ナチュラル   作:レイジー

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第四話 光、武装。申請受諾されました

「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繫がりでいい感じですね!」

「俺?! セシリアに負けた――てかよく考えたら俺元親と戦ってない!」

 

 真耶によるクラス代表を告げる言葉。

 自分とは思っていなかった一夏は驚き、そしてそのおかしさを指摘する。

 

「説明しよう!」

「オーキド博士?!」

「そもそもクラス代表の座をかけて決闘したのは織斑一夏、セシリア・オルコットの二名のみであり渡辺元親(わし)はセシリア・オルコットからの『決闘』を受けたのみでありそこに賭けは存在していないのじゃ。加えて言えば自薦も他薦もされておらんためクラス代表者候補にすらなっておらぬのじゃ」

「そしてわたくしは自薦の身。今回は己の未熟を思い知り、自薦を撤回させていただきましたの」

 

 セシリアの変化に気づいた一夏はその様子に少し驚いていた。

 なろうとしていた立場から己の意思で退き、にもかかわらず腰に手を当て胸を張り、そして上機嫌な姿は一夏としても違和感があるらしく不思議そうに。

 

「一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたわ。やはりIS操縦には実戦が何よりの糧。クラス代表ともなれば実戦には事欠きませんもの」

「強くなれってことか?」

 

 二人がやりとりを行う中、元親はふざけることに満足できた様子で気づけば席に着きなおしていた。

 なんだかんだありつつも元親にとって二人に強い関心はない。

 その場でふざけることはあってもそこに持続性は持たせない。

 元親は二人に対して望むモノがなく、それゆえ元親は自分も提供することはなかった。

 

――――――――――

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、渡辺。試しに飛んでみせろ」

 

 千冬の指示に従ってそれぞれ三名は自身のISに意識を向ける。

 一夏は右手首のガントレットに、セシリアは左耳のイヤーカフスに、元親は左腕の腕輪に。

 

「っ、と」

 

 指示を受け、真っ先にISを展開したのは元親。

 その場で軽く跳びあがり、最高到達点付近で打鉄を身に纏う。

 換装に要した時間は少なかった。

 

「それをせずに装着したらどうなる?」

「どうも変わりませんよ? ただ単に接地状態で展開するといきなり身体が上がって視線が上がるので、それがちょっと不快ってだけです。――ほら、多分コンマゼロ数秒程度じゃないですかね? 誤差」

「……らしいな。それでお前は――集中しろ」

 

 一度ISを消し、着地し、直後に接地状態で展開。

 要した時間は変わらなかった。

 それを確認した千冬はイメージのために必要な動作ではないなら指摘する必要もない、と何も言わなかった。

 むしろ跳躍状態で展開できるというのは基本的にはどんな姿勢であっても展開できるということ。言ってしまえば短所ではなく長所だ。

 

「お上手ですわね」

「訓練したからね~」

 

 とはいえ練度の差。

 一番早いのはセシリアで、最後に展開したのは集中できていなかった一夏。

 

「よし、飛べ」

 

 セシリアが加速する。

 周囲に被害を出さないように低空ではゆっくりと、途中から急加速し、瞬く間に上空へと。

 元親は決闘用のシステムから元に戻しているため加速は以前ほどではなく、代わりに初速と最高速の差は大きくなく安定した飛行だった。

 そして一夏は二人に比べて遅く、その描く軌道も大雑把なものだった。

 

「何をやっている。スペック上の出力は白式(びゃくしき)の方が上だぞ。渡辺の使う打鉄に至っては世代が一つ下だ」

 

 千冬から通信でのおしかりの言葉。

 だが一夏は簡単にはイメージできないと少し不満げ。

 本を自ら捨てているため自業自得だが勉強不足ゆえに想像するための知識もない。

 空を自由に飛ぶイメージがないのも仕方はなかった。

 

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」

「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。なんで浮いてるんだ、これ」

 

 感覚重視で動く一夏にとって経験が浅いというのは大敵であり、逆に経験を積めば一定の熟練度に到達するのは早い。

 その辺りはセシリアとの戦いで未経験ながらも勝利目前まで進んだことからもわかる。

 

「空飛ぶ感覚がわからないなら飛び続ければ良いと思うよ。理屈は無視して感覚で。包丁だって切れる原理はわからなくても使えば上達するでしょ?」

「それもそうだな」

 

 空を飛ぶ感覚。

 それは元親が真っ先に身につけたモノだ。

 ISを身に纏い、何をするでもなく宙に浮き続ける。

 そうして浮遊の感覚を身に染みこませ。

 続いて動くことで空中機動を意識する。

 当然、理屈も頭に入れてはいるが百聞は一見に如かずという通り、体験に勝る経験値はない。

 それに、元親の基本思考としてあるモノとして。

 知識は土台、経験は外装、思考は内装。というものがある。

 土台で、外装で、内装でと。それぞれ判断できる情報に違いがあるのだ。

 

「一夏さん、よろしければまた放課後に指導してさしあげますわ。そのときはふたりきりで――」

「一夏っ! いつまでそんなところにいる! 早く降りてこい!」

 

 唐突に通信回線から怒鳴り声が響く。

 見ると遠くの地上で真耶がインカムを箒に奪われ狼狽していた。

 大声に顔を(しか)める元親は、インカムを取り戻すべく近づいた千冬に叩かれるその姿に気持ちを晴らし、二人の陰で満面の笑みを零す。

 

(バカ、なのかな? 今度音声採取してあの子の声だけボリュームダウンするように組んどこうかな。操縦者保護機能としてシステムに割り込ませればなんとか?)

