ナチュラル   作:レイジー

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第二十話 新学期とか、訓練とか

「頑張れー」

 

 新学期が始まった。

 空では一組二組のクラス代表。つまり一夏と鈴音が戦っている。

 合同の実践訓練。

 機体性能で最初は優勢。だが燃費の悪さから形勢は徐々に悪化し。

 最終的に一夏は敗北した。

 

「また負けちまった。元親ぁ、なんかアドバイスないか?」

「……戦闘における思考力が杜撰すぎる。先を読む能力を磨け。相手の進行方向は? 相手の視線は? 相手の体勢は? ハイパーセンサーで広く認識できるとはいえベースは人間。どうしても一瞬のうちに視線が動く。観察して、動きを読んで、自分の動きで相手を封じて誘導して。基礎ができてないのにアドバイスもクソもあるか」

「……あの一件からお前口悪くないか?!」

 

 臨海学校最後での本性晒し事件。

 それを機に、元親は演技を抑えていた。

 加えていえば。本人としては認めたくないことだが、束の放送によって一定の身の安全が確保されて少しは気を抜くことができるようになったというのもある。

 

「剣道やって、織斑先生と同じく剣術を学んで。そのくせ基礎すらできてないのが悪い」

「そりゃそうだけどさぁ……」

 

 一夏には見て動くという悪癖があった。

 相手の出方を窺い、後手に回る。

 自分から攻めることはあるが、結局は相手の動き次第。

 それは当然ながら元親としては論外だった。

 

「チッ、じゃあ放課後相手してやるからアリーナで待ってろ」

「舌打ち!?」

 

 自分の欠点に気づいていないのか納得した様子のない一夏に、元親はわざと聞こえるように舌を鳴らす。

 

「マトモな相手ならマトモに相手する。マトモじゃないから適当にやってやる」

「……酷いな」

「じゃ、この話はなかったってことで」

「わ~っ、ごめんごめん!」

 

 ある程度の精神的余裕が生まれたからだろうか。

 元親は悪態を吐きながらも自ら一夏の相手をするという奇妙な行動に失笑していた。

 

――――――――――

 

「なんで俺も……」

「嫁も昼食に誘ってやろうと思ってな。いつも一人では寂しかろう」

「別に一人じゃないんだが……」

「た、たまには夜竹たちではなく私とも食べろ。……ほら、私のシュニッツェルを一口やるぞ」

 

 元親はラウラに連れられる形で一夏たちと昼食をともにしていた。

 普段は一人、あるいはさゆかや本音、清香、静寐などの親しい女子と食事をしている。

 今日は確かに一人で食べようとしていたが放課後顔を合わせるのに昼食時まで一緒にはいたくないと一度断ったがラウラの強引に負け、七人で食べることに。

 はぁ、と溜め息を吐きながら元親はシュニッツェルなる仔牛のカツレツを食べた。

 

「好きなのか?」

「馴染みがあるからな」

「ふ~ん」

 

 ふと初対面時の氷の雰囲気を思い出す。

 あんな状態でも食事に関してはそこそこちゃんとしていたのだな、と少し安心しながら空へと目を向けた。

 その頭は今、以前束に言った目標のことを考えている。

 宇宙開発。

 思わず言ったが、そもそも自分の目的は自分が実験動物にならないため自分で男性操縦者の謎を解明することだった。

 果たして両立できるのか。

 両立できなかった場合、一方を優先し、もう一方を諦めるのか。あるいは後回しにするのか。

 

「元親はお菓子は好きか?」

「うん、大好きさ! ……好きなモン好きなだけ作って好き放題食べるのは気持ちがいい」

「ふ、太らないのか?」

「運動してる」

「……」

 

 ラウラも情緒がつき、年頃の乙女らしい悩みを持つようになった。

 が、元親は知ったこっちゃねえとばかりに切り捨てた。

 確かに元親は体質的に一般よりも代謝が高い。

 それでも消化や摂取量の方が圧倒的に多く、それゆえその分の運動はキッチリとこなしている。

 食べるなら動く、動かないなら食べない。基本姿勢はそれであり。

 食べ盛りの男子高校生として食べないという選択肢はないため、元親は運動を怠らない。

 

「元親はやはり痩せた女の方が好みか?」

「……体型であまり考えたことはねえ。ただデブは苦手だな。少なくとも病気とかじゃないなら怠慢って感じがするし。筋肉質は……ワリと好みではあるな。体脂肪が極端に低いと逆に心配だから、まあ、軽く筋肉が浮き出て見える程度か?」

