異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい 作:星たつゆき
シオンの生まれ故郷、ベルガーの郷がようやく見えて来た。俺が元居た世界でも結構軽装の部類なのに、よく未舗装の道をこの格好で歩き続けられたと我ながら感心する。元々俺が履いていたものよりも立派にはなっているが所詮はミドルカットの地味めの色のスニーカーだ。もう少し立派な登山靴でも良かった様に思えるが、どうしてこの服、靴のチョイスなのか未だに分からない。そしてこの世界に馴染む為にも、シオンの故郷に行ったらこの世界の一般的な衣服を用意して貰うか悩む所だ。
ベルガー郷は聖女様を送り届けたオーヴェル程大きくはなかったが、先程魔物退治をした集落に比べて十倍程度は規模が違った。そして少し離れた所には山や林野が広がっている。聖女様がシオンの事を「フォレストエルフ」と言っていたがそれも関係しているのだろうか? シオンに話を聞いてみた。
「そうだね。エルフと言っても普通のエルフ、寿命が長く特に魔法に長けているハイエルフ、砂漠地帯に住んでるデザートエルフなどなど、色々居るんだよ」
「へえ。シオンはフォレストエルフだと聞いたけど、フォレストエルフの特徴は?」
「フォレストエルフは名前の通り森林や山林を住処にするエルフだね。山に生えてる草木やハーブの扱いに詳しいよ。草木を媒介とした魔法にも長けてる。魔力はエルフとしてはまあそこそこ?」
「そうなのか」
「勿論エルフだから他の種族より長命だけど、ハイエルフ程ではないね。昔は名前の通り森林や山林に住んでいたんだけど、今はこんな時代だし、他の種族と共に『郷』……城塞都市に住む者が多いかな」
「色々と大変だな、この世界の人々は」
「まあね。でも種族が違うなりにそれぞれ得意分野が有るから、皆で助け合って生きてるって感じ」
当たり前の事だと言う顔で話すシオン。俺は素直に感心した。
「それは素晴らしい事だ。俺の居た世界は……人間同士の殺し合いが普通に有ったから」
「そんな殺伐とした世界に居たんだ。セイイチ、そう言えば元居た世界の話、あんまりしてくれないよね」
「話しても狂人扱いされそうだしな」
「少なくともボクはしないよ? これまでセイイチの凄い所いっぱい見て来たし。そりゃまあ少しは驚くかも知れないけど拒絶はしないよ。多分ね?」
「多分? なら話せないな」
「少し位教えてくれても良いじゃんかー。プロポーズ受けたんだし、もうボク達は立派な夫婦なんだよ?」
シオンのちょっと拗ねた感じの口ぶりに思わず俺は驚いてしまった。
「え? もう夫婦なのか俺達?」
「あれ? セイイチの世界では違うの?」
「そうだな、俺の元居た世界では、婚姻関係はもっと複雑でややこしくて面倒だ」
「セイイチの元居た世界、なんか凄く大変そうだね」
「かも知れん」
俺はふっと笑った。シオンもつられて笑った。
ベルガーの郷の入口はオーヴェルと同じ様に物々しい見張り台が有った。弩等もきっちり備えられている。跳ね上げ橋も有り、見張り台の兵士が何かの魔導具を通じてこちらに呼びかけてくる。シオンが答えると、跳ね上げ橋がゆっくりと降りて来た。この世界はどれだけ魔物の襲撃が多く、それに備えなければならないのかと心配になる。それともこう言う造りの街が元々普通なんだろうか。
「さあ、帰ろう、セイイチ」
シオンはウキウキ顔で俺の手を引くと、郷の中に入っていった。
「よくぞ無事に戻ったシオンよ!」
出迎えてくれたのはベルガーの長と言う人物だった。
「パーティーが全滅したと聞いた時は残念無念であったが、そなただけでも無事に戻って何よりじゃ。おまけにオーヴェルの聖女様もお救いするとは、ベルガー同郷の者として誇りに思うぞ!」
話は既に伝わっている様だ。誰かが伝令を出したのか、それとも魔法で何か遠隔通話でもしたのだろうか。
「ありがとうございます。それで、こちらが今回ボクと聖女様を助けてくれたセイイチです」
「どうも、はじめまして。セイイチと申します」
本名で名乗っても良かったがシオンが言うのだからそれ通りに挨拶する。
「噂には聞いておりますぞ。先程も隣の集落に襲い掛かった魔物を全滅させたとか」
「ええまあ」
「これは郷を挙げて歓迎せねばなるまいなあ、シオンよ?」
「だね。そしてボクの夫にもなってくれたんだよ?」
「なんと!? それはめでたきこと! これでこの郷も安泰じゃ! よし、皆の者、宴の準備を!」
そうしてここでも郷の人々は総出で祝いの食べ物を作り、飲めや歌えの大騒ぎとなった。
今回は同郷の者を救い無事に連れ帰ったとの事で妙な警戒感も無く、人々は俺を温かく受け入れてくれた。振る舞われた酒はビールに近い飲み物だ。香草が効いていて甘味とスパイシーさが同居している。アルコール分が強かったが体に入るとたちどころに分解してしまう。俺の身体は毒が効かないのと同じくアルコールも効かない。だが人々は俺の事を単純に酒豪だと思い込み、宴は大いに盛り上がった。オーヴェルで出たものよりは質素だったが、不思議と酒もご馳走も大変美味しく感じた。
そうこうしているうちに夜になり……一組また一組と木陰や物陰に消えていく男女達。それが何組も居る。これはオーヴェルでも目にした事だが、すっかり出来上がって上機嫌のシオンにそれとなく聞いてみた。
「宴の時は楽しまないとね。日々人々は慎ましやかに暮らしてるし。逆にこう言う時こそって感じもするかな。それに宴の食事やお酒には強壮効果や催淫効果の有る薬草も入ってるし」
「そうだったのか。どおりで」
古来日本の「ハレ」の日の様な感覚なんだろうか。
「それにボク達だって、したじゃない」
「ああ、まあ」
じゃああれもその薬草とやらの効果のせい? いや、俺の体はそう言う効果も無効化する筈……ならどうして?
「照れちゃって。何かセイイチって妙な所で子供じみた所有るよね」
「うぐっ」
答えに詰まる。痛い所を抉られた気分だ。
「ボクと一緒に暮らしてくれるって約束だし。守ってよ?」
「それは勿論」
「ねえ」
シオンは赤ら顔のまま、俺をゆるゆると抱きしめた。
「ボク、あの時助けてもらった時、すぐには分からなかったけど、一緒に居るうちにこれって運命と思うようになったんだ」
「運命?」
「ボクを幸せにしてくれる素敵な騎士様みたいな?」
「騎士ねえ」
「ボクじゃ不満?」
「とんでもない。シオンみたいな、そうだな……美人な子に好かれて俺は幸せ者かもな」
俺は言葉を選んでシオンに囁いた。
「かもじゃないくてそうなんだってば」
言うなりシオンはとびきりのキスをしてきた。回りの人々も特に気にしていなかった。むしろ色々と始まっていた。俺も拒む理由は無かった。ゆるゆるとシオンと身体を重ねた。