残酷な世界で過ごす最小の一日   作:安泰明日

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第九話『レベリオ襲撃』

「我々は国も人種も異なる者同士です。しかし、強大な力を前にした今こそ、一つになる時なのです。」

 

「だから今、死にたくないものは力を貸して欲しい!どうか、一緒に未来を生きて欲しい!」

 

「皆で力を合わせればどんな困難も乗り越えていけるはずです!」

 

「どうか、私と共に、力を合わせてパラディ島の悪魔と戦って欲しい!」

 

「私、ヴィリー・タイバーは!マーレ政府特使として、今ここに宣言します!!!」

 

 

 

「パラディ島勢力へ、宣戦布告を―――

 

 

 

『ウォォォォォォ!!!!!!』

 

 

 

 

ヴィリー・タイバーが宣戦布告をした瞬間に、巨人化したエレンが背後から現れる。

 

『その宣戦布告、受け取った』

そう言わんばかりの急襲だった。

 

パラディ島と世界の開戦の瞬間である。

 

 

 

 

あまりにも突然の開戦だった。

 

宣戦布告の直後にヴィリー・タイバーは巨人化したエレンに殺害される。

エレンはそのまま観客席に飛び込み、式に参加していた幹部も全員殺害。この瞬間、マーレの指揮系統は完全に崩壊した。

 

そのままやりたい放題のエレンだったが、そんな時間も長くは続かない。

タイバー家が抱える巨人、戦槌の巨人が現れ、エレンとの一騎打ちが始まった。

 

戦局は、戦槌と進撃の戦いを中心に進むかと思われたが、新たな勢力が加勢に入ったことで、争いの範囲はさらに広がる。

 

 

 

「今だ、ミカサ。」

 

その号令を共に一番槍であるミカサ・アッカーマンが戦槌の巨人に奇襲を仕掛けた。それとほぼ同時に、調査兵団の兵士が現れ、マーレ軍を一斉に攻撃した。

 

新生調査兵団は強かった。改良された立体機動装置を使いこなして空を飛び回り、新たな兵器である銃や手りゅう弾、雷槍などを駆使して、建物屋上にいた敵を次々と殺していった。敵からすれば悪魔と錯覚しても仕方がない姿だった。

 

無論、その場にいる者は皆人間だ。

しかし、その心の中には悪魔が必ず潜んでいる。そんな心の悪魔を抑えない一部の兵士達に、ジャン・キルシュタインは悩まされていた。

 

人を殺すだけにしては明らかに大規模な爆発音が鳴り響く。

 

「あっ!!あいつら!!」

 

ジャンが爆発音の発信源に行くと、複数の調査兵団兵士が火薬を町中に振りまいている姿が見えた。フロックを始めとする、過激派の兵士達だ。

 

「おい!収容区ごと燃やすつもりか?民間人への被害は最小限に抑えろ!分かってんのか、フロック!」

 

ジャンが主犯格のフロックに怒鳴りつけるが、フロックは憎しみの籠った表情でジャンに返す。

 

「ここに住むのは敵と、敵の住む建物だけだ!俺達壁内人類が、どれだけ壁の外の奴らに殺されてきたか忘れたか!?食い殺されたんだぞ!?まだまだこんなもんじゃ済まされねぇよ!」

 

「お前ら・・・まだそんなこと言ってんのか?」

 

呆れるように反論を始めようとするジャンだが、フロックがその言葉を遮る。

 

「見ろ!エレンは示した、戦えってな。俺達はただ壁の中で死を待つだけじゃない。俺達には、あの悪魔が必要だ。」

 

フロックが指差す先には、戦槌の巨人と戦うエレンの姿があった。その姿は確かに、兵士、ひいては壁内人類に希望を与えていた。

 

彼が戦う姿は、兵士の士気を確かに上げていた。それは、ジャンにも否定することは出来なかった。

 

 

 

それからしばらくの交戦の後、兵士たちはレベリオの中心部を制圧する。圧倒的な制圧戦だった。

 

別区域のコニーとサシャがジャンと合流する。

 

「ジャン、増援はしばらく来ないぞ。」

 

別区域での制圧も完了したことを告げるコニー。

 

「明かりの設置は?」

 

「全て仕掛けました。」

 

作戦が無事進行している旨の報告を受けジャンは一瞬だけ安堵した表情を見せる。しかし、コニー班のメンバーを見渡すと、すぐにその顔は曇った。

 

いるべき班員の数が一人足りない。

その一人の正体はすぐに分かった。

 

「デイビットは?お前らの班の筈だが。」

 

「はぁ・・・通常運転ですよ、彼は。」

 

