「キャノンボール・ファスト? あ~……一応出る予定。サボって良いならサボるんだけど、先輩に出てって言われたし、それに――」
「? それに、なんだよ」
「なんでもねえや」
千冬から聞いていた『渡辺元親を出せ』という声の存在。
それを思い出し、元親はそれ込みで参加することにしていた。
「ところで織斑は?」
「一応、出る」
「そっか。じゃあ流石に勝つのは難しそうだ。何せ戦闘力じゃなくて基本は機動力勝負だし」
いかに元親といえど、製造された期間による性能差や、コンセプトの違いによる得手不得手を完全に埋めれるほどではない。
よほどの無茶でもしない限りはその大差を埋めるのは不可能といっても良いほど。
そして元親は、将来を見据えて本気も全力も出す気はなかった。
「俺じゃ元親と戦っても勝てないっていうのかよ」
「まずそういう、すぐカッとなるところがダメ。そもそも未だに俺から訓練つけられて覚えが悪いのもダメ」
「……はい、そうでした」
実力が低い、そう言われて思わずムキになる一夏だったが、元親の指摘にしょんぼりと項垂れる。
「でもそうか、元親にもできないことってあるんだな」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ……」
「だってできないことって基本ないし。……ああ、でも元親は
「ん? いや、してるぞ。特殊だけどな」
「ワンオフアビリティ発現してるってことか」
「……ま、見てもらった方が早いか」
確かに特殊ではあるが、その中でも特出して妙というべきか、複雑というべきか。
元親は打鉄を纏う。
「これが改造してるけど基本形態の打鉄。んで――『
元親の召喚に応じ、装甲が膨れ上がった。
形態名こそ白とつくが、その装甲は本来の打鉄の鈍色が錆びたような赤褐色。
僅かに白と金のラインが奔っている程度。
「次、『
『白雷牛』の装甲が消え、一見して元に戻るが。
単眼を模した文字通りのアイマスクが元親の目元には装着されている。
その色は緑。
陽光に呑まれてなお緑を放つが、元親の意思でその光は消せるため少しして消える。
「ハイ次、『
下顎を覆うフェイスアーマー、頭部にはヤギかヒツジのような二本角。
元親――打鉄の周囲には鈍色のプレートがいくつも浮遊しており、そこには回路を思わせる紅い筋が奔っている。
そのプレートは元親の操作によって分解も、合体も行われ、剣や銃や翼や盾と様々。
「次、『
紫の光が身体を這う。
光は竜の形を模していて、実体はなく、時折元親の肉体にもぐり込むかのように透過し、再び中から現れていた。
「次、『
橙色の炎が翼を成す。
そして炎に見紛う光の玉が周囲を漂う。
どちらからも熱はなく、一夏はハイパーセンサーを用いて確かめるが一切の変熱なし。
「次、『
黄色の線を引く鈍色の装甲が周囲を細かく囲っていた。
邪魔にならないような位置で等間隔に並び。
時折いずれかを起点として順に光を放つ。
「次、『
黒の光が身を纏い。
すると姿が二つにブレる。
幻影のようなそれは、幻ではなく肉眼でもハイパーセンサーでも二つであり。
完全に動きを同期させ、不完全な分身のようだ。
「次、『
白のプレートが翼を成す。
そこにはスラスターがなく、かといって鳥のように羽ばたくのとも異なり、稼働の余地は皆無だ。
ただの装飾のような翼は、その羽先から僅かに光の粒を漏らす。
「最後、『
弓を模した青の銃器。
実体を持つのは弓幹のみ。
弦の部分は光。
矢もない。
「え~っと……九形態?!」
「そうだな。基本となる
「スッゲェ!」
「いやぁ、これ今みたいな展開だけならともかく、実戦で扱うと脳みそマジ消耗すっから……」
現状の最長稼働時間は15分。
そしてそれは相手の加減込み。
具体的には操縦機体を打鉄とした楯無相手。
制限なしの楯無相手では最長で五分半ほど。
実用に足るモノではなかった。
「そ、そうなのか……」
「使いこなせりゃつえーんだけどな。作っては放り込んでた
「やっぱどのISもピーキーになるのか?」
