ナチュラル   作:レイジー

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第五話 模倣と適応

 夜のこと。

 IS学園正面ゲート前に小柄な身体とそれに相反するようなボストンバッグを持った少女が一人。

 肩に掛からない程度のツインテールを夜風になびかせ、金色の留め具が良く映える綺麗な黒髪は夜闇に飽和するかのよう。

 

「えーと、受け付けってどこにあるんだっけ?」

 

 取り出したくしゃくしゃのメモ。

 書かれた文字は『本校舎一階総合事務受付』。

 

「――って、だからそれどこにあんのよ」

 

 言葉に応じる紙は世になく。

 少女は乱雑にメモを上着ポケットに入れ直し、その皺を増やした。

 

「自分で探せばいいんでしょ、探せば――」

 

 言葉半ばで止まる。

 少女はこの場には相応しくない。いや、本来であればあるはずのない光景に眼を奪われていた。

 

「ん?」

「アンタ……」

 

 そこに居たのは一人の少年。元親だ。

 突発的な行動に情報収集をあまりしない彼女。国内での男性向けIS適性検査の終了ギリギリに発見された彼のことを彼女は知らず、眼を丸くする。

 

「こんに――じゃなかった、こんばんは」

 

 ランニングをしていたらしい元親は薄っすらと額に汗をにじませ、頬を紅く染めながら笑顔でそう挨拶を向けた。

 困惑したままの少女は挨拶し返すことが出来ず、けれど耳に届いた言葉に身体が反応したのか軽く会釈だけはする。

 

「その大荷物……もしかして転校生? もしくはワケあって入学が遅れたとか?」

「え、あ……そう、転校生! あたしは中国代表候補生の(ファン)鈴音(リンイン)よ!」

「ふぁんりんいん……あ~、道理で見覚えがあると思ったよ。前ネットで軽く見たよ。……ところでどういう字で書くの?」

「字? ええと……(すめらぎ)の方の(おおとり)に、日本の女の子の名前でよくある鈴音と同じ字――でわかる?」

「あ~、雌の方の鳳凰に鈴の音だね。オッケーありがとう。あ、ちなみに僕は世界で二人目の男性操縦者の渡辺元親。よろしくね」

 

 差し伸べられる手。

 笑みをなんとなく胡散臭いと感じた鈴音は握手を警戒するが、仕方なく応じる。

 

「そうだ。アンタ、本校舎一階総合事務受付ってわかる?」

「総合事務受付……ああ、うん。案内しようか?」

「悪いけど頼むわ」

「良いよ、アリーナ近くだからどうせ通るしね」

 

 ケラケラと笑いながら行く先を指さし、先導する元親。

 その時聞こえてきた声に鈴音の意識が奪われ、足が止まり、それに気づいた元親も足を止め鈴音に目を向けた。

 

「だから、そのイメージがわからないんだよ」

 

 その声は男の声。

 そう、一夏の声だった。

 鈴音はその声に意識を奪われ、見えた姿に眼が奪われる。

 

「いち――」

「一夏、いつになったらイメージが掴めるのだ。先週からずっと同じところで詰まっているぞ」

「あのなあ、お前の説明が独特すぎるんだよ。なんだよ、『くいって感じ』って」

「……くいって感じだ」

「だからそれがわからないって言って――おい、待てって箒!」

 

 並んで歩き、不機嫌そうに足早に歩く箒の後を追う一夏。

 それを眺める鈴音の横顔は酷い。

 

「織斑くんと知り合い?」

「――ごめん、今話しかけないで。あたし今すっごいイライラしてるから」

「……隣に居たのは篠ノ之箒、彼の幼馴染だってさ。ただ短絡的で暴力的だから優しくしてあげたら彼とすぐ仲良くなれるかもね~。あ、ちなみに彼は一組のクラス代表だよ~」

「!? ちょッ! アンタ!? なんで!?」

「はっはっはっ。見てればわかるさ~。……ちっ、ギャルゲ主人公め」

「最後聞き取れなかったんだけどなんて言ったの?」

「ん~? あそこが本校舎だよ~って。行けば総合事務受付も場所わかるから、じゃあね~」

 

 ただの知り合い、ただの幼馴染というだけならば他の女と一緒にいて親し気なだけでここまで不機嫌にはならない。

 それを根拠に彼女の恋心に気づいた元親は視線誘導(ミスディレクション)のための存在力増幅を目論み、彼女にアドバイスをしつつ揶揄いを混ぜ、ランニングに戻る。

 

