ナチュラル   作:レイジー

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第二十四話 レッツ掌底

「はい、二人とも王冠つけて」

「はぁ……」

「ちっさ……」

「小さいのは我慢して。一夏くんは乗り気じゃなさそうね、シンデレラ役の方がよかった?」

「違いますよ!」

 

 更衣室。

 そこで元親と一夏の二人は着替えていた。

 格好はいかにもな王子様。

 

「さて、そろそろね」

 

 舞台セットは豪華。

 席は満席で歓声は大きい。

 

「あのー、脚本とか台本とか一度も見てないんですけど」

「大丈夫、基本的にこちらからアナウンスするから、その通りにお話を進めてくれればいいわ。あ、もちろん台詞はアドリブでお願いね」

 

 実にいい加減な舞台。

 だが魂胆を察している元親は何も言わない。

 

「逃げてぇ」

「我慢して頂戴」

 

 面倒くさそうに元親は呟き。

 二人は舞台袖へ。

 

「さあ、幕開けよ!」

 

 響くブザー、照明が落ちて暗くなる。

 幕がゆっくりと上がり、ライトが点灯した。

 

「むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました」

 

 二人の王子が舞踏会エリアへ。

 

「否、それはもはや名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰燼を纏うことさえいとわぬ地上最強の兵士たち。彼女らを呼ぶにふさわしい称号……それが『灰被り姫(シンデレラ)』!」

 

 困惑する一夏を尻目に、元親は手首や足首の柔軟を行う。

 

「な、なぁ、元親。これって……そういうことか?」

「だろうな。準備しておけ」

「……おう」

 

 明らかにおかしな状況。

 幾分か残った冷静さで今後の展開を察したのだろう一夏が隣に立つ元親に訊ねた。

 

「今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちの夜がはじまる。王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!」

 

 前口上が終わる。

 二人は互いに少し距離を確保し、身構える。

 

「もらったぁぁぁ!」

 

 気迫に満ちた叫び声。

 現れたのは純白に銀をあしらったシンデレラ・ドレスを纏った鈴音。

 

「っと!」

「よこしなさいよ!」

 

 訓練の甲斐あり、一夏はその攻撃を危なげなく回避。

 すぐさま投げられた中国の手裏剣――飛刀も普段のボールキャッチの癖で受け止める。

 

「危ないだろうが! 死ぬぞ!?」

「死なない程度に殺すわよ!」

「おかしなことを言うな!」

 

 刃先を捻じ曲げて使えなくし、投げ捨てる一夏。

 

「嫁。大人しくそれを寄越せ」

「ふっ、王子たる僕に『寄越せ』、だなんて随分と失礼な子だ。それにこれは我が国の明暗を分ける大事なモノ、君のような無作法者に渡すことはできないね!」

 

 元親は自分が今舞台に立っているという自覚で、芝居をする。

 

「嫁よ。私たちは共にあるべき、そうだろう?」

「ふざけたことを! 僕の伴侶は僕が決める! 王子たる者、そこに自由意思はないも同義。だがそこだけは譲れない!!」

 

 ラウラの言葉から元親はその女子だけが知る景品がデート権、あるいはそれに類する行動を共にするもの。同室同居の権利の類であると理解。

 本心交じりの叫びとともに、襲い掛かってくるラウラをその勢いを利用して投げ飛ばす。

 

「も、元親くん。私……貴方とアニメを一緒に見たいんです!」

「……うせやろ?」

 

 自分を、渡辺元親という存在を、求めてくるのはごく一部の物好きでありラウラくらいか、あるいは悪ふざけの楯無くらいだと考えていた。

 けれどもまさかの刺客――更識簪の登場に流石の元親も呆気にとられる。

 刹那の隙を突いてラウラが襲い掛かるが、無意識の反射で動きを逸らして防ぐ。

 

「一夏王子! 共にいては危ない、別れるぞ!」

「お、おう!」

 

――――――――――

 

「ふぅ……にしてもアリーナをこうも改造するとは……ヒマか?」

 

 物陰に隠れる元親はISの簡易メンテナンスのために作った小型端末を用いて頭部の王冠型電撃装置を解析する。

 

(織斑。お前の特に尊くない犠牲は忘れないぞ)

 

 情報解析。

 IS内のヒナの得意技能であるハッキングの力を借り、元親は王冠型電撃装置の安全な着脱を可能とする。

 

