試合当日。
第一試合は一夏と鈴音の組み合わせ。
話題の男性操縦者と中国代表候補生の戦いとあって第二アリーナは全席満員。通路にすら人は及び、そうしてまで見れなかった者たちはリアルタイムモニターでの鑑賞。
これまでの間で一夏と鈴音が喧嘩をしたり、一夏との敗北を機に最適化処理を一部オンにすることで一定の操作感を増幅する適化処理を行ったりと色々あったが、興味のない元親はただ自分の糧になればと観戦はしに来ていた。
「もっちーはどっちが勝つと思う?」
「凰さんじゃないかな。代表候補生の実力ってそう簡単に覆せるほど浅い差じゃないでしょ」
「え~? でもセッシーと戦って勝ったでしょ~?」
「訓練でならね。それにお互いで得られる情報が違いすぎる。向こうは色んなデータがネットに出回っていて、機体もそう簡単には変えられない。けど僕は情報が少ないうえに機体をある程度の制限アリとはいえ好き勝手に調整できる」
「も~。それでもスゴイことなんだよ~?」
ジッと、二人の滞空する宙を見つめる元親と、その頬をツンツンとつつく本音。
止まらない指を止めさせるべく仕返しとばかりに頬をつつき返すが止まらず、溜め息交じりに上着ポケットからお菓子を取り出す。
「わ~い」
「これあげるからほっぺ触るのはおやめなさい」
「仕方ないな~」
マゼンタの基礎装甲に黒の被覆装甲と金のライン。
肩の
そんな鈴音のISは『
(相変わらずドラゴンボールしか思い浮かばない名前だな。あと、武装とかにその要素あるんだろうけど見た目の龍要素どこだよ。まさか頭のアレ?)
ごちゃついた防御から『甲』は理解出来た。
だが『龍』は理解出来ないと少し不満げな元親。
アナウンスの指示で宙の二人は既定の位置――距離五メートルに着く。
『それでは両者、試合を開始してください』
大きく鳴り響くブザー。その終了と同時に二人が動いた。
一夏は《雪片弐型》を鈴音は異形の青龍刀――《
持ち手が短く、刀身があまりに広いそれは青龍刀――青龍偃月刀というよりかは柳葉刀。
それはともかくとし、その青龍刀を自在に操り高速回転すらさせて斬り込む鈴音に一夏は距離を取ろうとする。
(え~、と? 武器名『双天牙月』? そうてんがげつ……げつ、が、てん、そう……月牙天衝? ニーニョかよ。色的に蛇尾丸にしとけ。てか冗談は機体名だけにしてろ)
中国のIS開発者には熱心なジャンプファンが紛れ込んでいるのだろうと考える元親。
そんな中、一夏が距離を取ろうとした瞬間に鈴音の肩アーマーがスライドして開いた。
中心の球体が開き、不可視の衝撃が一夏を弾き飛ばす。
衝撃以上によって意識が遠のいたのか、威力以上にバランスを崩す一夏。
そこを追撃し、一夏は地表に打ち付けられた。
「今のは? え~と――」
「《
「空間自体に? 可能なのかそれは? いや、現実として存在している以上は可能。空間に圧力を……空間そのものに干渉? 空間をってことは構造自体は単一素材のかなりシンプルなハズ。火薬なんかによる炸裂もナシ、単純な要素……とすればイメージはドラえもんの空気砲か。大体理解――いや、待て。空間に圧力を、ってことは空間圧縮。…………なるほど。……なるほど。なるほど。あ~、うん、これ結構良いかも。後は相互作用の遮断システムを……条件差。うん、いらねえな」
「もっちー?」
元親の表情は。悪戯を思いついたクソガキのそれだった。
加速する思考と止まらない言葉。
仮説と発想の本流で笑みが溢れ。
そんな時。
大きな衝撃と轟音。
遮断シールドを突き破って、アリーナの中央に第三のISがいた。
「――避難を! 急いで避難! けど慌てないで! 怪我をしたらかえって危なくなる!!」
「もっちー! どこに!?」
「見える範囲だけでもさっきの衝撃で怪我した人がいる! 女じゃ筋力的に無理!」
そう叫ぶと元親はIS戦闘の余波が観客席に来ないための遮断シールドに向かって跳び、それを蹴ることで人の流れを遡って上空の空白地帯に身を晒す。
同時にISを展開することで宙を駆け、怪我で取り残された女子生徒たちの下へと向かった。
「大丈夫ですか? お怪我は?」
怪我人に対する相応の態度として、直前とは打って変わって優しい声音と表情で怪我をした少女に声をかける。
「渡辺元親?! あ、うん。ちょっと足首を捻っちゃって……」
「歩けますか?」
「席に手をかければなんとか……」
