「タツミがエスデスに攫われた!?」
現在、ナイトレイドはメンバーの1人であるタツミが帝国の将軍エスデスに攫われるという問題が浮上し、アジトは一時的な混乱に陥っている。事の発端はエスデスが主催する都民武芸試合、勝者には賞金が贈呈される。と、ラバックがチラシをみせタツミのやる気を駆り立てたことが原因である。
予想外の出来事に思わず立ち上がり狼狽の色を隠せないアカメ、ほかのメンバーも顔には出していないが動揺しているようだ。
「ナイトレイドの一員だってことがばれたの!?」
「殺伐とした空気って感じじゃなかったけど…よく分からない。五分五分かな…。」
「宮殿に連れ込まれたところまでは見届けたけど…どうするボス代行?」
レオーネの問いかけに全員の視線がアカメに向けられる。ボスであるナジェンダが本部から帰ってくるまでは彼女がボス代行となり、実質ナイトレイドを指揮しなければならない。指揮官としては未熟なことを知ってか知らずか、マインが危険を冒さぬように戒める。
「助けに行くとか馬鹿なこと言わないでよアカメ、罠と近衛兵がどっさりの宮殿内よ?平常時に突入なんて不可能だっての!しかもタツミの素性はばれてるかも知れないわよ。」
「…とりあえず拠点を一時的にさらに山奥へ移そう。」
「そうだな、ここがばれるかもしれないし。で…タツミの事はどうする気?まさかとは思うけど…。」
「わかっている。無策で突っ込んだりはしない。ただ、タツミは大事な仲間だ。できることをする!」
アカメの決断に皆が目を合わせあい首肯する。ナイトレイドは宮殿外を捜索することにした。
翌日、タツミは峡谷に挟まれた池で息を整えていた。
「ここまでくれば大丈夫か?いくらなんでも追ってこれないだろ…。」
エスデスに首輪をつけられ無理やり恋人にされた挙句、自身が率いる特殊警察なる組織の補欠とされたが、その一員であるウェイブという男と一緒に危険種狩りを命じられ、その隙を狙って逃走した。
「にしてもあいつら強かったな…。」
そうしみじみ思いながら昨日のことを振り返る。
―――――特殊警察『イェーガーズ』。独自の機動性を持ち凶悪な賊の群れを容赦なく狩る組織、エスデスを含む7人+1匹で構成されている。
十の正義を振り翳し悪を殲滅するタツミも見たことのあり、そして何よりシェーレの仇である茶髪のポニーテールをした少女セリュー・ユビキタスと愛犬?であるコロ。
服装と寡黙を貫く性格からか不気味さを隠しきれないが根は優しそうな焼却部隊から来たボルス。
セーラー服を纏い刀を携え、常におかしを詰めた袋を持ち歩き貪るアカメの妹らしい少女クロメ。
白髪の混じった黒髪に無精髭を生やし、己の帝具と研究によってスタイリッシュの追究を目指すオカマ、Dr.スタイリッシュ。
濃すぎるメンバーではあるが実力は本物で敵を殲滅する姿は圧巻だった。
などと思い起こしていると横から気配を感じ、すぐにその場を離れる。避ける暇もなく衝撃が傍まで走り、思わず振り返ると漆黒の鎧をまとった人間が地に蹴りを入れ、こちらに向かって歩いてくる。
(同じタイプ…?鎧の帝具か!?)
「おいおい…とんだ大物に遭遇しちまったぜ。知ってるぜ、インクルシオ。このグランシャリオのプロトタイプ。そして何よりそれを着てるってことはお前、ナイトレイドの奴だな?なるほど、胡散臭い山には胡散臭い奴がいるぜ!」(目的変更。逃げたタツミより目の前のナイトレイドを優先する。)
「…」
タツミの前に現れた鎧の男の正体はイェーガーズの一員、ウェイブ。帝国海軍から栄転した海の男、もとい田舎者である。だが他と同様、熟練した腕はエスデスすら完成済みと認めたほどの実力である。
いまにも激突せんとする両者。先に動いたのはタツミ、とった行動はウェイブの予想に反して逃避である。地面を思いっきり蹴り、その勢いで石粒が飛び散る。唐突なことに一瞬動揺してしまうが即座に後を追いかけタツミの前に出て行方を阻む。
「逃がさないぜ、腹くくって戦いな!」
今度は逃がさないように自分から攻撃を仕掛けるウェイブ、先ほどのように距離を詰め蹴り倒さんとするがまたしても避けられる。間をおかず拳を握りしめ、そのままタツミに対しいくつもジャブを放つが体を反らしたり、しゃがんだりして躱される。
「よせっ!お前と戦う理由はない!」
「お前になくても俺にはあるんだよ…ナイトレイド!」
ウェイブを攻撃を避けてるうちに壁まで押しやられていたタツミは避けきれずに鳩尾に渾身の力を込められた一撃をくらってしまう。衝撃に耐えきれず岩壁に亀裂が走り、タツミもウゲッ、と声を漏らしその場に崩れる。
「お前達の資料は読んだ。無差別に暗殺を繰り返し、帝都の治安と平和を蝕む大悪党。おまけに反乱軍と繋がってるって話じゃねえか。お前達は存在自体が許されないんだよ。」
「…ちがう!」
その言葉に反抗するように負傷した体を支えながら口を開く。
「俺達は確かに人殺しかもしれねぇけど…俺は…俺達は悪党なんかじゃねぇ!!!」
(来るか…!)