「……あたしってそんなにわかりやすいの? じゃあなんでアイツには伝わらなかったの? さっきのが特別鋭いってだけ? それともアイツが特別鈍い? それともそれとも両方?!」

 

 夜の静寂に困惑の声が霧散した。

 

 元親は『織斑一夏クラス代表就任パーティー』に遅刻した。

 

――――――――――

 

「織斑くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

 翌朝、一夏が席に着くとすぐクラスの女子がそう声をかけた。

 

「ねえねえ、もっちー。もっちーは転校生のこと知ってる~?」

「本音。一応は知ってるよ。昨日の夜に会ったからね」

 

 一方で、元親は席でISの専門書を読んでいると本音が斜め前から声をかけていた。

 お気に入りの栞を挿み、パタリと閉じると本音の方へ向く元親。

 

「え~、そうなんだ~」

「昨日遅れたのはその人と話してたから――と言いたいところだけど、まあ実際にはランニングに熱中してたからです」

「だめだよ~?」

「は~い」

 

 ほんわかとした笑みでそう注意する本音につられて元親も緩い笑みでそう返す。

 

「ちなみにどんな子だったの~?」

「どんな――あの子」

 

 特徴を列挙しようとした時、教室の入り口にいた話題の人物を見かけ、指をさす。

 

「――その情報、古いよ。二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 中二病のごとく腕を組み、片膝を立ててドアにもたれかかる鈴音。

 アニメや漫画で見慣れたポーズだが、擦られすぎていっそ陳腐でダサいと感じた元親は思わずいたたまれなくなり視線を本音に戻した。

 

「何話したの~?」

「話したっていうか、迷子だったから案内した感じかな」

「なるほど~」

 

 その時――バシンッ! ――と出席簿にあるまじき音が教室に響く。

 

「ま、入り口を塞いでたら当然だよね~」

「そうだね~」

「進路妨害して立ち退かなかったら軽犯罪なんだっけ?」

「そうなの~?」

「確かそんな気がした」

 

 再び出席簿の効果音が鳴る。

 ポニーテールと縦ロールが犠牲者だった。

 

――――――――――

 

「もっちーは健啖家さんだね~」

「大食いってほどじゃないと思うよ? 僕の場合は単純に運動でエネルギーがいるし、ISの方でも結構力作業とかあるから食べてるってだけだし」

「そ、それでも元親くんは食べてると思うけどなぁ。カルボナーラに醤油ラーメンと天ぷらうどんって……午後の授業大丈夫なの?」

「あ~、僕ってご飯いっぱい食べても眠くならないんだよね~。あと水泳の授業の後に眠くなるって感覚も」

「えっ、そうなの?!」

 

 元親は本音、さゆか、ナギの四人で昼食を摂っていた。

 初めは一人で食事をしていたのだが、初日の夜に会話をしたことでさゆかとの交流が始まり、少し前から食事をナギを含めた三人で行うようになり。

 そして虚に教わる中で本音とも交流が始まり、四人に。

 

「すごいなぁ」

「三人は全然食べないけど大丈夫なの?」

「う、うん」

「だ、大丈夫かな」

「お菓子をいっぱい食べるのだ~!」

「週に二度の体育と毎日のISの授業、といっても今はまだ勉強か。でも部活とかあるだろうし、女子は燃費が良くて羨ましいねぇ。僕なんて消化が早くてすぐお腹が空いちゃうから大変なのに」

 

 昔から異様に消化の早かった元親は間食が多い。

 間食といってもお菓子ではなく、適当なおにぎりなどだが。

 それを中学時代は各休み時間に一。昼休みは一〇と食べていて。

 一日の消費米合数は多い時は八に及んだ。適正量が一食一合一日三合なことを考えると単純計算では三倍近い。

 

「女子としてはその体質が羨ましいよぉ……」

「僕としてはそっちが羨ましいけど……昔は我が家のエンゲル係数を跳ね上げてたからホントに申し訳なかったし」

「隣の芝生は青いってヤツだね~」

「一番の珍生物が何か言ってる。お菓子大量に食べて肌荒れとか皆無なのは思春期男子としては嫉妬モンだよ? 僕なんて中学時代普通の食事ですら肌大変だったから栄養バランス色々試行錯誤して、スキンケアとかもしてってやってたのに」

「あ~、だから元親くん肌綺麗なんだね」

 

 今は食事に身体が慣れたらしく、特に制限などせずともそういった事はないが当時は肌や髪の状態が良くなかった。

 一時期は髪の手入れもしていたほど。

 

