先生が亡くなった日。   作:ぱぶしぃ

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今回も発作書きです。


第一章
空崎ヒナ


 

 

 

――――――先生が死んでから、1日が経つ。

 

 

 

ゲヘナの風紀委員会本部では、委員長の席が空いていた。

突然の欠席であったため、事情を聞こうと連絡を取ろうとしたが、誰も彼女と連絡がつかない。

 

「ヒナ委員長...。」

 

風紀委員会行政官のアコは、その現状に苦言を垂らした。

いつもヒナの近くで過ごしてきたアコからすれば、ヒナの欠席理由は、先生の死によるショックであることを容易に予想出来た。

 

だからこそ、解決法が無い現状に頭を悩ましているのだ。

アコ自身も先生が亡くなった事でかなりショックを受け、今も現実を受け止めきれていない。

先生の訃報が報じられた直後、信じられなかった私は直接連邦生徒会を訪ね、事情を聞きに行ったほどだ。

先生の訃報は、アコが思っていたより遥かに心が抉られた。

でも、ヒナはアコとは比べ程にならないほどに、先生に好意を寄せていた。

 

そのことを彼女は隠していたつもりだったのだろうが、先生と関わる時の表情や雰囲気から、風紀委員会なら誰もが勘づいていた事だっただろう。

もはや依存と言える程の好意、だが彼女が風紀委員長でいられる為にはそれが不可欠なのだ。

その事をアコは嫉妬心はあれど、それでヒナが委員長でいられ続けるのならと、黙認をしていた。

 

だが、そんなヒナの滑り止めとなっていた先生が、突然いなくなってしまったのだ。

 

先生の死によるヒナのショックは、到底考えれるものでは無い。

 

「アコ行政官。私達は大丈夫です、今直ぐに委員長の元へ行ってあげてください。」

「...え?」

 

頭を抱えながら座っていたアコに、1人の風紀委員が声を上げた。

その声に、他の委員も静かに頷く。

 

「いえ、でもそれでは風紀委員会が機能しな」

「幸い、現在ゲヘナは先生の訃報もあり、事件という事件が起こっていません。...それに、行政官以外にも頼りになる先輩方がいますので。」

 

すると、いつの間にか部屋にいたイオリとチナツが前へ出る。

 

「...まあ、こういう時は頼って欲しいな。」

 

イオリの少し寂しげな言葉に、チナツは静かに頷く。

 

「きっと、ヒナ委員長へ手を差し伸べられるのは、アコ行政官しかいないと思います。」

「...行ってあげてください。」

 

チナツの静かながら、感情が強く込められた懇願に、アコはいてもたってもいられなくなる。

私の今すべき事は...

 

「わかりました、皆さんどうかよろしくお願いします。」

「行政官も、頑張って下さい。」

 

 

 

その言葉を最後に、アコは部屋から飛び出し、ヒナの自宅へ向け一直線に向かったのだった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――――暗い。

 

 

電気をつけていないからだろうか。

それともカーテンを閉めているからだろうか。

...それとも、私の瞳に光が遂に無くなってしまったのか。

 

散らかった部屋でヒナは部屋の隅で体を縮め、途方もない喪失感に浸っていた。

学校は無断で休んだ。朝から鳴り止まない端末は先程電源を落とした。外を見たくないから雨戸も閉めた。

もう、何も考えたくなかった。

 

私にとって、何より大事な先生が、昨日死んでしまったのだ。

そう、死んでしまった、もう会う事が出来ないのだ。

 

その事実を考えるだけで、吐き気が止まらなり、気が狂いそうになる。

 

あの時、もし昨日私が先生の傍にいたら。もし昨日先生と一緒に何処かへ出かけていたら。

そんな"もし"を考えては、自分の無力さと後悔が自分の心を抉る様に刺す。

過去へは、戻れないのだ。

 

 

でも、もし許されるのなら...

