ナチュラル   作:レイジー

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 あらかじめいっておいた方が良いかな、って

 正直序盤の主人公の感情は仕方のないことだと思っています
 作中でも言っている通り、主人公の立場になればそこの部分は少なくとも今は仕方ないと
 時間経過でどうにかなるか。成長で何かが変わるか
 そういう部分も含めて楽しんでいただければ、と


第一話 心底の欠片

「どうせなんでこの際ハッキリ言っておきますね。僕は――俺は織斑一夏が嫌いですし、織斑千冬が苦手で、織斑先生が嫌いです」

「それはどういうことだ」

 

 本来なら躊躇うであろう嫌い、苦手という言葉を本人やその身内に面と向かって口にする。

 呆気にとられつつも弟に敵意を向けられたと認識した千冬は元親を鋭い眼光で睨みつけた。

 

「はっ、弟が嫌いって言われた程度でそんな怖い顔しないでくださいよ。でも当然でしょう? こっちは織斑一夏がISを起動させたせいで人生狂ったんですから」

「そ――」

「それはうちの弟も同じだ、って? はッ、全然違いますよ。あっちは自業自得でこっちはとばっちりですよ? 例えるならセンター試験で化学と物理を選択するべきなのに化学と化学基礎を選択したようなのがあっちです。誰が悪いかってのは明白で、提出を間違えたあっちが悪いんですよ。けど僕はちゃんとしていて、それなのに計画が狂ったんですから。いや、狂わされたんですから」

 

 言葉を遮って述べる。

 休み時間の度話しかけてくる一夏とのやり取りをすることで元親はおおよそ事を理解していた。

 本来受験する予定だった高校の試験会場を間違えIS学園の試験会場に赴き、そこでISに触れてしまった、と。

 そしてその結果、男に対しても適性検査が行われることになり、それによって元親が入学となった、と。

 

「だから俺は織斑一夏が嫌いです。そして貴女が苦手な理由は……まあ、具体的にはそんなにありません。ただ単に織斑一夏の身内だからという理由だったり、あとはいくつか些細な点です」

「そ、そうか」

「それで織斑先生。僕が貴女を嫌いな理由はですね。はっきりと『君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ』と言ったからです。事実上そうであったとしても体裁として、そして本来の目的は宇宙開発。なのに軍人を育成するかのような言動。貴女には例え体裁であっても『宇宙』を目標として欲しかった。篠ノ之博士の友人でありながらそれを裏切るような言動をした貴女が、個人の感情として認められなかった。ただそれだけです」

 

 前者は明確に教師として。

 後者は織斑千冬という一個人と織斑先生という立場、その両方に関連しての感情。

 子どもの考えと理解しつつ、元親はそれを黙って飲み下せるほど大人でもなかった。

 

「そうか……。待て、私と篠ノ之束の関係性をどこで知った?」

「別に、今時インターネット社会なんですから調べればいくらでも出るでしょうし。本当に隠したいのであれば織斑一夏と篠ノ之箒を一緒のクラスにするべきではなかったですね。聞けば簡単に織斑一夏と篠ノ之箒が幼馴染であることを明かしましたし、その頃に篠ノ之束と出会ったかなどと聞けばあっさりと答えてくれました。あとは簡単な予想で事が済みます」

 

 休み時間に声をかけ、連れて行った篠ノ之箒。

 そこに対して『知り合いだったのか』などと訊ねれば不自然でない範囲で彼らの関係性を知ることが出来、また篠ノ之箒の苗字とIS発明者の篠ノ之束の苗字を照らし合わせふとした疑問として訊ねれば、やはり答えは返ってくる。

 そしてその事実を聞くことが出来れば、芸能人に会ったことがあるかと訊ねるかのような世間話の体で篠ノ之束との交友を知ることができる。

 であればわざわざ織斑千冬と篠ノ之束という遠い話をして疑われずとも真実は知れるのだ。

 

「ああ、大丈夫ですよ。貴方方二人が隠していることもおおよそ見当はついてますけど正直そこに興味はないですし、国家でもない限りそこを追求するメリットはないですからどうもしません」

