残酷な世界で過ごす最小の一日   作:安泰明日

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第五話『第57回壁外調査①~女型巨人襲来~』

右翼初列索敵班、それがデイビットの担当だった。

 

エルヴィン・スミス考案の長距離索敵陣形の目的は『巨人と遭遇しないこと』。各班ごとに距離を取って行動し、信煙弾により状況を伝達しあう。

 

「(よく考えられた作戦だ。人類も進歩せず、ただ捕食されただけではないというわけか。)」

 

無表情のデイビットに向けて班長が指示を出す。

 

「巨人だ。新人、合図を打て。」

 

「はい。」

 

 

巨人の出現にも慌てずにスムーズな動きで信煙弾を発射するデイビット。

そんな彼に向けて並走する班員たちが声を掛ける。

 

「随分落ち着いているな、新人。確か首席だって?トロスト区でも活躍したって話は聞いているぜ。」

 

「陣形も頭に入っているみたいだし、優秀な頭脳ってのは本当みたいだな。期待しているぞ。」

 

班員の賛辞を受けていると、本部から進路変更の命令が出る。

 

「よし、左へ進路変更だ。」

 

陣営は左側へ動くことで巨人の接触を避けることに成功した。

 

「(無垢巨人との接触を最小限にするこの陣形、奇行種が現れてもある程度の対応は取れる。事前に聞かされていた作戦内容だったら死者数も三割以下に抑えられるだろう。しかし・・・)」

 

『次の壁外調査、犠牲になるのは・・・三割といった所か。』

 

デイビットの限られた記憶の中から、エルヴィンの勧誘会での言葉が浮かび上がる。

 

それはトロスト区の戦いの後、卒業兵たちが各兵団の団長からの勧誘の言葉を受けていた時だった。他兵団の団長が任務の栄誉・重要性を説く中、エルヴィン・スミスは如何に呆気なく人が死んでゆく組織であるかを冷酷に語っていた。その際、伝えられた数字が『三割』。次の調査だけで十人のうち三人が死ぬ、という残酷な予測を卒業生たちに伝えていたのだ。

 

この数字と、現在進行している作戦内容は明らかに整合していない。その矛盾から、デイビットはこの作戦の真意を察していた。

 

「・・・義理堅い男だ。」

 

「あ?新人どうしたいきなり。」

 

「いえ、なんでも。(この陣形、無垢巨人を相手にするなら効果的だろう。

 

 

 

―――しかし弱点は、明確な殺意を持った知性巨人。)」

 

デイビットが懸念を想起したタイミングと同時に、懸念現象そのものが発生する。

 

「右側後方、巨人です!奥に1体、2体、いや・・・何体いるんだあれは!?」

班員は右側から素早い速度でこちらへ接近する巨人が確認する。

 

2点、奇妙な現象が起きていた。

まず、先頭を走る巨人。

14m級のそれは金髪で、他の巨人と比べて明らかに女性的特徴が明らかな、異様な巨人だった。

さらに、後ろには更に無垢巨人を大勢引き連れている。ランダムに行動する巨人では有り得ない、人為的な動きが見て取れる。

 

歴戦を潜り抜けた班長ですら初めて対面する、明らかに異常な光景が広がっていた。

 

「なんだあの巨人の大群は!?」

「新人、信煙弾だ!」

 

「はい。」

 

デイビットは再び信煙弾を打ち上げる。今度は先ほどとは異なる色だ。

焦った表情を隠さないまま班長は作戦を告げる。

 

「このままだと中に侵入されて陣形を崩される!ここで防ぐぞ!!!」

 

「班長!あれだけの巨人がいるんですよ!防ぐなんて無謀です!」

 

「なら、少しでも時間稼ぎをするんだよ!!!」

 

そう言うと方向転換し、班長は女型の巨人に向かう。そして首だけ振り向いてデイビットに向けて指示を出す。

 

「新人!別班にこの状況を伝達しろ!ここでお前は死なせない!!!」

 

「分かりました。」

デイビットは命令に素直に従い別班の方へ方角を変えて馬を走らせる。

 

班長の命令は未来を見据えたものだ。期待の新人をここでは死なせない。

104期首席デイビット・ゼム・ヴォイド。その能力の高さは上から聞き及んでいる。

 

曰く、異質の天才。全科目にて最高水準の成績を残しつつも、最も言及されたのがその洞察力。的確に本質を突くその力は未来予知の如く。実践訓練でも、序盤に不可解な行動・言動を見せながら、最終的にはそれらを布石にして盤面をひっくり返してきたという。