「……あン?」

 

 そこで違和感に気づく。

 散々聞こえていた騒音が、舞台から出た。

 発達した聴覚を、開放する。

 雑音を排除。二つの足音が通路を走る音。

 

「はぁ……あんボケが」

 

 足音を追う。

 

「あら、元親くん。外しちゃったのね……」

「メインはヒナに任せました。コード接続ができないならシステムへの介入は俺にはできないんでね」

「そう。それで、状況はわかってるのかしら?」

「まあ軽くは。更衣室に入りましたね、ロック付き」

「そう……」

 

 更衣室に辿り着き。

 中に聞き耳を立てる。

 知らない――正確には一年一組の出し物で、一夏が相手をしていた女の声。

 面識はないが、顔はわかった。

 

「開かないでしょうね。――ヒナ」

『聞いてたよ。ゲーム付き合ってくれたらやってやるよ』

『休日丸々くれてやらぁ』

『毎度あり~。ちょちょ~っと、ホイホイっと~。――開いたぜ』

『流石ァ。愛してるぜ相棒』

『キッショ』

 

 扉に指先をかけ、ほんの少し。

 動くことを確認し。

 楯無とアイコンタクトを取り、彼女先導で動く。

 

「さっきの装置はなぁ! 《剥離剤(リムーバー)》っつうんだよ! ISを強制解除できるっつー秘密兵器だぜ? 生きているうちに見れてよかったなぁ!」

 

 蹴られている一夏がそこにいた。

 

「一夏くん、大丈夫?」

「お客様ぁッ! 婚活会場はここではございませぇんッ!! 行き遅れババァにとって若い男が好きなのはわかりますが高校生は犯罪ですぅ!! お引き取りを!」

 

 IS――『アラクネ』を纏った女――オータムに掌底を打つ。

 未熟といえど鍛えられた肉体。篠ノ之束に並び立つ素質を秘めた頭脳によって導き出された動作の最適解。

 素の膂力で、オータムはロッカーごと吹き飛ばされた。

 

「は――はぁ!? テメェ、一体何しやがった!?」

「何って……お帰り下さいパンチ?」

「なんで生身でIS吹き飛ばせるかっつってんだよ! それにどうやってハイパーセンサーをくぐり抜けやがった!!」

 

 驚愕のオータムは元親を睨み。

 元親は小馬鹿にした態度で彼女を見る。

 

「PICの慣性打ち消しってのは基本重力に対して働かされてんだ。常時全方位に使ってたらエネルギーの無駄だからな。つっても機動の時は働く。が、結局動いてない時は作用してねぇし、だからこそそこを狙って攻撃すりゃ装着者が認識するまでの間は吹き飛ばせる。あとは筋肉の問題だ。やはり暴力、暴力は全てを解決する。ってな」

 

 そういうと元親は見せつけるようにその場で軽く拳を突き出し、嘲笑った。

 

「で、ハイパーセンサーだが。――どれだけ機械の性能が良かろうとそれを扱いのは人間で、その性能をどれだけ引き出せるかは装着者次第」

「――あァ?」

「相手の認識速度を上回ればハイパーセンサーなんぞ意味がねえ。ま、とどのつまり――お前がバカで、ナメクジみてぇな思考速度してっから余裕でしたぁ」

 

 オータムは声にならない怒りを放ち。

 元親はそれを目にして、怒りを増幅させるため意図的に品を捨ててゲラゲラと笑う。

 

「先輩。ちょっと防衛お願いしますね~」

「はぁ、怒ってる相手って面倒なんだけどなぁ」

「大丈夫ですよ。バカが余計思考を捨てたらそりゃただのプログラム。快不快の二進数が一ビットもないんだから余裕ですって」

「はいはい。一夏くんは任せたわよ」

「おうとも~」

 

 そういうと彼女はISを展開し、水を操る。

 

「さて――織斑、ちょっと触れっぜ?」

 

 元親はそういって一夏の胸に指先を、正確には白式の装甲や装備を失ってなお構築されたままのISスーツに、触れた。

 

『おっ、なんか面白い攻撃仕掛けてきてんじゃん。けど、ヒナにそんな攻撃通じるワケないし。はい、オッケー』

 

「良いぞ。織斑、お前の白式は完全には失われていない。ISの力で構築したISスーツが残っているのが手掛かり。完全に繋がりが切れてたらスーツが奪われなかろうがスーツは消える。だから繋がりは残ってる」

