2月13日。
ピノコニーでの一件の後、星穹列車の一員になったホタルは厨房を借りていた。
「うーん、ちょっと甘すぎるかなぁ...」
ホタルは味見をしながら呟く。
「穹はもうちょっと甘味を抑えてもいい気がするんだよね...」
誰に何のためかは言うまでもない。
試行錯誤しながら作りつつホタルはこんな話を思い出していた。
「俺が元いた世界には2月14日に大切な人に想いを伝えるバレンタインデーという日がある。元々はとある聖人を祭る日であったらしいが、今となっては大切な人にチョコレートで気持ちを伝えるという日になったらしい。大切な人とは言っても恋人に限らず、友人や仲間など多岐に及ぶ。日頃照れくさくて伝えられない者もいるかもしれないが、この日に伝えてみるのもいいかもしれないな」
ヴェルトが話し終えると、早速なのかが手を挙げた。
「はいはいはい!ヨウおじちゃん、それって手作りじゃないとダメなの?」
「そうだな...ダメというわけではないが、手作りの方が嬉しいんじゃないか?」
なのかの質問にヴェルトは少し困ったような表情を浮かべていた。
過去に何かあったのだろう。
ホタルはそっと穹に近づくと、
「そういえば、君にちゃんとお礼できてなかったから、ちょうどいいかもね」
とコソっと耳元で言った。
穹は一瞬キョトンとしたが
「楽しみにしてる」
と笑顔で返してきた。
その時の穹のキョトン顔を思い出し、可愛かったなと少し顔がにやけてしまう。
上がる口角をどうにか抑えながら味を整えていく。
そうしていると、厨房に誰か入ってきた。
「あれホタル?ここで何を...ってチョコ!?」
なのかだった。
「え?あっ...うん。そうだよ」
少し動揺するホタル。
「もしかしてそれって...穹にあげるの?」
バレていた...いや、さすがはなのかと言ったところだろうか。何故か察しがいい。
「えっ!?あっ...う、うん。そうだよ?」
「へぇ〜」
ホタルが動揺しながら答えると、なのかがニマニマしながら近くに寄り、
「本命?」
と聞いてきた。
焦ったホタルは動転しながら
「ちっ、ちが...違うからぁ...///義理だよぉ!!!!///」
と叫んでしまった。確認はしていないが絶対顔は真っ赤だっただろう。
するとなのかは意味深な笑顔で
「へぇ〜義理なんだ〜?」
と聞いてくる。
「そっそういうなのかは、どうしたの?」
ふと気になって聞くと、
「あー...ウチもチョコレート作ろうかな〜って思ったんだよね~!列車のみんなに配りたいなぁって」
なのかは照れくさそうに言う。
実はホタルも数時間前にはもう列車のみんなへのチョコレートを作り終わり、冷やし固め作業に移っている。
そう、この『義理』チョコは特別に作っているのだ。
「そうなんだ...」
「ちなみに、ホタルの分もあるからね!」
列車に乗ってから、なのかとも仲良くなれた気がして嬉しい反面、穹関連だとライバルにもなりうるのでなんとも言えない感情になってしまう。
「え?あたしの分もあるの?」
「もちろん!だってアンタももうウチらの仲間でしょ?」
ちゃんと仲間だと思われていてすっかりうれしくなるホタル。
「えっと...ありがとう」
「どういたしまして!」
なのかもホタルの不安を少しは感じていたのだろう。
そう微笑みながら言うと、買ってきた材料を広げてチョコを作り始めた。
それを見ながらどうにかしっくりくる甘さまでもっていくことができた。
ホタルは料理などしたことはなかった。彼女の生い立ちを考えれば当然のことだ。だから作り方をしっかり調べ材料もできる限りいいものを選んだ。財布の中身はすっからかんになったが、それでもこのチョコレートだけは絶対に成功させたかったのだ。
「あとは...冷やすだけだね...」
我ながらかなりおいしくできただろうとホタルは思いながら、形を整えて冷蔵庫へ入れた。
チョコづくりはこれでひとまず終わりだ。
ふとなのかを見ると、なのかはお酒を入れようとしている。
「これぐらいでいいかな?でも変だよね~甘いチョコレートにお酒入れるなんて...アンタもそう思わない?」
と入れながら聞いてくる。
「確かにね...あたしも最初そういうのがあるって聞いてびっくりしたから...でも奥深い風味をつけられるとか、保存性が増すとかいいところはあるらしいよ?」
とホタルは調べた知識を説明した。
「へぇ~!そういえばアンタがさっき作ってたチョコもお酒入ってたよね?あれもそういう意味で?」
