残酷な世界で過ごす最小の一日   作:安泰明日

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第七話『兵士へ送る別れの言葉』

その夜は104期の兵士にとって、地獄の様な夜だった。

 

事の始まりはウォール・ローゼ敷地内に巨人が出現したことだった。兵団はウォール・ローゼが破壊されたと判断し、修復の為に破壊された壁を発見するべく、敷地内を走り回った。

 

その調査には104期生のライナー、ベルトルト、ユミル、クリスタ、コニー、そしてデイビットも駆り出されていた。彼等は元々ウォール・ローゼ近辺の駐屯地で待機命令を喰らっていたのだが、緊急事態なので立体起動もつけないまま馬だけで住民の救助と原因解明を命令されたのである。

 

彼等は暗闇の中、壁の破壊地点を特定しようとしたがその跡を見つけることは出来なかった。というよりも、壁は破壊されていなかったと結論付ける方が正確だが。

 

夜道で仲間の様子もはっきり認識できなかった為、班員の一人だったデイビットとも途中ではぐれてしまう。

目標も見つけられず仲間も一人失い、途方に暮れた兵士達は取り敢えず夜を明かす為にウドガルド城という古城に泊まったがそれが運の尽きだった。

 

夜は活動しない筈の巨人たちがウドガルド城を襲ってきたのである。多数の巨人たち相手にベテラン兵士が応戦するもあえなく敗北し、なすすべなく捕食された。絶体絶命というピンチに対し、ユミルがまさかの巨人化によって巨人達を撃退してゆく。

 

そんな彼女も体力が尽きて喰われるか、という所で調査兵団が到着した。

 

衝撃の事実と共に多くの犠牲を払いながらも、彼等は救われて地獄の夜が明けたのである。

 

 

 

そして更なる地獄の一日が始まった。

 

 

『俺が鎧の巨人で、こいつが超大型巨人だ。』

 

『俺たちの目的はこの人類すべてに消えて貰うことだった。』

 

 

 

『俺のすべきことは・・・自分のした行いや選択に対し、『戦士』として最後まで責任を果たす事だ!!!』

 

 

 

『このッッッ!!!!!裏切りもんがぁぁぁぁぁッッッ』

 

ウォール・ローゼの壁上で明かされた衝撃の告白から全ては始まった。

 

自らの正体を明らかにして巨人化したライナー、ベルトルトはエレンと交戦。激闘の末にエレンはライナーを相手に勝利しかけたが、超大型巨人であるベルトルトに介入され、敗北を喫する。

 

2人の戦士はエレンとユミルを連れてそのまま壁外へ逃亡し、壁上の調査兵団はそれを眺める事しか出来なかった。

 

 

 

現在、ライナーたちは巨大樹の森にいる。第57回壁外調査の作戦地でもあったここは巨人から身を隠しながら休息するのに最適の場だった。彼等は中間地点のここで体力の回復を待ち、夜になったら出発する計画を立てていた。

 

しかし当然攫ったエレンも目を覚ますわけで、彼等の休息は決して穏やかなものとはならなかった。

激高したエレンとライナーが激しく言葉をぶつけ合う。

 

「そうか・・・お前らは兵士でも戦士でもねぇや・・・ただの人殺しだ。何の罪もねぇ人達を大勢殺した大量殺人鬼だ・・・」

 

「んなことは分かってんだよ!!!お前に教えて貰わなくてもな!!!」

 

「じゃあいっちょ前に人らしく悩んだりしてんじゃねぇよ!!!もう人間じゃねぇんだぞお前ら!!!この世界を地獄に変えたのはお前らなんだぞ!!!!分かってんのかこの人殺しが!!!!」

 

「その人殺しに何を求めてるんだよお前は!!??反省して欲しいのか!?謝って欲しいのか!?それでお前は満足かよ!?もうお前が知る俺らはいねぇんだぞ!?泣き喚いて気が済むなら、そのまま喚き続けてろ!!!!」

 

 

 

「・・・そうだな・・・俺がまだ・・・甘かったんだ。俺は頑張るしかねぇ。頑張って、

―――お前らが出来るだけ苦しんで死ぬように、努力するよ。」

 

そうエレンが狂ったような笑みの様な表情を浮かべて宣言する。

 

「・・・そうじゃねぇだろ。」

 

エレンの様子をみたユミルは半分呆れながら、獣の巨人についての話題に変えた。

ユミルはあの獣の巨人をライナー達の上官と推測し、更にその巨人と合流する事でライナー達の故郷へ向かえる、という彼女の仮説を語った。

 

