ナチュラル   作:レイジー

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第二十五話 ゆく先を見据えて

「やぁや、もっくん! 元気かな?! かな!?」

「なんだ、テロ幇助女」

 

 あいも変わらずふざけた調子の束に元親は敵意を隠すことなく溜め息を吐く。

 

「えへッ、楽しくなかった?」

「当事者じゃねぇし……」

 

 彼女が何をしたのか、など聞く気はなかった。

 聞かずともわかるし。

 だからこそ自分と彼女が近いのだと突きつけられているようで、溜め息しか出ない。

 

「で? もっかい聞くが、なんだ? なんの用だ」

「ん~、こうしてもっくんの声が聴きたかったから?」

「メンドクセェ彼女かよ……」

「ヤダー、告白されちゃった? 私ってば罪な女!」

「してねぇ……」

 

 テンションが対偶にある二人。

 元親は自室で、開けていた窓から吹く風を顔に浴びて気を紛らわせる。

 

「でも、もっくんなら良いかもね~」

「寂しがり屋さんですかぁ? それともメンヘラ女ですかぁ? ……どっちにしろお断りだよ」

「キミだっていつかこの気持ちがわかる日が来るよ。絶対に」

「……」

 

 その言葉には珍しく感情が籠っていた。

 普段のような、感情を悟られないように取り繕うが一般的な人間の心がわからないから過剰になった演技、ではなく。

 あったのは、彼女そのもの。

 

「同意はなく、理解もなく。だから孤独を感じることになる。面倒だよね、教育ってさ。一種の呪いだよ」

「それには同意するが、それとどう関係があるんだ?」

「認識、意識、感情。しょせんは経験による快不快の二進数を複雑化したモノでしかないじゃん?」

「ああ」

「どれだけ社会から逸脱しようともさ、結局は社会生物として物心つく前からそう育てられた以上は。どうしても……孤独ってのがあるんだと思うよ」

「……」

「良いよね、キミはさ。どれだけ自分の能力が周囲とかけ離れていようとも、私っていう前例がいたから真に孤独になることはなかったんだから」

 

 優れているがゆえの孤独感。

 IQが20違うと会話が成り立たない、などというように。

 束は優れているがゆえ、その思考を他者と共有できなかった。

 発想も、身体性能も。全てが異なり、それゆえ。

 

「はぁ……今だけは受け入れてやんよ」

「キミってさ、優しいよね。ホント……」

 

 窓に背を向け、元親は自室にいる束と向き合う。

 自分が恵まれていることを理解しているから。

 彼女の言う通り、自分が真の孤独を抱かなかったのは彼女が自分の道の先に姿を見せていたからだ。

 だから、せめてもの恩返しとして、彼女を受け入れることに。

 

「いい匂い……。ねぇ、知ってる?」

「豆……。匂いと相性か?」

「うん。いい匂いって思う異性は相性が良いって。……嗅いでみて」

 

 胸に飛び込み、元親の匂いを感じた束は。

 まるで私を感じろといわんばかりに、両腕を広げた。

 元親は少し屈み、彼女の首元に顔を近づけるようにして彼女を抱きしめる。

 

「……どう?」

「風呂に入ってない奴のニオイがする……」

「ひどいなぁ。……それで?」

「ノーコメント」

「そっかー! やっぱりねー!」

 

 言わない。

 その理由を理解している彼女は、嬉しそうにはにかんだ。

 

「ねぇ、結婚しよ?」

「……束はさ、ちょっと他と違うだけの人間だよ」

「結婚、しよ?」

「社会から逸脱してる、とか言うくせに。なんで社会の取り決めでしかない『結婚』っていうんだよ……」

「そういった方が伝わるかな、って」

「あ、そ」

 

 ただ、一緒にいたいというだけなら結婚である必要がない。

 結婚とは共にいる特別な関係の人間に対して社会が付けた称号にすぎない。

 社会と関係ないなら、その称号も関係がない。

 その称号を、彼女が口にしたということは。

 彼女の本質は彼女が呪いといったように、やはり社会にあるのだろう。

 

「歪んだ女め」

「嫌い?」

「特になんとも」

「えへへ~」

 

 抱き合ったまま。

 二人は互いの耳元で囁くように語り合う。

 表情など介さずとも、わかった。

 

