ナチュラル   作:レイジー

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第二十一話 学園祭に向けてのアレコレ

「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」

 

 説明、というのは今月ある学園祭についてだ。

 イベント事だからか生徒たちのテンションは高く、賑やかだったが生徒会役員の声で一気に静まる。

 高揚していても常識はあり、楽しみだからこそ不意にしない心構えがある様は実に学生らしい。

 

「やあみんな。おはよう」

 

 壇上に立つのは楯無。

 元親は一夏が少し動揺しているのに気づいたがどこかで会ったのだろうと無視した。

 そもそも全校集会、声を出す気すらない。

 

「ふふっ」

 

 一夏を見て、笑う楯無の姿に、元親はやはりと納得する。

 

「さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。キミたち生徒の長よ。以後、よろしく」

 

 そう言って微笑む彼女にあちこちから熱っぽいため息が漏れるのを感じ、元親は彼女が本当に人気があるのだと少し驚いた。

 普段の会話から人気は知っていたが、同時に普段の交流から彼女の残念な部分も知っていたため、元親の中では差し引きでプラス40点くらい。

 好意は持てるが彼女たちのような反応を見せるほどでもない、程度。

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは」

 

 いつものように扇子を取り出し、連動させているかのように横へとスライド、空間投映ディスプレイが浮かび上がる。

 

「名付けて、『各部対抗男子争奪戦!』」

 

 扇子が開かれ、ディスプレイには男子生徒二人の画像。

 

「ええええええええ~~~~~っ!?」

 

 耳を覆いたくなる叫び声。

 一夏は困惑し。

 元親は、恐ろしいほど整った満面の笑みを彼女に向けていた。

 

「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い――」

 

 ディスプレイを指す。

 

「両名を、一位の部活動に強制入部させましょう!」

 

 再度の雄たけび。

 

「うおおおおおおっ!」

「ふざけるな! ふざけるな! 馬鹿野郎!!」

「素晴らしい、素晴らしいわ会長!」

「屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……」

「こうなったら、やってやる……やぁぁぁってやるわ!」

「まさに外道」

「今日からすぐに準備はじめるわよ! 秋季大会? ほっとけ、あんなん!」

 

 事前通知も、承諾もないまま勝手に決定された事実に元親は周囲が騒がしいうちにヤジを飛ばす。

 

「あはっ♪」

 

 ヤジと一夏の困惑にはウインクが返された。

 

「よしよしよしっ、盛り上がってきたぁぁ!」

「今日の放課後から集会するわよ! 意見の出し合いで多数決取るから!」

「最高で一位、最低でも一位よ!」

 

 そっと静かに中指が立ち、もう片手の親指はスッと首元を横切る。

 

――――――――――

 

「えーと……」

 

 放課後のHR。 

 クラス代表として纏めるべく一夏は壇上に立ち、引き攣った笑みを浮かべていた。

 黒板に表示された文字を一部抜粋すれば『織斑一夏のホストクラブ』『織斑一夏とツイスター』『織斑一夏とポッキー遊び』『織斑一夏と王様ゲーム』。

 

「却下」

 

 大ブーイング。

 

「あ、アホか! 誰が嬉しいんだ、こんなもん!」

「私は嬉しいわね。断言する!」

「そうだそうだ! 女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

「織斑一夏は共有財産である!」

「他のクラスから色々言われてるんだってば。うちの部の先輩もうるさいし」

「助けると思って!」

「メシア気取りで!」

「素直に黒板に全部出るまで無言だったお前もアホだろ」

 

 ちなみに千冬は長引くと察して職員室に戻っていた。

 

「元親!? お前だって同じだからな!?」

 

 元親が関わっているものといえば。

 『渡辺元親の膝枕休憩所』『渡辺元親のマッサージ店』『渡辺元親とトークルーム』などだ。

 

「一人しか、あるいは二人しかいない人間を出し物のベースにしてる時点で企画が通らないのはわかってるし。ぶっちゃけちゃんと企画として成立してて休憩時間さえ貰えれば、良いかなって」

「理詰めの否定!? ……山田先生、ダメですよね? こういうおかしな企画は」

 

 感情優先だった一夏は考え方の違いに驚きつつ。

 たしかに企画として破綻しているとして真耶に期待を込めて確認をした。

 

「えっ!? わ、私に振るんですか!?」

 

 実に頼りない姿である。

 

