ナチュラル   作:レイジー

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第三話 円舞曲と書いてワルツと読む

「気分はどう?」

「良かったんですけどねー、相手の弱点をペラペラ喋って指摘する人のせいで立ててた作戦がいくつか潰れてだだ下がりですよー」

「そういうワリに楽しそうだけど?」

「色々教えてくれた人たちが見に来てくれてるんでね、勝てないなりに良いトコ見せようかなって張り切ってはいます」

 

 そこには打鉄に乗った元親と、それを見送りに来た楯無と虚。少し離れた位置に千冬と真耶の五人。

 

「え~? そこは勝つって言いなさいよ」

「一度負けかけた以上、オルコットさんは男相手だからって油断はしないでしょう。連戦による疲労があるとはいえその実力はデバフのない代表候補生のモノ。稼働歴一週間やそこらの素人が勝てると思うほど馬鹿じゃないです」

「そうですよ、会長。元親くんはロマンを重視しつつも根幹は現実主義なんですから」

「そうそう。自信と過信は違いますからね。――けど、タダで負ける気はねぇ。です」

 

 楯無と千冬はその表情を見て元親の本質を少し理解した。

 彼の言葉通り、死ぬのは嫌なのだろう。だが、彼は戦闘狂だ、と。

 少なくともその顔は戦いを嫌う者のするそれではない。

 

「じゃ、行ってきます」

 

 開いたゲートに向かって加速する。

 澱みなく、真っすぐゲートを飛び出し、曲線を描いて空高く。

 

「ごきげんよう、渡辺さん」

「うん、オルコットさん。連戦だけど大丈夫かな?」

「ええ、連戦とはいえ休憩時間はございましたから」

 

 休憩。

 そうは言っても本質はISのメンテナンスだ。

 一夏との戦闘で負った様々なダメージを換装で補う。

 その間の僅かな時間だ。

 

「頑張れ~! 元親く~ん!」

「ありがと~!」

 

 観客席から届くさゆかの声援。

 周囲を見ればこの一週間で交流のあった布仏(のほとけ)本音(ほんね)相川(あいかわ)清香(きよか)谷本(たにもと)癒子(ゆこ)鷹月(たかつき)静寐(しずね)(かがみ)ナギたちが声援を送っていた。

 見た目が地味、その他特徴ナシの元親に一夏のような声援は送られず、静寂を覚悟していたためその声援に彼は大きく手を振って応える。

 

「改めて……あの時はありがとうございました、渡辺さん」

「あの時?」

「わたくしが不用意な発言をしてしまった時のことですわ。貴方のお陰でその場ですぐに謝罪を、発言の撤回を行えました」

「気にしなくて良いよ。どうせ僕らは子どもなんだ、あんな発言珍しくない。今時なら特に、ね」

「……」

 

 ISの高性能センサーが離れた位置にいるセシリアの複雑そうな表情を見逃さない。

 

「間違って、そうやって成長するんだ。アレを申し訳ないって思うならさ、今後どう生きるか、それに努めれば良いと思うよ」

「――はいッ。今は未熟で自分に何ができるのかわからない身ではありますが、貴方からの戒め、しかとこの胸に刻みますわ!」

 

 決心の込められた笑み。

 変化を喜ぶような笑み。

 試合開始の鐘が鳴る。

 

「――ッ!」

「!?」

 

 先に動いたのは元親。

 急加速によってその姿が掻き消える。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)!? いえ、違いますわねッ。直前のタメがなかったあたり出力を調整したのですか?」

「正ッ解!」

 

 元親はシステムを書き換えていた。

 安全のために設けられた制限は、安全水準を確実に満たすため本来の許容値よりも遥かに大きく枷が設けられている。

 そこで元親は虚の協力のもと、打鉄の機体負荷を実機調査でデータ収集し、より高度なセーフティを設けた。

 

