「昨日のこと、感謝する」
「はい? どういうことで?」
「
「ああ、そういう。というか市街地戦は咎められるでしょう?」
「まあな。だが他の奴らだけなら市街地まで追って行っていただろう。軍人であるボーデヴィッヒは真っ先にやられてしまっていたからな」
「ん。まあ、力を持っている以上は当然ですよ。あ、別に力に伴う責任とかじゃなくて、力を振るう場所への分別はあるってことです」
学園にて。
元親は千冬に職員室へ呼び出され、訪れていた。
「ついでに発信機つけて居所特定しようと思ったんですけど、失敗してしまいました」
「――構わん。そもそも奴ら組織は実体がロクにわからないからな。構成員の数や主要メンバー、その目的や本拠地など。それがわかっていないし、その活動期間からして特定はおよそ望み薄。……まあ、お前ならばあるいは、とも思ったが」
「買い被りすぎですよ」
ISパーツの位置を感知する性能を用いた発信機を、無断で敵に使用したことへ謝罪する元親。
下手にバレれば激昂され、IS学園を敵視された上に無関係の生徒たちまで巻き込みかねなかった。
その場合にはありとあらゆる手段を用いて全員を守る気ではあったし、IS一機の戦力に限定しなければ守り抜ける算段はあった。
が、襲われるという事実でも生徒たちには被害が及ぶ。
それを理解しながら及んだ強行に、元親はいかなる処罰も受ける気でいた。
「被害を防ぎ、皆を守ったのだ。それだけでも充分だろう。ご苦労様だ」
「……はい」
だが、千冬は一切咎めなかった。
状況はもちろん正確に理解しているし、元親の心境も理解している。
けれど、そもそもとして行動が読めない相手の行動を『こうなるかもしれない』と判断するのはない。
不確定に不確定を重ね、それで罰するというのは理屈に欠けるからだ。
「……少し二人で話そうか」
千冬はそういうと、別室に移動し、元親にコーヒーを差し出した。
「あの場において、私は通信できる状態で通信をしなかった。邪魔になると判断し、言外に襲撃に対する反撃――戦闘行為を許可したのだ」
「はい」
「つまりあの場においてお前たちは私の指揮下にあり、それは指揮する私が責任者であるということ」
「はい」
「責任者の仕事は責任を取ることだ。無断ということは確かに褒められたモノではないが、それで被害を被った際の責任は私のモノだ」
「でも……」
「渡辺。お前は自分にできることに最大限努めた。それは間違いなく称賛されることで、だからこそ私は感謝を伝えたのだ」
「……」
「まずはそこを誇り。そして自分に責があったと思うのならば次に生かせ」
「ッ、はいッ」
千冬の言葉はあまり上手とは言えないだろう。
だが。
だからこそ。
元親はその言葉に彼女が生徒と接するうえでの誠意や本心を強く感じ、心に受け止めることができた。
「だが、そうだな。もし私に責を負わせることへの自責の念があるというのなら――この後夕食を頼む。それでお前は心を清算しろ」
「――ふふっ、喜んで」
――――――――――
「――織斑に聞いても分からないと思うんで、千冬さんに聞きたいんですけど。織斑マドカって、一体何者ですか?」
「ッ――!」
「……わかりました。もう聞きません」
険しい表情。
察している範囲での内容からしても、言い難いだろうことは明白で。
元親はそれ以上は聞かないと首を振る。
だが千冬はそれに被せるようにして深く息を吐き、首を横に振った。
「聞いてくれ。だが一夏には言うな」
「わかりました」
「私たちはとある研究室で造られた存在で、その研究目的は究極の人類を生み出すこと」
「それが、織斑姉弟の誕生理由ですか……」
研究名『
「成功の第一例が私『織斑千冬』で。第二例が『織斑一夏』。そして成功例である私のクローンが――『織斑マドカ』だ」
「成功例を複数生み出すのではなく、成功例を増やす方向にシフトしたんですね。見た目の年齢からしてマドカは織斑と同じくらい。つまり同時期の製造――失礼。誕生ですか」
「そうだ。二人は奇しくも同時期に生み出された」
二人は生育の違いによる誕生日こそ違えど、製造されたのは同じ日であり、ある種の双子であった。