「ピーキー、というか……強くなった分複雑になったってだけだろうな。それに合わせられるほど俺らが強くも賢くもないってだけで……」
「……もっと強くならなきゃな!」
そういうと一夏は勢いよく立ち上がり、訓練を始めようとした。
「あ、そうだ。先読みの能力なんだけどさ、基礎自体はできたと思うからあとは自分で発達させるように。俺が全部教えてたら俺の完全劣化になるだけだし、得手不得手があるから発展部分は自分で自分に合わせろ。てことで、あと頑張れー」
「え、あっ、ちょ!? ……マジ?」
俺の仕事は終わった、と元親は立ち去る。
取り残された一夏はポカンと数秒ほど惚け。
そして大量のボールを見て、真っすぐ上へと投げた。
球の回転、ハイパーセンサーで感じる風の流れ。投げた自分でも読めないはずの球の行く末を、先読みして追う。
何度も繰り返し、成功率が上がるたびにハイパーセンサーを弱め、自分の感覚だけで先読みを。
気づけば生身ですら球の先読みは成功率100%になっていた。
――――――――――
「簪さんはキャノンボール出ないんだっけ?」
「はい。本当は出たかったんですけど間に合わなくて……」
「そっか、残念」
簪からの相談を受けていた元親は二人で昼食をとる。
大量の食事を味わいつつ掻き込むという矛盾行為を行いつつ送られたデータをチェックし、改善案とその案を実現した際の弊害などを考え得る限り列挙し、送信。
機体のコンセプトを決め、そこからの逸脱度を決定するのは元親ではないため、簪に判断を任せた。
「ところでさ、簪さんは将来のこととか考えてたりする?」
「将来、ですか? ……前は国家代表を目指せたら、って思っていたんですけど。その、最近は少し悩んでまして……」
「それは……なんでだ? 倉持技研からの扱いがきっかけか?」
「ま、まあ、対応が悪いのを咎めなかったのはイヤ、でしたけど……。それとは違って、私が国家代表を目指していたのって多分お姉ちゃんが国家代表だったからなんですよ。妹だから、同じくらい立派にならなきゃ、って」
語られる彼女の思い。
彼女の本心に、元親は静かに思いを聞いていた。
「けど、話しているうちにお姉ちゃんは完璧じゃないってことがわかって。そしたら胸につっかえていたモノが取れたような気がして。い、今でも憧れてはいるんですけど、同じようになりたいって思いはそこまでなくて……。自分のなろうとしていたモノはお姉ちゃんの後追いって気づいて、本当に自分が目指したいのかわからなくって」
「ならなきゃいけない、って強迫観念がいつの間にか、なる、って感覚にすり替わってたのか」
「はい」
「そっか。……将来のこと考えるって、やっぱり難しいよな」
高校一年だからまだ焦らなくて良いという考え。
焦らない緊張感のない自分に焦るべきだという思い。
二つが元親の中でひしめき合う。
「も、元親くんも将来のことを?」
「あ~、うん。なろうと思っているのはあるんだけどさ。実際にどういう道筋を引いて、そこを辿れば行き着くのか。何をするべきで、自分だけじゃ辿り着けないならどうすべきか。悩んでるんだよね」
「えっと……元親くんのなりたいものって?」
「ISの一般普及」
「……え?」
「正確にはISコアを用いずにIS関連技術を再現した模造IS製品の作成。大枠はそこだな。細かく言えばまず宇宙開発、次に医療転用。そして――俺の昔からの憧れだったゲーム転用。この三つだ」
一時は諦め、手放した憧れ。
けれど元親はそれを拾い直した。
捨てきることができずに、未練の糸に雁字搦めになっていた、その憧れ。
きっとそこが
今ある機械知識や機械技術。発想力や、好きに向かって突き進む心意気。
自分を育んだモノだから、捨てきれず。
だから拾うことにした。
「な、なんで……」
「世界でたった二人の男性操縦者。卒業したら待つのは過酷な世界。だったら一つ二つ重荷が増えたってかわんねーよ。な?」
ニッ、と笑う元親。
彼は強欲になることにしたのだ。
良くも悪くも束に影響を受けている。
好きにできる力がある。
自分の目指すモノがある。
だったら好きにする。
死にたくないから自己保身に走り、好きにしたいから両取りを選んだ。
