MONSTER HUNTER FRONTIER ~蒼天の銃槍騎士~   作:阿佐木 れい

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先生が登場です。MH4で復活は嬉しかったですよね。やっぱり先生がいないと!
MHFの先生は変種かつHCになると実力の片鱗を見せつけてくれる、いつまで経っても良い先生だなと思います。


第1話 先生の手ほどき

「さて!」

 

 船に乗ること数日。密林の砂浜について、アリシアは大きく宣言した。

 さくさくと鳴る砂浜は白く、さんさんと輝く太陽が少しだけ眩しかった。

 

「アリシア、待って……」

 

 対する俺はといえば、岸についた船からやっとのことで下りた。

 何でかって言えば理由は簡単で、装備に手間取ったためだ。特に背中に背負ったガンランスが重たい。更に追い討ちのように太陽の光を浴びて、熱い。鉄だから余計に熱い。

 姉さんと一緒だった頃はそうでもなかったんだけれども……これも気分の違いなのだろうか。いざ着いてみると、プレッシャーが全身を襲ってきた。

 俺は砂浜に自分の足跡がくっきりとつくのを見止めて、もう一度ガンランスを担ぎ直した。

 

「だらしないなー。最初からそんな状態でどうするのさ」

 

 アリシアはさっきから元気はつらつ。彼女の動きに合わせて揺れるキリンの鬣も、太陽の光を浴びて淡く輝いているように見える。

 アリシアが装備しているのはハイフロストエッジ。氷の属性を持つ片手剣だそうで、イァンクックの弱点が氷なので持ってきたらしい。

 氷が弱点だなんて、初めて聞いた……。

 

「いや、こっちは重たいんだって」

 

 俺はアリシアの言葉に苦笑を返しつつ、ゆっくりと空を見上げる。

 

「……やっぱり違うな」

 

 姉さんたちと受注した時とは違った感覚が俺を支配している。なんだろう、この気持ちは。

 俺が自分の気持ちを持て余していると、

 

「じゃ、さっそく準備に取り掛かろうか。タスク、何を持ってきてる?」

 

「ん? ああ。準備してきたのはこれくらい」

 

 と、俺の少ない資金で買いあさったアイテムを広げて見せる。

 回復薬、ペイントボール、生焼け肉、砥石。これだけで所持金が尽きた。

 なんだか泣きたくなってきたのはここだけの話。

 

「ふむ、なるほど……」

 

 アリシアはそんな俺の持ち込んだアイテムを見てから、

 

「まぁ、概ね大丈夫かな。お金があったらもうちょっと良いものも揃えられるだろうけ

ど、これくらいあれば大丈夫だと思うよ」

 

 ついで、自分のアイテムポーチから

 

「後は余裕があればこれを持つと戦略の幅が広がると思う」

 

 両手を広げて出してくれたのは、シビレ罠と落とし穴、そして閃光玉だった。そういえば、姉さんたちも使っていたように思う。

 

「なるほど。わかった」

 

「後、クックは大きい音が苦手だから音爆弾とかタル爆弾も効果があるよ」

 

 だけど今まで気にもしていなかった。

 アリシア曰く、熟練したハンターほど、こうした事前の準備を怠らないらしい。準備から既にクエストが始まっている――なるほど、確かにそうだ。

 俺は頭の中にメモを取りつつ訊ねる。

 

「あそこのアイテム箱も利用したらいいんだよね?」

 

 と、キャンプにある青い箱を指差した。

 

「うん。下位のうちはあそこに支給品が入っているから、有効に活用したらいいよ。上位になると危険だからか支給品が到着するまで時間かかっちゃうけどね」

 

 だが下位のうちは狩りの場所も安全がある程度は確保されているため、きちんと支給されているらしい。支給品が無いっていう心配は下位のうちはしないでよさそうだ。

 俺はアイテム箱の中を漁る。

 地図に応急薬、携帯砥石など狩りに便利なものが揃っている。

 その中から必要な分だけ取って、

 

「はい、アリシアの分」

 

「えっ、あたしの!?」

 

 アリシアはよっぽど驚いたのか、変な目で見てきた。

 何か変なことでもしたのだろうか?

