ついにこの日が来た…そう……
女の子たちからチョコをくれる日である…!
俺はその日のために色々とやってきた。
女の子に優しくしたり女の子と積極的に関わったりしてきた。これで少しは俺の事を意識してくれるだろう。
「我妻くん」
早速来たぁ…!!
「ん?どうしたのかなぁ?」
何度も考えてきた何通りのシチュエーションを活かし、決め顔で女の子の方に振り向いた。
「あの、これ…落し物よ」
その女の子の手元にはチョコ……ではなくハンカチだった。
「あっ、ありがとねぇ」
…………チョコじゃないんかいっ!!
いや…うん…分かってたけど…わぎゃってたけどっ!!あ〜もう期待していた自分が恥ずかしすぎて死にそうっ!!
そんな時、俺の背中に誰かに突き飛ばされた。
「ゎ…っ!?何するんだよぉ…」
「そこに突っ立っていたアンタが悪いわよ、不細工」
フンッと鼻を鳴らしながら俺の事を見下す梅。その彼女の目は氷のように冷たい。
「それは悪かったねぇ?というか他にも空いているんだから良ければいいじゃないか」
「何でこのアタシがわざわざ避けなきゃいけないわけ?邪魔なアンタの方が悪いわよ」
「はいはい、分かったよぉ」
「まぁいいわ、アンタのような不細工たちのために時間を割いてチョコを作ったんだからありがたく受け取ってよね、アタシからのチョコなんだからしっかりと味わいなさいよ」
チョコ。
「えっ?いいの?」
「はぁ?アタシのチョコ受け取れないってこと?」
「いやいや、むしろ嬉しいです!ありがたく受け取りますし、ちゃんと味わいますよぉ!!」
「だったら素直に受け取りなさいよ」
「ありがとうございます、梅様ぁ!!」
「フンッ」
梅はまた鼻を鳴らし、何処かへ行ってしまった。
その場に取り残された俺はくれたチョコに見とれながらゴクリと唾を飲んでいた。
その後、昼休みまで誰もチョコくれないと思いきや、また現れた。
俺の席の前で顔を赤らめながらチョコらしき物の包み紙を持った星羅ちゃんがいた。
…………いや、待って!?確か星羅ちゃんは無一郎くんと付き合っているはず!!なのに何で俺に!?ハッ!?もしかして本当は俺のことが…
「あ、あの…っ」
「ひゃい…っ!?」
ひぃ〜っ!!もし、星羅ちゃんに告白されたら無一郎くんに殺されるぅ〜っ!!!!!
「善逸さんに味見して欲しくて…!」
「…………えっ?」
「作ってみて成功したのはいいですけど…やっぱり自信がなくて…私が作ったモノより他の女の子が作ったモノの方が美味しいかもって思ってしまいまして…だから渡す前に甘いものが大好きな善逸さんに味見して欲しくて……」
あ〜はいはい、そういうことねぇ!?うん、期待はしてなかったよ?むしろ義理でもいいから欲しかっただけですし!?あ、自分で言ってて悲しくなってきたよぉ…
「いいけど…そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ?」
「え、でも…」
「星羅ちゃんは無一郎くんのために頑張って作ったんだよね?好きな子が自分のために一生懸命作ってくれたモノだと嬉しいし、他の物より特別に美味しく感じられるんだよねぇ、俺だったらさ、好きな子が失敗したり焦げてしまったりしても美味しく思えてしまうんだよね、だからそんなに心配しなくても大丈夫だよ」
星羅ちゃんからくれた包み紙を解きながらそう言った後、その包み紙から取り出したチョコを一口食べれば、思わず微笑んだ。
「うん、普通に美味しいよ、羨ましいなぁ無一郎くんは…無一郎くんが食べたチョコは俺より特別に感じられるんだろうなぁ」
星羅ちゃんは顔を赤くさせながら安心したような笑みを見せた。
「ありがとうございます、では…無一郎さんに渡してきますね!」
「うん、頑張ってねぇ」
星羅ちゃんは嬉しそうな音を弾ませながら大好きな大好きな無一郎くんの所へ向かって行った。
そして、入れ替えに禰豆子ちゃんが教室に入ってきた。
「ねっ!?ねねねねね禰豆子ちゃん!?ど、どうしたの!?珍しくここに来るなんて!!」
「善逸さん!」
禰豆子ちゃんは俺を見て、明るい笑顔を見せながら俺の元に駆け寄った。
「お、おおおおおお俺!?俺に用なの!?」
「そうよ、これ善逸さんに…」
禰豆子ちゃんが持っていたバッグから取り出したのは可愛らしい紙袋。それを俺に差し出す。
「こ、これっ、俺のため!?俺のために作ってくれたの!?」
「うん!善逸さんにあげる!」
「ん"ん"ん"っ!!ありがとうございます禰豆子ちゃぁぁあああんっ!!!」
今日は俺の命日かもしれない…と本気で思った日でした。
さらに放課後。
「善逸〜!!」
部活である剣道部が終わってから玄関で靴を履き替えようとした時、凛音ちゃんがチョコを持って走ってきた。
「これあげる!!」
走ってきたのに息が乱れていない凛音ちゃんはとびきり良い笑顔で、俺の前に差し出したのは、透明な袋に入っているチョコチップ入りのクッキーが入っていた。
「わ、ありがとねぇ!」
「えへへ〜、あ、そういえば…」
凛音ちゃんが何か言いかけようとした途端、何か落ちる音が聞こえた。
凛音ちゃんも聞こえたようで、共に音がした方を見れば、そこには莉々愛ちゃんが立っていた。
莉々愛ちゃんはショックを受けたような表情を浮かべながら包み紙を持っていた。先程の物が落ちた音は、彼女の足元にあるバッグのことだろう。
そして、隣にいる凛音は何か焦ったような驚いたような表情を浮かべていた。
「ぇ…あっ、僕用事あるからじゃあね〜!!」
「あ、うん…」
凛音ちゃんは急ぎ足でその場から去って行った。
その場に残された俺と莉々愛ちゃんの間は何故か重い雰囲気になっていた。
「あ、あのぉ…莉々愛ちゃん?俺に用かなぁ?」
「…………」
「り、莉々愛ちゃん…?」
「…………ね?」
「えっ?」
「今日…他の女の子から貰っていたよね…?」
「あ、うん、今年は珍しくそうだねぇ」
「じゃあ…いっぱい貰ったんだし…私のは要らないよね……」
「えっ、ま、待って、莉々愛ちゃん!!」
バッグを拾って何処かへ行こうとする莉々愛の手首を掴む。女子より男子の方が力強いため、逃れないと感じたのか、莉々愛は足を止めた。
「ねぇ善逸…」
「うん?」
「…私…善逸が、好き…善逸のために作ってきたの……だから返事は…………ホワイトデーで」
そう言った後、いきなり善逸の胸に押し込むように渡した莉々愛は走ってどっか行ってしまった。
その場でポツンと残された善逸はしばらく沈黙が続いた。
そして次第に理解してきたのか、顔を赤らめ、学校中に響く程驚いた声を出した。
「えぇっ!?!?」
【解説】
凛音…莉々愛を見て焦ったように驚いたのは、莉々愛が善逸に渡したと思っていたから。凛音は莉々愛が善逸のことが好きなのを知っているため、応援していたのだ。
莉々愛…実は朝から本命チョコを渡そうとしていた。しかし、既に善逸が他の女の子に渡されている所を見てしまい、自分以外の好きな人がいるのだろうかなど不安に思ったりモヤモヤしたりしているうちにいつの間にか放課後に……。