異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい 作:星たつゆき
趣味全開で書いてみました。よろしければ御覧あれ。
何故こんな格好で見た事も無い怪物と戦っているのか、未だに理解出来ない。
しかしこれが現実だと受け入れない限り先が見えないし後方で腰を抜かしている少女を助ける事も出来ない。
どうしてだ。
腰に巻かれた変身ベルトが、唸る。
俺は元々しがないアラフィフのサラリーマンだった。昔放送していた特撮番組「仮面ライダー」シリーズが子供の頃から大好きだった。時代を超えて受け継がれるそのシリーズ作品を見て、励まされ、涙し、感動し興奮した。玩具やグッズも一通り揃える程の入れ込みようだった。
しかし流行り病のお陰で会社から突如リストラを喰らった。年齢が年齢だけに次の就職のアテもなく、虚しく就活をするうちに貯蓄も尽きた。コレクションだった玩具の変身ベルトやグッズも生活の足しにと殆ど売り払ったが焼け石に水。この先の人生に希望がまるで見えなくなり、絶望に打ちひしがれあてどなく家の近くの国道を歩いていた……事までは覚えている。その瞬間の記憶は定かでは無いが、もしかすると車に轢殺されたのかも知れなかった。
ただ、死ぬ間際「走馬灯の様に情景が流れる」「時間がゆっくりと流れる」と言う話は聞いた事が有るが、目の前で起きている一連の事象はそれで説明するには物足りない。圧倒的に説得力がない。今ここで起きている危機をどうするか。
ふと気付いたら見知らぬ土地の道らしい地面に横たわっていた。ここは? と辺りを見回す。途端に近くで悲鳴を聞いた。何事かと思い駆け付けると見た事も無い化け物が少女を襲っていた。姿は二メートルから三メートル位の大柄、全体が灰色。少女は腰が抜けて後ずさりするのがやっと。俺は--その時どうしてか分からないが--途端に腰の部分に違和感を感じた直後姿を変え、化け物に組み付いた、と言う次第だ。
腰に巻かれたベルトのサイクロイドストーンが輝きを増した。これはもしや。俺は身体を縛り付ける怪物の腕を力尽くで振り解くとそのまま投げつけた。そしてあのTV画面で見たヒーローと同じ事をする。ポーズを決める。マスクの複眼の輝きが増す。ぽん、と軽く飛んだつもりが相当な高さにまで達した。肩の部分に描かれた羽の紋様が光ると、一気に身体が怪物目掛けて加速される。そのまま片足を突き出し--足裏から物凄い熱量を感じた--怪物に蹴りを当てる。
奇妙な叫び声を上げた怪物は吹き飛ばされごろごろと転がる。ようやく立ち上がるももがき苦しみ、内部から突然光を発し断末魔を残して爆発し、消えた。
周囲を見回す。もう敵対する「何か」は居ない様だった。先程まで背後で震えていた少女は、今度は俺を見、まるで化け物だと言わんばかりに首をふるふると振り、俺を拒絶する。ベルトに手を当て、元の姿に戻る。
「落ち着いて。君をどうこうするつもりは無い」
……いや待てよ。言葉が通じるか分からない。そもそもここは何処なんだ。俺が住んでいた街……、アスファルトとコンクリート、若干の錆び付いた都内のケミカルな臭いや雰囲気がまるで無い。どちらかと言うと小さい頃に遊んだ旅行先の空気にも似ているがそれも違う。そもそも空気感と言うべきか、それらに都会的な要素が一切感じられない。地方にしてはそこらに生えている草木が見た事も無いものばかりだ。一応「道」らしき感じに地面の様子が近くの草むらと違う。遠くに廃墟の様なものも見える。
辺りを見回し、もう一度少女を見る。手を差し出してみる。笑顔を作ったつもりだが、ここ数年笑った事なんて無かったから随分気味の悪い顔に違いない。が、敵意が無い事を示したかった。
「大丈夫? 怪我は無い?」
もう一度言葉を掛ける。
そこでようやく少女は息を付き、俺の手を取った。俺が握った途端に少女が悲鳴を上げた。はっと気付く。
「済まない、力を入れ過ぎた。大丈夫か?」
そうだった。仮面ライダーは改造人間、力のコントロールには細心の注意を払う必要が有る。自分の手を見、息を付く。
少女は何か呟くと片手でぽうっと青緑の淡い光を出し、傷めた手に当てた。治癒魔法か? 初めて見る。
そうしてから、ようやく少女は俺を見た。
「ありがとう、お兄さん」