 

「はい、アリシアの分」

 

 もう一度同じ事を言って、アリシアに道具を押し付ける。

 

「っと、これが俺の分」

 

「あ、ありがと」

 

 何を当たり前のことを、とも思ったけど、何かあるのだろう。俺は大して気にしないことにした。

 変わりに、

 

「じゃあ、行こうアリシア」

 

「了解です、隊長!」

 

 敬礼してみせたアリシアに笑みを返しながら、俺たちはイァンクックへと向かって歩みを進めた。

 

 

    **

 

 

 今回の敵はあくまでもイァンクック。そのため、他のモンスターには構っていられない。

 俺たちは出会ったランポスやファンゴを適当にあしらいながら、先を行く。

 イァンクックが頻繁に現れるのは海沿いの崖。アリシアと俺は、そこを狩りの場所に選んだ。

 崖だから危険といえば危険だが、逆にかなり広い。そこを上手く使えば俺たちにだって勝機はあるだろう。

 閃光玉と罠のタイミングはアリシアに一任した。正直な話、俺が使ったところで上手く使える自信も無かったし、何よりそこまで気が回るとも思えなかったからだ。

 

「タスクは攻めて。あたしは片手剣だし、サポートしながら立ち回るから」

 

「了解」

 

 俺はガンランスの盾をかちりと構える。

 攻めることも守ることも出来る武器。お前にはこれがお似合いだと姉さんに無理矢理渡されたガンランス。太刀を使って被弾ばかりしていた俺を慮ってのことかどうかは今ではもうわからないけど、それでも俺に頼れる武器はガンランスしかなかった。

 背中に背負ったガンランスに右手を添え、いつでも抜刀できる状態に。

 弾は既にリロードしてある。

 ガンランスはその名前の通り、槍に銃弾を込めたものだ。そのため、通常のランスよりも重量があって扱いづらい。扱うには何よりもまず腕力が必要になる。その代わり、攻撃力においては申し分が無い。また、巨大な盾とその重量からランスよりも防御の面では優れている。もちろん、軌道面を犠牲にして、だが。

 その代わり、残弾数に気をつけなければならない。必殺となる龍撃砲は弾が必要ではないが、一回放つ度に数分間の放熱が必要になる。代わりに弾を扱う砲撃は放熱が必要ではないが、使用数に限界がある。

 俺に課せられているのは、それらを上手く使い分けて討伐せよ、ってことだ。

 アリシアとふたりだけど、不安が無いといえば嘘になる。

 だけど、

 

「来たよ」

 

 迷っている暇は、無い。

 俺はアリシアに向かって頷いて、降りてくるイァンクックに見つからないように影の真下まで駆ける。

 ガチャリと音を立て、ガンランスを展開させる。

 

「……くっ」

 

 風圧が俺を容赦なく襲う。

 だけど、こんな程度で負けていられない。

 イァンクックはまだ気づいていない。

 ガンランスを向ける。

 1…2……3………

 かつて姉さんに教えてもらったタイミングを心の中で数えていく。

 そして、

 

「龍撃砲、発射!」

 

 イァンクックが目の前に現れた瞬間、トリガーを引いた。

 刹那、俺の視界を熱波と轟音が支配する。衝撃で身体が後ずさる。なんとか踏ん張るも、ガンランスを構えた右腕はたまらず脇を広げ、イァンクックとの距離を広げてしまう。

 だが、それが幸いしてか反撃にと尻尾を振り回したイァンクックの射程からは逃れることが出来た。

 

「相変わらず、凄い威力だ」

 

 かちりと音を立て、放熱のためにガンランスの一部が跳ね上がる。放熱が終わればこれが閉じ、再び龍撃砲が発射可能となる。

 派手にぶちかませとのことだったので、弾もこめて龍撃砲を打ち出した。

 残りは8発。

 