「……束」

「なに?」

「もし束が、社会に戻って来たいっていうならさ」

「……言わないんじゃないかな?」

「そう言うなら……俺が橋渡しになってやるよ。お前が社会に受け入れてもらえるように、お前が社会を受け入れられるように」

「え……」

 

 元親は、束の体温が上がるのを感じる。

 触れた肌が熱を伝える。触れるほど近い隣り合った顔が熱を放射する。首筋を撫でる吐息が、熱い。

 

「束?」

「プッ……それっ……――ちょ、ちょっと考えさせて……」

「? ああ、待つよ」

 

 熱を吐き出すように深呼吸をする束。

 ゆっくりと二人は手を緩め、密着していた身体を離した。

 

「もっくんには――もうこれはいらないね」

 

 束はそういうと、耳からGPSなどのついたヘアクリップを外す。

 

「あ、最後に――」

 

 呟くようにそういうと、元親に近づいたままに首と喉の中ほどにキスをした。

 

「楽しませてあげる。だから私を愉しませてね!」

「ああ」

 

――――――――――

 

「外れたのだな」

「はい。それと、来るの遅くなっちゃってすみません」

「連絡してくれたからな、構わん」

 

 千冬との訓練。

 束が来ていたこともあり、普段よりも遅く来てしまったことに謝罪をする元親。

 

「にしてもあいつが来ていたとは……」

「千冬さんのところには来なかったんですか?」

「連絡は来ていた。メインがお前だったからかすぐ終わったがな」

「なるほど」

「そういうことだ――準備は終わったか?」

「――っと、はい」

 

 柔軟を終え。

 足元の確認を終え。

 構える。

 

「最近は貴方に当てれることも増えてきましたね」

「ああ、加減ができなくなってきた」

「加減、しなくていいですよ」

「ほう? ――ほざけ!」

「ッ!!」

 

 千冬の足下が窪み、土が散る。

 首筋を切り裂くように直進する右手刀。

 元親は避け、掌底を打つ。

 左手で受け止められ、右手が引かれ、鉤爪のように曲げられた指先が首筋を搔いた。

 

「はぁッ!!」

 

 打った掌底を開き、千冬の手首を掴む。

 逃げを封じ、動きの先読みから僅かに力を加えて反らすことで動きと体勢の違いで崩す。

 だが千冬に視覚外から服を引っ張られることで体勢が変化、力の流れが変わり、互いに体勢が崩れた状態に。

 

「――フッ」

 

 距離を取る千冬に対し、元親は近づく。

 カウンターをする千冬の拳を受け止めつつ僅かなひねりを加えて腕に軽度のダメージを加え、それに反応を見せたところで受け止めるように勢いを殺していた拳を叩き落すように下へ逸らした。

 

「くっ――」

 

 体勢を崩され、前へ倒れ込むのをさらに踏み込むことで整えようとする千冬。

 だがそこを狙って足払いをかけ、足は着地をできずに空を踏む。

 

「よ、っとぉ」

 

 元親は倒れ込む千冬を胸で受け止めつつ首元へ手を添える。

 細首を絞めるように挟み込まれた右手。

 負けを悟った千冬はフッ、と小さく笑った。

 

「随分と強くなったものだ」

「またまたぁ、ご謙遜を。身体能力は制限かけてなくても思考段階は制限してたでしょ? 動きが単調でしたよ」

「なんだ、バレてしまったか」

「けどまぁ、初めてマトモに勝てましたね」

 

 これまで片目を封じて、片腕を封じて、などでの戦いでは勝ったことはあった。

 だがそういった制限なしに。

 肉体面での制限をかけずに勝てたのは初めて。

 その事実に元親は隠しきれない笑みを浮かべる。

 

「将来が実に楽しみだ」

「顔こえー」

 

 獰猛に笑う千冬の姿に元親は背筋を凍らせた。

 

「ああ、そうだ。『将来』で思い出したが、以前言っていた整備科志望というのは変わりないのか?」

「はい。それが何か?」

「それ自体には問題はないのだがな、学年別トーナメントの際にラウラを助けただろう? その動きからお前の実力を見抜いた一部の者たちから表に出せないのかという問いかけがあってな。回答したいがお前の正確な進路希望がわからないから少し濁したのだ」