「むぅ……」

「ま、好みの人間に会ったことがないからわからない、でファイナルアンサー」

 

 最終的にはその一言に尽きた。

 色恋事よりもゲームの方が好きだった元親は友人と遊ぶことはあっても恋愛に意識を向けたことがない。

 異性の友人がいなかったワケではないが、幼少期の話で。

 幾人かは現代で流行っている思想に染まり、残った数人は彼氏ができたことで疎遠になったり進学を機に疎遠になったり、と持続した関係性ではなかった。

 

「……織斑はどうなのだ?」

「えっ?! 俺?」

 

 友人のアシストでもしてやろうと気を遣うラウラ。

 

「織斑千冬だろ。姉の水着姿に見惚れる筋金入りのシスコンだぞ」

「……すまない織斑。やはりなんでもない」

「ちょッ!? 俺にだってちゃんとした好みくらい――」

「巨乳、年上、長身、ハキハキした女。違うか?」

「……黙秘権を行使する」

「ほれみろ」

 

 普段の観察や、千冬から聞いた話から推測したおおよその好み。

 図星を突かれた一夏は言い淀む。

 

「あの人とずっと一緒だったから性癖歪むのはわかるけど、あれを前提に考えない方が良いと思うぞ? ――ごちそうさまでした」

「あっ、元親……」

「食器下げるだけだから。ラウラが食べ終わるまで待つから自分のペースで食え」

「ありがとう」

 

 そもそもが一夏を主体とした集まり。

 ラウラは自室が同じのシャルロットと一緒に食べようという考え。

 元親は他の女子たちと特別仲が悪いワケではないが、その一夏主体の集まりで会話に入ることも、入る気もなく、結局場をかき回しただけであった。

 

――――――――――

 

「あれ? 元親……ISの訓練じゃなかったのか? それってボールだよな、降りた方が良いか?」

「そのままで構わない。織斑、授業の時の話憶えてるか?」

「えっと、先読みだとか、相手の動きを誘導するとかってヤツか?」

「合ってる。ならどうするか? 答えがコレだ」

 

 ISに乗った状態で待機していた一夏。

 それに対して元親は普段の運動着姿で、大量の白いボールを持ってやってきた。

 大きさは直径10センチ程度で。

 特徴としてはその表面の模様はほとんど見えなかった。

 ないワケではないが、色の都合でただの白い球。それはハイパーセンサーを使ってなお、である。

 

「どういうことだよ?」

「今から俺はほぼ同じフォームでお前に向かって投げる。それをお前は正面から右手だけでキャッチするんだ。わかったか?」

「だからどういう――」

「やるぞー。ほいッ」

「ちょッ!?」

 

 それはあまりにも速かった。

 緩い動作速度と、気の抜けた声からは考えられないような速度――時速150キロオーバー。

 もちろんその程度であればISのハイパーセンサーで感知でき、一夏も対応できる。

 

「イッテェッ!!」

「やるのはこんな感じだ。ほい、ミット」

 

 素手で取るのは別の話である。

 

「先に渡してくれないか!?」

「いや、だって……うだうだ言ってるから、黙らせようと」

「お前は千冬姉か!?」

 

 渡されたミットを装着し、一夏はこれ以上文句を言えば同じことになりかねないと口を噤んだ。

 元親は一夏の近くにキャッチしたボールを入れるためのカゴを置き、元の立ち位置に戻る。

 

「ほいッ」

「曲がッ!?」

「ほいッ」

「落ちッ!?」

「ほほい」

「うわぁッ!?」

 

 そのどれもが途中までは一夏の胸目掛けて正確に飛んでくる。

 異常なほど正確に。

 この光景を映像で見たならまるで途中までは映像の使いまわしかのように、同じ軌道。

 けれど一夏の手前、ほんの僅かな距離で唐突に変化を起こし、正面から取るのはできなくなる。

 

「どうすれば良いか、わかるか?」

「回転を見て判断する?」

「そう。球が実際に動いてからじゃ遅くなるように投げてるからな、回転を見て先に動かなきゃならない」

「……関係ないけどよく変化球こんな種類投げれるな。野球部だったのか?」

「休み時間に見て、さっき軽く練習して覚えた」

「……は?」

「じゃ、続きやるぞ~」

 