 

一方で、その異質な能力に加え、日常にまで浸透した効率的すぎる言動、教官ですら全く掴めない性質から、彼の危険性を訴える報告も受けている。在り方が人間離れしている、空洞のよう、と評する声もあった。それゆえ、異質の天才。その異質性が我々の牙となり得るのではないかという指摘だ。

 

彼のプロファイルを読み終えた班長は思った。

『まさに、調査兵団にふさわしい』と。

 

毎回確実に人が死ぬ職業だ。常人の精神性では務まらない。

仲間の死体を踏み越えられる狂人こそ、自由の翼を背負うにふさわしい。

なんせ、我々の団長はエルヴィン・スミスだ。

彼を見てきた経験から、非人間的な要素がこの兵団には必要であると、班長は考えていた。

 

異質の天才?大いに結構。

人類の勝利のために、班長はデイビットを逃がす選択を取った。

自らが死のうとも、その次に託すために。

 

 

しかし、現実は非情である。次世代への『継承(インセプション)』のために死ぬことすら、許してくれないのだから。

 

こともあろうか、女型の巨人は班長と班員を通り過ぎ、デイビットの方へ一直線に駆け抜けていった。

 

「なに!?」

「俺達が見えてねぇのか!?」

「クソッ!なんでこっちを無視しやがる!!!」

 

通り過ぎて行った女型の背中に言葉を吐き捨てる班員たち。

この短時間で、異常な現象が幾つも起きている。

経験豊富な班長ですら、常識外れすぎて頭が機能しなくなっていった。

 

その動揺が、彼等の最期を決定づけた。

 

女型の巨人の背後を走っていた無垢巨人の大群が、いつのまにか背後にいた。

彼等が女型の動きに動揺している間に、班員たちのもとへ辿り着いていたのだ。

 

「いつの間に!!」

「しまった!!!」

 

無垢の巨人から伸びてくる手を、振り切ることは誰も出来なかった。

 

 

 

 

女型の巨人は班長たちに目もくれず、一直線にデイビットのもとへ綺麗なフォームで走り抜く。その動きには、明らかな目的意識が見えた。

振り向くと女型の巨人がすぐ後ろまで走ってきているのが確認できる。

 

巨人と目が合う。その目はデイビットしか見ていなかった。彼はその視線の質からすぐに状況を理解する。

 

「なるほど、奴の目的はオレか。3年間、余計な世話を焼き続けた代償だな。」

 

そう反省するデイビットを標的に、女型の巨人は蹴りを仕掛ける。明らかに殺意の籠った速い蹴りだ。

 

馬では避けられないだろうと判断したデイビットは馬を捨て、立体起動装置で避難する。その避難先は女型の巨人の顔面だ。攻撃を避けた勢いで女型巨人の顔元まで接近したデイビットは、ブレードを即座に抜き巨人の眼球に下からカウンターを狙った。しかし、素早く硬質化されてブレードが真っ二つに折れてしまう。

 

「流石に硬いな。周辺の状況は・・・」

 

デイビットは女型巨人の頭上まで上昇すると、辺りを見回し一瞬で状況を把握する。

 

班長と班員は後方の少々離れた場所で巨人の群れに捕食されている。そろそろ食べ終わりそうだ。

周りは木々が少々あるだけでほぼ平地。

そして真下にはこちらを確実に殺すという意志を持って拳を振りかざす女型巨人。

 

「(正面から戦うのは流石に分が悪いな。後ろの無垢巨人もこちらに向かっている。ここに着くまで1分程度といった所か。)」

 

拳を回避しながら木の上に着地する。しかしすぐに追撃が来て再び回避、その繰り返しが数ターン続く。防戦一方だ。

 

「(やはり手強い。) ・・・ここでの捕獲は無理だな。」

着地する木々が無くなってきたころにデイビットはぼそりと呟く。

デイビットはここでの不利な状況で女型の捕獲を実施することを諦め、逃げに徹することを選択する。

 

彼は目標を女型の踵に定めて攻撃を仕掛ける。

防戦一方の状態から急に攻撃に転じた動きに一瞬反応が遅れ、踵を切断されて膝をつく女型巨人。そのまま追撃を加えようとするデイビットに警戒してうなじをガードするも、彼の目的は眼球だった。

 