「正直簪さんの目標とかは俺にはアドバイスできないけどさ。何かしたいことがあったら出来る出来ないじゃなくて、好きに突き進めば良いと思うよ。無責任で悪いけど、俺はそうすることにしたから」
食事を終えた元親は皿を重ね、立ち上がる。
「悩んでるっぽい部分に関する訂正案とかは全部送ったから、じゃあね。楽しかったし、目標とかの言いづらいこと言ってくれてありがとう」
思考に出来る出来ないを挿まず、したいことを見る。
その考え方に、簪は少しの間悩んでいた。
「今日も美味しかったで~す!」
「は~い! あ、元親くん! これ、みんなで作ったからよかったら食べてちょうだい! 多かったらお友達にもあげてさ!」
「わ、良いんですか!? ありがとうございます。あ、そうだ。今度またスイーツ作るんでよかったら食べて感想いいですか?」
「もちろん。元親くんの作る料理はおいしいからいつだって歓迎だよ」
食器を返す元親に、調理スタッフの女性陣からお菓子のおすそ分けがされる。
元親は彼女たちとは入学初期から仲が良く、たびたびこういったことを行っていた。
「元親くんは将来料理人かい? それともパティシエかい?」
「あ~、いえ、IS関連の製造職か研究職にでも就こうかなって思ってます」
「そうなのかい? もったいないねぇ、でもIS関連かい。結構忙しいって聞くからね、頑張りなさいよ」
「はいっ。頑張ります」
彼女たちのそんな言葉や視線、優しい対応に元親は少し自分が考えすぎていたのだと知った。
彼女たちにとっては元親はただの子どもで。
だからIS関連職、というのは前提認識ではない。
普通の道も、彼女たちにとっては存在したのだ、と。
「料理人、パティシエ。……か」
そういった道を目指す気はなかったし、今も言われたからといって目指す気はないが。
腕を褒められたのは素直に嬉しく、料理を誰かに振舞うのも良いかもしれない、と。そう思い。
普段仲良くしているさゆか本音、楯無、千冬、あるいは束が思い浮かんだ。
――――――――――
「よっ、調子はどうだよ」
「良いぜ、
「すこぶる良好。勝っちまうかもなぁッ」
「いーや、勝つのは俺だっての」
キャノンボール・ファスト当日。
二年生のレースが行われている中で、準備を進める一夏たち。
そこへ少し遅れてやってきた元親が声をかけた。
「アンタねぇ、あたしだっているんだけど?」
「ははっ、ごめんごめん凰さん。手近に煽れるヤツがいたからつい」
「おいっ!?」
そんなくだらないやりとりに笑いが生まれる。
「渡辺さんは……見た目はあまりお変わりありませんわね」
「まあね。後付けで性能が変わる感じだからさ。そういうオルコットさんの機体はカーッコイイネぇ」
「見た目と性能は関係がありませんけど? まあ、私にふさわしい見た目であることは事実ですわね」
「あはは、なんか昔を思い出すね。妙に高飛車な感じが」
「うっ……あまり渡辺さんに褒められることがないもので、思わず舞い上がってしまったのかもしれませんわね」
「気にしてないから大丈夫大丈夫」
入学当初を思い出すようなセシリアの言葉に元親は思わず噴き出した。
「元親、元親。私もいるぞ」
「ん? ラウラか……スラスター増えたな」
「そ、それだけか?」
「他なにか改造した感じ?」
「い、いや……なんでもない……」
残念そうにしていた彼女もそれで表情を緩ませた。
「みなさーん、準備はいいですかー? スタートポイントまで移動しますよー」
真耶の指示。
マーカー誘導に従い、スタート地点へと移動する。
『それではみなさん、一年生の専用機持ち組のレースを開催します!』
アナウンスが響いた。
スタート位置のそれぞれがスラスターを点火。
高音が鳴る。
そしてシグナルランプが灯り、開始までを刻む。
3……2……1……
「――ッ!」
一斉に飛び出した。
読める巻数が次の巻で終わりな都合上、もはや隠す気がないね
書いてて自覚できたもん
あ~、これ締めに入ってるわぁ、って
そんな老い先短いこの作品
よければ高評価、感想、お気に入りなんかよろしくネ