「掴まってください」
「え、う、うん」
少女を抱き抱え、少女に手を回させて安全に運ぶ。
人混みの最後尾に送り届けた元親はそのまま再び他の者たちに同様のことをした。
(列が進んでない?! 詰まってるにしたって遅すぎる――)
「元親! 扉がロックされてて通れないの!!」
「なッ!?」
列の先頭から伝播した声がさゆかを通じて元親に届く。
(故障?! いや、乱入者の仕業――って今はどうでもいい。どうするか! 先生たちがシステムクラックをしてるはず。けど間に合うか? 破壊――剣を振るうには人混みじゃ不可能。銃も跳弾が怖い。突破は不可能ッッ。とすれば――)
「今通路にいる人たちは出来る限り間を詰めてなるべく静かに! 外にいる人たちは座席の裏に身を隠して極力見つからないように!」
そう指示を出し、他の通路にも同様の指示を出す。
(なんだ、様子がおかしい。さっきから戦闘音がやけに断続的――)
正体不明の深い灰色をした機体。
正体を隠すためか通常では見ない『
そいつは戦う二人の会話を窺っているようだった。
「――先生、聞こえますか。扉が開かず避難はできません。皆には陰に隠れてバレないように極力静かにしてもらっています。指示は?」
『わ、渡辺くんですか?! えっと、ええとええと……ひ、避難――はできなくて……』
『渡辺か。自己判断で動いたのか?』
「急を要すると思い判断を仰がず事後報告になりました。申し訳ありません。重ねて、指示を」
『ISに乗った状態で待機。有事の際にはすぐ動けるように警戒を怠るな。理由だが遮断シールドが解除できていない、こちらは何もできん。解除を急いでいるが現状は二人に託されている。それと……今回は不問とする』
「寛大な処置、ありがとうございます」
通信を切る。
そしてISに乗った状態でもう一度観客席を見て回る。
見落とした怪我人がいないか。
そうしながら正体不明機との戦闘も警戒する。
(二人の会話からしてあのISは無人機。お陰で織斑は躊躇なくアレを振るえる。とするならこっちがするべきはここぞって時に隙を作ること。幸い二人とも俺には気づいている。凰の方は多分こっちの意図にも。お陰で俺にギリギリまで注視されることなく作戦が伝わる)
元親から鈴音へ。
鈴音から一夏へ。
三人の中で作戦が共有され、実行――
「一夏ぁっ!」
アリーナのスピーカーから不快な大声が響いた。
中継室では審判とナレーターがのび、代わりに箒の姿が。
「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
高音のハウリング。
「………………」
無人機が今の放送に、その発信者に興味を持った。
二人から
(あンのバカ!!?)
駆ける。
作戦の失敗を理解し、同時に無人機の攻撃を阻むべく駆けつけた。
「俺が防ぐ!!」
短く。
無人機の意識を惹く存在が重なり合うようにしてそこにいる。
箒に向けようとしていた砲口のついた腕を加速させた。
「鈴、やれ!」
「わ、わかったわよ!」
どういうわけか一夏は鈴音の衝撃砲の射線上に躍り出て、そして衝撃砲の威力によって急激な加速を果たした。
砲口に熱が収束する。
弓の威力を十全に発揮するために引き絞るように光と熱が収束して。
一夏が右腕を切り落とすべく【
そして――ビームが放たれた。
「ぐぅッッ!?」
全身を衝撃と熱が襲う。
遮断シールドは当然の権利のように破られて。
少女を阻むモノは元親と打鉄のただ二つ。
元親はより多くの盾をと《葵》を呼び出し、そして両腕を交差させ。
けれど熱は容赦なく襲い掛かり、庇いきれなかった頬や髪を焼く。
「――オオオッ!」
一夏の剣が右腕を断つ。
熱は収まり、役目を終えた
そして、空いた遮断シールドの穴からブルー・ティアーズの狙撃が無人機を襲う。
小さな爆発を起こして無人機は元親よりも早く地上に墜ちた。
「は、はは……終わったぁ――」
熱に晒され、熱中症のように意識が遠のく元親。
ISは着陸半ばで解除され、その肉体は重力によって叩きつけられた。
――――――――――
曖昧な意識。
明瞭な思考。
白い光景。
黒の風景。
矛盾を孕んだその空間。
やがて脳か、あるいは魂が覚醒したとき。白い天井と暗い部屋が重なる。
そこは見慣れない一室。
広い部屋だがベッドやクッション、その他多数が配置され、圧迫感があった。
(ここは、どこだ?)