「ですが慣れてしまえばそれまで!」

「それはどうかな?!」

「それは一体――!?」

 

 素人ゆえ致し方ないであろう愚直なまでの軌道。

 多少の工夫はしてあるがどれだけ近づこうとも攻撃のために接近に切り替える瞬間に合わせれば迎撃は容易だ、と。ビットの乱射の中で確実に狙い撃つためブルー・ティアーズの銃口――長大銃器、六七口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》――が打鉄を静かに狙っていた。

 セシリアの目論見通り、直線軌道しかできないその切り替えの瞬間に銃口が光を放つ。

 どれだけ加速しようとも直線でしか動けなければ回避不可能。

 だが、打鉄に攻撃が当たることはなく。代わりにブルー・ティアーズのシールドエネルギーが大きく削られていた。

 

「今の動きは!?」

「観ての通りさ。脚部スラスターで縦回転、ってね」

「そんな動きをすれば肉体に、機体に強い負荷が!」

「負荷負けしないための機体調整で、この一週間の訓練だよッ!!」

 

 近接ブレード『(あおい)』が陽光を浴びて輝く。

 

「ッ! 訓練機だからと過小評価していたようですわね。貴方は素晴らしい、そして貴方が調節したというのならそのスペックは一部ながらも第三世代(ブルー・ティアーズ)に届く!」

「お褒めの言葉、恐悦至極でございますお嬢様。それで――今の動きは慣れたからって対応可能でしょうかァッ!」

 

 一度手の内を明かした元親はその使用を一切躊躇わない。

 緩やかに接近し、そこから切り替えすことはなく。急接近と急激な軌道変化。

 もちろん一定の制約はある。

 脚部スラスターを噴射することによって意図的に姿勢を崩し、それを出力と体幹で制御するのだからどうしても動きの末端は脚部になり。慣性の打ち消し――PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)は制御をその他の部位に移すことになるのだ。

 前転、後転。基本制御はその二つ。

 そこにどうにか片脚のみに絞ることで軸回転を行う。

 

「であれば! わたくしにも策がございましてよ!!」

 

 一斉射撃。

 元親は離脱し、セシリアはその隙に距離を取る。

 策があるという言葉に警戒しながら、数秒を待ち、接近しなければ状況は膠着すると判断し、元親は加速した。

 その直前、加速の予備動作を見抜いていたセシリアは周囲を漂うビット兵器、名称――BT(ブルー・ティアーズ)一定の感覚で配置し、その銃口を奇妙な方向に向けていた。

 

「――!?」

「あら残念」

 

 配置、銃口の向き、セシリアの表情から嫌な予感を察知した元親は接近の最中、機体および肉体にかかる負荷を理解の上で急停止した。

 直後、眼前をレーザーが通り過ぎる。

 弾道は斜めに。

 打鉄のセンサーがその光景を見せた。

 打鉄の計算機能がその配置を教えた。

 

「箱入り娘かい? 臆病だね」

「恐ろしい殿方がいらっしゃると安心して外出できないもので」

 

 全六機あるうちの四機が頂点を成し、正四面体を形成しながらその頂点から元親を狙ってではなく定めた一定領域内への侵入者に対して迎撃が行われる。

 そして残った二機が元親を狙ってミサイルを放ち、中心からセシリアが狙撃を行うという作戦。

 

「一夏さんに指摘されたので、急ごしらえで申し訳ございませんが円舞曲(ワルツ)のための纏い(ドレス)を用意いたしましたの」

「――ったく。直前になって着替えるだなんて気まぐれなお嬢様だね!」

 

 近づき、迎え撃たれ、シールドエネルギーが削られる。

 被弾で硬直し、ミサイルが追撃し、なんとか切り伏せて離脱。

 

「はっ、やっぱり円舞曲(ワルツ)に参加するには不相応な格好だったらしい」

「正直言って、貴方の経歴とその機体でここまで出来たというのは凄いことですわ。恥ずかしいことは何一つありませんの」

「けど、まあ……せっかくだからさぁ。――名前だけでも憶えて帰ってくださいや!!」

 