「元親……」

「必要なのは細い糸を手繰り寄せるお前の意識。コアとの同調だ。――願え」

「――おう!!」

 

 右腕を突き出し、握り込む。

 直後、一夏の右手にコアが呼び出された。

 

「白式、緊急展開! 《雪片弐型》最大出力!」

 

 そうして一夏はオータムのISを斬り裂いた。

 だがオータムも最低限、万が一を想定していたらしく大爆発を起こして逃げた。

 

「織斑ぁ、あの程度の相手にやられんなよ……」

「うっ……すまん、油断してた」

「まあいい……」

「あれ? 元親くん、王冠は?」

「アレならさっきのオバサンの腕につけました! ヒスババアって嫌いなんで、しっかり電撃装置の出力を強化して!」

「……」

 

 ゲラゲラと笑う元親。

 きっと腕のアクセサリに気づき、外そうとした彼女は死ぬほど痛いが死なないし、気絶もしない電撃で何度か苦しむことだろう。

 何せ、ついでにシステムを強固にしたのだ。

 下手に物理的な解除をしようとすれば電撃が。

 システムから解除しようとしても、上手くできなければ電撃が。

 最低二度は苦しむ素敵な装身具である。

 それをタダで貰ったのだから、きっと彼女も泣いて喜ぶだろう。

 

「そっかー。じゃ、一夏くん。これなーんだ?」

「ふっ」

 

 楯無が指先で遊ぶもの。

 一夏は惚け。

 元親は鼻で笑う。

 

「……? 王冠ですけど」

「うん、そう。これをゲットした人が織斑くんと同じ部屋に暮らせるっていう、素敵アイテム」

「はぁ!? ……ま、まさか、それであんなに女子が必死に!?」

「うん」

「……何考えてるんですか……。大体、俺と暮らして楽しいわけないでしょう」

「そうかなー。ま、なんにしても、ゲットしたのは、わ・た・し」

 

 スン、と真顔になる元親。

 その内心では『こいつはいつになったら女心を学ぶんだ。一ミリも理解してねぇ』と訓練に女心を付け足すか本気で悩んでいた。

 

「当分の間、よろしくね。一夏くん♪」

 

 それはさておき、一夏の女難には全力で笑った。

 

――――――――――

 

「一位は、生徒会主催の観客参加型劇『シンデレラ』!」

 

 男子争奪戦の結果にはブーイングが巻き起こった。

 さまざまな苦情が飛び交う。

 

「劇の参加条件は『生徒会に投票すること』よ。でも、私たちは別に参加を強制したわけではないのだから、立派に民意といえるわね」

 

 実に酷い出来レースだ。

 

「はい、落ち着いて。生徒会メンバーになった男子両名は、適宜各部活動に派遣します。男子なので大会参加は無理ですが、マネージャーや庶務をやらせてあげてください。それらの申請書は、生徒会に提出するようにお願いします」

 

 ブーイングが静まる。

 

「ま、まぁ、それなら……」

「普段元親くんが遊びに来てくれるみたいに織斑くんも来てくれる、ってこと?!」

「一緒に呼んだら男子の絡みが!?」

 

(ちょいちょい腐女子がいるのはなんだんだ、この学園……)

 

 呆れる元親。

 その直後、各部活のアピールがはじまった。

 

「これからも気ままにお邪魔しますけど派遣の方が優先なんで、人手が欲しかったら呼んでくださいね先輩方~!」

「ひゃっほー!」

「愛してる元親く~ん!」

「お前……色んなところ徘徊してると思ったらそんなことしてたのか……」

 

 そもそもは愛想を振りまき、立場を確保するためのモノだった各部への顔だし。

 だが、やってみれば殊の外面白く。

 また、様々な知見が得られるということで元親はずっと各部を徘徊していた。

 それを曖昧にしか知らなかった一夏は、変人を見るような目で見ていた。

 

「これからもよろしくお願いしま~す!」

 

 ちなみに、元親の場合は普段から各部へ出ていたため、結局おもに呼び出されたのは一夏だった。




 鈴音の飛刀って、なに? 調べても出んのやが? 鏢じゃアカンかったんか?
 ま、えやろ

(次作候補を後書きで聞くのは利用規約的にアウトって言われたから消しやした)

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