気が付けばそこに座っていた。
寝ているような感覚で、座っていた。
(誰かの部屋? にしては見覚えがない。それに雰囲気が異質だ)
部屋の主は猫好きなのか、人一人が乗れるほどのクッションや何かしらの機械、その他多くの物品にも猫の要素がある。
クッションの前には多数のモニター。そことの間には机があり、エナジードリンクらしき容器の空き容器が乱立状態。
(? 景色が……いや、感覚が?)
パッ、とモニターに知らないゲームの画面が表示される。
それをきっかけに、全身に伝わる感覚が変化した。
(!?)
気配。
視線がベッドを向く。
気づかなかったのか、今の変化に合わせて現れたのか。
そこには黒いパーカーを来た人物がいた。
姿ははっきりと見えない。
服すらも曖昧で、性別もわからない。
ジッと見つめていると寝ていたらしきその人物はゆっくりと起き上がり、欠伸をするがその音はくぐもっていて声からも男女は判断できなかった。
そんな何者かは元親の姿が同様に見えているらしく、ジッと見つめているような素振りののち、立ち上がる。
(近づけばわかると思ったけどわからないな……)
一歩踏み出せばぶつかりそうなほどの距離になっても顔はわからない。
緩いラインの服のせいで体型も小柄ということしかわからず、元親の背が現実同様ならばおおよそ一五〇センチだろうか。
(ぶつか――)
ジッと見つめすぎ、近づく人物と衝突すると思うが。
すり抜けた。
『早くちゃんとしてくんないかな?』
くぐもった声。
毛先に黄色の入った灰髪が覗き見え。
通り抜ける際にそう聞こえた気がした。
――――――――――
「っ……」
「起きたか。意外と早かったな」
「千冬さん? ……織斑先生」
「そうだな。今は先生の方が良いだろう」
目覚めるとテンプレセリフを言いたくなるような天井が視界に広がっていた。
「時間は?」
「大して経過していない」
「……皆は無事でしたか?」
「ああ」
「それは良かったです。くぁ……眠い。目も覚ましましたし自室に戻りますね」
近くに置かれていた荷物からスマホを取り出し、インカメラで自分の顔を確認する。
頬には手当がされていて、全身をまさぐって調べると何ヶ所かに湿布が貼られてはいるがそれ以外は問題がなかった。
「平気なのか?」
「流石に身体が痛いんで明日の訓練はナシで良いですか?」
「もちろんだが……」
「んじゃ、帰ります。隣に織斑とか自覚した状態で快眠できる気ぃしないんで」
ここでの生活にも慣れ、ある程度の嫌悪感は払拭できたがそれでも根強く残っている。
保健室といえど並んで寝るなど元親は受け入れられなかった。
「……一つ聞いていいか?」
「答えられる範囲でなら」
「気のせいでなければお前は篠ノ之にもあまり良い印象を抱いていない。にもかかわらず身を挺して庇ったのは何故だ?」
隠してはいる。
それゆえ周囲の人間はその感情に気づいていない。
が、千冬は別だった。
織斑一夏が嫌い。そして織斑一夏に対する普段の対応。
向けている感情を理解しながらその対応を意識的に観ると、箒に対する対応との共通点に気づけた。
「何故、って……わかりきった話の確認って要らないでしょ」
「?」
「人が死ぬかもしれない。自分にはそれを防ぐ力がある。なら感情抜きにして護るでしょ、普通」
「――ははは! そうか、なるほどな。いや、わかった。篠ノ之含めて皆を守ってくれて助かった」
元親の回答を受け、千冬は心底愉快そうに笑う。
それは基本無表情か睨むかのどちらかくらいの彼女にしては非常に稀有な顔。
付き合いの短い元親とてその希少性は理解出来、思わず目を丸くした。
「よくわかんねーですけど、帰って良いですか?」
「ああ、これでも飲んで休め」
「おっ、ドクペ。この辺で売ってないから禁断症状出そうだったんですよね~、助かります」
「お前に話を聞いて興味が湧いてな。とりあえず二箱私名義で発注しておいた、意外と悪くない」
「――へへっ。でしょ?」
共感を得た元親は嬉しそうに笑った。
一体誰なんだろう?(すっとぼけ)
ちなみに謎空間の人物にはモデルが居る。その人物の性格をちゃんと把握できていないのでキャラ的には容姿そのままの性格は自己流(一応モデル通りにはしたい)
もしかしたら描写から誰なのかわかるかもしれないけど、まあ多分わからんべ
もし感想で的中させる輩がいたら『無駄特定乙!』って言ってやんよ
てことで、評価感想お気に入りお待ちしてまっせ~