呟き。
口には出さないが元親や千冬といった教師陣も苦い表情をした。
(相手の動きを読め、織斑……動きを追うな、先を封じろ。なんのための
二人の基本連係は『防御』だった。
一夏は箒に背を預け、一夏は
零落白夜は当たるはずもなく。
また、動きを読まれる材料にされるだけ。
元親は表情を歪め。
そんな中で、銀の翼装甲が開いた。
「射撃――」
砲口が姿を見せる。
大量開門。
高密度に圧縮されたエネルギー。無数の光の弾丸が撃ち出された。
(回転が速いな。圧縮と射出――なるほど。……スペックのゴリ押しがなきゃ負けしかない相手だ)
精度は高くはない。
だが圧縮されたエネルギー弾ということは、当然炸裂する。
数を発揮できるその攻撃で、過剰な狙撃は必要ない。
つまりは燃費次第ではエネルギー弾のみで完封されることすらあり得る。
それを理解したのか、二人は一夏の指示で左右からの同時攻撃に入った。
けれど意味をなさない。
(ロクに連携してない機体同士で同時攻撃は無謀すぎる。同じスペックならともかく――そう、それでいい。が、まだ足りないな)
同時攻撃は通用しないと判断した箒が囮を務める。
連携とは力を合わせる行動。
だが、ゲームとは異なり現実の連携ではスペックの平均化はされず、行われる行為はスペックの低い側へスペックの高い側が合わせる。というモノ。
速度の違う者同士が並走するには脚の遅い者に速い側が合わせるしかない。
であれば、行うべきは高スペックを発揮すること。
それが世代の異なる機体かつ、束の作り上げた機体だというのならなおさら。
『La………♪』
甲高いマシンボイスが部屋に通じる。
翼の砲門は全開した。
三六の全方位一斉射撃。
箒がそれを回避し、迫撃。
「!?」
絶好の機会。
一夏は相手とは真逆の、海面へと向かった。
「何を!?」
「何やってるのよ!?」
「……ッ」
全力加速と零落白夜を用いて一発の弾に追いつき、掻き消す。
弾丸の射線上には船。
封鎖されたはずの海域でそこにいたのは、密漁船。
それを護るがためにチャンスを不意にした。
そして、残り僅かなシールドエネルギーを零落白夜に用いたため、エネルギー切れによって零落白夜の光が消える。
「あの馬鹿者……」
千冬の声が静寂の部屋に広がった。
(……チャンスが一度っていうのはそもそも相手が直進し続けた場合の話。ここから行くとして、それまで篠ノ之が耐えきれるのか――)
もはや期待していなかった。
元親は距離、移動速度などを考慮し、脳内で概算する。
が、それを無意味とモニターで知った。
(――)
動揺した箒が手に持つ刀を落とし。
それが空中で光へと変換され、消える。
維持するエネルギーを切らしたことによる
エネルギーを持たない機体が、エネルギーを用いた攻撃に太刀打ちできないのは明白。
元親の、上げようとしていた腰から力が抜ける。
『ぐああああっ!!』
彼女を庇うべく抱きしめた一夏が光の弾丸に攻撃される。
零落白夜を使えるほどではないが、辛うじて残っていたエネルギーシールドが彼を守るが、それでも守り切れずに攻撃は苦痛を与え、アーマーを破壊し、熱波が肌を焼いた。
『一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!』
悲鳴が上がる。
それは画面越しの箒のものであり、部屋にいた者たちの悲鳴でもあった。
(ッ……)
ブツリ、と。
一夏から通じていた映像と音声が、切れる。
「……ちょっと外出てきますね」
「……ああ」
暗い部屋の戸を開ける。
一筋の光が差し、そこを元親が抜けて戸を閉めると、部屋には再び闇が埋め尽くした。
一度光を見たがゆえ、部屋は直前よりも暗く感じた。
――――――――――
「……なぁ。聞いていいか?」
「おやお~や? 嫌いなはずの束さんに声をかけるなんてどういうことかなぁ? 元親く~ん?」
「……ハッキングして、
「……さぁて、ね?」
「織斑一夏はああなったぞ。アンタは何がしたいんだ?」
「およ? いっくんを心配してるの? でも大丈夫~、束さんは天才だからあの程度の怪我ならちょちょいのちょいだよ~。それに操縦者絶対防御の救命領域対応があるからね~、死なない死なな~い」
「っ」
外へ出た元親は束へと声をかけた。
その声は、少し荒れている。
「自分なら治せる、死なない。だから過酷を強いるってか?」
「人が輝くには苦痛も必要なのだよ元親くん」
「アンタは! アンタは何様のつもりだよ……」
今にも殴りかかりそうなほどに硬く握り込まれた拳。
己の叫びで冷静さを僅かながら取り戻した元親は硬直した拳を開くことで意識を緩和させ。
言葉を静めた。
「君、いっくんのことも嫌いなんじゃないの? なのにどうしてそう怒るのさ」
「ああ、嫌いだよ! 大嫌いだ!! 短慮なトコもッ、デリカシーのないトコもッ、自分が何に護られているのか理解しないトコもッッ、能天気なところもッ! 嫌いだよ!! だからってなぁッ、人が傷ついて、死にそうになってるのを見て平然としてられるほど堕ちてもねぇんだよ!」
静めきれなかった感情が束の胸倉を掴む。
「俺は死にたくないし。だから誰かが死ぬのも傷つくのも嫌だ。アイツのことが嫌いだからって、死んでほしいとは思わない。……先生には世話になってんだ、悲しんでほしくない。アイツはクラスのみんなと仲が良いんだ。アイツが死ねばみんなが悲しむ……」
「あっそ、ちーちゃんはともかく他の奴らには興味ないかな~」
「ハッキリ言って、アンタにこんな感情を抱いたところでなんの意味も持たないことは理解してる。アンタがそんなんだから今の世界があるのも理解してて、だから無意味なんだって」
「うんうん。無駄なことに労力は割かないべきだよね~。エライエライ」
満足げに。
彼女は頷く。
元親の感情など知ったことか、と。
そもそも感情を理解すらせずに。
「……邪魔を、するな」
彼は冷静だった。
全てではないにしても、部分的には冷静さを保っていた。
そこを失えば彼は本当に未来を閉ざしてしまうだろうと考えていて。
だからそこだけは手放さなかった。
手放せなかった。
手放して、感情のままに殴った方が楽であろうことを理解しつつ。
彼は手放せなかった理性を抱えてその場を離れた。
「何をするのかな~?」
そんな彼の思いも。
束には関係がなかった。
(『状況に変化があれば招集する。それまで各自現状待機』かぁ……)
届いた連絡。
貼付されたデータに目を通し。
今後の展開を予想し、元親は空を仰ぎ、打鉄の整備へと取り掛かった。
「『撃鉄』……」
長い銃身。
彼はモニターに線を引くように、それをなぞった。
な、なんて感情的な男なんだ。みっともないぞぉ?
もっと冷静にダネ?
あ、ちなみに設定というか話の背景部分を言うけど~
一夏は原作と違って活躍してないから弱体化してないか? って思うかもだけど、まあある意味正しくてある意味違うかな、って感じ
活躍によって実戦経験的な成長が低下してるのは事実
代わりに元親が加わったことでの独自兵装との経験値やら、同じ男性操縦者がいるってことでの訓練意欲があって
だからぶっちゃけ言うと、ポテンシャル的には原作よりも上の一夏
ただ戦闘しないとレベルアップしない類の方向性経験値だから、昇華はされてない
条件未達成で経験値だけ積もってる状況。わかるかな?
てなわけで第十六話
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