 

 自分に関係のある面倒事ならばともかくとして、他者の面倒事で無意味に迷惑を被ることを嫌う元親にとって今のは非常に煩わしく、箒に対する悪感情は寮での扉破壊の件と相まって著しく低下していた。

 

「織斑、オルコット、渡辺、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から一〇センチだ」

「了解です。では一夏さん、渡辺さん、お先に」

 

 セシリアは二人に声をかけ地上に向かう。

 みるみるうちにその姿は小さく、離れ、そして完全停止も問題なくクリアした。

 

「どうする?」

「元親、先に行ってくれ。イメージにちょっと時間掛かるし」

「オッケー」

 

 順番を決めると即座に降下する元親。

 刹那の溜めと、破裂を利用するような急加速による急降下。

 地上一〇メートルに差し掛かった辺りで身を反転し、噴射によって完全停止を果たす。

 

「一二センチ。悪くはないが修正しろ」

「はい。わかりました」

 

 砂煙が風下に流れ、壁に向かう中。二センチの誤差に苦い表情をする元親。

 だがISの知らせに意識を思考から現実に引き戻し、位置を停止地点から生徒たちの方へと向かった。

 

 ――ズドォォンッ!!!

 

 轟音と墜落。

 激しい衝突によって巻き起こった砂礫や砂煙をIS機能で防ぎつつその惨状に溜め息を漏らす。

 そんな元親とは違い、クラスメイト達はその光景にくすくすと笑っていた。

 

「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」

「……すみません」

 

 その後繰り広げられる箒、一夏、セシリアのやりとりを尻目に鬱陶しい砂をISで軽く吹き飛ばし、ISを解除し千冬の下へと向かった。

 

「一応聞きますけど、手伝わなくて良いですよね?」

「当然だ。手伝う道理がない。馬鹿者一人にさせておけ」

「はい」

「それと、わかってはいるだろうが続きをやるからISを展開し直しておけ」

「了解です」

「ああ、そうだ。砂の対処助かった」

「さて? ナンノコトヤラ」

 

 興味なさげにすっとぼけながら元親は少し離れた位置でISを纏いなおす。

 

「おい、馬鹿者ども。邪魔だ。端っこでやっていろ」

 

 何やら仲悪くあるいは仲良くいがみ合う箒とセシリアの頭を押しのけて一夏の前に立つ。

 

「織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」

「は、はあ」

「返事は『はい』だ」

「は。はいっ」

「よし。でははじめろ」

 

 指示に従い、一夏は横を向き正面を確認して、突き出した右腕を左手で握った。

 強く左手が握られ、少しして手のひらから光が放出され、それが像を成す。

 そうして構築が完了した時、一夏の手には《雪片弐型(ゆきひらにのかた)》が収まっていた。

 そんな一夏の表情は達成感に満ちている。

 

「遅い。〇・五秒で出せるようになれ」

 

 瞬く間に一夏の表情は抜け落ちた。

 

「オルコット、武装を展開しろ」

「はい」

 

 左手が肩と同じ高さまで上げられ、真横に突き出される。一夏のような光はほとんどなく、一瞬カッとなるように僅かな閃光が起きたのみ。

 たったそれだけでその手に《スターライトmkⅢ》が形を成していた。

 

「さすがだな、代表候補生。――ただし、そのポーズはやめろ。横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。正面に展開できるようにしろ」

「で、ですがこれはわたくしのイメージをまとめるために必要な――」

「直せ。いいな」

「――、……はい」

 

 不満はありそうだが流石の高飛車も千冬には行使できず、睨み一つで話に決着がつく。

 

「オルコット、近接用の武装を展開しろ」

「えっ。あ、はっ、はいっ」

 

 次は元親だと思っていたのか、はたまた別の考え事をしていたのか。いきなり振られた指示に驚き反応が鈍るセシリア。

 一度銃を光に戻し、そして近接用の武装を呼び出す。

 けれど銃の時とは異なって光はその形を造ることすらできずに空中を迷っていた。

 

「くっ……」

「まだか?」

「す、すぐです。――ああ、もうっ! 《インターセプター》!」

 

 焦燥と怒りの交じった叫び。

 武器の名を呼んだことによってイメージが硬くなったのか、光は武器へと変ずる。

 しかし、その手段は初心者用の手段であり、それを使わなければならなかったセシリアは酷く屈辱的な様子で視線を下へと惑わせていた。

 