「フンッ!!!!」

 

両目から激しい流血を起こし、女型巨人は視界を失う。片目の回復までには凡そ30秒程。更に切断された踵の回復も含めると1分は行動不能だろう。

 

彼は持ち合わせていた信煙弾を全て女型巨人に向けて放った。彼女の周りを厚い煙が覆い、彼女の巨大な体が全く見えなくなる。

 

その隙に予め呼んでいた班長の馬に跨り、デイビットは即座にその場を離れた。

 

女型巨人は片目だけ回復させて周りを見渡すも煙が舞って何も見えない。煙が無い場所へ行こうにも踵が回復していないので移動する事も出来なかった。更に後ろから無垢巨人たちが到着し、彼女に喰らいつく。

 

煙が晴れ、纏わりつく巨人を排除した頃には、彼の姿は四方の何処にもなかった。もう少し探そうかと考えたが、巨人の群れの後続が迫ってくるのが見える。

 

完全に撒かれた。ゆっくり探している時間もない。

 

状況報告の為に中央の方へ移動しているだろう。女型巨人はそうあたりを付け、長距離索敵陣形の中心に向かって再び走り出した。

 

 

 

 

 

【アルミン視点】

 

僕たち新人訓練兵は巨大樹の森の入り口で待機していた。

 

巨木の枝に立ち、下を覗くと巨人たちがこちらを狙っている様子が見える。中には木を登ってまでこちらを捕食しようとする巨人までいる始末だ。もし足を滑らせでもして枝から落ちた時の結末は容易に想像できる。

 

僕たちの役割はここで巨人たちを引き付けておくことらしい。その意図は伝えられていない。しかし、この森の中から絶え間なく聞こえてくる激しい発砲音と関わりがあるであろうことは理解が出来る。

 

第57回壁外調査は僕たちにとってはイレギュラーの連続だった。その中心にいたのは女型の巨人だ。

 

右翼側から巨人を引き連れてやって来たそいつは右翼索敵班を完全に壊滅させた。僕たちの班も一瞬で潰されたが、僕は何故か見逃された。その後ライナー、ジャンと合流して再び女型の巨人と交戦し、何とか一分程度の時間稼ぎに成功。女型巨人は中央の方へ向かい、僕たちは他班と合流して巨大樹の森に着き、今に至る。

 

森の中から響いた発砲音が止んだ。恐らくは調査兵団側の攻撃だったのだろう。これが止んだという事は知性巨人、恐らくは森の中で女型の巨人の殺害または捕獲に成功したのだと考えられる。

 

これはとんでもない作戦だ。

 

僕らどころか先輩たちにも偽の作戦を伝えて敵を欺き、少人数で捕獲に移る。敵が内通者である可能性に賭けて行動に移した大胆な作戦だ。何が一番大胆って、100人以上の仲間の死を前提とし、それでもなお実行した覚悟、悪く言えば人間性の放棄だ

 

作戦の実行者、エルヴィン団長は『大事なものを捨てること』が出来る人間だ。トロスト区で共に戦ったピクシス司令やイアン班長も何かを変えることが出来る人間だ。彼等はきっと大事なものと引き換えに勝利を手にしているのだろう。

 

・・・デイビットは・・・どうだろう。間違いなく何かを変えることが出来る人間だ。彼は何を捨てているのだろうか・・・

 

ジャンから『右翼索敵全滅』という知らせを聞いたとき、僕は真っ先にデイビットのことが頭によぎった。彼も右翼索敵班だ。全滅という事は彼も死んだのだろうか。いや、普通に考えれば死んでいる筈だ。

 

あの女型と巨人の大群を相手に平地で戦って生き残る事などミカサでも難しい。リヴァイ兵長でも厳しいかもしれない。彼の戦闘能力が並外れているのは知っているが、人類の範囲の中での話だ。普通に考えれば彼の生存の可能性すら考えるのは愚かだろう。

 

その証拠として、彼はここにいない。右翼班の僕らと合流できていない時点で彼は喰われたと判断できる。

 

しかし、理屈ではない何かが彼の生存を訴えている。これも多分・・・『靄』だ。

 

デイビットは『善い』人だ。いつも無表情だけど、意外と僕たちのことをよく見てくれて、必要な言葉だけを掛けてくれる。きっと104期の兵士の殆どは彼のことを頼りにしているだろう。

 