その語り口調から明らかに何かを知っている様子を感じ取ったエレンは今度はユミルに向かって問い詰めた。

 

「お前、知ってんのかよ!?何を知っている?知っていること全部話せ!!!」

 

「待てよ、私にもいろいろ都合があるんだ。」

 

「なんだよ都合って!?」

 

エレンは中々答えを口にしないユミルに対して怒鳴りながら答えを求めたが、ユミルはエレンを落ち着かせる様に諭した。

 

「エレン、あの二人をやっつけて終わりだと思ってんなら、そりゃ大きな勘違いだ。」

 

「はぁ!?敵は何だ!?」

 

「敵?それは言っちまえばせ―――

 

 

 

 

 

「敵などいない。どちらもただの人類だ。お互いその事実を無視し続けて今に至った。」

 

突然頭上から聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「誰だ!?新手kぐふっ!!!」

 

その声に反応したエレンだが、背後に着地したその男に一瞬で落とされてしまう。エレンは男の正体を知ることなく意識を失った。

エレンを気絶させたその男はいつも通りの無表情でライナー達に視線を向けた。

 

 

「昨夜ぶりだな。ライナー、ベルトルト、ユミル。任務から独断で離れて悪かった。」

 

全くいつも通りの様子で男は声を掛ける。その雰囲気に不気味さを覚えながら、ライナーは男を警戒するように尋ねた。

 

「・・・何しに来た・・・デイビット。」

 

 

「別れを告げに来た。」

 

 

 

【ライナー視点】

 

張り詰めた雰囲気が場を支配する。

 

さっきのエレンとの互いのフラストレーションをぶつけ合う怒鳴り合いとは違う、警戒心に満ちた類の張り詰めた雰囲気だ。

 

その原因は突如俺たちの前に現れた男の存在にあった。

 

デイビット・ゼム・ヴォイド。104期の首席にして、最も掴みどころが無かった男。俺たちもこいつには最大限の警戒を払い、決して隙を見せない様に注意していた。

 

奴は完璧な兵士だった。頭脳は言わずもがな戦闘力も優れている。協調性には欠けていたが、肝心な時には必要な言葉を掛けており、仲間からの確かな信頼もあった。あれ程の兵士はマーレにも居ない。俺の中にあいつに対する警戒心と共に微かな憧れの気持ちがあったことは否めない。

 

そんなあいつが今、当たり前の様に俺達の目の前にいる。何故ここが分かった?いや、そもそも何の為にここに来た?

場の全員、状況が掴めなかった。ユミルでさえも警戒した表情を見せている。

 

「別れを告げに来た、だって?」

 

ベルトルトが疑問をそのまま口にする。

 

「あぁ。他の同期とは散々な別れ方をしたんだ。せめてオレくらいは真っ当に見届けてやろうと思ってな。

 

理屈じゃない、感覚の話だ。お友達感覚、というヤツだが・・・迷惑だったか?」

 

穏やかな笑みを浮かべてそう返すデイビット。そこに敵意は全く感じられなかった。

 

待て・・・混乱してきた。真っ当に見届けるだと?俺たちがそんなものに値するわけがねぇ。俺たちは大勢の人を殺した裏切り者だ。

 

俺が思考を巡らせているとベルトルトが沈黙をかき消すように一気に問い詰める。

 

「そんな訳ないだろう!!!調査兵団は僕らを血眼で追っている筈だ!!!兵士である君が僕らを見逃すことが許されるはずがない!!!そうやって騙し討ちするつもりだろう!?いや、そもそも君は何故ここが分かった!?」

 

焦燥した表情でまくしたてるベルトルト。思えばあいつは元々デイビットに複雑な気持ちを抱いていたな。

 

デイビットが再び口を開こうとする前に、ユミルが呆れた様にため息を吐いた。

 

「はぁ・・・。ったく重要なのはそこじゃねぇだろ、ベルトルさん。焦り過ぎだ。」

 

「ユミル・・・?」

 

「ここが分かった理由なんて、どうせこいつ得意の未来予知だろ。相変わらずたまげた洞察力だが、まぁ状況を俯瞰的に見れば不可能じゃねぇ。それに襲撃のチャンスならこれまでに幾らでもあった筈だ。恐らく本当に戦闘の意思は無いとみていい。確かにこいつの兵士としての立場は謎だが・・・まぁそれもいい。元から誰の味方をしてるかも分かんねー奴だ。