「気付けば勝手に消えやがった。ご丁寧に、自分の担当分はきっちり制圧したうえでな。」

 

サシャとコニーはため息を吐いて班員の行方不明を報告する。

お馴染みの単独行動だ。割り振られた分の仕事はきっちりこなしたうえで姿を消すので、余計たちが悪い。

 

「・・・まぁいい。あいつなら手ぶらでは返ってこねぇだろ。」

 

兵士の勝手な行動に一瞬頭が痛くなるものの、彼の習性と実力から問題ないとジャンは判断する。

 

「作戦は順調か?」

 

「今のところはな。」

 

エレン首謀の作戦は滞りなく進んでいた。しかしそれでもジャンは気を抜くことはなかった。

 

「だが、分からねえ。何が起きたっておかしくねぇよ。」

 

「この戦いの先に何があるのか、それを見極める為には・・・生き残らねぇと。」

 

 

 

 

 

ジャンの予感は的中した。

一時はパラディ島勢力優勢かのように見受けられたが、すぐさま戦況は変化する。

 

戦況の要因は明らか。

マーレ軍の誇る知性巨人の参戦だ。

 

顎の巨人、車力の巨人、そして獣の巨人。

マーレ側に巨人が三体も加勢してしまった。

彼等の及ぼす影響は、そこらの最新兵器なぞ比較にならない程に大きい。

 

進撃と戦槌の一騎打ちだった状況が、一気に変貌する。

パラディ島勢力側に傾いていた戦況が、均衡状態に戻ってしまった。

 

巨人参戦の原因は、彼等の協力者イェレナの失態にある。

 

そもそも、顎と車力はイェレナが拘束する手筈だった。しかし、車力の継承者であるピークの類まれなる判断力により、彼等の脱出を許してしまう。パラディ島側の奇襲計画は、この2体の巨人が参戦しないことを前提としていた。イェレナの拘束不備により、計画に綻びが出てしまう。

 

 

 

「逃がすな、全滅しろ。」

 

「死ぬな、生き延びろ。」

 

ジーク、リヴァイの相反する掛け声をきっかけに、レベリオ襲撃作戦が新たな展開に入った。

 

 

 

 

 

【ピーク視点】

 

「私達が焦る必要はないよ。今この戦場を支配しているのは私達。」

 

戦況は混乱していた。

 

あまりにも突然のテロ襲撃。敵の目的も不明。そもそも、誰が敵かもあやふや。

 

混乱状態に焦るポルコを抑えるべく、私は戦況を客観的に告げる。

折角の優位状況を崩さない為に、我々は状況を正確に把握のうえ慎重に動かなければならない。

 

「ハナから敵は追い詰められている。敵は立体起動で乗り込んできたわけだから、武器も燃料も大した物量じゃない。つまり補給線の無い敵地のど真ん中で袋のネズミな訳。

今頃マーレ軍がこの収容区を包囲している頃だから敵に退路はない。そもそもパラディ島勢力それ自体には、マーレ相手にまともに戦争できる体力は無いんだよ。」

 

私の言葉にポルコが苛ついたように反論する。

 

「だから始祖の巨人さえ抑えちまえば、ヤツらは地ならしの切り札を失うって話だろ。今その切り札が目の前にあるんだぞ!」

 

「だから慎重に駒を進めようって話なの!とにかく私達はアッカーマンから戦士長を守ればいいの。」

 

私の説得にジーク戦士長が賛同する。

 

「流石ピークちゃん、その通りだよ。」

 

そう言うと、戦士長は石礫を敵が潜む建物に投げつける。

 

そう。このまま戦士長を守りながら戦士長が投石で相手を削っていれば、いずれ増援が来る。奴らに生き延びる道はない。

 

 

 

私がそう勝利を確信した時、なぜか辺りが明るくなった。

 

おかしい。

今は夜のはずなのに、軍港の方から太陽の様な明るい光が私達を照らしてくる。

 

それが、巨大な爆発だと気づいたのは数秒後―――

轟音と突風が遅れてこちらにやって来た時だった。

 

熱風が吹きすさび、キノコの様な爆煙が舞う。

あの爆発の規模は、兵器じゃない。あんなことが出来るのは―――

 

「超大型巨人だけ!やはりベルトルトは巨人を奪われていた!」

 

「クソがぁぁぁぁぁ!!!」

 

隣でポルコが怒りを撒き散らすように叫ぶ。

 

「やはり連中が無策でここまで攻め込んできたわけがねぇ。やってみろよ!悪魔ども!」

 

ポルコはそう怒鳴ると、持ち場を離れ、エレン・イェーガーのもとへと向かっていった。

 

「待って!!!ポルコ!!!」

 