「ナイス浪漫!」

 

 同時、俺をイァンクックが見つけるか否かのタイミングで、アリシアが飛び出してくる。

 

「ハァっ!」

 

 懐に飛び込み、縦に斬撃。辺りの気温が下がってしまったかのような冷気がイァンクックを襲う。

 そして深追いはせずに俺のところまで転がると、アリシアはぐっと親指を立ててみせた。

 

「ないすないす♪」

 

 その一言に、少しだけ救われた気がした。

 

「そんなことないって」

 

 だけど自分で認めるのもなんだから、俺には適当にお茶を濁すくらいしか出来なかったけれども。

 それよりも――

 

「来るよ、アリシア!」

 

「おうけ~」

 

 気の抜けるような発音で了解しつつ、アリシアは更に懐に飛び込んでいく。

 片手剣だからこそ出来る芸当。こと小回りにおいて片手剣に勝てる武器は無い。

 だけど決して手数が多いわけでもない。充分に攻撃が出来るというのに、アリシアは何度もイァンクックから離れる。

 

「俺に合わせてくれてるんだ……」

 

 決して攻撃しすぎるわけでもなく。

 アリシアは何度か俺へと視線を向けている。

 俺が攻撃しやすいように。あくまでもイァンクックを倒すのは俺だというように。

 ガンランスを握り直す。そしてイァンクックが自分に注意を向けるように立ち回るアリシアに便乗して、俺は脚を踏ん張った。

 そして、震える身体を誤魔化すようにして、大地を思いっきり踏み込んだ。

 

「うぉぉおおぉっ!」

 

 力を込めた一突き。勢い余って天まで持ち上がりかける切っ先を砲撃を発射して無理矢理起動を修正する。その際に翼に被弾。イァンクックが後ずさる。

 起動を修正したガンランスをもう一度

 

「――くっ」

 

 だが、俺の行動を読んでか、イァンクックの尻尾がそれを阻む。

 なんとか防具に当たってくれたが、その威力に俺はなす術もなく吹っ飛ぶ。

 ごろごろと転がってようやく起き上がった頃には、イァンクックは既に飛び上がろうかというところだった。

 

「逃がしてたまるかよ! っつぅ」

 

「あぁ、ほらじっとして」

 

 思ったよりも身体を貫いた痛みに思わず跪いた俺に、アリシアが駆け寄ってきてくれる。

 

「だけど……!」

 

「だーいじょーぶだって」

 

 だけど早くしないとイァンクックが!

 逃げて……いく……。

 

「大丈夫だよ。倒せるからさ」

 

「……でも」

 

 龍撃砲を撃った右腕が、時間をおいて痺れてきた。

 俺はガンランスを置いてさっき取った応急薬を飲む。少しだけ和らぐ痛み。

 

「ちょっとごめんね」

 

 アリシアは俺の防具の上からとんとんと叩く。

 

「どうしたんだ?」

 

「ん、骨とか折れてたらこうするだけで響くものだしね」

 

 あ、そうか……。

 伊達に上位に上がってはいないらしい。

 俺はそんなことすら気にかけようとしなかった自分が、急に恥ずかしくなった。

 

「ごめん、俺……」

 

 なんか、カッコ悪いところばっかりだ。

 だけどアリシアはそんな俺を笑うことなく、

 

「仕方ないよ。だってほとんど初心者じゃない。初めから上手な人はいないよ。あたしだってそうだったし」

 

 たはは、と少し頬を染めて頭をかくアリシア。

 そんな姿に、俺はまた救われた気がした。

 

「――ありがとう」

 

 だから、素直にお礼の言葉が言えた。本当に、するりと出たのだ。

 

「あ、いや……え~っと」

 

 アリシアは恥ずかしかったのか、今度は顔を赤く染め上げて、

 

「ま、まぁ新人くんを導いてあげるのも上位ハンターの務めだし!?」

 