「……」

「それと、僕ってオンオフ切り替えるタイプなんで心配はいらないですよ。確かに私怨は抱えてますけどだからと言ってわざわざ自分の立場を悪くするほど馬鹿でもないです。表面上は彼と仲良くしますし、貴方とも生徒と教師の関係性としてご教授いただくこともあるでしょうから」

 

 だからこその、僕と俺。

 が、そう言ったとて納得できるモノではないのは元親もわかっている。

 

「今のお前が本性なのか?」

「本性って程じゃないですよ。これはあくまでも僕を護るため。世界初という珍しさもなく、織斑千冬の弟という立場もなく、篠ノ之束の友人の身内という後ろ盾もない。僕はね、実験動物として死にたくはないんですよ。だからと言って世界に対して明確な有用性を示せるほど能力もない。だから僕のことは生かして自由にさせている方がまだ有用だ、そう思わせるしか生きられないんです」

「……そうか」

 

 その感情にはある種の正当性があった。

 もちろん(いちか)とて望んだ結果ではないとはいえ、現状の責任は

、と問われれば間違いなく一夏にあり、生徒(もとちか)には一切ない。

 それを理解しているがために怒ること、怒り続けることは不可能だった。

 

「さっきも言いましたけど、だからとどうこうする気は全くありません。なので今まで言った事は不幸自慢じゃないですし、だからこそ同情して特別扱いして欲しいなんてこともないです。彼を責めるつもりもないです。恨みはあくまでも恨みであってそれを原動力に行動する気はないですから」

「感謝する……」

「が、貴女には彼の所為で人生が狂った人間が一人いるということを理解していて欲しいだけです。それが不用意に僕の心に指をかけた貴女の罪と罰、人生が狂った人間の心に触れようとするというのはそういうことですから」

「申し訳ないな。教師と生徒という関係性の中で、何か困ったことがあれば遠慮なく言ってくれ。今の私にはそれくらいしかできない……」

「――はい、ありがとうございます織斑先生。改めてこれからよろしくお願いします」

「ああ……」

 

 淡々と、まるで無感情に。

 そこで千冬はようやく気づいた。

 自分がやつれていると思ったのは表層でしかなかったのだ、と。

 真実は、彼が心を殺してIS学園(ここ)にいる、と。

 

――――――――――

 

「うぅわ、何この扉、ボロボロじゃん。自分の部屋じゃなくて良かったぁ」

 

 廊下を歩く中、ボロボロで穴だらけの扉を見つけた。

 扉に着けられた部屋番号は『1025』。

 思わず足を止め、それを見ていた女子生徒にそうなっている理由を教えられ、溜め息を吐く。

 

「木刀で扉破壊って……当たったら死ぬ可能性あるよねぇ……。流石に倫理観……。教えてくれてありがとう……夜竹(やたけ)さん、だっけ?」

「うん。同じクラスの夜竹さゆか。憶えててくれたんだね! 嬉しい」

 

 曖昧ながら記憶にあった彼女の姿。

 長めの黒髪は毛先が少し外側にハネ、向かって右側をヘアクリップで留めている。

 

「流石に全員は憶えれてないけどね」

「え?」

「僕の席から時間割表を見ると目に入るからなんとなく憶えてたんだ」

「あっ、そっそうだよね~。でも理由はどうであれ憶えててくれて嬉しいな」

「できれば皆と仲良くしたいからね。改めてこれからよろしく頼むよ、夜竹さん」

「うん。それとさゆかで良いよ。私も元親くんって呼ぶから。それと……できればさん付けはない方が嬉しいかな~なんて」

「わかった。よろしく、さゆか」

 

 落ち着いた声音ながらも少し緊張した様子のさゆかに元親は笑顔で応じながらその名を呼んだ。

 

「よ、よよよよろしく!」

「うん。それじゃあ僕は荷解きとかあるから部屋に行くね」

「あ、うん。あっ、こっ困ったことがあったら言ってね! クラスメイトとして助けになるから!」

「ははは、ありがとう。でも極力そうならないように自力で頑張るよ。皆と違ってISのこと全然知らないからいっぱい勉強しないと」

「じゃ、じゃあね!」

「おやすみ」

「おやすみなさいっ」

 