 

それより重要なのは・・・お前が何者なのか、ってことだ。デイビット。」

 

「・・・」

 

「おいユミル・・・それはどういう・・・」

 

「いやもっと具体的に聞かねぇと、またてめぇのよく分かんねぇ言葉で煙に巻かれちまうな。はいかいいえで答えて貰おうか。

 

―――デイビット、お前は『この壁の外の世界について』知っているのか?」

 

ユミルが真剣な表情でデイビットを見上げて問う。

それに対してデイビットは沈黙の後、はっきりと答える。

 

 

 

 

「あぁ、知っている。」

 

「「!!!!」」

 

デイビットの返答に俺とベルトルトは驚愕する。壁の外の世界の真実を知っている。そんな素振りは今まで全く感じられなかったが、こいつも俺達やユミルと同類・・・つまり・・・

 

「君も・・・僕たちと同じ壁の外の人間だったのか・・。」

 

ベルトルトの問いかけに対してデイビットは否定する。

 

「いや、オレは大陸側の人間ではない。オレは確実に壁の中で生まれた人間だ。そしてお前達マーレの戦士でも、他国のスパイでもない。そこは安心してくれていい。」

 

「・・・何故僕たちがマーレの人間だと知っている?」

 

「三年を共にすれば嫌でも気付く。人は意図せずして己の文化の癖が出てしまうものだ。まぁ、お前達は特に分かりやすかったが。現代マーレの文化を知っているのがオレだけで良かったな。」

 

心臓の鼓動が激しく鳴る。

ずっと前からバレていた・・・いや見逃されていたのか。いつから・・・いや、恐らく始めからだろう。

 

アニの言う通りだったわけだ。俺たちは・・・ずっとこいつに心臓を握られていた。

 

「なぜ・・・僕たちを見逃していた。」

 

ベルトルトも同じ俺と思いに駆られていたのだろう。呟くようにか細い声で尋ねた。

 

「お前達を殺してもパラディ島の状況は何も変わらない。それにオレは人類の為に動く。その対象を選り好みする気はない。まぁ・・・理由はそれだけではないが。」

 

・・・確かに俺達が死んだとしても、壁内に未来はない。遠くない将来にマーレは壁内を制圧する。そうなれば、どちらにせよ壁内人類は終わりだ。

 

しかし、マーレの作戦までこいつは知っているのか・・・

 

デイビットの持つ情報量に冷や汗をかいていると、ユミルが何かに気付いた表情になったかと思えば、突然大笑いし出した。

 

「・・・くくくっ!。あーはっはっはっはっは!そうかそういうことかよデイビット!とんだイカれた野郎だな!!!」

 

「ユミル?」

 

ひとしきり笑い終えたユミルは息を整えることも無く、興奮した表情でデイビットに問いを投げた。

 

「お前よく口にしてたよな!?『人類にとって善いこと』ってよ!!!あれは文字通りこの世界全ての人類にとって善いこと、ってことか!?」

 

「ユミル・・・なにを・・・」

 

俺の問いかけには全く気を留めず、ユミルはデイビットに向かって言葉を続けた。

 

「つまりお前は壁内側の味方なんかじゃねぇ。全ての人類の味方であり、敵って訳だ!とんだ博愛主義だな、デイビット!!!」

 

ユミルの言葉を、無表情のままデイビットは肯定した。

 

「・・・まぁ、否定はしない。エルディア人も、マーレ人も、東洋人も、オレは等しく人類と定義している。」

 

デイビットの回答を聞き、ユミルは更に詰め寄った。

 

「なら、そんなお前は何故壁内にいる?何のためにここに来た?お前の目的はなんだ、デイビット?」

 

デイビットは目を瞑って悩む様な表情を見せた。そして数秒の沈黙の後に口を開いた。

 

 

「・・・別れを告げに来たのに、こちらが質問を受けてばかりだな。悪いが時間が限られている。何にでも答えて貰えるとは思わないでくれ。」

 

これ以上の質問は許さない、という様にデイビットはユミルの問いを叩き伏せた。

 

「・・・そうかい、無遠慮に悪かったよ。」

 

ユミルはそう謝罪すると、大人しく口を閉ざした。

 

 

場が落ち着いた所でデイビットが再び俺たちに語り掛ける。

 

「さて、もう残り時間も少ない・・・これだけは聞かせてくれ。ライナー、ベルトルト。

 

―――ここでの五年間はどうだった?」

 