だけど僕は彼と居るとき、いつも何処か底知れない恐怖感を感じている。そこに理由はない。そこにいるはずなのに、何処にも存在していない気がするし、中身が無い様に感じる。巨人とは違う非人間感を常に感じていた。

 

彼が何も出来ないまま巨人に無様に喰われるのだろうか。僕の感情がそれを強く否定している。

 

仮に生きていたとしたら、彼は何故姿を現さないのか。どこで何をしているのか。そもそも彼の目的は何なのか。エルヴィン団長も何を考えているのか分かりづらい人だが、人類の為に動いている事は分かる。彼はそれすら掴めない。人類であることにすら疑問を持ってしまう。彼のことが何一つ理解できない。

 

彼も何かを変える為に、何かを捨てているのだろうか。いや・・・彼にはそもそも始めから何も―――

 

「キィヤァァァァァ!!!!!!!」

 

深くまで沈んだ僕の思考は突如、森の中から聞こえてくる叫び声に中断される。

 

間違いない、女型の巨人の叫び声だ。

何のために?

 

僕が思考を始めると同時に、木の下に集っていた巨人が一斉に森の中へ走り始めた。

それが、女型の巨人が巨人を呼びつける為の合図と判断するのに、時間はかからなかった。

 

 

 

その後、程なくして青い煙が舞いあがった。撤退の合図だ。

 

「撤退命令だ。馬に乗って帰るぞ。」

班長が僕らにそう指示を出す。

 

その後、僕らは馬に乗って巨大樹の森を出た。ジャンが僕に語り掛けてくる。

 

「撤退ってことは、作戦はうまくいったのか?」

 

「だとすると、今頃あの女型巨人の中にいた人間の正体が分かったかも。」

僕はそう返答する。

 

「顔を拝みたいもんだな。それにしても団長はどうしてエレンが壁を出たらそいつが追ってくると確信できた?」

 

ジャンの疑問に対して、僕は自分の推測を述べようとする。

 

「それはきっと・・・

 

 

 

 

・・・え?」

説明をしようとした僕の視界の端にとんでもない光景が映り、僕は言葉を止めてしまう。

 

「アルミン?どうした。」

ジャンが心配して声を掛けてくれるが、それどころじゃない。

 

「あそこ・・・見て」

 

僕が指をさした先には、巨人の群れがいた。距離は離れているが、はっきりと視認できる。

 

5体いる巨人達は走って巨大樹の森の中に侵入していく。幸いこちらには気が付いていない様だ。

 

「おいおい、何だよあの巨人の群れは。森の中入っていったぞ。さっきの女型の叫び声に寄せられたのか?」

 

いや・・・違う。あの巨人達は追っていたんだ。

 

『巨人達の先頭で馬に乗って走っていた兵士』を。

 

もしかして―――

 

兵士の姿はしっかりとは見えなかったが、僕はその兵士に確かに『靄』を感じていた。

 

 

 

 

 

【ミカサ視点】

 

「おい!ずらかるぞ!」

エレンを奪還したリヴァイ兵士長が私に向かって指示を飛ばす。

 

森の中で行われた作戦は失敗した。その証拠に捕獲した筈の女型の巨人はエレンを再び襲ったのだから。エレンはどうやら巨人化して戦った様だが、私が到着する頃には女型に敗れ、口に含まれたまま連れ去られてしまった。

 

私はすぐさま女型を殺してエレンを奪還するべく奴と交戦した。その後リヴァイ兵士長も合流し、共闘の末エレンを女型の口内から救出する事に成功した。

 

共闘と言っても、殆どリヴァイ兵士長の成果だ。私は何も出来ていない。不完全燃焼だ。悔しさが身体を支配する。

ここ数年、悔しい思いをするばかりだ。昔から自分の力には自信があった。しかし訓練兵団でも、ここ調査兵団でも、私は力不足を実感している。

 

「もう奴には関わるな、撤退する。」

兵士長が戸惑う私に釘を刺す様に命令する。

 

仲間があの女型に大勢殺された。なによりも・・・あの女は・・・エレンを・・・。

 

「作戦の本質を見失うな。自分の欲求を満たす事の方が大事なのか。お前の大切な友人だろう。」

彼はそう言い、その場を離れた。

 

彼の言葉が私に重くのしかかる。ここで怒りのままに女型と交戦するのが私のやるべきことか。

 

「違う・・・私は・・・」

 

エレンを守ること。最優先にするべきことを思い出した私は兵士長の後を追う。

 