 一夏の待ったを無視し、ボールを投げた。

 右へ、左へ、下へ。ストレートかと思えばノビたり、逆にノビなかったり。

 異常なほどの制球力だが。

 そんなこと意識に止められないほど連続して投げられる。

 

「おいおい、ちゃんと正面から受け止めろよな。誤差は許せて肩幅程度だ。肩から少しでもはみ出したらアウトな」

「そ、そうなったらどうするんだ?」

「ん~、10回ミスで10キロランニングを一時間で。そこからミス2回ごとにタイムを一分減らす」

「え」

「は~い、やりますよ~」

 

 地獄を突きつけられた。

 10キロを一時間程度なら問題はない。

 だが、タイムが短縮されるとなると話は別だった。

 カゴを見る限りおおよそ30球は入っている。

 つい今しがたカゴの交換が行われ、おそらくは最低でも30球。

 全部ミスをすれば50分。

 ISの合同訓練を行い、六限の実習を終え。肉体的に疲労が溜まった状態でそれは中々辛い。

 

「肩幅わかる~? 今のミスね、これでミス8回だから」

「前のもカウントしてんのかよ!?」

「え? もっとカウント増やそうか? これでもラインギリギリの部分はセーフ扱いなんだけど」

「いえッ、結構です!」

「よろしい」

 

 短時間とはいえ一度カゴ交換で時間を空けたからか、集中を切らした一夏は初球でミスをしてしまった。

 そして30球終了で、罰ゲーム確定。加えてタイム6分の短縮。

 カゴの交換が行われる。

 

「じゃ、この30で終わりだけど……せっかくだし変化の幅、増やそうか。あ、ついでに速度も上げとく?」

「えっ」

「喜ぶなよ~、仕方ないなぁ、張り切っちゃうぞ~」

 

 元親は抑えていた力を少し解放し、球速と回転を増やした。

 さらに、ナックルボールを球種として追加。

 一夏は残り30球を終えた頃にはキャッチするだけにもかかわらず、かなりの汗を搔いていた。

 

「タイムは47分。頑張ろっか!」

「し、死ぬ……」

「大丈夫。織斑はタイムを把握する必要はないよ、俺が一緒に走ってペース管理するから!」

「!?」

 

 今回の件。

 元親は極力私的感情を排除している。

 もちろん、人間である以上無意識的な部分はある。だが、意識的に排除している。

 この、一夏に課した過酷は。あくまでも本人の強くなりたいという自由意思に基づき、それを実現させるために行っているのだ。

 

「10分。休憩しようか。それでランニング開始」

「も、もう少し……」

「あっはっは、それで強くなれると思うならそれでも良いんじゃない? ――俺はお前が強さを求めていると、そう思ったから手段を提示しているだけだ。それを跳ねのけるなら、これまで通り自分の思うような訓練をしたらいい」

 

 汗だらけの一夏にスポーツドリンクを渡す元親は、一夏の休みの申し出に大声で笑った。

 そして冷徹に、見放すように言う。

 

「そ、それは」

「妥協して手に入る、檻の中の強さで良いなら俺はそれでも良いと思う」

「……」

「織斑が『これでいいや』と妥協するならその訓練に俺はいらないからな。ただ……次は前みたいな死にかけで済むと思うなよ? お前だけが死にかけると思うなよ? 他の奴らも――」

 

 言いかけの言葉。

 大切な仲間たちが傷つく姿でも想像したのか。

 あるいは苦痛に歪む表情か。

 どちらにせよ、一夏の決心は固まっていた。

 

「悪い。弱音吐いた」

「へッ、真面目にできんなら初めからそうしとけ」

 

 心を決めた一夏はすぐ立ち上がり、走り始め。

 そうして――ゲロを吐いた。

 休憩半ばで走り始めたのだから当然である。

 

――――――――――

 

「千冬さん。アンタの弟、決心するの遅くないですか?」

「何かあったのか?」

「強さを求めてたからしゃーなしで訓練提案したんですよ。したら弱音吐くわ、挙句ゲロるわ」

「そ、そうか……」

「ぶっちゃけアンタの弟じゃなきゃ早々に見捨ててますからね?」

「すまないな。まあ、飲んでくれ」

「アンタに泣かれるよりかは良いんで別に構わないですけどね……」

 