「・・・何故俺たちにそんなことを?」

 

「ただの別れ際の会話だ。深い意味はない。」

 

奴の問いに対してベルトルトが細々とした声で答えた。

 

「・・・正直、気が楽だったよ。仲間もできた。兵士でいる間は・・・僕は自分が人殺しであることを忘れられた。」

 

「そうか。ライナー、お前は?」

 

この五年間がどうだったか、だと?そんなの・・・決まっている。

 

「・・・最悪だった。五年も暮らしたせいで・・・憎むべき悪魔どもが、こんな奴らだと知っちまったせいで・・・俺はこんな半端なクソ野郎になっちまった・・・。」

 

絞り出すように思いの丈を吐き、顔を上げると、そこにはこれまでに見たこと無い程の穏やかな笑みを浮かべるデイビットがいた。

 

「そうか、それは良かったな。」

 

なんだと?こいつは何を言っている?

俺たちをからかっている様には見えない。困惑した表情の俺たちに向かってデイビットは続けた。

 

「確かにお前たちは戦士としては最悪の五年間を過ごしたと言っていいだろう。労力と時間に対して何の成果も挙げられなかっただけでなく、壁内の奴を人類として認識してしまった。流石に行動が杜撰すぎたな、ライナー。もっと良い手段は幾らでもあった。」

 

容赦のない批評が俺たちを襲う。お前に何が分かる!?と言いかけたものの、こいつの言葉は全て正しい。こいつが指揮を執っていたらもっと上手くいっていたのだろうという確信すらある。

 

デイビットは「ただ」と呟き言葉を続ける。

 

「人類として・・・これまで物語を紡いできた社会動物として、お前達のこの五年間は他の誰のよりも価値のあるものだった。戦いの後が仮にあるとすれば、お前達のこの五年間の物語は・・・苛まれた葛藤は・・・必ず人類を救うだろう。

 

自らの行いを誇れ、とは言わない。だが、オレはお前達の五年間を絶対に否定しない。誰に語る事は無いとしても、オレがお前達の旅を覚えている。」

 

「デイビット・・・」

 

「お前達は逃げ出そうと思えば逃げ出せたはずだ。それでも、葛藤に苦しみながらお前達にとっての『善いこと』を成そうと五年間藻掻き続けた。

 

―――お前達は紛れもなく『人間』だ。」

 

淡々と告げるあいつの言葉には、俺たちのこれまでに対する確かな肯定があった。

 

俺たちは・・・人間なのか・・・

 

『もうお前ら人間じゃねぇんだぞ!!!』

 

先程のエレンの言葉が脳裏を掠める。俺は・・・一体・・・。

 

「時間だ。別れを惜しむ余裕はなかったな。」

語るべきことは語った、という様にデイビットは帰還の準備をする。

 

「おい、マジでそれだけで帰るのかよ。エレンの奪還は良いのか?」

立体機動装置の準備を行うあいつに対してユミルが呆れた様に尋ねる。

 

「必要ない。そろそろ彼らが来る頃合いだろうそれじゃあな。この件、調査兵団には黙っていてくれ。エルヴィン・スミスとの契約範囲内だとはいえ、褒められたものじゃないからな。」

 

そう言い残すと奴は立体機動装置を起動させ、あっという間に離脱していった。

 

嵐が通ったかのようだ。俺もベルトルトもユミルも、デイビットとの会話を受け止め切れていなかった。

 

三年間を共にして全く気付けなかった、あいつの秘密。そしてこの会話で新たに浮上したあいつの謎。この衝撃をあっさりと飲み込むのは不可能だろう。

 

深い思考の海に沈もうとしていたその時、俺は奴が別れ際に放ったとある言葉に引っ掛かりを覚えた。

 

『そろそろ彼らが来る頃合いだろう。』

 

はっと顔を上げてウォール・ローゼ側を確認する。そこには緑色の煙が上がっていた。

 

調査兵団が・・・エルヴィン団長が来やがった!