 勢いよく立ち上がった。

 俺はそんなアリシアの様子に笑みを浮かべながら、

 

「よし、今度こそ倒そう」

 

「その意気だ少年!」

 

 俺と同い年くらいのくせに、高らかに笑うアリシアの姿は自信に満ち溢れているようだった。

 俺はガンランスをもう一度背中に担ぐ。

 かちりと放熱を終えた弁が音を立てて砲身に収まった。 

 

「ね、モンスターって自分が危ないって思ったら巣に帰るのは知ってる?」

 

「巣?」

 

 そんなのは聞いたことが無かった。

 姉さんたちも、誰もそんなことは教えてくれなかった。

 俺はただ、いつも逃げたモンスターを追って姉さんたちが移動しているのを追っていただけだった。

 

「そんなのあるのか?」

 

「うん。教えてあげる!」

 

 モンスターによって巣の場所は違うらしいけど、それでも同じ種類のモンスターは似たような場所を巣にすることが多いらしい。

 イァンクックなら、ほとんどの固体が同じような場所で羽を休めるらしい。つまり、その場所を把握しておけば、次に狩る時も苦労せずに見つけられるかもしれないのだ。

 

「本当ならもっと時間かかるはずなんだけどさ……ごめんね、あたし武器が強すぎちゃったみたい。勇者様になっちゃった」

 

 ごめんね、と謝ってくれるアリシアに俺は首を横に振る。

 正直、アリシアがいないとほとんど何も出来なかったに違いない。

 感謝こそすれ、責める気にはなれなかった。

 

「気にしないでくれよ。巣にしたってそうだし、アリシアには沢山教えてもらったんだから。今度クエストを受注したときはひとりでも頑張ってみるから」

 

「……タスク。ん~、偉いっ!」

 

 本当に感謝しているんだと伝わるように、アリシアに向けて笑みを返す。

 しばらくした後、アリシアは気を取り直し、

 

「待って。ここ。ここから見える? あそこにクックがいるでしょ?」

 

 茂みから見える洞窟には、確かにイァンクックがいた。足を引きずりながら、自分の巣までたどり着こうとしているようだった。

 

「――どうしようか」

 

 こうなると俺は初心者だ。

 さっきは不意をついたから上手くいったけど、今回はイァンクックとて警戒しているだろう。さっきみたいに上手く攻撃を当てられるかどうかはわからない。

 

「ふっふっふっ。これを使うのだよタスクくん」

 

 と、意味ありげに言ってアリシアが取りだしたのはさっきの罠。

 

「閃光玉は結局使えなかったから、タスクにあげる。あたしからの選別と思って」

 

 と、ずいと俺に押し付けてくる。

 アリシアは俺が受け取るまでやるつもりのようだったので、

 

「あ、ありがとう」

 

 受け取っておいた。

 その様子を見てしきりに頷くアリシアだったが、

 

「そこで罠の出番。今回はシビレ罠でいいかな」

 

「シビレ罠?」

 

「んむ。これを足元に仕掛けたりするとだね、びりびりときてしばらく動けなくなっちゃうのだよ」

 

 言って、自分の身体を小刻みに震わせるアリシア。どうやら痺れている場面を実践してくれているらしい。

 ……俺にどう反応しろというのだろうか。

 

「ま、まぁほんとは仕掛けてから待つってのが基本的なんだけど、例えばモンスターが回

復するために寝たりすると無防備になるでしょ? そこを狙って足元に仕掛けたら?」

 

「気づかれない限り、絶対に当たる」

 

「その通り! つまり、こっちが先制できるのだ」

 

 なるほど……確かにそれは便利だ。戦略の幅は確実に広がる。

 罠があると無いとじゃ全然違うかもしれない。今から思えば、姉さんは効率的に狩ることを重視していたようだったけど、俺みたいな初心者はアリシアのように堅実に狩る方が大事なのかもしれない。

 何を持ってしても、まずは自分に自信をつけてから。

 ハンターにとって重要なのって、そんな気持ちなのかもしれないな。

 

