「へっへっへっ。――でーけた!」
六月の頭。
休日ということでIS学園は普段よりも少し賑やかさが減っていた。
一夏に関しては地元の方へ帰っているらしい。
が、元親は特に帰る目的がないとして整備棟に籠っていた。
早朝に起き、ランニングや特訓を終え、七時。
風呂に入って食事をして、八時。
整備棟に訪れ、様々な会社に発注をしていたISパーツを描いた設計図通りに組み立て、午後四時。
「空間密度可変式アサルトライフル――お前の名前は今日から《
それは鈴音のIS兵器である《龍咆》を参考にして製造した独自の武器。
《龍咆》が空間に圧力をかけて砲身、砲弾を生成するのに対し。
こちらは弾丸がメイン。
《胞擬》には空間操作機構が搭載されていて、それを用いて専用弾丸に力を付与する。
《氷雨》は空間圧縮に強い弾丸であり、空間を圧縮することによって一時的にエネルギー密度が上昇するがエントロピーによって圧縮されたエネルギーは周囲に発散。そのまま空間圧縮を解くことで今度は逆にエネルギー密度が著しく低下。つまり強烈な冷気を生み出す。
《火垂》は空間減圧に強い弾丸。さっきのモノとは逆で、エネルギーを一時的に下げることで周囲から吸収、そのまま常圧に戻すことで強烈な熱を生み出す。
とどのつまり――大がかりなエアコンということだ。
「も、元親くん。か、完成したんですね……」
「簪さん。そう、一応暇つぶしに設計した武器は出来たかな。メインはまだ途中だけど……」
「で、でも良いんですかね? 少し前に見せて貰った設計図だと中国の……」
「あ~、別に良いんじゃない? 調べてみたけど特許とかは特に申請されてなかったし。空間に対する云々の技術自体は結構単純というか……認識が前時代だから無理って思ったけどISとかいうフィクションが現実化してる辺り余裕だったね」
楯無の妹の簪。
同じく水色の髪をし、楯無とは異なり気弱でディスプレイ眼鏡をかけた彼女は心配する。
中国の技術盗用で訴えられるのではないか、と。
そう懸念するが、本家本元を実際に調べていないから事実は不明だが少なくとも元親の用いた技術は既にISに搭載されていたモノ。
何かといえば、『
普段《葵》や《焔備》を呼び出し、消すために用いられているモノ。
簡単な仕組みとしては『武装をデータ処理』し『得たデータを一定形式で圧縮』し『それに従って武装本体を量子化』し『四次元空間に収納』する。
その最終工程、四次元空間に収納とは理解を捨てて端的にいえば『空間の積分』。
既存の三次元空間を積分することで圧縮。
「そ、それをその大きさでまとめたのは凄いと思います!」
「はは、ありがとう。でもね~、正直
「
「ま、手間暇かけた力作じゃなくて良かったよ」
「そうなんですか?」
「ほら、クラス対抗戦で《葵》が壊れちゃったからさぁ、適当に改造加えつつ修理したんだよね~。けど気に食わなかったみたいで結局初期状態に戻して……そしたら受け入れて貰えたんだけど」
「た、大変ですね……」
会話をしながら打鉄に銃と弾丸のデータを送信する。
三つだが仕組みは単純だから処理には時間をほとんど要さず、結果が出た。
喜びで思わずガッツポーズをしていた。
何が気にいられたかは不明だが、三つとも取り込まれる。
「ふぅ……そういえば簪さんのIS――打鉄
「い、いえ……弐式は自分の力だけで作りたいので……。すみません、ありがとうございます……」
「そっか。でも必要部品とかの発注申請書類とかの作成くらいは良いでしょ? 手伝って安く済ませられる部分を知ったら僕のためにもなるしさ」
「え、ええ、っと――」
「それくらい手伝ったに入らないって。大丈夫大丈夫」
「じゃ、じゃあ……お願いします」
IS作成のための書類作り。
設計に集中したい簪としてはありがたい言葉だったが、同時にそれは自分一人の力ではないのではないかと躊躇した。
が、元親の言葉を受け入れて書類を託す。
「にしても倉持技研はヒドイよねぇ。先客を放り出して白式にお熱でしょ? 社会人として、企業としてどうなのさ。僕も織斑一夏は嫌いだから簪さんの気持ち、少しわかるなぁ……」
「そ、そのことは早く忘れてください……」
「え~、いいじゃん。お互い恨みは事実でしょ~」
「わ、悪口は……」
「ありゃ? これも悪口なのか……。僕的にはただ単に嫌いって意思表明なだけなんだけど。ま、そういうならもう言わないね」
二人が関わるようになったきっかけは楯無や虚ではなかった。
元親が整備棟を訪れた際、作業しながら囁くように一夏への悪感情を口にしていた簪がいて。
それを耳にしたのがきっかけだ。
「あ、ちなみに僕的悪口の基準としては『○○の××なトコロ嫌い』とか『メンドクサイ』とかそういうのね。相手の欠点と認識してる場所を言うのが僕的悪口。相手への印象を口にするのはただの感情説明。そんな感じ」
「……」