「そうだよ、本音はお菓子食べるしだらだらしてるしなのになんで平気なの~?!」

「才能なのです! えっへん!」

「くっ、爪の垢を煎じて飲んだら体質コピーできないかな……」

「イイネその特殊能力。ナマケモノとか一日に一〇グラムくらいしか食べないって聞くし、ナマケモノの体質コピーしたい」

 

 とはいえ今はそこまで困っていない。

 何せ今いる場所はIS学園。

 大抵のモノは支給されるのだ。

 支給品で良ければ生活必需品がタダ、学食も一日三食大盛までならタダ。

 おかわりをしたい、シャンプーやコンディショナーを髪質に合わせたいなどであれば実費だが、基本は外と隔絶された土地のためそういう恩恵が引き換えに存在している。

 

「ところで~。もっちーって意外と物知りさん?」

「別に博識ではないけど……今のナマケモノ知識とか今朝の知識でいえば、まあそういう役立たない雑学とかそういうのを調べるのが好きだからかな? 勉強はほとんどしたことないけど読書とか自分の興味に対しては素直だし。三人は?」

「勉強も読書も苦手で~す!」

「しょ、小説は好き、かな?」

「現国は苦手で古典は得意、数学は好きで苦手、社会は世界史が好き、科学全般嫌いっ、英語は平均点!」

「おや、まぁ」

 

 それぞれの言葉に元親は笑った。

 回答にも個性が現れていて、中々面白いと思い。

 そんな時。

 

「お~い元親~! 放課後一緒に訓練しようぜ~」

 

 一夏が元親の姿を探し、少し離れた位置から声をかけ手を振っていた。

 

「――良いよ~!」

 

 幸いというべきか、必然というべきか。

 決闘を終えたことで楯無との訓練は頻度を下げている。

 そのため今日の放課後はフリーであり他者との戦闘経験を積めるのならより効率的だと考え、元親は本心八割ほどで快諾した。

 

「もっちーもいっちーも熱心だね~」

「まあ、不幸自慢じゃないけど僕らは頑張らないと大変だからね~、あはは」

「そ、そっか、数少ない男性操縦者だとそういうデータのためのノルマとかもあるんだね」

「専用機が貰えて良いとか思っちゃったけどごめんねっ」

「言ったでしょ。不幸自慢じゃない、って。気にしてないから気にしないで」

 

 良い具合に勘違いをしてくれた二人に元親は笑いながら食べ終えた食器を重ね、ごちそうさまでしたと合掌をした。

 

――――――――――

 

「これ、僕邪魔なヤツじゃない?」

「その口ぶりからして渡辺さんは聞いていなかったので?」

「うん。織斑くんは放課後に一緒に訓練をしようってだけだったからてっきり僕ら二人か、もしくは誰かしら先輩くらいかと。織斑くんが普段オルコットさんと訓練してるのは聞いてたけど誘われたから……」

「なるほど」

「凰さんも考えたけどクラス対抗戦があるし、敵対する以上そういうのはないかな、って」

「それはそうですわね」

「うん」

「しかし篠ノ之さんがいるのはわたくしも予想外でしたわ」

 

 放課後。

 第三アリーナ。

 元親、一夏、セシリア、そして箒。

 

「意外と訓練機の申請ってすぐ通るんだね~」

「本当に余計な……」

「ん?」

「い、いえ、なんでもございませんわ。お気になさらずにいてくださいまし」

 

 隣だ。当然聞こえていたが、聞こえないふりをすることにした。

 

「どうしよっか? 邪魔なら帰るけど」

「なんでだよ元親。一緒に訓練しようぜ。二人だって邪魔なんて思わないだろ?」

「あ、ああ……そう、だな」

「ええ、わたくしはまあ、構いませんわ。再戦ができるのはありがたいですし」

 

 箒は仕方なく、セシリアは一夏との二人きりの時間を惜しみつつも箒がいる時点で今更だと諦め、元親のことは快諾をした。

 幸い男であるし、特別距離感が近いワケでもないただの友人関係であるとの認識のため邪魔にはならないだろうと考えたのである。

 

「なら一緒に訓練するとして……とりあえず織斑くんはオルコットさんが、篠ノ之さんは僕が教えようか」

「な!? そんなもの不要だ! 私は――」

「でも篠ノ之さんは専用機持ちじゃないから操縦時間僕未満でしょ? それに動きを見たところIS適性も特別高いワケじゃないだろうし……まずはキッチリ動きを掴んで、それから全員で訓練した方が良いと思うな。篠ノ之さんだって慣れない状態で初歩的なミスをして織斑くんにみっともないトコ、見られたくないでしょ?」