「およ? どうしたの?」

 

 どうやら少しぼぅっとしていたみたいだ。

 俺は

 

「なんでもない」

 

 と頭を振って思考を打ち消した。そんなものは後から考えればいい話。今はどうにかしてイァンクックを狩らないと。

 茂みから見える洞窟は少し広く、イァンクックと戦っても充分な広さを持っていた。地面に草を敷いて暖かくしているようだった。

 その上まで到達すると、イァンクックは倒れ込むようにして丸くなった。

 

「もうちょっと……よし、行こう!」

 

 そうして、イァンクックから寝息がこちらまで聞こえてくると、俺たちは茂みから音を立てないようにしてそろりと飛び出した。

 ゆっくりと近づいて、アリシアから受け取ったシビレ罠を足元に仕掛ける。同時に、後ろへ向かって跳ぶ。

 俺が着地と同時にガンランスを抜くのと、シビレ罠が発動するのはほとんど同じタイミングだった。

 

「だいせいこう!」

 

 アリシアがわかるように言葉を区切る。更に地面を蹴り、抜刀しながらイァンクックをすれ違い様に切り抜けた。

 

「タスク!」

 

「ああ、いける!」

 

 アリシアが射程から抜けたところでガンランスの切っ先をイァンクックへと向ける。

 龍撃砲――発射!

 轟音と共に砲身が熱を持つ。

 衝撃で身体が後ずさるが、なんとか踏みとどまって更に突きを放つ。

 狙うは顔。大きく広がった耳に向かって突くと同時に、砲撃を浴びせる。アイアンガンランスにこめられる弾丸は5発ずつ。残り4発を一気に放射する。

 残り4発。

 空薬莢を捨てるべく砲身を折ってリロード。

 ガンランスにはこれが致命的な隙ともなる。だが、その隙を縫うようにしてアリシアが持ち前の素早さを使ってイァンクックを翻弄する。

 罠が小さい破壊音を残して壊れる。

 イァンクックの標的は俺に向いたままだ。

 口腔が赤く変色していく。

 

「――火炎!? くそっ!」

 

 今から回避は間に合わない。なら、受け切ってみせる!

 前面に盾を出し、火球を受け止めるべく足を踏ん張る。

 

「タスク!」

 

 アリシアの叫びすら消すように、火球が盾へと吸い込まれる。

 一瞬にして盾から熱が伝わってくるが、耐えられないレベルではなかった。

 

「問題ない。これくらいなら!」

 

 イァンクックの顔が瞠目する。

 俺もアリシアも、その隙を逃すほど、甘くなかった。

 

「いくぞ、アリシア!」

 

「おっけ、任せて!」

 

 自分でも驚くほど、普通に言葉が出た。それは俺が今まで使ったことの無い荒っぽい言葉だったけど、それでも不思議と心地よかった。闘志が奮い立つような――そんな心地だったのだ。

 アリシアが再び斬りかかる。

 俺も砲身をイァンクックの嘴目掛けて――いや、その中の口腔に突っ込む!

 

「さっきのお返しだ、鳥野郎!」

 

 都合4発。全弾発射。

 イァンクックがもんどりうって倒れこむ。

 断末魔と共に、地面が揺れた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 終わったのか?

 倒れたまま身動きしないイァンクックを目に、俺にはただ肩で息をするしかなかった。

 

「やったじゃん!」

 

 そんな俺を現実に引き戻してくれたのは、アリシアだった。

 彼女は俺に駆け寄ってくると、バシンと背中を叩いてくれた。

 

「あ……」

 

 同時に、俺は遅れて実感する。

 

「倒したんだ、俺……倒せたんだ!」

 

 素材を剥ぎ取るのも忘れて、かみ締める。

 ガンランスが音を立てて落ちるけど、そんなの気にしない。

 ただ嬉しくて、

 

「やった……やったよアリシア! ありがとう!」

 