独自の価値基準に従って動く元親は、悪口の基準が簪とは違う事を理解しつつそう解説をした。
ちなみにだが。
千冬に面と向かって感情説明をした通り、元親は相手に対して直接そういうことを躊躇わない。
その後の関係性に影響が出たり生活に影響が出たりするなら口にはしないが、そうでないのならば元親はワリとハッキリ口にする人間だ。
とはいえ無意味に言うのではなく、言いたくなったときや聞かれた時程度だが。
「わ、私の悪口を言ってみてください……」
「んぁ? そうだね~。ボソボソ喋るところはこういう作業で五月蠅い場所だと聞こえないから面倒かな~。あ、あとほとんど目も顔も見てくれないから寂しいな」
同じ一夏嫌いという点から始まったからだろう。
彼女に対する悪感情はほとんどなかった。
それこそ悪口をといわれ、考えるほどに。
「うぅ……」
「せっかく頭良くて整備の腕も良いんだからさ、自信持ちなよ。俯いてばっかじゃせっかくの美人さんがもったいないよ」
「びっ――」
「――……ごめん、ちょっと用事ができた」
そういうと元親は打鉄を収納し、その場を後にした。
その場には簪の消え入るような小さな声と周囲の作業音。
思わずその場にうずくまる簪に周囲は心配をして数人が駆けよっていた。
――――――――――
「もぉぉぉぉとぉぉぉぉちぃぃぃぃかぁぁぁぁくぅぅぅぅぅぅぅん?」
「怖いです、先輩」
「なぁに人の妹にちょっかいかけてんのよ!」
「痛いです、先輩」
「いくら可愛いからってやって良いことと悪いことの区別はつけなさいよ!!」
「五月蠅い、先輩」
「んまッ!?」
「というか貴女が妹とちゃんとしてないから仲悪いんだと思いますよ、シスコンダメ姉先輩」
通路を抜けた先。
そこには楯無が殺気を飛ばして待っていた。
「キミ、最近遠慮がなさすぎないかしら?」
「良いじゃないですか~。仲相応の態度ってことで。あ、もしかしてそうと思ってたのは僕だけですか~? ヒドーイ、心を弄ばれた~」
「人がいたら誤解を招くようなこと言わないでくれる? ……大丈夫ほかの人が来たら教えてあげるわよ」
「んじゃいつも通りに」
妹と親しくする悪い虫を懲らしめ。暖簾に腕押しと溜め息を吐く。
「で、俺になんか用ですか?」
「今いたのはあの子の様子を見に来ただけ。そしたら余計なのがいたんだけど」
「余計だなんて失礼ですね~。一応は友人やってるんですよ? 俺」
純粋に友人として付き合っていて楽しいから特に不満はないものの友好関係の狭い彼女から友人を減らすのはいかがなものかと胡乱な目で見る。
彼女は今、少し不安定な精神状態だ。
優秀な姉を持ち、それゆえの劣等感が彼女を。彼女自身が彼女を苦しめている。
それを理解しつつ本人たちの問題だとよほどがない限り口を挟まない元親だが、それを理由に見捨てる気もない。
「う……確かにあなたと関わるようになって笑顔が増えたけど……」
「ハイハイ、文句はマトモな関係性になってから言いましょうね~」
「あ、貴方ねぇッ」
「お婆ちゃん、文句はさっき言ったでしょ?」
「……」
唐突に面倒になった元親は話が廻りそうだと適当にあしらう。
その態度に自分の言動を自覚した楯無は俯き、小さく溜め息を吐いた。
「話終わりました? じゃあ俺はこれで――」
「今のとは関係ないんだけどどうせ顔を合わせたし直接話をしようと思うの」
「……ああ、一昨日送ったアレですか」
「ええ」
立ち去ろうとしていた元親だが、楯無の言葉に動きを止め、改めて視線を彼女に向ける。
「研究内容。その概要。読んだわ。……本気なの?」
「面白そうなモノがあって、止められていないのに躊躇する理由はないでしょ」
「常識的に考えて不可能よ。誰も出来るなんて思わないわ」
「ま、目標を完遂は難しいかもですけど、八割九割程度なら出来るんじゃないですかね?」
元親の今目指すモノ。それを知った楯無はそんなことは不可能だと首を横に振る。
時間の浪費だ、と。
やめるのが賢明だ、と。
「それに、ね。無理を通して道理を蹴っ飛ばすのって、絶対最ッ高に愉しいじゃないですかぁ」
目標に至った光景。
想像し、高揚と愉悦を先取りするような狂気にも似た笑みで彼女を見つめる。
どこまでも自分の欲に忠実で。
理屈などに微塵も興味のない。
そんな
「そう……」
「そうですよ~。――クフッ」
「失敗すれば良い、そう思うわ……」
「大丈夫ですよ、現状の計算だとロクに実用性ないですから」
そう笑いながら元親は去った。
長時間の集中と達成感でテンション爆上げ。ひょうきん族の元親くん
ガチで無理を通して道理を蹴っ飛ばすから質が悪い
物理法則に「着いて来れるか?」と言われたら「お前の方こそ着いて来やがれ」って素面で言うと思う
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んじゃ|ω・)ノシ