「シド君?」
ローズ・オリアナはテラスから聞こえる足音に向かって声を発する
「私はシドじゃない、ご機嫌ようローズ先輩。」
「アレクシアさん?!」
ローズ・オリアナは驚愕の表情を浮かべた、我が家の警備が緩過ぎると。
「色々と考えてたところ悪いんだけどさ、事後の決裁をしたいんだよね。」
シドフィルターがなければこの程度の思考力を持っているのである、決してこの人の頭が母に似て残念ではない事を留意して頂きたい。
「すみませんアレクシアさん...話が見えないのですが?」
既にアレクシア・ミドガルによって話を纏められている、当然だ彼女が知る訳ないのだ。
...否、知っていてはいけないのだ。
「そうだね、最初から説明しよう。
既にグラント侯爵へ支援を行っている、内戦では反ドエム派の勝利は確実だ。
...その後に始まるであろうオルム主導の聖戦において、ベカルタ帝国含む多国籍軍の侵攻の際での無償援助も決定した。
その援助の受け取りを主導して欲しいんだ、変に横流しされたらたまったものじゃない。
オリアナ王国の政治腐敗はベカルタやミドガルと比べても群を抜いている、現在は仕方なくそれぞれの勢力に分配しているが...王国が統一された時には王家に直接物資を届ける様にしたい。
その為の政治的な体制の構築をお願いしたい、概要は任せる。」
「そういう事でしたら任せて下さい!!
...ですが大丈夫なのですか?」
無償援助、それは国内経済に甚大な悪影響を及ぼす。
インフレの助長もしくは甚大なデフレを招く、ただの借金にすらならないのだ。
...立場ある者は金は命より重いと知っている、それは単なる浪費以下であり何ら価値のないものなのである。
吸い上げた金の一部を返すという意味の無償援助のならば、ならば意味も意義もある。
だがミドガルとオリアナの立場は名実共に対等である、災害などであれば別だが戦争においての無償援助は有り得ないのだ。
友好国であっても、飾り付けもしくは所詮打算の上なのだから。
「シナリオを書いてる人が居るんだよ、私はそれに乗っかる事にしたんだ。」
目の前の少女は微笑う
そのシナリオに関して心当たりのあるローズ・オリアナ、数年前オリアナ王国とミドガル王国の哲学者が地政学という学問を共同で提言したのだ。
地政学
国家を有機体と捉え、その形勢の考察を地理的条件から単純化しようとしてこの世界では生まれた。
国際政治を考察するにあたって、その地理的条件を重視する学問である。
例えば複数方向から同時に攻められない様にする事、例えば敵性国家に損耗を強要できる地理的条件である事だ。
在るだけで、維持するだけで敵に精神的に予防的に損耗を強いる事ができる。
...そういった地域の保持及び状態の維持を目的とした行動理念、その地政学に基づいた行動に歩調を合わせろと彼女は言っているのだ。
「つまり、べカルタ帝国の喉元にオリアナ王国という刃を残したい...そういう訳ですね。」
「ああその解釈で構わないよ、まあ実際どうなるか分からないけど。」
彼女の言う台本が何かは分からない、オリアナに注意を向けさせてる間に来たる何かに備えたいのかもしれない。
...もしかしたらべカルタ帝国相手に有利に立ち回りたいと考えているだけか、それは私には分からない。
オリアナ王国が陥落すればミドガル王国は二正面戦闘に耐えられず、連鎖的に滅ぶ事になる。
...地政学に基けばの話、オリアナ王国が存在すればミドガル王国は耐えられる。
貸し付けに今のオリアナ王国は耐えられない、大軍の消費するのミドガル王国製品の支払いにオリアナ王国は耐えられない。
無茶な貸し付けを行えないから...ああ、ミドガル王国も必死なのですね。
今は余裕がある、余裕のある内に後顧の憂を断ちたいのですね。
その先は修羅の道でしょう...シャドウガーデンとディアボロス教団が血塗れの勢力争いをしている中で独立を維持し、表から迫る圧力を跳ね除ける用意を着々と進めているのですね。
「そういう事ならば全力で任を果たせて頂きます...
ありがとうございますアレクシアさん、貴女のおかげでオリアナ王国はあと1000年存続できそうです。」
「それは素晴らしき栄光だな、どれミドガル王国も肖らせて頂こうじゃないか。」
「贅沢な方ですね...本当にありがとうございました!!
ミドガル王国での3年間は私の人生において掛け替えのないものでした、あの3年間の全てがオリアナ王国では経験できない事でした。
...掛け替えのない友人を作る事ができました、 迚も長く楽しい生活を送る事ができました。
この恩は忘れません、末長くこれから始まる戦争が終わるその時まで。」
目の前の少女は困った様に笑った
「それまで先輩も生き残っててくれよ?」
こうして2人は史上最悪の悪友となった、両国の礎として。