ん? 言葉が通じた。じゃあここは日本? ……では無さそうだ。この少女が着ている服は民族衣装にしては質素だが日本のそれとはまるで違う。何と言うか欧州のそれに似ているがそれともまた違う様だ。長めの髪からちらりと覗く耳も先が少しだけ尖っていて俺の知っている「人間」のそれと少し違う。そしてよく見ると少女と言うには大人びていて、逆に大人と言うには少し幼く見える。不思議な印象の子だ。
「お兄さん、てっきりモンスターかと思った。突然姿を変えるし、跳び蹴りひとつでガーゴイルを爆殺するなんて」
……今なんて? この子に色々聞きたい事は山程有るが、この場をまずは離れるべきだろう。
「行こう。ここは危険--かも知れない」
少女の案内で数時間程歩き、草を刈り地面むき出しの道--彼女は街道と言っていた--を進んだ先に人工物を見掛けた。周囲は物々しく壁で覆われ、まるで中世の城か城壁と言った感じだ。その周辺には人家が点在していて畑らしきものも見える。城塞は門を完全に閉ざしていた。彼女はその城塞が見える部分で少し脇に逸れると見つけた小川で水を汲み、喉を潤し手持ちの水筒に蓄えた。そうして慣れた手付きで近くで拾った幾つかの木切れを集め、焚き火をこしらえる。もうすっかり夕方だ。
「お兄さん、何処の郷の人? 見た事無い格好だけど」
さっきから俺の事を「お兄さん」と呼んでくるのが気になり--手鏡も無いので小川の水面に自分の顔が見えないか覗き込む。薄暗くなっていたが、俺の姿は二十歳以上若返っている様に見えた。まるであの番組の主人公達みたいに。服もかなり痛んだシャツにジャケット、ジーンズの姿になっていた。
「どうしたの? 自分の顔が気になるの?」
「いや、何でもない」
「でも、武器も魔法も無いのに魔物倒せるなんて凄いよ。きっとボクの郷でも歓迎されるよ」
「そうかな? だと嬉しいが。……実は、行くアテが無くて困ってたんだ」
「じゃあ決まりだね。行くアテが無いならボクの郷で一緒に暮らす?」
そう言うと少女は笑った。
初めて彼女が笑ったのを見た。俺も少し安心する。
肩から掛けていたバッグから何か取り出すと、少しかじっている。パンか何かだろうか? よく分からない。
食事を見ていて気付いた事が有る。自分は腹が減るとか無いのだろうか? さっきから腹に「何かが埋め込まれている」様な微かな違和感こそあれ、空腹感は一切感じなかった。それどころか喉の渇きも無い。これも変身ベルトの効果なのだろうか? だとしたら俺の身体は一体どうなっているんだ。
「ボク、これから清めと祈りをするよ。さっきモンスターに襲われて汚れたし、仲間も少し前に全滅したから」
「全滅? 仲間が亡くなったのか」
「うん。どうする事も出来なかった。遺体は多分喰われてるだろうし、戻るのも危なそうだし」
「そうか。気の毒に」
「悪いけど、回りの様子を見ていてくれる?」
「ああ、構わない」
少女は小川のほとりに行くと四方に小さな石を置き、うっすらと光る魔法陣を作る。中心に入ると祈りを捧げ、周囲に微かな緑色の光の粒が浮き、天に昇る。
焚き火に照らされているせいか温もりと光源には困らなかったが他に人工的な光は無い……清めに使っている魔法陣を除いて。だが俺には夜目も備わっている様で、辺りの暗い部分もはっきりと把握出来る。これも変身ベルトの効果か? 万能過ぎないか。
ひとしきり祈りを終えた彼女は小さな石をバッグに仕舞う。緊張が解けたのか興味深い目で俺を見る。
「どうしてあの時身体の姿形を変えたの? あの大袈裟なポーズは何?」
「そう言うものなんだ」
「ふうん、魔法の呪文詠唱みたいな感じかな」
「かも知れない」
「お兄さん面白いね。自分の事なのに知ってるみたいで知らないみたいな」
くすっと笑う。あどけなさが残るその笑み、俺も緊張が少し和らぐ。
「まあ、何て言えば良いのか--まだ慣れてないんだ」
「おかしな人だね、お兄さん。そう言えばお兄さんの名前は?」
「俺? 俺は樫村誠一郎と言う」
「珍しい名前。それに長くて読みにくいね……。セイイチで良いかな?」
「妙なところで区切るんだな」
「呼びやすいかなって」
「何でも良い。君は?」
「ボクはシオン」
「宜しくな」
こうして、シオンと名乗る少女と俺の旅は始まった。