ナチュラル   作:レイジー

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第八話 合同実習開始

 その日、二人の転校生が来た。

 

(おかしい……どう考えてもおかしい。色々。男扱いだから世界最強の下にいさせる方が管理が楽ってのはわかる。けど……もう一人もこのクラスってなんだ? 三組にも分けろよ……え、知らないだけで実は他にも転校生いるの?)

 

 金と銀。

 対称的な二人。

 男というには一五〇センチ代半ばの金。

 それよりも拳一つ分ほど小さな銀少女。

 雰囲気も柔和と威圧の両極。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 礼儀正しい立ち居振る舞い。

 線の細いその見た目はいかにも女子受けしそうな見た目で。

 実際その印象通りにクラスの女子からの黄色い悲鳴が響いた。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 思春期女子の感覚が理解できないのであろう千冬は面倒臭そうな態度を隠すことなくそう発する。

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

 真耶の小さな叫びでクラスが静けさを取り戻し、もう一方の銀に眼が向いた。

 生徒というには異質な雰囲気を纏う彼女は否応なしに緊張を促す。

 光の加減によっては白に見紛う腰近くまでの乱雑な長髪。

 海賊が付けそうなそれを少しデザインチェンジしたような黒眼帯。

 右瞳はその紅さとは裏腹に冷徹。

 その纏われた雰囲気は『軍人』である。

 

「…………………」

 

 視線が向いてなお、言葉は発されない。

 腕組みし、女子たちを軽蔑するかのように見て、そして千冬に視線を向ける。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

 すぐさまたたずまいを直し、軍隊のように返事をするラウラと呼ばれた少女にクラス一同が呆気にとられる中。元親は千冬のおおよその経歴と千冬が彼女を名字ではなく名前で呼んだことから二人の関係性を曖昧ながらに察した。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 

 答えて、軍のような異様なほど正された姿勢で立つ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 続く静寂。

 真耶がその空気に耐え切れず訊ね、続きを促すがラウラは問答無用の終了を告げた。

 

「貴様が――」

 

 だが、何もしないままと思われた彼女は壇上と最前列中央――目の前の一夏に目を向けると彼に近づき。

 

 バシンッ!

 

 元親が思わず拍手を送りたくなるような見事な平手打ちが炸裂した。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 打たれた一夏は困惑。

 衝撃で混乱し、時間をおいて痛みを自覚しながら状況を少しずつ理解しはじめ、打たれた衝撃で流れた視線をラウラに戻す。

 

「いきなり何しやがる!」

「ふん……」

 

 つまらなさそうにし、すたすたとその場から立ち去り、空いた席――元親の右へと座って腕を組み目を閉じ石像のようにたたずむ。

 

「初めましてボーデヴィッヒさん。僕は渡辺元親。よろしくね」

「…………」

「よろしくね!」

「…………」

「よ~ろ~し~く~ね~」

「うるさいぞ貴様」

「よし、会話完了」

 

 嫌いな相手を叩いた嫌い同士。

 元親の中で彼女に対する好感度は爆上がりした。

 

「あー……ゴホンゴホン! ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 手を叩き、千冬は行動を促す。

 一夏は腑に墜ちない様子で動きがかなり緩慢。

 そんな様子に興味を向けず、元親は自分の用意をする。

 

「場所がわからなかったりしたら言ってね、案内するから」

「ふん……」

 

 元親はシャルルの面倒を命じられている一夏をおいて一人で第二アリーナ更衣室へと向かった。

 

――――――――――

 

「遅い!」

 

 遅れてやってきた一夏とシャルル。

 何やらくだらないことを考えていたらしく姉弟の通じ合いで察された一夏は物理的指導を受けてから整列の一番端に加わった。

 

「ずいぶんゆっくりでしたわね。スーツを着るだけで、どうしてこんなに時間がかかるのかしら?」

 

 少し棘を感じる雰囲気でセシリアが訊ねる。

 セシリアや一夏、鈴音と馬鹿なやりとりをする中、元親は我関せずと無我で前方向を眺める。

 そうして無駄話をしていた罪で三人は千冬の制裁を喰らった。

 彼らの青春とは忘却なくして有り得ないらしい。

 

――――――――――

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」

 