殺気を剥き出したインクルシオを見て攻撃に備えようと身を構えるが、またしても逃走したのですぐさま追いかける。
「あくまで戦わないっていうなら一方的にいくぞ。」
(!? やばい!)
「グランフォール!!」
空を蹴るように一回転してから足に重心を置き、空中いて咄嗟に防御するしかできないタツミに先程とは比べようのない蹴りを入れる。その威力は自由落下に拍車を掛け、タツミを地面に叩きつける。
「ゲガァ…!」(やべぇ、完璧に防御したはずなのに地面にぶつかったことをなしにしてもダメージが大きい…!)
「どうしたよ?ナイトレイド。威勢がいいだけか、だったらこいつで終わりだな。」
ザッザッ、とタツミに近づき再び拳を握りしめる。
(だめだ…体が全く動かねえ…。負けるのか?こんなところで…嫌だ…俺は勝ちてえ…!勝たなきゃ何も変えられねぇ…。)
(勝ちてえ…俺は…勝ちてぇ!!!)
――――――――――チッ。
「まさか新しい宿主がこのザマたぁ…なさけねぇなあおい。」
ウェイブの振り下ろした拳をつかんだそれは、鎧というにはあまりにも非人造的で、まるで鱗のようだった。閉ざされていた口も開いており、肉を食うための牙がむき出しになっている。4つになった目は確実に捕食者のそれに近い。
「馬鹿な…あの傷でまだ動けるのか!?鎧も変化している…お前は一体何者なんだ…?」
「何者だぁ…?ハッ!名前なんか…ねぇよ!!」
突如現れたインクルシオの副武装の槍『ノインテーター』によってウェイブが纏っていたグランシャリオに裂け目ができ、血が噴出する。
「ガァ…!」
「やっぱりてめぇは下手くそだ。力の使い方間違って体中の骨が軋んでんじゃねえか、見せてやるぜ俺が…インクルシオの使い方ってやつをよ!!」
そう独り言のようにタツミだったものが呟き、手負いのウェイブに向かって槍を振るう。両手をクロスにさせて受けきるが、笑い声と共に力を強めていくインクルシオを一瞬だけ押しのけ、緩んだ瞬間にその場を離れる。だが、そのまま地面に叩きつけられた衝撃で小石が飛び、ウェイブを襲う。その隙を逃すはずもなくノインテーターが力一杯投げられ、槍頭がこちらを向いたまま直進してくるのを避けるが、僅かながら掠る。通り過ぎるかのように思えた槍が掴まれ、いつの間にかウェイブの背後にインクルシオが移動して、握ったノインテーターを180度回転させて背中に突き刺す。
「がああああああああああああああ!!」
痛みに耐えきれずにウェイブが吠えて、そのまま気を失う。グランシャリオも一定以上のダメージを受けたせいで解けてしまった。
「あぁ?中身はまだ餓鬼じゃねぇか。ま、それならこっちもだけどよ。どっちにしろこれでてめぇは終わり(消えろ…!)ガッ…!」
突然、インクルシオは顔に手を当て目を見開き苦しみだした。
「何をしやが…(消えろ!)俺がここでトドメをさせば…(消えろ!)やめ…(消え)ろおおおおお!」
異形の鎧に体を包まれていたタツミが、真っ二つに割れたインクルシオの内部から手を出し、足を出し、体全体を出し正気を取り戻す。
「はぁ…はぁ…ふぅ。さっきのはなんだったんだ…?とりあえずアジトに帰るか…。グランシャリオの中身がウェイブとは驚いたけど、次あったときには敵だろうな。」
呟いてからタツミはいつの間にか回復していた体で、エスデスとの接触を避けながらアジトへの帰還を急いだ。