異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい 作:星たつゆき
郷の一角に有る酒場は冒険者ギルドから近く、郷の人々が集う憩いの場の雰囲気も有った。昼からやっていてシオンは慣れた様子で「いつもの」食事を頼んだ。固めの黒パンと肉のスライスを焼いたもの、酢漬けの野菜、野菜と穀物に豆と幾つかの肉が入ったスープ。そして香草入りのビール。見た目は素朴だが滋味深い味わいがもうこの世界に滞在して大分経つ俺には結構馴染みの食事になっていた。
「うん。美味い」
俺は素直に感想を話すとシオンも嬉しそう。
「でしょ? この酒場の食事は他の郷よりも美味しいってボクは思うんだ」
「故郷の味って事か?」
「それも有るし、料理人の腕が良いんだよね」
「なるほど」
「そう言えばセイイチはこの世界に来る前、どんな食事してたの?」
「そうだなあ……何て説明すれば良いのか」
日本の食事事情を説明するのは思ってる以上に難しい。何かに例えるにしても俺はこの世界の食事事情をそれ程知らない。
「ちょっと台所と食材を貸して貰えれば、似たものは出来るかもな」
「へえ、面白そうだね。ちょっと話してくる」
酒場の料理人とシオンが見守る中、台所で料理作りが始まった。シオンが交渉した結果、台所と幾つかの食料を分けてくれる事になったので色々試してみようと言う訳だ。
俺は元々自炊はそれなりに出来たが料理人になれる程の腕前はないので見よう見まねだ。そしてこの世界には当たり前だが昆布や鰹節と言った和食の出汁素材は無いので何とか考えないと。……そう言えば、と思い出した。転生前にインターネットで作り方を知った「シャリアピンステーキ」をここで出来ないか試す。覚えてた通りに玉ねぎをみじん切りに。あとすりおろした玉ねぎを、薄く叩き伸ばして筋を切った牛肉に漬けて柔らかくして、などと思い出しながら調理を進める。
あとひとつ、これも以前--転生前にインターネットで覚えた料理だが、叩いて柔らかくした鶏肉を沢山の玉ねぎと僅かな香草だけで長時間煮込む簡単な料理も一緒に作った。
ステーキが完成した。鶏と玉ねぎの煮込みも出来たので振る舞ってみる。
「肉、柔らかいね」
シオンと料理人は驚いている。
「叩いた上に玉ねぎの汁に漬け込むとは、随分手間を掛けてるな」
料理人は俺の作った煮込みを食べて率直に感想を話した。
「確かに。すぐにパッと出せるものじゃないかも」
「この鶏と玉ねぎの煮込み、前に何処かの郷で食べた記憶が有る……何処だったっけなあ」
シオンは思い出そうとしているがビールで酔いが回っているのか思い出せない。
「手の込んだステーキも面白いが、こっちの、鶏と玉ねぎの煮込みはウチでも出来そうだ」
「じゃああんたにそのレシピを進呈しよう」
「有り難いね。時間は掛かるけど調理が簡単なのが助かる。作り置きして今度ウチのメニューに出そう」
「それは良かった」
シオンは料理を美味しそうに食べたが、空になった皿を差して言った。
「こう言うのをセイイチは昔食べてたの?」
「これは今使える材料を借りて作ったものだから。信じて貰えないと思うがカビを付けてカチカチに乾燥させた魚と海草で下味を付けた料理がよく出てた」
「魚と海草? 想像出来ないね。この郷の近くに川があるから川魚は捕れるけど」
「それとはちょっと違うな。でもまあ、少しでもお互いを知れた感じになって良かったよ」
「そうだね」
いつの間にか酒場に居た人達も物珍しさに集まって来たので余った料理を振る舞った。皆「肉が柔らかい」との感想だったが味は良いとの事で、まあよしとしよう。これも異文化交流……なのだろうか。そもそも俺がこの「文化」に溶け込まなければならないのだが。
酒と料理も進み、そろそろ帰ろうかとなった時、シオンは店のウェイターに今日の分はいつものツケで、と話し、ウェイターも心得たもので手元の何か紙の様なものに何か書き込み承知したと答えた。
「ご馳走様。美味しかったよ」
ウェイターと料理人に声を掛ける。
「そりゃ良かった。今後もご贔屓に」
俺達は上機嫌で酒場を出た。
「ツケは月末に一度に精算するんだ。その方が毎回払うより楽だし」
「なるほど」
「それに、ボク達には聖女様から貰った金貨も有るし」
「待て待て、いきなり使うつもりか。貯蓄とか考えないのか?」
「住む場所も職も有るのに?」
あっけらかんとシオンが聞いてきた。……確かに言われてみれば衣食住と揃ってはいる。
まあ、そう言う考え方も有りか。俺は、そうだな、とシオンに合わせた。