「そうだね...あとそういったチョコは大人な味わいに仕上がるらしいから...大人な味が好きな人にはちょうどいいかもね」
「でもあれって穹にあげるものなんでしょ?お酒の味とか大丈夫かな?」
そう、なのかの言うことはもっともだ。だから、
「あたしが作ったのはウィスキーボンボンっていうものなんだけど...そのウィスキーも、チョコレートに合うように甘い風味のものにしたから...やっぱり食べてもらうからにはおいしく食べてもらいたいから」
そう熱弁したホタル。
すると
「ふふっ」
なのかが笑い始めた。
ほたるが怪訝そうな顔で見ると、
「ごめんごめん、アンタは本当に穹のことが好きなんだなぁって思っただけ」
「っ///」
その一言で顔が一気に赤くなった。
「だっ...だから義理だって言ったよね!?」
そう叫んでしまった。
「本命かどうかなんて聞いてないじゃん?」
となのかはにやにやしながら言ってくる。
そんな軽口を交わし、なのかもようやく冷やし固める作業にたどり着いたようだった。
余談だが、義理だと叫んだとき厨房の前を偶然穹が通ったが二人が知る由はなかった。
翌日、ホタルはみんなの分をまず簡単な袋に宛名を書いた紙と一緒に入れ、その後、穹へ送るチョコをラッピングした。
ラッピングについて語れば、明らかに『本命』のチョコのラッピングであった。
「えっと...穹はどこかな?」
ヴェルト達にチョコを渡した後、姫子に聞き、穹を探し始めた。
しばらく歩いていると、穹の後ろ姿が見えた。
「あっ...穹!!」
突然大声で呼ばれた穹は驚きながら振り返った。
余談ではあるがこの時ホタルも自分がこんな大声が出ると思ってなかったためにびっくりしたらしい。
「ホタル?どうかしたのか?」
穹はそう尋ねてきた。
「えっとね...これ、この間のお礼...」
「え?あっありがとう。でもなんで俺だけこんなラッピング?」
それを聞いてホタルはきょとんとしてしまう。
「そ...それは...」
不意打ちで言いよどんだホタルだったが覚悟を決めた。
「じっ、実はね...あたし...君のことが好きだったんだ」
急な告白に驚きながらも穹は言った。
「でもこれって義理なんだろ?」
その言葉を聞いてホタルは青ざめた。
「えっ...まっ...まさか...昨日の...聞いてたの...!?」
「えっと...厨房を通ったら偶然聞こえてきて...盗み聞きするつもりはなかったんだ...ごめん」
申し訳なさそうに謝る穹。
「ううん、穹は悪くない...あたし...」
何か言おうとすると涙があふれてくる。
やってしまった。照れ隠しとはいえあんなこと言うべきではなかったという後悔。
「ほんとにごめん...義理だったとしても嬉しかったよ。それじゃ俺は戻るから...」
そういって気まずそうに踵を返す穹。
「グスッ...まっ...待って...」
呼び止めるが向こうも顔を見せようとしない。
その時、
「穹!ちょっと待ちなってば!」
なのかだった。
「今女の子が勇気を出して告白したんだよ?ちょっとは聞いてあげなよ!」
なのかに呼び止められて踏み出す足を止める穹。
「ほらホタル、ちゃんとアンタの口から言いなよ?」
そう励まされ、ホタルは涙をぬぐって、
「ごめんね、あの時は恥ずかしくて照れ隠しで義理って言っちゃっただけで...それは本命...あたしはピノコニーで助けてもらった時からずっと穹が好きだったからその思いを伝えたかったんだ」
やっと言えた。
ピノコニーを離れてもずっと隣で守ってくれて、何度も一緒にデートに行ってまだ付き合ってないのにカップル扱いされて、いつか本当に恋人同士になれたらなと思っていたのだ。
「本当に本命なのか?」
「うん、本当の本当。あたしは穹が好き、大好き」
その言葉を聞いた穹は安堵した顔で
「よかった...俺だけじゃなかったんだな」
そうつぶやいた。
「え?そっ...それってつまり...」
「俺もホタルのことが好きだ。出会った時からずっと」
両想いだったのだ。
「だから俺のほうから言わせてくれ、俺と付き合ってください。」
告白された。
ホタルは一瞬状況が呑み込めなかったが徐々に顔が熱くなってくる。
「えっ///はっ...はい///よろこんで///」
そう答えた瞬間列車の人たちが出てきてみんなから祝福の言葉をもらった。
ホタルはナナシビトになって心底よかったと思いながら、幸せな気持ちでいっぱいになった。
余談ではあるがその日の夜ウィスキーボンボンを食べた穹にホタルはおいしく頂かれたとかなんとか。