「……何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうのか?」

「じ、実戦では近接の間合いに入らせません! ですから、問題ありませんわ!」

「ほう、織斑との対戦では初心者相手に懐を許していたように見えたが? それに渡辺にも幾度となく攻撃をされていたはずだが……アレは気のせいか?」

「あ、あれは、その……」

 

 非常に歯切れが悪かった。

 

「改善しろ。次、渡辺、まずは近接用の武装だ」

「はい。――はい」

「一・四秒」

 

 天に手を伸ばすようにして高く上げ、手のひらから迸った光の粒は剣身の長さをまず線として描き、次に輪郭を線で描き、そこに光が収束することで密度を上げ、《葵》となった。

 

「手の向きに意味は?」

「単にスペースが上だと自由ってだけです。位置によって時間はほとんど変わりません――多分これ同じです」

「ふむ、一・四秒。それ以下の時間は少し遅いがおおよそ誤差か。だが織斑に言ったこと同様、〇・五秒で出せるようになれ」

「わかりました」

「次、銃だ」

「はい。はい」

 

 剣を握り潰すように手を閉じ、そして開くとすぐに銃が現れる。

 

「〇・六七秒。決闘の際はほとんど使っていなかったがこっちの方が早いんだな」

「最後の一手のために練習しましたから。必要なのは展開速度と正確射撃ですし一番練習した操縦の次に練習しました」

「なるほど。ならばこのまま励め」

「はい。ありがとうございます」

 

 近接武器に意識を向かせて、遠距離攻撃を意識から外して、そして最後に遠距離から攻撃をする。

 そのための布石としての技術。当然鍛えていて、複雑な軌道からの即時展開と正確さのためにやっていたらいつの間にかこうなっていた。

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」

 

 そう言われ、一夏は穴に目を向け、次に元親へと視線を向けた。

 

「元親――」

「六限も終わりか~、でもISの勉強しなきゃな~。いやぁ、大変だなぁ~」

 

 全力で知らんふりをした。

 関わらないのが一番だとばかりに言葉すら交わさず、自分の世界に入り込んだことを装い、立ち去る。

 

「……」

「ああ、そうだ渡辺。お前が申請していたISシステムバックアップ用のストレージの使用に関してだが、問題ないとのことだ。ただしネットワークに接続された機器に接続することは禁止。使用する際はネットワーク非接続のパソコンか、ISのみだ」

「あ、もう結果出たんですね。わかりました、ありがとうございます」

「ついでにストレージ本体の申請もしておいた。古いが新品のモノがいくつか支給されたから放課後取りに来い」

「え――あ、ありがとうございます! そういうのって学校に申請して良かったんですね……実費でやるつもりでした」

「保護対象だからと金が支給されていて意識にないだけだろうが、学生のIS開発だ、当然資金は学校が支給する。実費になるのは申請が許可されたが資金援助が行われなかった場合の生徒判断だ」

「なるほど。じゃあシステムだけじゃなく本体のカスタマイズに関しても申請でどうにかなるんですね。良かったァ、正直今いくつか考えてるのって結構お金がかかりそうだったんでそれは本当に助かります」

「……なんでも良いが、あまり結論を急ぎすぎるなよ。一度ISに装着し最適化すれば解除は難しいんだ。思考と完成の高揚で冷静さを失わず、少し時間を空けてから結論を出せ」

「ご忠告ありがとうございます。それとストレージ支給の申請、本当にありがとうございました織斑先生」

「なに、生徒の至らぬ点を補ってやるのも教師の務めだ。気にする必要はない。が、どうしても礼をしたいというのなら缶コーヒーの一本でも奢ってくれれば済む」

「ふふっ、わかりました。とっておきのストックをプレゼントしますね」

「? ストックだと……」

 

 無言の視線が一夏から向けられたが元親は無視し。

 一夏から直接救援が掛からないようにするためか千冬は元親に声をかけ、元親もその意図に気づいて二人は矢継ぎ早に会話を行っていた。

 口を挟む暇のない二人。姿は通路の奥に消え、一夏は一人寂しくグラウンド整備をすることに。




ふむ? 原作一巻を途中まで読んでいたら途中で千冬のセシリアに対する呼び方が変わっていることに気づきました
ISの武装展開の際、一回目に呼んだ一夏との並列のはオルコット呼びなんですが、それ以降は呼んだ範囲だとセシリア呼び
千冬の性格や教師と生徒の距離感を考え、呼び方はオルコットに統一改変しました
こだわりがある人はゴメンネー

あ、ちなみに最後のシーンね
あれ、後ほど元親はマックスコーヒーを千冬に渡します
あまりの甘さに一口目は咽ますが、どうやら気に入ったらしいです
元親が外部からの物品購入を申請する際はマックスコーヒーに限っていえば問答無用で許可が下りるようになったとかどうとか
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