 機動力を確保するため、そして無理な動きによる慣性によって機体が破損しないために元親が乗る打鉄は通常の打鉄に比べて装甲が薄い。

 それゆえにさっきの攻撃でシールドエネルギーは六割をギリギリで割っていて、装甲を攻撃で剥がされたため次同じ攻撃を受ければ全損する。

 それをお互い理解し、元親は急加速をした。

 

「下からだなんて! 紳士じゃありませんわね!!」

「僕のような下々の者にとってお嬢様は見上げる存在ですので!」

「限度というものがございましてよ!」

「では。文化的に後進の極東出身ゆえ無作法ながら、どうかわたくしと踊りをば!!」

「どうかお気になさらず。そして、喜んでお受けいたしますわ!!」

 

 打鉄の最高速度にPICを一時的に切って重力を合わせる。

 最高速度を超えた最高速度でセシリアの下へと潜り込み、そして燕返しのごとく切り替えして上る。

 当然迎撃され、その当然を当然ながら予想していた元親は数瞬のフェイントを混ぜ、背後に回った。

 フェイントに惑わされて手動操作のミサイルも、スターライトmkⅢも振り切られ、残るはシステムによって自動操作されるレーザーBT四機のみ。

 自身による迎撃は間に合わないと判断したセシリアは四機の操作を一斉攻撃に切り替えた。

 

「ッ!!」

「間に合って!!」

 

 範囲内に侵入した元親を四機のレーザーが狙う。

 だが、元親の脚部スラスター機動によって回避された。

 観客は元親の勝利を予感する。

 観戦する一夏も同様に、そして自分には掴み取れなかった勝利の姿に悔しがる。

 虚は驚愕に少し目を見開き。

 楯無と千冬は――。

 

「ですがその位置での回避なら攻撃には転じられませんわよ!」

打鉄(こいつ)は――剣だけ(ブレオン)じゃねえ!!」

 

 初めて取り出されるアサルトライフル『焔備(ほむらび)』が火を噴く。

 連射。

 システムの切り替えによって数瞬のラグが起き、その隙に。

 鉄の敷く光の線はセシリアを、ブルー・ティアーズを襲った。

 

『試合終了。 勝者――セシリア・オルコット』

 

 ――彼を鍛えた二人は元親の敗北に肩を落としていた。

 

――――――――――

 

「いやぁ、判断ミスっちゃいました~」

 

 戻ってきた元親が笑いながらそう話す。

 

「で、でも大健闘でしたよ! 捨て身の攻撃とはいえ最終的にはシールドエネルギーを残り二割まで削ったんですから!」

「甘やかさないでください山田先生。はぁ、反省点が多すぎる……」

 

 勝ちを目前に負けてしまったダメージは大きいだろうとどうにか励ます真耶。

 内心でせっかく鍛えてやったのにと残念がる千冬。

 

「わ~ん、楯無先輩~。頑張った生徒相手に織斑先生が冷たいよ~」

「酷いわねぇ」

「ね~」

「んなっ」

 

 ふざける二人に千冬は狼狽する。

 不器用な彼女は負けて戻ってきた教え子への対処がわからず、その自覚があっただけに声を漏らした。

 

「ちなみに採点するとしたら何点です?」

「え、ええと……80点?」

「シールドエネルギー?」

「72点かしら」

「そこそこ」

「28点」

「追試!?」

 

 肩を落とし、元親はそれぞれに慰められながらその反省点を聞いた。




 キャラの口調わっかんねー。アッハッハ!
 ただ、書いてて楽しかったデース
 命が関わってないからこそ書けるふざけた掛け合いのある戦闘描写
 作者的にはこういうの好き
 みんなはどうだろう?
 嫌いならごめんねー
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