 そう挨拶を交わし、元親は自分の部屋へと向かう。

 IS適性検査で最後の最後に見つかったということもあってか、人数が奇数ということもあってか、元親は特殊なことに一人部屋。

 であるならば男同士固めた方が良いのではないか、そう考えていた元親だったが部屋に入るとその考えはなくなった。

 寮の中に何ヶ所か存在する倉庫。

 そのうちの小さな一つを急遽改造して部屋にしたのであろうそこは一人にしては広いが二人では狭い、そう感じる真新しい空間。

 扉や机など、目に入るモノに傷も埃もない。

 キッチンも水垢一つなく、部屋全体から新規の匂いがしていた。

 

「で、なんの用ですか? 更識先輩」

「あら、知ってるの?」

 

 ベッドに目を向ける。

 そこには水色の髪をした女子生徒が座っており、元親を観察するようにジッと見つめていた。

 

「更識楯無、二年生で生徒会長。感情を読み取ることのできない操縦が特徴。ロシアの国家代表操縦者で自称IS学園最強」

「酷いわね、自称じゃなくて自他ともに認めるIS学園最強よ?」

「ああ、すみませんね。てっきりIS学園の括りには教職員も含めると――織斑千冬も含めると思っていたもので」

 

 そう呟くように言うと、楯無は「あくまでも学園は生徒主体、でしょう?」とくすりと笑い、手に持っていた扇子を開く。そこには『対象外』の文字。

 

「話を戻しますが。なんの用で?」

「君に興味があって来たの」

「はぁ……。とりあえず荷解きしたいんでベッドから退いてください。座るなら椅子にどうぞ」

「お姉さんの匂いを出来るだけ染みつかせて後で堪能したいとは思わないの~?」

「好きでもない人間の匂いとか。興味あるワケないでしょう? ほら、どいたどいた」

「ちぇ~」

 

 羽虫でもあしらうかのように手を払う元親に楯無は扇子で『ヒドイわ』と返しつまらなさそうにしながらも大人しくその指示に従って椅子に腰をかけた。

 

「興味。どういう点に? 男がISを起動したことに対してなら研究機関にでも問い合わせてくださいよ。どうせロクな回答はないでしょうけどそもそもロクな研究結果すら得られてないでしょうから関係ないですが」

「それも少し興味はあるけど私はどうでも良いの。気になったのは君が『整備』で申請したのかということよ」

「それに対して答える前に聞きますね。――アンタ何者? ただ生徒会っていうなら生徒の申請に対してンなコト聞くワケがない。究極の目的は何で、誰の差し金?」

 

 そもそも生徒会長だろうとも一生徒に過ぎない身で新入生の希望を閲覧できるワケがないのだが、この際そんなことはどうでもよかった。

 どうやったのか、どうして出来たのか。それは論点ではなく、論点とすべきは相手の正体と目的。

 

「――お」

「お?」

「お姉ちゃんだからよ!」

「えぇ……」

 

 お、と言われ。

 様々な可能性を巡らせた。

 大人の事情とはぐらかされるのか、織斑先生の指示でと言うのか、はたまた自分の知らない『お』から始まる名を挙げるのか。

 だが返ってきたのはそんな叫び。

 思わず毒気が抜かれたのも仕方ないだろう。

 

「今年入学した妹がいるのよ。それがもう可愛くて。だから変な虫が付くんじゃないかって心配なの!」

「お、おう……。おう?」

「生徒会の事を調べたなら知ってるかもだけど。生徒会には布仏(のほとけ)(うつほ)っていう整備科主席の人がいてね、簪ちゃん――妹が同じように整備科に進むかもって思ったらちゃんと調べたくなったの! あの子最近ずっとISの勉強ばかりしてて!」

「アッ、ハイ」

 

 あまりの勢いに思考がフリーズする元親。

 その後も止まらない彼女の妹語りに疲れ、途中で手を向ける。

 

「オーケーわかりました。僕が整備科――整備の道に進もうと思ったのは自己保身のためです。入学前に研究施設に入れられてわかりましたがアイツらはロクな研究ができません。これじゃ僕らが乗れた理由は一生わからないでしょうし、痺れを切らした結果男は二人いるからと片方(ぼく)が殺されかねない。なら自分のことは自分で調べた方が良い。そう思ったんです」