撤退しながらふと思い出す。そう言えばあの女型によって右翼索敵は壊滅したらしい。

右翼索敵には私の同期がいたはずだ。私より一つ上の順位で卒業した同期が。彼は死んだのだろうか。

 

デイビット・ゼム・ヴォイド。

 

彼のことを思い出すだけで悔しさが蘇る。エレンのトラウマをほじくり返した事もあり始めから印象は最悪だったが、エレンの目の前で彼に敗北した時、あの屈辱の日から、彼は明確に私の倒すべき相手となった。

 

しかし、3年間私は彼に一泡を吹かせることすら出来なかった。直接の格闘訓練では避けられ、その他の科目で圧倒しようとしたが敵わなかった。

 

身体能力は私の方がずっと勝っている筈だ。というか、多分戦闘自体は私の方が強い。

しかし彼は未来を視ているかの様に、その場その時における最適な動きを見せて私を上回る成績を残した。始めは小賢しいやり方だと思ったが、気味が悪いほどに先を見据える彼の頭脳に、私はだんだんと畏怖するようになった。

 

彼に追いつこうとしていた私だからこそ間違いなく言える。こんな所で何も出来ないまま死ぬはずが無いと。

トロスト区での戦いでもそうだった。後衛部隊から彼が消えた時、先輩は彼が死んだと決めつけたが、私は彼が生きていると確信していた。そして、彼は補給兵を引き連れて多くの訓練兵の命を救った。場の展開を読み、最適な一手を投じる。巨人を倒すことしか出来なかった私では到底成し得なかったことを、デイビットは常にこなし続けた。

 

彼は強い。これは戦闘能力云々の話ではない。この状況を彼が予測できない筈がなく、彼が何の策も打たない筈がない。

 

となると彼は何を考えて・・・・

 

 

思考を一旦止め、私は背後を振り向いて女型の巨人を確認する。兵士長の攻撃が回復しきっていない様だ。私達を追う様子はない。

 

正直な所、彼女を殺せなかった悔いは強く残っている。確実に疲労している今が好機ではあるが、私達も疲弊している上に何よりもエレンを守らなければならない。

 

あと一手、あと少しの戦力が足りなかった。あと一歩あれば、奴を殺せる機会はあったはずだ。

この展開を読めていたら・・・この機会を逃さなかった。

それが・・・悔しい。

 

そう女型の巨人を睨みつけていると、ふとある事に気付く。

 

「・・・泣いている?」

 

女型の巨人は木にもたれかかり脱力した様子で、涙を流していた。

エレンを奪還できなかったから?リヴァイ兵士長が恐ろしかったから?それとも・・・大勢の兵士を殺した良心の呵責か?

 

私が純粋に不思議に思い、思いを巡らせていたその時

 

 

 

 

 

誰かとすれ違った。

 

「ッ!!!誰だ!!!!」

 

大声を出しながら相手を確認すると、そこには調査兵団の制服を纏った兵士の後ろ姿があった。身体の大きさを見るに男だろう。

 

その男はこちらの声に反応もせず、立体起動装置を駆使してすさまじいスピードで木にもたれかかる女型の巨人の下へ直進する。

 

「クソッ!!!!反応が遅れた!!!女型の仲間か!!??」

 

リヴァイ兵士長が吐き捨てる。彼も疲弊していた上にエレンを担いでいた為、前から来る男に気が付かなかったのだろう。

 

まずい、追いつかない!!!何をするつもり!?

 

・・・どうでもいい。

 

最優先事項はエレンをまも―――

「おい!!!!端に避けろ!!!!」

 

私が覚悟を決めた瞬間、兵士長が緊迫した声で私に命令する。私は反射神経に従い、状況も分からぬまま全速力で脇道に回避した。

 

『ドドドドドドドドド!!!!』

大きな足音と共に、複数の巨大な物体が私の目の前を高速で通り過ぎる。

 

巨人だ。それも複数。

目標は・・・あの男だ。

 

「あの野郎・・・巨人を引き連れてきやがった・・・」

兵士長が驚愕した様子で呟く。

 

その時、男が被っていた制服のフードが風で捲れる。それと同時に彼の姿が露わになった。

 

無造作にかきあげられた金髪と、紫の瞳。恐ろしく無表情なその顔は真っすぐに女型の巨人を捉える。

よく知っている顔だった。

 

「・・・この瞬間を狙っていたの?・・・デイビット。」

 

 

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