「んなッ!」

 

 この場にいるのは専用機持ち、専用機持ち、準専用機持ち――そして一般生徒。

 開発者の妹とはいえ実態はそうであり、操縦経験皆無の適性Cという事実は覆らない。

 畳みかけられる正論。基礎訓練を積んでミスを犯さない、つまり十全な姿を一夏に魅せられるという甘言に箒は揺らいでいた。

 

「幸い僕も機体は打鉄。基礎部分は把握してるからすぐ終わってすぐ四人で訓練できるよ」

「む……ならばすぐ終わらせるぞ渡辺ぇッ!」

 

 四人はペアとなり、それぞれ離れた位置で訓練を行った。

 幸いなことに箒が普段剣道を嗜んでいるということもあってか適性以上に上達が早く、想定時間より短い時間で基礎訓練が終わる。

 それに対してセシリアは少し苦い表情をしていて、元親もそれには気づいていたが、彼の第一目的は自身の上達。無視することにした。

 

「せっかくだしまずは俺らでやらないか?」

「ヤラナイカ?」

「おう。だって決闘の時俺らは戦ってないだろ? 同じ近接主体同士やってみたくってな」

「僕は良いけど、二人はそれで良いかな?」

「ええ、構いませんわ」

「私も構わない。教えてもらったとはいえお前を応援はせんがな」

「求めてないからね、へーき」

 

 ケラケラと笑いながら元親は手を揺らし、空に昇る。

 同様に一夏も空へ駆け、同じ高さで止まった。

 

「一応聞くけど、武装はどうしようか?」

「制限なんていらねえよ。男同士の戦いにそんなモンいらないだろ」

「言うと思った。じゃあ遠慮なく」

 

 念のための確認。

 武装を《葵》のみにするか《焔備》も含めるか。

 答えはわかっていた。

 

「じゃ――」

「――やろうか」

 

 カウントに合わせて二人は口を開く。

 示し合わせたように言葉を引き継いで、一つの言葉として。

 ゼロの瞬間、二人は加速した。

 

「はァッ!!」

 

 一夏の攻撃。

 《雪片弐型》を振りかぶり、斬りつける。

 

「それは流石に無理でしょ」

 

 逆手に持った《葵》で攻撃を上から下へ流す。

 同時に加速を緩めず接近し、密着した。

 衝突によって二人のシールドエネルギーが減少した。

 

刀だけ(ブレオン)だっていうなら、この弱点はどうにかしないと、ね」

 

 刀の弱点。

 それはゼロ距離。

 振るう空間がなければどうにもできない。

 指摘され、マズいと距離を取ろうとするがそれよりも早く元親は《葵》を収納して空いた左手で一夏の腕を掴んだ。

 そして残る右手に《焔備》を呼び出し、放つ。

 

「ぐァッ!!」

 

 著しくシールドエネルギーが削れ、既に四割を切った。

 どうにかと足掻き、脚を振り上げ、それを避けるべく元親は腕を離して距離を取る。

 

「さて、これで君の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)は使えないね」

 

 正確には使えるが、使い辛い。

 一夏の乗るIS白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)、『零落白夜(れいらくびゃくや)』は相手のシールドエネルギー全損という驚異的威力と引き換えに白式本体のシールドエネルギーを急激に消費するという欠点がある。

 シールドエネルギーが万全であっても使用が躊躇われるほど燃費の悪い能力。それが半分未満のシールドエネルギーとなればより使用は躊躇われる。

 

「僕はこのまま遠距離で――と言いたいけど、今のせいで使えなくなっちゃったんだよね~。だから素人が剣道経験者に挑むなんて無作法――許してほしい」

 

 再び《葵》を呼び出し、構えた。

 

「ったく、お前本当に俺と同じ初心者かよ――」

 

 言葉が詰まる。

 素人と自称するその姿は異様なほど様になっていた。

 異様に、まるで知った姿に。

 彼の姿が何かを幻視させる。

 

「なんだ?」

「っと、気づいた? いや、まだかな?」

 

 ブレる幻影。

 幾重にも重なったそれは一つ、また一つと姿を消し、やがて二つになり。

 そこで一夏はその正体を知る。

 

「箒……? それに千冬姉?」

 

 構えはその二人。

 正確には篠ノ之流。だが同じ流派であっても生まれ持った、あるいは育ちによって形成された個人の特徴というモノは存在する。

 そうして残った箒と千冬の二人。

 見紛うことはない。

 