「だがそんな計画も予期せぬ出来事によって潰えた」
「予期せぬ、出来事……」
「天然の究極、篠ノ之束の出現。アイツの存在を研究所が、組織が認知したことによって研究は中止となった。そして、それが私たちの運命を決定した」
IS公表以前から超常的な存在だった束は。
何もせずとも生きて、存在しているだけで一つの目論見を中止へと追いやる。
「成功例を上回る究極の人間。突如の計画中止。研究所は混乱を極め。そして私は幼い一夏を連れて研究所を脱出した」
「……」
「そして、何の運命か、私はそこで束と出会ったのだ」
「マドカは、何かしらの要因によって連れて行けなかった。そうですね?」
状況。
マドカの言動。
そこから推測した一つの答え。
「ああ。クローンであるからこその成功保障と。クローンながらも遺伝子変質によって起こる可能性の拡張。功績をと焦った一部の人間がマドカを検査に連れて行った。そして……それによって以前から考えていた脱出計画が実現可能となってしまった」
「……だから、マドカは一夏に嫉妬し、恨みを抱いている。その場所は、その自由は自分のモノだったかもしれないのに、と。成功例である織斑一夏も検査対象のハズ、であれば順番。その順序が違えば、自分が貴女とともに居た。そう考えて……」
「……私はどうすべきだったのだろうな? ……二人を連れて逃げれる方法を探すべきだったのだろうか? …………いや、私は原罪を抱えることでしか自由を得られないのだろう。神はきっと、タダで幸福な世界は見せてはくれないのだ」
その声音は、僅かに震えていた。
元親を真っすぐ見ることもできず、視線は俯き。
手は持った水面を揺らす。
「――千冬さん」
「やめてくれ。そういう安易な優しさを向けるのは……お前を嫌いにはなりたくない……」
まるで子どもをあやすように。
元親は千冬を胸に抱いた。
「それは罪じゃない。貴方の始まりは、そんな原罪に穢された記憶なんかじゃ、絶対にない」
「離してくれ……」
「貴方は幸せじゃないじゃないか」
「やめてくれ……」
「人はみんな幸せになる権利があるはずだ」
「罪を犯した私にその権利はない……」
「貴方は罪を犯してない」
「犯したんだ! 私はっ、罪を!」
「なら俺がその罪を濯ぐ」
「どうやって!」
「俺がマドカを、マドカの不幸を、否定する」
「ッ」
「マドカが不幸じゃなくなれば、マドカが幸せだと言えば! 過去があったから今の幸せがあると思えば! 貴方は何も罪を犯していなかったことにできるんだから! 未来を幸せだと思えば、過去を幸せだと思えるんだから!!」
「ッ――!」
千冬の、明確な拒絶。
胸を叩く拳、跳ねのける腕。
けれど元親は離さなかった。
「俺は、今、幸せですよ?」
「――」
「貴方には何度も話した。織斑が嫌いだ、って。織斑のせいで将来が歪んだ、って。だから、今、言います。俺は今、幸せです。貴女と出会えた、みんなと出会えた。束と馬鹿話するのも楽しいと思える。その全ては織斑一夏から始まった」
「そ、れは……」
「貴方は俺の幸せを否定しますか? 今を幸せに思い、過去すらも良かったという俺の言葉を、妄言だと吐き捨てますか?」
「そんなワケが、ないだろうが……」
「だったら受け入れて欲しい。俺が今のマドカを否定することを。歪めることを。マドカの未来を捻じ曲げて、そのしわ寄せに貴方の過去すら変えることを」
「頼む……」
「――任せろ」
――――――――――
「――てことだ。悪いな束、もう俺は並ぶ機会を捨てたよ。
『そっか』
「……一言では表せない関係性として。ちゃんと最後まで、道を違えるその瞬間まで、束には誠実でいようと思った。だからこうして連絡をした」
電話越しに再び同じ応答があり。
そして小さく笑い声が届く。
『ねえ、もっくんってさ。私のこと完全には理解できてないよね~』
「長い付き合いではないからな」
『私はもっくんのこと、ちゃ~んと理解してたよ~ん』
「?」
「アイツらなら、もう私が潰しちゃいました~」
夜風を浴びるように窓に背を向けていた元親の背後から、そして遅れてスマホから、二つであり一つの声が届いた。