もう一度だけ、もう一度だけ先生に会いたい。

会って、あの温かい抱擁が欲しい。

そして色んな事を話したい。

何てことのない世間話でもいい、先生と話せるのなら、何でも楽しいから。

 

先生と過ごした日々を思い出す。

 

アコ達、風紀委員会の皆と一緒に過ごす時間も、もちろん大切であり決して嫌いではなかった。

でも、先生と過ごす時間はいつもとは何かが違ったのだ。

心から楽しいと思える時間。そう感じることが出来た。

 

いつの日か、風紀委員の仕事をいつもより早く終わらせ、先生と一緒に出掛けたこともあった。

普段はいかないスイーツ店も寄ったりして、また別の日にはシャーレで一緒に談笑しながら仕事をしたり、休暇では海で水泳授業をしたり。

私にとって、先生と過ごす全てが新鮮だった。

先生と過ごす日々が、私にとってのある意味青春だったのかもしれない。

それほど、先生と過ごす時間はヒナにとって大切なものであり、重要な物だった。

 

ヒナは先生がいたからこそ、風紀委員長としていられたのだ。

でも、もうその先生はいない。

 

 

気が付けば、涙が流れていた。

 

 

ごめんなさい。

 

ごめんなさい。

 

守れなくて、ごめんなさい。

 

 

頭の中が「ごめんなさい」という文字で埋め尽くされる。

 

 

「ふざけるな。」

 

 

何かが、その謝罪を否定する。

 

謝罪だけで足りるとでも思っているのか?

それだけで先生を守れなかった罪が無くなるとでも思っているのか?

 

その鋭い刃のような言葉に、ヒナは囚われる。

 

 

「あああ...あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁぁぁ!!!!!」

 

 

絶叫。

 

すでにヒナの心は、限界を超えていた。

絶望、後悔、失念。

負の感情の雪崩がヒナを襲い続け、遂にヒナの心は粉々に砕けてしまったのだ。

 

頭を抑えつけながら、絶えず聞こえてくるも自分への非難から逃げるように。

肩はまるで痙攣したかのように震え、涙は枯れることを知らず、吐き気は酷くなる一方。

呼吸は乱れ、気が激しく動転し意識も朦朧とする。

 

「ッはあ...はあ...。」

 

幻聴なのは分かっていた。

これは自分の歪んだ感情が作り出したものであると。

それでも、ヒナはその声に怯え続け、自分自身から必死に逃げ続けた。

 

世界は無情だ。

 

この世界には希望なんて、存在しえないのだ。

希望なんていうものは、人間が捏造した醜い幻想であり、現実から逃げるための逃避ルートのようなものだ。

あの日々は帰ってこない。希望なんて私には無い。

 

先生がいないのなら、希望を抱く必要もない。

 

そうだ。

希望なんて抱かなくていいんだ。

なら、逃げ続けなくてもいいじゃないか。

 

震えが収まる。

あの声も、聞こえなくなった。

 

ヒナは静かに立ち、クローゼットからある物を探し始めた。

 

護身用に持っていた、拳銃を取り出す。

どうせ、行くのなら、先生と同じ拳銃がよかった。

 

弾が入っていることを確認し、セイフティを外す。

この世界に希望が無いのなら、もう心残りなんてない。

これがヒナの答えだった。

 

拳銃を頭の真横に構える。

恐らく何発かは耐えるだろうが、それはヒナにとって重要な事ではなかった。

 

 

先生、今から私もそっちに――――――

 

 

ッガシャン!!

 

 

扉が勢いよく吹き飛ばされた。

そして、跡形もなくなった扉から出てきた人物を、ヒナはよく知っている。

 

 

 

 

 

「...アコ、何の用?」

 

 

 

 

 




という事で後書きです。

美しいですね。
曇らせは美しいのです。これが神秘なのかもしれません。(?)

というか曇らせというか精神崩壊といった方が正しいですかね。
一度こういうのを書きたかったんですよ。
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