「あ~……」

「だが、そういうことならばなるほど。そう返答して良いな?」

「ええ」

 

 腕組みをし、それで大丈夫だよな、と考える元親はふと思い出したことを訪ねる。

 

「あ、織斑先生。以前は普通にISの整備とか製造って認識でそっちの進路を選んでたんですけど。最近は宇宙開発の方向で行こうと思ってるんですよ。その部分って大丈夫ですかね?」

「ふむ……恐らくは大丈夫だろう。そもそもISというのは掲げられている目標が宇宙開発だ。体外的な回答は整備の道に進むというので問題ないだろうし、もし詳細を尋ねられた際は宇宙開発といえば本義から外れていない以上はヘタな口出しもできまい」

「なるほど。ちなみに宇宙開発って答えて勧誘とか来たりしませんよね? 正直その手の組織って信用できないので自分で起業しようと思ってるんですよ」

 

 起業。

 その言葉に千冬は少し驚いた様子を見せ、そして回答しようと考えこむ。

 

「海外含め、いくつかの企業は宇宙開発を掲げている。もちろんそこへ就職した卒業生からの情報では兵装開発が盛んらしいが」

「織斑先生って確か教師になって一年経って、その後僕たち、ですよね? もしかして僕のために!?」

「ああ――と言いたいのだが、まあ、正直なところは教師として生徒たちを導くためだな。お前だけ特別扱いというワケではない。男子ということで多少指導の手加減を抜いたりはしているが。あとは特殊な立場だからその部分をカバーする程度の特別――特殊性だな。男女差別というよりかは立場の違いによる区別だな。平等と公平は違う、というやつだ」

 

 千冬の、大人として、子どもを導く立場にいる者の責務を務めようとする姿を見て。

 元親は喜びと、憧れを抱いた。

 元親は彼女がなぜ今の道を選んだのかは知らない。

 きっと初めからそれを望んでいたワケではないだろう。

 けれど、彼女は今の立場を最大限全うしようとしている。

 別に能力がある者はそれを社会に還元する必要があるなどという思想は元親にはない。

 だが、自分の持つ能力を、最大限生かせれば幸せになれるだろうか、と。

 ふと、そう考えた。

 きっかけは朝からの続きだろう。

 束に言った社会を受け入れる、社会に受け入れられるという言葉が遅れて帰ってきたのだ。

 それゆえに、自分が社会に対して良い方向に与えられる影響、というものをふと考えた。

 

「先生」

「なんだ?」

「今度、進路相談良いですか?」

「――ああ、聞こう」

 

――――――――――

 

「織斑、亡国機業(ファントムタスク)が襲って来たときに怪我したろ? その時のデータを採取させて欲しいんだけど。無理か?」

「あの時のデータ? 良いけど何に使うんだ?」

「白式についてる生体再生能力、そのメカニズムを解析したい。頼む以上は話しておくけど――」

「良いぜ。他のISにはないらしいからさ、もしこれが解析できて再現できたら、みんなのISにも載せてくれよ。そしたらみんな万が一の時でも死ななくてすむかもしれないしよ」

「……助かる」

 

 一夏の訓練後。

 軽く休憩してから帰ろうと考え休んでいた一夏に、元親は頭を下げていた。

 

「やっぱ、元親もみんなに傷が残ったりするのは嫌だよな。あ、もしかして俺のこと心配してくれたり?」

「……まぁ、一応心配はしてる」

「え、冗談のつもりだったんだけどマジか。てっきり俺、お前に避けられてるんじゃないかな~って思ってたからビックリだ」

「その自覚がありながら普段の態度だったんだな、お前……」

 

 あまりにも間抜けな話に元親は思わず肩を落とし。

 そして意外にも鋭いのだと少し驚く。

 

「まあ、嫌いではあったよ。お前の間抜けなミスのせいで男全体でIS適性の検査が起きて、そのせいで俺の将来は歪んだんだし」

「え……あ、そ、そうか……俺のせいで……。すまん! 元親!!」

「もう良いよ。嫌いだった期間が長かったから苦手意識はまだあるけど、もうそこに関しては解消したから時間の問題だし。お前だって悪気があったワケじゃない。嫌いだったのは俺の幼稚な私的感情でしかない」