「うん、良かっ――ほわぁぁぁぁぁっ!?」

 

 共に戦ってくれたアリシアを抱きしめる。少しでもこの感動が伝わって欲しくて。

 俺は声を上げて喜んだ。

 ドスランポスやドスファンゴなんて比べ物にならない達成感がそこにはあった。

 

「あ、いや、タスク……あの……あのね?」

 

「やった! 初めて倒せた! 一回も負けずに、倒せたんだ! ありがとう、アリシ

ア!」

 

「……まぁ、いっか」

 

 アリシアはそんな俺に腕を回して、

 

「お疲れ様。やったね、タスク」

 

 優しく、言ってくれたのだ。

 それは、俺が一番欲しかった言葉。あの人に――姉さんに一番かけて欲しかった言葉だったんだ。

 でも、たった一回。それだけのパーティーなのに、アリシアは俺に優しい言葉をかけてくれた。嬉しかった。俺はまだ、やっていけるって思った。

 まだ、ハンターを続けられるかもしれない。

 

「ありがとう……ありがとう……」

 

「タスクが頑張ったからだよ」

 

 赤ん坊のように喜ぶ俺を、アリシアはずっと放さないでいてくれた――。

 

 

    **

 

 

 そんなこんなで、酒場に戻ってきた俺は、気恥ずかさでアリシアの顔がまともに見られなかった。

 

「……」

 

「あ、あのさ」

 

 そんな俺に、アリシアが声をかけてくれる。

 

「タスク、腕は悪くないと思うよ。確かにまだまだだけど、磨けば光ると思うし」

 

「あ、うん」

 

 アリシアは、さっきのクエストを振り返って伝えてくれる。

 

「油断もするし、隙も沢山。でもね」

 

 そこで区切って、俺を真っ直ぐに見つめる。

 その瞳は自信に満ちているようで、上位ハンターとしての貫禄を感じられた。

 

「ハンターとしての心意気みたいなのはちゃんとある。だから、大丈夫」

 

 何の保証もなく、言い切った。

 俺はしばらく呆然とした後、

 

「うん。頑張ってみる」

 

 結局、素直に頷いておくことにした。

 装備はハンター一式にアイアンガンランス。そんな初心者に付き合ってくれたアリシアに感謝を。

 

「今日はありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 でも最後までおちゃらけていた少女は、それから手を振って街へと消えていった。

 

「……不思議な人だったな」

 

 受け付けを見たけど、サエグサさんはいなかった。交代の時間らしい。

 俺はさっき剥ぎ取ったイァンクックの素材を納めるべく、家へと向かう。

 袋に入れた素材が、ずしりと重たい。

 だけど、それはどこか心地よい重みでもあった。アリシアに力は借りたけど、俺が討伐したモンスター。

 

「記念品、か」

 

 素材としては使えないけど、記念品として取ってきたイァンクックの嘴。砲撃を浴びてぼろぼろになっているけど、俺が初めて討伐した鳥竜種の証。ドスランポスとは比べ物にならないほどの……。

 

「っと」

 

 ふらつきかけた身体をなんとか踏みとどまらせる。

 どうやら予想以上に疲れているみたいだ。

 家に着いたらすぐに寝よう。

 

「ただいまー」

 

 俺は自分の家プラス姉さんの家を潜る。

 声をかけたけど反応が無いのを見ると、姉さんはまだ帰っていないらしい。

 

「ま、当然か」

 

 大規模な猟団を抱え、自身の腕もかなりのものである姉さんは忙しい。昔は結構家に帰ってきてくれたけど、今では家にいないことの方が多くなっていた。

 俺は自分の部屋で、装備を脱いでついでに素材を収める。嘴はどうしようか迷ったけど、結局は机の上に置くことにした。

 

「ん、ん~」

 

 装備を脱ぐと張っていた気が緩んだのか、眠気が襲ってきた。

 俺は眠気に抗うことなく、ベッドに飛び込む。そしてそのまま、暗い淵へと沈んでいった。

 