私がポルコを無理やり止めようと一歩踏み出した時―――

 

 

 

私の頭上でも大きな爆発音が聞こえた。

 

その直後に、顔面の神経が爆炎による痛みを訴えてくる。

 

すぐに、自分は攻撃されたのだと気づいた。

 

「ぐはっっ!!!」

 

爆破の影響をもろに受けてしまい、巨人化も解除されてしまう。

本体である自分の身体が、路上に叩きつけられた。

 

駄目だ・・・意識も朦朧としてきた。

本体である私がここまでの重症となると、いくら車力の持続力でも即復帰は難しい。

 

たったの一撃でここまでの被害・・・その理由をぼやけた頭で分析する。

 

攻撃は外側からじゃない。外部からなら事前に察知できる。

 

今の爆発源は銃機関武装の内側からだった。

だから、私は生身でもろに爆発を喰らってしまったのだ。

 

雷槍でもない、手りゅう弾でもない。

 

この爆発物は―――元から設置されていた。

 

敵に・・・予め設置された・・・設置式の爆弾。

 

「パンツァー隊は・・・」

 

私は縋りつく様に銃機関装甲の方を向き、隊員の無事を確認しようとする。

 

「「「「・・・・・・・」」」」

 

「みんな・・・」

 

しかし、現実は非情。私の部下たちは全員死んでいた。パンツァー隊全滅という事実を突きつけられる。

 

爆煙が晴れると、1人の兵士が無機質な瞳で横たわる私を見つめているのが、ぼんやりと確認できた。

 

建物の屋上に佇む金髪のその男は、4年前にも対面した、不可思議を身にまとったような敵だ。

 

「・・・デイビット・・・・ゼム・・・ヴォイ・・・ド」

 

その危険性を再認識するように、辛うじて観測できたその男のフルネームを口にしたところで、私の意識は限界を迎えた。

 

 

 

 

 

 

「デイビット!てめぇ何処に今までいやがった!」

 

ジャンがデイビットの下に駆け寄って怒鳴りつける。

 

「すまなかった。少し下準備が必要でな。」

 

「下準備って・・・まさか、車力の巨人の爆発はお前か?」

 

「あぁ、演説中の敵陣本部はがら空きだったからな。タイミングを見て奴らの装置に仕掛けておいた。」

 

「手りゅう弾か?」

 

「いや、時限式の爆弾だ。アルミンの巨人化と同時に発動するように設定しておいた。」

 

「・・・始めからイェレナの拘束が失敗し、車力が戦場に出てくると踏んでいたわけか。それで、車力の銃機関装甲の中に時限爆弾を仕込んでおいたと。」

 

「あの時点で、イェレナの手腕を信頼する根拠をオレは持っていなかったからな。それより、そろそろ時間だ。どうやら、あちらも上手くやったらしい。」

 

デイビットが指差した方向には、ジークを回収したリヴァイと、戦槌を喰らっているエレンの姿が見える。完全勝利といえる光景がそこには広がっていた。

 

「取り敢えず・・・無茶みたいな作戦の甲斐はあったって訳か。・・・っておい!もう撤退するのか!?車力にとどめはまだ刺してねぇぞ!」

 

勝利の光景に浸る様子もなく、無駄のない動きで飛行艇へ向かうデイビットの背中に向かってジャンは吠える。

 

「お前たちで殺しに行ってもいいが、難しいだろう。マーレ兵たちが既に車力を保護し始めている。下手に行ったら返り討ちに遭うだけだぞ。」

 

ジャンが車力の巨人の方を見ると、気を失っているピークをマーレ兵が囲い、こちらに銃口を向けているのが分かった。

 

「確かに分が悪いなこりゃ。潮時か・・・。おい!!!てめぇら撤退だ!!!すぐに飛行船の下へ移動しろ!!!下の敵から飛行船を守れ!!!弾薬は全て敵にくれてやれ!!!」

 

ジャンの号令と共に兵士は撤退戦に移った。兵士の奮闘の甲斐もあり、飛行船は無事にマーレを去ることが出来た。

 

何より主目的である、軍艦の破壊、マーレ幹部の殺害、ジークの回収は滞りなく達成された。

レベリオ襲撃は、調査兵団の勝利に終わったのである。

 

 

 

これだけの戦いにおいて、10名以下の死者数に抑えられたというのは、数字上は快挙と言える。

 

しかし、個々の死の重さに数は関係ない。

見事に勝利して凱旋する調査兵団の兵士達・・・特に104期生の顔が沈みきっている事実が、そのことを何よりも証明している。

 

ずっと共にしてきた仲間の死が今後の展開に与える影響は大きいのだが、それを予測している人間は1人を除いていなかった。

 

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