 新規の内容だからか、合同実習の大規模さに高揚したのか、出る返事は気合いが入っていた。

 にもかかわらず、制裁を受けた者たちは愚かにも自分のことにのみ意識を向けている。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰! オルコット!」

「な、なぜわたくしまで!?」

 

 叫ぶが。限りなく自業自得である。

 

「専用機持ちはすぐにはじめられるからだ。いいから前に出ろ」

「だからってどうしてわたくしが……」

「一夏のせいなのになんでアタシが……」

 

 もっともらしい説明で千冬は二人に命令をし、二人に小声で何かを呟くことで二人のやる気を出した。

 言葉は短く。単純な二人はすぐにやる気を満たした。

 

(織斑を餌にしたか。弟をどうしたいんだろう?)

 

 元親からすれば興味のない内容に、思わず欠伸が漏れる。

 そんな中、伸びる高音が鳴り響き、衝突音が発された。

 

「ふう……。白式の展開がギリギリ間に合ったな。しかし一体何事――」

 

 吹き飛ばされた一夏。

 

「あ、あのう、織斑くん……ひゃんっ!」

 

 一夏は真耶の胸を揉んでいた。

 ただ触れるだけではない。

 感触を確かめるかのように手を動かしている。

 

「そ、その、ですね。困ります……こんな場所で……。いえ! 場所だけじゃなくてですね! 私と織斑くんは仮にも教師と生徒でですね! ……ああでも、このまま行けば織斑先生が義姉さんってことで、それはとても魅力的な――」

 

 妄想を捗らせる真耶。

 胸を触る一夏はなぜかその場から退くことなく、また胸から手を離すことなく、真耶の胸に視線を向けていた。

 ただ見るだけではなく、観察すらしていた。

 

(あの面……他のと比べてるな。オルコットさん? 篠ノ之? 凰? ……まさかの千冬さん? もしそうならキメェ)

 

「――ハッ!?」

「ホホホホホ……。残念です。外してしまいましたわ……」

 

 一夏の頭部をレーザーが狙う。

 咄嗟の回避で無事だったが、狙いは正確。

 続いて鈴音が《双天牙月》を首へ投げた。

 

「はっ!」

 

 二発の銃声。火薬の匂い。

 弾丸が投擲物の両端を正確に打ち、軌道を逸らした。

 薬莢の跳ねる音。

 その発生者へ視線が集まる。

 真耶だ。

 アメリカのクラウス社製実弾銃――五一口径アサルトライフル《レッドバレット》をほぼ倒れた体勢で撃ち放ったその技量に驚愕する。

 

(流石。スイッチが入ったら強いな)

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」

「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし……」

 

(先生はどうやったら自分に自信持てるんだろう。普通その候補生にすらなれないのに……)

 

 強さを見せたかと思えばすぐいつも通りの気弱な真耶に戻る。

 その動きを観察し、習練の膨大さを一部ながら察する。

 並々ならぬ努力ながら、その結果としての候補生の立場ながら、驕ることのない精神性にはある種の憧憬を抱きつつも自己評価を低くしてしまうという現実の歪曲には少し残念に思った。

 

「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ」

「え? あの、二対一で……?」

「いや、さすがにそれは……」

「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」

 

 二人は数の有利に躊躇する。

 が、千冬の言葉に闘志を滾らせていた。

 セシリアに関しては入試の際に一度勝っているという点から特に闘志が昂っていた。

 

(今の流れで躊躇できるの凄いな……。単純に三年間IS学園で学んだ元代表候補生ってだけでも実力担保は充分、さっきの今で見た技量で強さもある程度はわかるだろうに……。恋は盲目ってヤツ?)

 

「では、はじめ!」

 

 落ちる戦いの火蓋とは逆に、二人は制空権を取りに行き、真耶も目で確認してから追従する。

 宙で三人は言葉を交わし、先手を取ったのは二人だったが容易く回避された。

 

「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

「あっ、はい」

 

 視線は空に向けながら、シャルルは凛とした声で説明をはじめた。

 

「山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代機にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付け武装が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISの中では最後発でありながら世界第三位のシェアを持ち、七ヵ国でライセンス生産、十二ヵ国で制式採用されています。特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばないことと多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています。装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多いことでも知られています」

「ああ、いったんそこまででいい。……終わるぞ」

 