「な、んで……」

「悪いね。素人とはいえ無策で挑めるほど楽観的でもないんだ。不快だろうけど、猿真似させてもらうよ」

 

 着眼点となったのはISを調べるうちに知った一つの技術。

 三年に一度のIS世界大会。――名を『モンド・グロッソ』。

 その部門受賞者(ヴァルキリー)の動きを再現(トレース)する技術。『VT(ヴァルキリー・トレース)システム』。

 様々な問題から禁止されたそれを人力で行う。

 基礎は早朝の訓練で把握していた。

 細部の再現は不完全、不細工にもほどがあるが。それでも再現している対象が誰か程度はわかる。

 

「――ッ!?」

 

 急加速。

 そして攻撃。

 確かに猿真似というだけあって本物ほどではない。

 だが異様な気迫。

 身を竦ませる威圧感は本物と紛うほど。

 

「この野郎ッ!!」

 

 彼にとって千冬とは地雷だった。

 強い憧憬。

 たしかに元親は友人だ。

 男皆無のIS学園で唯一の男友達。

 だが、付き合いは短く所詮は他人。

 普通の家族関係ならばともかく、親がおらず千冬に育てられた一夏にとっては過ぎるほど特別。

 友だからと汚すことは到底許せない。

 怒りが暴走する。

 

「おいおい、アンタの弟は獣かよ……」

 

 ISを介さない呟き。

 誰に聞かれるでもなく打鉄の中で静かに消える。

 

「シスコンとは思ってたけど、ここまでとはねぇ」

 

 乱撃。

 その全てを防ぐ――が、徐々に押される。

 技量は充分。何せ模倣は世界最強だ。

 ならば要因は。機体性能差。

 第二世代(うちがね)第三世代(びゃくしき)

 量産と特注。

 当然の結果だ。

 

「ッ――マズいかも!」

 

 徐々に装甲が破壊される。

 生命に危機がないと、関係ないと判断された攻撃はISの生命維持機能『絶対防御』が発揮されない。

 そう防いでいることもあって装甲は徐々に削れ、同時に痛みの神経情報が襲う。

 

「ハァッ!!」

 

 それでも一夏が辛うじて暴走せずにいられたのは模倣自体は当然の行為だからだろう。

 誰かが誰かに憧れるのはありふれた感情。だから真似をするのもありふれた行為。

 理解してなお怒ったのは、その再現性が高かったからというべきか。

 一種の『不気味の谷』だろう。

 

「ははっ。負けたわ、これ……」

 

 上空(うえ)を取られ、乱撃が雨のように襲い掛かる。

 そして瞬間的に《雪片弐型》が光り輝いた。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に剣を合わせる。

 咄嗟だったからだろう。出た動きは千冬の模倣ではなく、直前まで相手をしていた箒。

 それが一夏の怒りを一瞬だけ冷ましたのだろう。

 幸いして動きが鈍り、防御が辛うじて間に合った。

 

「はッ……」

 

 シールドエネルギー全損。

 装甲は破壊され。

 力尽きた元親は攻撃の勢いそのままに地面へと吹き飛ばされた。

 

「――元親!? わ、悪い!!?」

 

 怒りが晴れ、理性を取り戻した一夏が謝罪をしながら降りる。

 

「――やっぱ、慣れないことするモンじゃないわ~」

「……元親?」

 

 ISのまま起き上がり、立った状態にすると、ISを消す。

 

「ああ、気にしなくていいよ。それよりごめんね~、戦っててつまんなかったでしょ~」

 

 怒りの理由は理解しつつもあえてとぼける元親。

 

「あ、いや、俺は――」

「いや~! 負けた負けた! にしてもヒッドイねぇ機体の損傷具合! これ直すの時間掛かりそ~、うひ~」

 

 意図的に遮り、冗談めかしくISデータを確認する。

 

「ごめんね~。続けられそうにないから整備棟に行くよ~」

「あ、ああ……」

 

 口を挿む余地もなく会話を打ち切り。

 元親は足早に立ち去った。




適応の鬼(仮) ただし人間関係など曖昧な存在には適応されない

てなわけで第五話(第六話)でしたよ、と
主人公の情報?を軽く出しつつストーリーの日常部の進行

あ、ちなみにIS学園の情報は結構捏造してる。支給品とか知らないし、食堂の云々も知らないですわい(原作で書いてある?)
前回のストレージの云々もね

はい、終わり~
評価、感想、お気に入りお待ちしてまっせ
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