 

    **

 

 

 疲れた身体を引きずるようにして、彼女は帰宅した。

 大老殿の主に以来された仕事――近年見つかったとされる新しい狩場の調査が彼女に与えられた仕事だった。

 調査を終えて無事にドンドルマへと戻り、報告を終えて解放されたのがついさっきだ。

 数日振りの帰宅。

 それまで、彼女の頭をずっと駆け巡っていたのは弟――タスクの事だった。

 

「解雇、か」

 

 我ながら馬鹿なことをしたものだ。

 確かにタスクはまだ弱い。自分と同じように太刀を扱おうとしていたが、その戦い方からガンランスに無理矢理変えさせた。そのおかげで簡単には負けなくなったが、初心者ということもあってか決定力不足になってしまった。

 元よりガンランスは初心者には扱えない武器とされている。そもそも作るのだって素材が難しい。

 

「……すまない、タスク」

 

 出来れば手元に置いておきたかった。それが姉としての傲慢だとしても、自分の目の届く範囲において守っていてやりたかった。

 昔なら、もっと伝えられたのだろうか。成長するに従って鉄の仮面で覆うようになってしまった今の自分では、タスクに厳しく当たるしか方法が思い浮かばなかった。

 そんな自分が、彼女――レイラは嫌いだった。

 でも、と思う。

 出来ればこのままハンターを止めて、普通に生活してくれたらと思う。商売をやってもいいし、何かの農場を経営したっていい。その場合は、どんなことをしてでも贔屓にしてみせる。

 

「幻想だな……そんなのは」

 

 罪滅ぼしのつもりだろうか。

 何の言葉もなく、紙一枚で通告した自分に対しての。ただタスクに許してもらいたいがために、そんな馬鹿げたことをしようとしているのだろうか。

 今夜はいつもより疲れているのかもしれない。

 レイラは自宅の扉を潜る。

 

「タスク? 帰ってはいるようだが……」

 

 磨り減っているが靴はある。時間からして、まだ寝るような時間ではない。その証拠に、街はまだ活気付いている。だが、家の中は波を打ったように物音ひとつなく静まり返っている。

 やっぱり寝ているのだろうか?

 人の気配はあるがひっそりとしている我が家。レイラはそろりと音を立てないようにしてタスクの部屋を覗き見る。

 

「なんだ……寝ているのか」

 

 正直な話、ほっとしている自分がいた。

 タスクと何を話していいか、わからなかったから。どんな理由があったにせよ、誰よりも知っていたはずのタスクの夢をその自分自身が砕いたのには違いなかったから。

 

「おやすみなさい、タス――、っ!」

 

 だから、その光景を見た時に、何よりも驚いた。

 見慣れた弟の部屋。何も変わってないはずの部屋に、出発するまでは無かったものがあった。

 レイラは震える手で、それを持ち上げる。

 ぼろぼろになった、素材としては使えない嘴。でも、腕にずしりと重たかった。

 レイラは、タスクを見る。

 疲れたように眠るその姿は、まるで今の自分と同じようで――

 

「……馬鹿ものが」

 

 まだ、夢を諦めていないのだと知った。

 タスクがずっとレイラに向かって言ってきた言葉を思い出す。

『僕、お姉ちゃんみたいなハンターになる!』

 それは、ずっとレイラの背中を見て育ってきたタスクが持つには、当たり前の夢。こそばゆいが、それでも嬉しかったレイラ自身の夢。

 レイラはそっとイァンクックの嘴を机に戻すと、タスクに手を伸ばしかけて引っ込めた。そしてそのまま、部屋を後にしたのだった。

 

 

 

                            <続く>




表記の仕方を少しだけ変更し、地の文と会話分とだけ別けるようにしました。ただ、私の書くものは基本的に地の文が多いため、少し見辛いかなとも思います。
もう少し細かく行間を空けて欲しい等あれば、ご意見下さると非常にありがたいです。
ではでは。
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