「え、えーと……うーん、わ、私はポッキーのなんかいいと思いますよ……?」

 

 そんな真耶の反応に、元親は一体いつになったら一夏に手を出すのやら、と密かに楽しんでいた。

 

「とにかく、もっと普通な意見をだな!」

「メイド喫茶はどうだ」

 

 あくまでも真剣な表情で、ラウラはそう提案した。

 おおよそほとんどの者が呆然とし、流れを察した元親は鼻で笑う。

 

「客受けはいいだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える。確か、招待券制で外部からも入れるのだろう? それなら、休憩所としての需要も少なからずあるはずだ」

 

 淡々と。

 その様子はいつもと変わらない。

 いや、ほんの僅かだが、表情が普段とは異なった。

 

「何よりも――私が元親のその姿を見たい!!」

「賛成!」

「私は織斑くんの執事姿が!」

 

 彼女の発言とは思えない内容に呆気に取られていた者たちだったが、ラウラの言葉に脳が自動的にその姿を想起させる。

 脱げば筋肉質だが着痩せするため肩幅などを除けば細身に見え、容姿は中性的。

 なるほど、確かにメイド姿は似合うだろう。

 髪の長さも相まって、その姿を鮮明に想像するのは難しくなかった。

 

「反応的に決定っぽいけど……元親はそれで良いのか?」

「ん? 良いんじゃない? 楽しそうだし」

「意外と乗り気!? じゃ、じゃあ……これで決定?」

 

 出かける際には身の安全のため女装も辞さない元親にメイド服への拒絶はなかった。

 かくして、一年一組の出し物は『ご奉仕喫茶』に決まったのだった。

 

――――――――――

 

「――てなワケです」

「なるほど……その、渡辺くんには失礼だけど……少し面白そうね」

「あ~、ワリと乗り気なんで気にせず。それでなんですけど……メイドの参考として虚さんの動きを観察したいんですけど、良いですかね?」

「ええ、構わないわよ。私で良ければ」

 

 HR後。

 元親は生徒会室に訪れ、虚と話をしていた。

 元親は彼女の家系が代々、更識家に仕えてきたことを知っているため、仕える者としての所作を実際に観察して会得しようと考えたのである。

 

「んんぅ……もっちー、私が見せてあげようかー?」

「現在進行形で眠そうにしてシャキッとしてない本音はアテにならないかな~?」

「ひどいよー」

「ほら、人の脚を枕にしないで。ちゃんと起きて」

「はーい」

 

 はぁ、と溜め息を吐きながら元親は本音の頭を軽く叩き、起きるように促す。

 

「そうだ、もっちーはさー、出し物でお菓子とか作んないのー?」

「作っても良いけどその場で作るとなると時間かかるし。作り置きってなると素人の料理じゃ消費期限がわかんなくて危ないだろ? だからやるとしても厨房かな~、って」

「そっかー。もっちーのお菓子好きだから食べたかったんだけどなー……」

「あ、そうだ。お昼一緒じゃなかったから渡すの忘れてた。これ、新作の」

 

 カバンの中から白い箱を取り出す。

 100均で売られている白のシンプルなケーキの箱だ。

 それがカバンの中から複数。一つを本音に、二つを虚に。

 

「最近試作のしすぎで舌が麻痺してきてるんで、率直な感想をお願いします」

「わーい。箱の中はなんだろうなー? ――ザッハトルテだー!」

「ありがとうございます、嬉しいです。でもどうして急に?」

「あ~……実は最近IS系統の作成で少し悩んでたんですよ。で、そのストレス発散がてらスイーツでも作ろうかなーって思いまして。そんなワケで以前から好きで見ていた動画投稿者さんの中から手軽そうなのを選んで作った、って感じです」

 

 今にも食べ始めそうな本音を虚は手で制止し、紅茶を入れる。

 そんな虚の準備姿を元親はジッと観察していた。

 

「色がより暗い方がビターチョコで、明るい方がミルクチョコです」

「同じ色が二つずつ……お嬢様の分でしょうか? ああ、でも箱は二つ?」

「中に挟んだジャムの種類が違うだけです。本当はジャムから作るつもりだったんですけどね~、果物買ってなかったんで持ってた市販のジャムにしました」

「なるほど。飲み物は紅茶でよかった? 本音がコーヒーを飲めないからつい紅茶にしたけど」

「ええ、大丈夫です。チョコ系統はどっちも合いますからね」

 