「けどッ、それでも俺のせいだろ!?」

 

 過去は割り切った。

 昔の夢も、無理に追う気も、捨てたという後悔もない。

 能力が開花しはじめ、自分の望むモノは自分で掴み取るという意思が生まれ。

 さまざまな経験や交流を経て。

 成す、と。

 

「じゃ、こうしよう! ――織斑! 俺とダチになれ!!」

 

 色々面倒臭いが、それを含めて織斑一夏という人間なのだと受け入れることにした元親は。

 少し気恥ずかしそうに後頭部を掻いてから、そう叫ぶ。

 

「え、あ、お、おう? それはもちろん良いけどよ……」

「よし! お前がバカやらなきゃ俺はお前と出会えなかった! クラスのみんなとも会えなかったし、織斑先生に色々教えてもらうことも、楯無先輩と遊ぶことも、束と下らなくて馬鹿みたいに楽しいことする機会に巡り合えもしなかった! だから、俺の人生これで良いんだ! だから気にしてんじゃねえ!」

「――ははっ、改めてよろしくな! 元親!」

 

 手を差し伸べる元親。

 一夏は元親の言葉を理解し、必要なのは最早謝罪ではないと知って、手を掴む。

 

「でも、こうして元親の本心聞けて良かったし。ちゃんと友達になれてさ。俺……スッゲー嬉しい!」

「ハッ、イケメンくんがよぉ……」

「なんで俺敵意向けられてんの!?」

「イケメン罪」

「なんだよそれ!?」

 

 捨てた過去とはいえ、本心を打ち明けたからだろう。

 受け入れてはいたとはいえ、ちゃんと友人関係を結んだからだろう。

 元親は、初めて一夏相手に本心からの笑みを浮かべることができた。

 

「でもそっか……元親の本心が聞けた今だから言えるけどさ、お前なら安心して千冬姉を任せられるよ」

「――ンンン?! どっ、どどどどうど、どういうことだ!?」

「あれ? 気づいてないのか? 千冬姉、多分だけど元親のこと好きだぞ?」

「パァ。――え、マジ?」

「マジマジ。多分雰囲気からして人間としての好意が六、友人としての好意が三、異性としての好意が一って感じかな。もう少し詳しくやれば一より少し少ないと思うけど、まあ大体一だな」

 

 瞬間。

 元親の脳内に様々な思考が奔った。

 ついでに楯無やらラウラやら簪やら束の姿もよぎった気がしたが、恐らくは気のせいである。

 

「色々言いたいことはあるけど……よりによって織斑にッ、女心でッ、負けるとかッ、憤死レベルのッ、屈辱だぁぁぁぁああああッ!!」

「そんなにか!? てかなんだよ女心で負けるって!?」

「だってお前オルコットさんたちからの好意気づいてないニブチンじゃんよぉ……」

「……最近はその、ちょっと気づき始めた」

「!!??」

「お前との訓練で目が良くなったのか、その、距離感がちょっと近いな、って」

「ちょっと? あ、織斑一夏だわ」

「どういうことだ!?」

 

 鈍感王が女からの好意を自覚した。

 その言葉に元親は酷く驚愕し、天変地異の前触れかと、束のやらかしの前振りかと怯えたが、距離感の近さを『ちょっと』と形容したことから安堵する。

 

「まあ、とにかく、任せたぜ。――義兄さん」

「ヤメロォ!! お前レベルのシスコンに言われると色々不安になる!!」




 ホント、お人好しだねぇ元親
 橋ってさ、二ヶ所を結ぶ以上は動けないんだぜ?

(゜∀゚)アハハハハ八八ノヽノヽノヽノ\/\


 青春してんなぁ……
 若人の特権じゃな

 それはさておき……鈍感じゃないイッチなんてイッチじゃないやい!(原理主義の過激派)
 ま、千冬はね? ずっと一緒に暮らしてきて、尖っていたころも、丸くなった今も知ってるから変化に気づくだろうね。多分

 一夏原理主義の皆さま申し訳ねぇ、これでもいいと思ったら
 評価、感想、お気に入りなどなどよろしくね
(次作二次創作の候補を後書きで聞くのは利用規約的にアウトって教えてもらったから消したゾイ)
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