 

「ベルトルト!!!デイビットについて考えるのは後だ、見ろ!!!追手が来たぞ!!!」

 

「なっ!?嘘だろ!こんな早く来るなんて・・・」

 

嘆いている暇はない。デイビットのことも一旦忘れろ。

 

そう気を引き締めなおした俺は3年を共にした仲間達から逃げる準備を始めた。

 

 

 

 

 

その後、調査兵団はエレンの奪還に成功する。

 

エルヴィン・スミスの指揮の下、鎧の巨人と無垢の巨人をぶつける作戦を実施。混乱状態の中エレンが無意識に発動させた巨人操作の力もあり、何とかその場を切り抜ける事に成功。無論、その代償に熟練兵の多くを失うことになった事は忘れてはいけない。

 

混戦の場から離脱するべくその場を急いで撤退する調査兵団。彼等を追おうにも襲い掛かる無垢の巨人の対処に奮闘する2人の戦士と、彼等に手を差し伸べる偽の女神。

 

 

オレンジの陽光に照らされながら必死に場を切り抜けようとする両陣営を、デイビットは離れた所から眺めていた。

 

調査兵団の逃走を補助するわけでもなく、ライナー達に纏わりつく巨人を排除するわけでもない。ただ双方の動きをじっと傍観している。それはまるで彼のスタンスを表しているかのようだった。

 

『お前は壁内側の味方なんかじゃねぇ。全ての人類の味方であり、敵って訳だ。』

 

ユミルの言葉は、どちらにも肩入れせずに人類を俯瞰して視る彼を良く表しているが、一点だけ間違っている。

 

「オレは始祖とは違う。どう捉えてもオレは人類の敵でしかない。」

 

デイビットは人類の為に動く。しかしデイビットは人類の味方とは程遠い。実に矛盾している様に聞こえるだろう。だが、これから彼が成そうとしていることを考えると、彼はどう捉えても人類の敵なのだ。それでいて、その営みは人類の為である。―――少なくとも、彼の視点では

 

「オレが壁内にいる理由・・・それは『壁内人類の選択を見定める』為だ。彼等の選択を以て、オレは人類への評価と、この生物種の行く末の予測を完全に終えることになる。」

 

巨大樹の森でユミルに投げかけられた質問に対し、デイビットは誰も聞いていない中一人で呟いた。

 

「とはいえ、オレの中では殆ど結論は出ている。人類はそういう生命だ。それは決して、悪いことではない。だからこそ、ここまで生存を続けてきた。しかし世界・・・いや、宇宙単位で見た時、その特性は極めて厄介だ。」

 

そのまま呟く彼の視線は撤退する調査兵団に向けられていたが、彼の思考はこの世界の未来を見据えていた。

 

「・・・壁内人類がその道を選んだ時、オレもオレの責務を果たさなければならない。その為にも、準備を早める必要があるな。そろそろロッド・レイスも動く頃だろう。これ以上ない機会だ。」

 

ライナー達に目を向けると、ちょうど彼等は巨人を振り切り全速力でウォール・マリアの方へ走っていた。助太刀の様子が必要ないことを確認すると、デイビットも帰還するべく馬を走らせる。

 

全ての終わりの時は刻々と近付いている。しかしそのことに気付き、準備を始めている者はデイビットの他にまだいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も、人類は躍進を続ける。

否、躍進せざるを得ない状況に追い込まれてゆく。

 

ライナー達の衝撃的な裏切りによって傷ついた兵士達。

だが傷が癒える暇を与えくれる程、この世界が流れるスピードは緩くなかった。

 

息を吐く間もなく、次の戦いを強いられる兵士達。

次の敵は、王政・・・即ち国家そのものであった。

 

意思なき巨人が相手ではない。

壁内を100年間支配し続けてきた権力そのものが相手だ。

 

ただ闇雲に手を伸ばしてくる巨人とは全く異なる、狡猾老獪なアプローチに調査兵団は追い詰められる。

エレンの受け渡しを執拗に要求してきたかと思えば、王都へ強制召喚の命令。終いの果てにはリーブス商会のボスであるディモ・リーブスの殺害容疑を掛けられてしまう。ありとあらゆる罪を着せられ、調査兵団は解体の危機に迫られる。

 

しかし、ハンジ分隊長らの尽力により中央憲兵の悪事が暴かれると、形勢は一気に逆転する。

 

『どうやら理解しておられないようですな。これはただの脅しではない・・・クーデターじゃ。』

 

真実が広められ、民衆からの支持は低下。更にはウォール・ローゼ突破という偽の情報に対して、壁内人類の命を軽視した反応を露わにしてしまい、各兵団からの信頼も失ってしまう。

失望した各兵団は王政に対しクーデターを起こし、現体制は転覆されてしまった

このクーデターにより、人類は巨人、壁の成り立ちに大きく近づくことになる。

 

 