 夜。

 千冬の自室でビールとドクペを呑む二人。

 今日は火曜日。明日が休日ではないため早々にお開きにする予定ではあるが、それにしても千冬の缶を開ける速度は早かった。

 

「……俺のせいで対応忙しいでしょ。すみませんね」

「気にするな。お前に関することだがお前のせいではないのはわかっている」

「俺が束に不用意なことを言ったせいですよ……」

「お前がこうして相手をしてくれているから私も気が楽だ」

 

 束の放送。

 そのお陰で命の危機は少し遠ざかった。

 が、逆に渡辺元親と篠ノ之束の関係性についての問い合わせが多数寄せられているのが夏休みを過ぎた今なお続く現状である。

 個人、マスコミ、国家。

 そこに立場の縛りはない。

 

「ちなみに山田先生の好きな物とか知ってます? お詫びに何かプレゼントしようと思うんですけど」

「ああ、それなら――……待て、お前さっきなんと言った?」

「? ……あ~、束呼びですか?」

「そうだ。なぜ名前で呼んでいる?!」

「あの日からたまーに電話来るんですよ。なんか、いちいち篠ノ之束呼びするのも面倒になったんで、もう、名前で良いかなって」

 

 そう、臨海学校後、束から元親に電話がかけられていた。

 特に用事がないのか、渡した栄養剤の使用状況を聞く、世間話をする、程度の他愛のない話。

 それが何度も続き、作業中に電話に出るまで何度もかけてきていたため、対応が雑になった。

 

「アイツ……。お前は大丈夫か?」

「まあ、実害はないんで。最近は減りましたし。ああ、でもなんか今、同居人がいるらしいですよ?」

「は、は!? アイツにか?!」

「なんか、料理が提供されてました。電話越しの食感とか、提供していた女の子の声から考えてあまり料理上手ではないっぽいですけど」

「何か、異常の前触れか?」

「その異常、多分束が犯人ですね」

 

 謎の同居人。

 二人は知る由もないが、クロエ・クロニクル。

 束がクロエとともに生活をしているという異常。

 さらには確証はないが上手ではない料理を文句を言わずに食べているという事実。

 彼女を知る千冬からすれば異常以外の何物でもなく、その異常さは付き合いの短い元親でも理解できる。

 

「願わくばアイツがその子との生活で丸くなってくれれば良いのだが……ないだろうな」

「ははッ、アイツは結婚しても丸くならないタイプの人間でしょうね」

「そもそも結婚できんだろうけどな。……お前ならあるいは?」

「ヤメテ」

 

 明確な拒絶を示す。

 理由は明白だが、酒を飲んでいることもあって千冬は思わず吹き出した。

 

「はっはっは、確かにアイツにはもったいないな」

「褒められてる?」

「ああ、お前が大人なら私が結婚したいくらいだ」

「クックック。もし卒業した後、素面でそれを言えたらお受けしますよ」

「言ったな? 楽しみにしていろ。私も楽しみにしている」

 

 酔った彼女を止める者はいない。

 酔いで紅潮した頬。緩んだ理性と表情。

 ふっ、と笑う彼女は他者の温もりを求めてか元親の頬に手を当て、眠気で温もった頬を数秒感じ。

 そして子どもを相手するように頭に手を乗せた。

 元親も一夏に付き合った疲労と、普段よりも就寝時間が過ぎていることもあって深夜テンション。

 何よりも。彼女が酔っていることを理解しているため特に抵抗せず、危害がないからと彼女の気がすむまで触らせる。

 そして翌朝。

 彼女は教師にあるまじき言動だ、と。後悔から悶えた。




 千冬は他人の温もりに飢えてるんじゃないかな、って思うワケ(異論は認める)
 確かに世界最強として信仰にも似た感情を向けられたりして、そういう方向性での孤独感があって、そういうモノとして受け入れてるんだろうとは思う
 けど彼女は束のように自他を精神的に隔絶できないし、元親みたいにもなれない
 ふとした拍子に孤独を強く感じると思うの
 束の元親に対する行動も孤独の中でようやく見つけた同類だからだし

 まあ、そういう感じで、酔いと合わせて多少は求めると思ったのよね
 そしたら興が乗っちゃって……流れでやってたらなんか最終的に可愛くなっちゃった
 自分の失態に悶える凛とした女性って……良いよね

 ちなみに好感度はガチで高い
 どっちの話だ、って?
 それは……
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