 談笑しながら所作を観察し、机の下で手の動きを真似る。

 そうしていると不意に音もなく扉が開いた。

 

「ただいま」

「おかえりなさい、会長」

 

 やってきたのは楯無。そして背後の一夏。

 楯無は元親の姿を見ると少し驚いたような表情になり、一夏は元親と本音の姿に明確な驚愕を見せる。

 

「わー。おりむーだ~」

「まあ、一夏くんはそこにかけなさいな。お茶はすぐに出すわ」

「お菓子もあるぞ」

 

 虚はさっきの流れで紅茶を。

 それに合わせて元親はカバンから箱を取り出し、虚を経由し、皿に乗ったガトーショコラが提供される。

 

「元親は生徒会の人間だったのか?!」

「……そう、実は俺も生徒会の人間なんだ」

 

 チラリと楯無に目配せをする。

 楯無は小さく頷いた。

 

「まだ公表してないんだけどね、元親くんは生徒会に所属してるのよ」

「そうだったのか……。ここにいるってことは、のほほんさんも?」

「そうだよー。生徒会書記の、私は出来るガールなのだー」

 

 元親は内心、ダウトと呟きながら何も言わず無表情で紅茶を静かに嗜む。

 楯無は差し出されたザッハトルテを口にし美味しさに呟きながら一夏をここに連れてきた目的、その本題へ入った。

 

「ということで、学園祭までの間まで私が特別に鍛えてあげるわ。ISも、生身も」

「遠慮します」

「織斑くぅん? 生徒最強からの特訓のお誘い。断れるほど強かったかぁい? キミィ?」

「うっ……はい、よろしくお願いします……でっ、でも勝負しましょう。負けたら素直に従います」

「フラグやめーや」

 

――――――――――

 

 結果を言えば、当然一夏の負け。

 何度やってもその結果は変わらなかった。

 

「よっわ……。ざぁこざぁこざこ、ざこ一夏~」

「ぅぅ……も、元親はどうなんだよ!? そんなに煽って!?」

「俺? ……久々にやりますか?」

「そうね。あとで一夏くんと戦ってもらうつもりだってけど、私と戦うのを見て勉強するのも良いかもしれないわね」

 

 一夏との対戦のため、二人同様に白胴着の紺袴に着替えていた元親は楯無と向き合う。

 

「基本的にISでの訓練でしたし、地上戦はかなり久々ですよね~」

「そうね。試しにやっただけで片手で足りる程度の数かしら?」

「四回です。……準備は?」

「良いわよ」

「じゃ、よろしくお願いします」

 

 手を構える。

 握らず、手刀に近い形の緩い手の構え。

 

「――」

 

 見つめ合う二人。

 先に仕掛けたのは元親。

 軽く足を浮かせるだけ。

 そのまま前に倒れ込むように身体を沈ませ、距離詰めと攻撃を行う。

 貫手が喉目掛けて直進し。同じく無拍子の手刀が返された。

 意趣返しとばかりに首を狙う手刀。

 元親は膝を折ってより深く沈むことで回避、そのまま身体を持ち上げて掌底。

 と思わせて回避に扱う脚の裏に脚を滑り込ませることで後退しようとして楯無の体勢を崩す。

 倒れ込む楯無の胸目掛けて拳を進ませ。

 瞬間、ズレた。

 残った片足で跳んだ楯無。

 元親の腕にしがみつき、真っすぐ伸ばした片腕で人一人の体重を支えられる体勢ではない元親は倒れ込む。

 

「ビックリ。負けちゃうところだったわね」

「……無拍子で動いたのになんで対応できるんですか?」

「ああ、それは簡単な話よ。無拍子ってね、身体を沈めるとわかるの。だからやるなら身体を落としなさいな。その違いで動きは明確に変わるわよ」

「……なるほど」

 

 下にいて、自らの意思で行動した楯無は先に着地した瞬間に元親を組み伏せた。

 結果、元親の負け。

 経験の差は簡単には埋められないと苦笑しながら元親は元の位置に戻り、一礼で締める。

 

「す、スゲェ……先輩も、元親も……」

「お前もできるようになるんだよ。つか俺ら世界でたった二匹の珍獣だぞ? IS学園卒業後の身の安全確保のためにも、楯無さんの次の生徒会長の座は絶対のモノにするぐらいじゃないと殺されるからな?」