振り向くよりも早く、背に人の感触を受ける。
「束?」
「橋になるって言ってくれたのに、なんでそっちが逃げてんだよ。バーカ」
「……嘘ついてゴメン」
「嘘じゃないでしょ? まだ、さ」
道を違えるからこそ嘘になる。
道を違えなければ真実のままあり続ける。
「仕方ないからな、束さんが一緒にいてやるよ」
「……束?」
「お前が道を変えるっていうのなら、新しい道を選ぶってなら、さ。束さんも一緒に行けば、それで万事オッケーって感じだろ?」
「……ありがとう」
「その代わり、これからもっと楽しませろよな。元親」
「責任はとる」
束はその道を選んだ。
ともに歩める道を。
元親と歩むために。
自分にとって最も楽で、最も楽しかったはずの道を捨てた。
今ならば。
この新たな道の方が楽しいだろうと、そう信じて。
「それで、さ。さっき言ったじゃん、潰してきたって」
「? ああ、言ってたな」
「元親はいるかな~、って思って。拾って来たんだけど、どうする?」
「何を――マドカ?」
背後からの抱擁が解かれ。
後ろを見ると、そこにはマドカが座って待っていた。
「ああ、一昨日ぶりか」
「そうだな?」
「元親。お前に言われたこと、あれから考えていた」
「そうか」
「そんな中でコイツが組織を潰した」
「……どうだった?」
「何も思わなかったよ。そして気づいた。『ああ、私の心の在処はここではないのだ』と。それと同時にお前が言っていたことが本当の意味で理解できた。洗脳……されていたんだな、私は」
自分がなぜこの組織にいるのか、と。
そう考え。
自分の心を考え。
自分が今まで立っていた足場が不安定なモノに感じ。
そんな中での束による足場崩し。
あっと言う間に壊され、宙を漂う気持ちが一切瓦礫に引っ張られないことに気づいた。
心を縛る鎖は、その瓦礫には繋がっていなかったのだ。
その鎖は別のどこかへ伸びていて。
鎖の一部が組織の手によって足場に絡めとられていたのだ、と。
「ありがとう、渡辺元親」
「おう、実際にやったのは束だけどな」
「いや、お前の言葉があったからだ」
笑顔を見せたいのだろう。
だが、それまでロクな笑顔を見せず、笑ったとして嘲笑あるいは獰猛なモノだったため。適した笑顔を見せようとしたその表情は酷く不器用だった。
「くくっ」
「わ、笑うな!」
「そういう顔、昔のちーちゃんにそっくりだな~」
思わず笑うとマドカは襟を掴み、強く揺らした。
「ん~、でも。せっかく意気込んだのに。というかあんなこと言っといてカッコつかねー」
「ちなみに、元親はマドちゃんをどうするのかな?」
「んと、普通に生きるにはまず戸籍が必要だろ? 孤児設定としてもどうするか。……てか千冬さんの時はどうしたんだ。存在しないはずの人間だろ」
「そこは私がちょちょ~いと」
「じゃ、それで頼む」
「オッケー、よかろ~」
身寄りはなく、違法に生まれた存在のため戸籍も当然ない。
それを解決したのは束だった。
元親はその事実に胸をなでおろす。
「あ、でも。その代わりにお願いがあるんだよね~」
「どんなだ?」
「私にありきたりな生活をさせるワケだし。その前に、最後としてパーッと派手に楽しみたいんだよね~」
「他の人らに迷惑かけないなら、な」
「それはダイジョーブ博士だよ」
「ヤメロォ、それは逆に信用できんッ」
「へへへ~」
二人のやりとりに、その詳細を知らないマドカはなぜ笑っているのだと首をかしげていた。
「それは良いとして。マドカに関しては……会社創るから束ともどもそこに入社ってことで」
「亡国機業からお前の企業へ転職か」
「イヤか?」
「構わんさ」
「じゃ、そういうことで」
具体的に何をするのか。
そんなことを聞く気はなかった。
聞く理由もなかった。
「ま、方針が決まったことだしね~。そろそろ私たちは帰るよ」
「そっか」
「じゃ、またいずれ」
「うん。じゃあね~」
「また、な」
よう、ルート分岐することにしたぜカス共
具体的には前話あたりからだな
ま、詳細はそれを書くとき(新版ISを手に入れたとき)にでも構築するぜ
ところでよぉ、なんで元親は心傷者特攻してんだぁ?
わけわっかんねーよ