一方、エレンとクリスタはロッド・レイスの命令により中央憲兵に攫われ、礼拝堂地下に連れ去られてしまう。

そこでクリスタは5年前の真実と、『神』として壁内人類を守るという王家の使命について、ロッド・レイスから伝えられる。

そのまま王家としての使命に従ってエレンを喰い、始祖の力を継承するようにロッド・レイスに強要されるが―――

 

『もうこれ以上、私を殺してたまるか!!!』

 

彼女はそれを拒否。最低最悪の悪い子になることを選んだ彼女はロッド・レイスの手を拒み、周りから勝手に押し付けられた使命を放棄する。

 

 

『ハア・・・ハア・・・父さん・・・ウーリ、フリーダ、待ってて・・・僕が・・・いま・・・』

 

彼女からの返答を受け自暴自棄になり、自ら巨人化の薬を啜ったロッド・レイスは、超大型を超えるサイズの巨人へと変貌する。

その巨人は人間離れした・・・どこか昆虫のような形をした奇行種で、ゆっくりと這いずりながらウォール・シーナへ向かう。

 

調査兵団は巨人となったロッド・レイスを追跡して討伐しようとするが、サイズと硬い外殻に阻まれ、苦戦を強いられる。

一見無敵のように見受けられた巨人だが、その巨大な質量と性能を維持するだけの基盤が備わっておらず、時を経るごとに弱体化。その好機を逃さず、兵士達は被害が出る前に何とかオルブド区外壁のところで討伐に成功した。

この時に自らの父にとどめを刺したクリスタは、住民の前で自分が真の王であることを宣言。そのまま女王に即位する。

 

兵士達は見事王政との戦いに勝利し、新たな体制を立ち上げた。それは真実の共有を重んじ、自由を重んじ、そして何より人類の勝利を重んじる、そんな体制に多くの民衆が期待を寄せた。

彼等の後押しを受け、兵士達は次の戦いへ向かう。

 

壁内での戦いにケリをつけた兵士達が次に見据える先は、壁の外。

―――すなわち、ウォール・マリア。

 

巨人達との決戦の時が近づいていた。

 

 

 

 

 

 

さて、この王政との戦いでもデイビット・ゼム・ヴォイドは大いに貢献していた。

 

リヴァイ班についていたデイビットは彼の命に従い、礼拝堂への潜入をサポート。中央第一憲兵との戦いでも多くの戦果を挙げた。巨人化したロッド・レイスとの戦いでも、自らの役割をきっちり完遂している。

 

彼はこの戦いに大いに貢献した。

 

―――まるで『ただの優秀な兵士』のように。

 

トロスト区、女型巨人戦でのように、積極的に行動する訳でもなく、場をひっくり返す一手を打つわけでもなく、ただただ与えられた兵士としての任務を忠実にこなすその様は、逆に異様であった。

 

殆どの兵士はその違和感に気付かない。気付いたのは、エルヴィン・スミスとアルミン・アルレルトの2名のみ。

その2人も深く疑うことはせず、違和感を心の中にしまい込んだ。

 

 

 

 

デイビットの動きで強いて気になる箇所があるとすれば、彼はこの一連の戦いでは、観察に徹しているような仕草が多かった。

 

解決の為に動くのではなく、起きている事件の詳細を逃さず観測することを目的としているような、そんな様子が見受けられた。

 

 

 

特に顕著だったのが、ロッド・レイスが巨人化した時だ。

 

虫のようにカサカサ這いずる超々大型巨人を、彼は瞬き一つせずに観察していた。

それも一晩中。

 

『そんなに見ても何も変わらねぇぞ』とコニーが茶化すも、それに対しては反応すらしない。

彼がここまで何かに興味を持つのは珍しい、とアルミンは不思議に思った。

 

 

 

この時の、デイビットの様子と、ロッド・レイスが変身した超々大型巨人こそ、後々の大きな伏線だったことにアルミンが気付くのは、これより4年後のことである。

 

 

 

 

 

「・・・失敗作だな。強度がまるで足りていない。」

 

「王族であるだけでは超大型になるだけのようだ。所詮は側だけの模倣、といったところか。」

 

「やはり、本物へ近づけるための鍵は『始祖の力』ということだろう。」

 

「・・・このまま奴の道筋に沿えば、始祖の巨人は完成する。残りも4年もあれば準備は可能だ。」

 

「全ての条件が揃ったとき、本当の意味で完成すると言っていい・・・」

 

「オレの記憶の片隅に微かに残っている・・・あの怪物が。」

 

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