「そんなに物騒な話なのか?! 流石にそこまで危ないことは――」

「何言ってんだ? 女権団体がちょくちょく来てうるさくしてるし、色んなとこから俺ら二人のこと言われてんの知らんのか」

「知らん……」

 

 思わず溜め息を吐く。

 

「先輩ぃ、思う存分痛めつけちゃってください」

「まかせろー。対応に追われる身の大変さ思い知らせて、あ・げ・る」

 

 楯無との組み手をベースに、元親とも組み手を交える。

 その訓練は疲労から一夏が気絶するまで続いた。

 起きた後はISでの訓練や、元親との先読み訓練とペナルティランニングが待っていた。

 

――――――――――

 

「で。朝はよくも人を売ってくれましたね?」

「でも私の目的はわかってるでしょう?」

「まぁ。でも、それなら普通にやれば良いじゃないですか。なんで景品みたいに……視線が痛いんですがねぇ?」

「面白そうだから!」

「滅びよ」

「痛ぁい!」

 

 連絡を受け、元親は楯無と自室で向き合っていた。

 全校集会のことを話し、愉快犯であってことに元親はヘッドロックをかける。

 

「ホント、遠慮なくなったわね」

 

 そう不満げに呟く彼女は『つまらない』と扇子を開いた。

 

「優しくしてほしいですか?」

「たまにはそうして欲しいっていう乙女心よ~」

「なら学園祭の時にクラスに来てくれればそうしてあげますよ」

「メイドさん、ねぇ?」

「ふっ、揶揄うなら残念。恥ずかしくないんで」

 

 したり顔で小馬鹿にする元親はそういうとスマホ画像から昔自撮りしたモノを見せる。

 それはとあるアニメキャラのコスプレで――女装だった。

 

「うっわ、今より線が細いのもあってすっごいカワイイ……なんかムカつくわね」

「化粧すればなんとでもなりますからね。ちなみに色々ありますよ」

「貴方、卒業しても平然と街を出歩けるんじゃないの?」

「たまに程度なら良いですけど、毎日出歩くのにこんな狭苦しい思いしたくないでーす」

「それもそうね」

 

 元親の言葉に楯無は思わず溜め息を吐く。

 

「結局、なんの用なんですか?」

「ああ、そうそう。――貴方の打鉄。正式に貴方の専用機になったわよ」

「――え? これって学園のモノなんじゃ……」

 

 在学中に限り、専用機として扱われる元親の打鉄。

 ISコアの数には限りがあり、ゆえにISを正式な専用機として与えられたのは一夏だけ。

 それが覆った。

 驚愕は強い。

 

「それがね。篠ノ之束博士からISコアが一つ新規で届いたの。一緒に送られて来たメッセージには『もっくんが今使ってる子はちゃんともっくんの専用機にするように。仕方ないから代わりの子を送ってあげるよー』って……」

「それは……なんというか……対応が忙しそうですね」

「手続きとかは上がやってくれるから良いんだけど、コアが一つ増えたことで他の国からの問い合わせが多くて……」

「お疲れ様です! こちら、お納めください……」

 

 深々と頭を下げ、冷蔵庫の中から各種スイーツを献上する元親。

 

「ありがと。電話対応とか書類対応とかが増えて疲れてるから甘いモノは助かるわ……」

「マ、マッサージしましょうか?」

「お願いするわ……」

 

 流石に申し訳がなさすぎ、元親は誠心誠意尽くすことにした。

 

 




コスプレ大好き主人公
ただ昔はお金がなかったからそこまで数できてない

ちな、元親が好きな動画のヤツね「みなさん、カカオ~!」の人


そうだ、元親に性欲あるのか~、とか高性能ゆえの弊害・障害は~って感じの感想が来て、そっちでは好みの話をしたんだけどついでにこっちで苦手なタイプのことを軽くいっておくね~

元親は耳がとっても良いの。昔は音の取捨選択とか排除とかが苦手で、大きな音がそのまま意識に伝わってた感じ
だから昔から無意味にうるさい人が苦手だった(イメージ的にはクラスで騒いでるトップカーストの男女とか)

今は覚醒で聴覚と脳の適応がされて、音の制限ができるようになったから平気だけど
それでも昔の感覚のままうるさい人はちょっと苦手
元気系は大丈夫なんだけどね。騒がしいのは……って感じ


てことで今話おしまい!
評価、感想、お気に入りよろしくね~
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