「一応はその道のプロだったと思うんだけど?」

「本当にプロなら自分たちが今やってることは無意味だってわかるはずです。血を調べて、尿を調べて、遺伝子を調べて、薬に対する反応を調べて、ISに載せてISの反応を計測して――ンなことで分かると思ってたら頭がお花畑すぎますよ」

 

 そもそもとして、ISコアのことすらロクに理解できていない人間がISを何故男が動かせるのか、などと調べてわかるはずもない。

 四則演算も不充分な子どもに微積分を行わせるような無茶な話だ。

 

「それに。僕が動かせることを世界に公表された以上、僕にロクな人生は残ってないんです。ISから逃げようとしたところで世界はそれを許さない。仮にIS学園から抜け出しても研究目的にロクデナシが襲ってくるだけ。生きるならISに関わるしかない」

「酷い話だけど、事実ね。国内外を問わず実験動物として捕獲しに来るでしょうし、今時なら女権団体がISは女のモノだと男が動かせる事実を隠蔽するために殺しに掛かって来てもおかしくないわ」

 

 そう。

 世間に公表された瞬間から、一切の平穏は失われている。

 

「でもね、ISを兵器運用しているような人たちに付き合う気はないんですよ。このまま大人しく受け入れていたら宇宙を目的としたISを兵器として、戦争に繰り出し、僕は戦うことになる。男だからと物珍しさに前線に駆り出され、経験値の差で男女関係なく殺される。なら僕は死なないためにISから遠ざかりますよ。けど逃げもしません。だから――」

「だから整備科に進もうと、そういうこと? ISに携わればIS×男という状況は維持できて、けれど死からは遠ざかれる。なるほど考えたわね」

 

 付かず離れず。

 命が保証される分水嶺。

 それに本人が望んで研究を行うというのだから、国としても受け入れるだろう、と。

 

「あと、僕って元々はゲームを作るのが夢だったんですよ。今となっては無理な話ですけど、それでもISを整備したり設計したりの方がまだ昔の夢を追えているような気がして……」

「ごめんなさいね……」

「なんで先輩が謝るんですか。もし先生とかの上の人間に指示されて聞きに来たんだとしても、今こうなってるのは先輩のせいじゃないですよ」

 

 申し訳ない、と。そう確かに感じさせる声音で漏れた呟き。

 元親は苦笑交じりに楯無のせいではないと否定する。

 

「キミがその道に進みたいっていうのなら、わかったわ! 虚ちゃんに本を借りれないか聞いてみる。貰った参考書はいっぱい読んだみたいだけど他の本は持っていなさそうだからね」

「良いんですか?」

「良いのよ。贔屓だって言われたところで私が黙らせるわ。望んでこうなったワケじゃないのに一方的にハンデを与えられてそれを埋める機会がないなんて悲しいじゃない? だったら私が力になってあげる。私はお姉さんで、生徒会長だもの!」

 

 その手には『依怙贔屓上等!』と。

 そんな楯無の姿に元親は久しく出していなかった心からの笑いをクスリと漏らした。

 

「ありがとうございます。楯無先輩」

「あら、名前呼びだなんて意外と女慣れしてるの?」

「いや、単純に同学年に同じ苗字の人がいるならそこと混ざるかな、って。整備を選んでるなら関わることがあるかもしれないですし」

「なるほど。……簪ちゃんに変なことしたら許さないから」

「わかってますよ。それに、俺なんかと付き合ったら迷惑かけることになるでしょうから……」

 

 選択を間違えれば過酷が待つ自分の人生。

 そこに他者は巻き込めない、と。

 そんな人生を歩むのは一人で良い、と。




 残念だったな! そいつの方が上手だ!
 そもそも国家代表として腹芸やってる人間相手に少し前まで普通の中坊だったヤツが立ち向かえるワケがない、そいつは特別製だ
 人たらしと称される女に勝てるわきゃない

 まあ、彼女の言った事はちゃんと本心です
 妹のためという私的感情もあります
 元親の力になるというのも本心

 理由はどうであれ頑張っているのが元親です
 一所懸命な後輩は楯無にとってもカワイイ……ハズ
 状況がコレだからちょっと疲れてる元親だけどベースは素直な少年って感じなので、勉強とかIS操作とかを教わる時にはわからないところはちゃんと聞くし、後輩としては可愛いんじゃないかな?
 わからん
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