 流石は自分の親の会社製の機体というべきか、説明は纏められ、澱みはない。

 

(ふぅむ……汎用機にはあまり興味がなかったけど、説明聞くと面白いな。前半部分にはやっぱ興味ないけど後半部分、操作の簡易性と多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)。ぶっちゃけ自分が使うだけだから操作性に関しては完全に自己流で良いと思ってたけど、それだけの汎用性なら人体工学とか心理学面での工夫もあるハズ……参考にしてみるか)

 

 決着の決まった勝負にも、見どころのない勝負にも既に興味を失った元親は思考に没頭する。

 流石にそれはダメだと思ったのか密かに千冬による出席簿の角が襲った。

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

 手を叩き、みんなの意識を切り替えさせる。

 

「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、凰、ボーデヴィッヒ、渡辺だな。ではグループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな? では分かれろ」

 

 指示が終わると一夏とシャルルの下へ女子が押し寄せる。

 

(影薄くしてて良かった~。ま、俺みたいな凡夫はそもそもモテるわきゃないから関係ないだろうけ――)

 

 自身と二人との周囲人口密度の大差に喜ぶ元親。

 だが何故か一部生徒が元親のもとへとやってきた。

 

(な、なじぇ!?)

 

 容姿は平凡。

 一応は専用機持ち扱いとはいえ明らかに一夏よりも扱いが悪い点から国家的重要度も低い。

 そんな自分を狙う理由はほとんどないと考え、それを反する光景に困惑する。

 

(そ、そういうことか!? 一時期は身を引いて、油断させたところを拉致る気だな!?)

 

 顔色こそ変えないが硬直した表情。

 大規模な人混みと小規模な人混みに千冬が面倒くさそうに低い声で告げる。

 

「この馬鹿者どもが……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!」

 

 地獄のような罰に生徒たちは一気に散開してグループを短時間に形成する。

 

「最初からそうしろ。馬鹿者どもが」

 

 生徒を纏める彼女が溜め息を吐くのも仕方ないだろう。

 

「渡辺くん……この間は助けてくれてありがとう」

「え? ――ああ、あの時の」

 

 そんな不意の声に元親は首をかしげ、その顔を見ておぼろげながら思い出す。

 と同時にさっき自分の下へ集まっていた女子生徒たちのことも理解した。

 さっきいたのは全員がクラス対抗戦の際に元親が助けた、あるいは声をかけた者たち。

 自分を狙っていたワケではなく、単に礼を言うためという思考に辿り着き、元親は自惚れを恥じると同時に疑ってしまった自分を恥じた。

 

「別に気にしなくて大丈夫だよ。助けられるなら助けたいしね。それにキミは転んだだけで特にケガはなかったから僕が助けたってほどじゃないよ」

 

 咄嗟のことだったたけに朧げな記憶。

 ただ辛うじて憶えていたことから気にしなくていいと伝えながら微笑む。

 

「ええと、いいですかーみなさん。これから訓練機を一班一体取りに来てください。数は『打鉄』が三機、『リヴァイヴ』が二機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早いもの勝ちですよー」

 

 真耶の言葉で会話を打ち切り、元親は自身の班のメンバーに目を向けた。

 

「どうしよっか? 自分が今後使いたい機体をそれぞれ話し合って、選択肢があるうちに決めてね」

「打鉄で良いんじゃない? 元親くんは打鉄使いだし」

「鏡さんやい、別にこっちのことは気にしなくて良いんだよ? メインは僕じゃなくて君たち。ちゃんと将来のことを考えつつ、さ」

 

 自分が使っているという理由だけで決めさせるのは申し訳がないと考えるように促す。

 その言葉に従ってメンバーは軽く話し合い、結局訓練機は打鉄になった。

 

(ん~、結局気を使われたように感じるのは自意識過剰なのかな?)

 

 訓練は特に問題が起こることなく進む。

 途中、ISを座らせるように指示することを忘れた一夏の方でなんやかんやが起きた結果、その余波で女子がお姫様抱っこをせがむような眼で見るなどは起きた。もちろん気づかないふりをした。

 とはいえ一夏に比べ、機体が同じ打鉄ということで丁寧に教えることが出来。結果的にはメンバーの(ユーザー)満足度は高めだった。




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